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第49話 神々の掟


----------------------------------


―狭間雷視点―



 狭間の神。


 それは別の世界同士を繋げることが出来る神。


 他にも、小規模ではあるが、好きな世界を創造出来る力を持つ、強力な神様である。


 異界というのは人間が多く住む『人間界』の他にも、『妖怪界』『天国』『地獄』等々数多く存在する。



 ちなみに、狭間の神と言われている神は、複数存在する。



 雷が異界へと繋がる切っ掛けとも言われる事から信仰が集まった『狭間雷』。


 鏡は異界の門とも言われている事から信仰が集まった『狭間鏡』。


 そして、様々な狭間の神の主的な存在、『狭間大神』。


 等々、異界へ繋がる道や門を作る事が出来る神は多数存在した。






 狭間雷は、自身が祭られている神社の息子である盛田 庄平から復讐を懇願され、悩んでいた。


 日を追う毎に庄平から彼女達が去っていき、その度に憔悴する庄平を見て、復讐を断った狭間雷は暗い気持ちになっていた。



「庄平……」



 幼き日から共に兄弟のように過ごしていった人間である。


 盛田家の面々全員にも同じことは言えるが、やはりつい最近まで一緒にカードゲームやらテレビゲームやらをやっていたので、情の移りが強い。


「決まりなのだ……」


 人間同士の争い直接手を出してはいけない。


 庄平からの願いは戦地に向かう兵士に加護を与えるようなものではない。


 敵兵を皆殺しにしろというような内容だ。


 これはとてもじゃないが承認できるものではない。


「加護の力も弱まっているのか……」


 本来であれば、盛田家の子供である庄平がここまで苦しむというのはありえない話だ。


 彼は神の加護が与えられた一族の一人。


 よほど敵対心の強い神や物の怪にでも狙われない限りこんなことにはならないはずだ。


 しかし、狭間雷が調べた"敵"は『神命 成一』という普通の人間だった。


 確かに先祖を辿ればそれなりの術者の家系ではあったようだが、今の神命家にはまともな術を使える者はいない。



「まさか……鏡の奴が?」



 一瞬、大昔敵対し、戦争まで発展した神の名前と顔が思い浮かぶ。



「いや……。ありえんな。奴なら直接私を狙うだろう」



 頭に浮かんだ未だに顔を合わせれば喧嘩になる神を振り払う。

 彼女は卑怯な手をは使わない。

 正々堂々と勝負を挑んでくるような奴だ。


「一度大神様に相談してみようか……」


 こうして狭間雷は、自分の上司的な存在である狭間大神に相談をする事になった。












 結果は決まりきっていた事をそのまま伝えられただけだ。




『人間同士の争いに手を出してはならない。今回の申し出、明らかに許容範囲外である』




 男の老人の姿を模った狭間大神にそう言われ、狭間雷は引き下がるしかなかった。


「駄目か……。私も無力になったものだ……」


 昔は好き放題暴れていた狭間雷は、過去の栄光を思い出す度に寂しい気持ちとなる。


 すっかりと落ちぶれてしまった自分に、この状況をどうやって打開すればいいのか思いつかないのだ。


「庄平……すまん……」


 狭間雷はそう、影に隠れて庄平に謝るしかなかった。









 そして、状況が変わったのは、それから直ぐの話である。


 盛田 庄平の妹、『盛田 真希』が、神命に襲われた事が切っ掛けである。



「……」



 狭間雷は眼球を血走らせ、再び狭間大神の所へと出向いた。



「……」



 だが、前回と違う点があった。



「なんじゃ? 騒がしい不埒者が来たかと思えば、ワシがこの世で最も会いとうない邪神ではないか」




 狭間大神様の屋敷にて、式神の案内にて廊下を歩いていると、綺麗な着物を纏った若く美しい女がいた。

 複数の自作の式神を側に付かせ、雷を見下した目線で見てくる。


 そして相変わらず、雷と顔も合わせた途端に嫌味を飛ばしてくる。


「狭間鏡……」


 狭間雷はそうその女の名前を呟く。


「(これがあの戦いでの勝ち組と負け組の差……か)」


 などという考えがふと頭を過ぎる雷。



 彼女の名は『狭間鏡はざまかがみ』という。



 大昔の戦争で、狭間雷と敵対した女神である。


 そして、彼女は戦争に勝った側。



「(今はコイツと話どころか、言い争いをしている暇は無い……)」


 そう思った狭間雷は、


「お久しぶりですな」


 と、なるべく波風立てない形で挨拶をする。


 そして雷は鏡の奴の目の前を通り過ぎた。


「むっ? お、おい!」


 すると、何故か鏡が雷を止めたではないか。


「なんでしょう?」


「ふんっ、いつもなら言い返す位の事をしていただろうに。なんじゃ? よもや耄碌したんじゃなかろうなぁ?」


「(呼び止めておいて嫌味を重ねるか……。

 時間が無い。真希の様子から、私は焦っているのだ)」


 イラつく雷。


「急いでいるのだ。失礼する」


「んな!?」


 そのまま雷は驚く鏡を置き、大神の所へと向かった。





「狭間大神様。失礼致します!!」


 雷は部屋の前で声を掛けた。


「雷のか。このような短期間でまた会う事になるとはなぁ……。まぁよい。入ってくれ」


「ははっ」


 雷は式神が開けた扉を潜る。



「雷ぃぃぃ!!」



 するとどうだろうか。

 何故か大声を上げ、ドタドタと後ろから鏡が走ってくるではないか。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 鏡の額には汗が滲んでいる。


「「……」」


 頭部が禿げ上がり、白い長い髭が特徴の狭間大神と雷は、鏡の突飛な行動に唖然としてしまう。


「……失礼したのじゃ」


 鏡も恥ずかしくなったのかコホンッ、と咳払いを一回して大神に頭を下げる。


「して、どうしたのだ雷? なにやら顔色が良く無さそうだが……」


 大神は鏡の醜態を見なかったことにしたらしい。


「はい……。実は私を奉る者の家の子が襲われました……」


 それを聞いた大神は非常に驚いた様子で、


「ふむ……。こっちに来て座りなさい。……鏡も」


 と、二人を誘う。


「「はい……」」


 何故か鏡も同席し、雷の話を聞くことになった。







「それは……。駄目じゃ駄目じゃ! 許されるわけがなかろうがっ!」


 話を聞いた鏡が激昂した。


 ただしそれは雷や盛田家の面々を想っての事ではない。


「神がその理由で何の力もない一般人を祟ってよいものかっ! 貴様、あの過ちをもう一度繰り返す気か!?」


 そう。鏡は神命 成一を神の力で罰を与えることに反対したのだ。


「(何故お前に怒られなければならん! というか、何故大神様はコイツを同席させたのだ!?)」


 内心雷は鏡に対して怒っていた。


 だが、


「雷のよ。鏡のが怒っているのも尤もだ。お前、昔の戦いを忘れたのか? どういった理由でどうして戦争になったのか」


「存じております……」


 狭間は思い出した。



 昔、『榊』という妖怪退治専門の退魔師一族が居た。


 多くの退魔師を束ねる首領的な存在であった。


 その榊が時の日本政府。昔で言うところの朝廷からの依頼で大規模な妖怪退治及び、妖怪が出入りする異界の門の排除をしたことが始まりである。


 榊家がリーダーとなり、多くの退魔師が討伐及び妖怪界の入り口を破壊した戦いだ。


 人間、神が協力をし、共に妖怪を討った戦い。




 そこまでは良かった。




 それからが愚かな戦いの始まりであったのだ。



 時の日本政府は妖怪討伐者達に対し、満足のいく報酬を支払わなかった。


 これは理由があり、時の日本自体も度重なる自然災害と疫病からか景気が良くなく、支払えるものが無かったのだ。


 報酬の一時引き受け先の榊家は各退魔師に財を分配したが、とても足りるものではなかった。


 そこで起きたのは打倒榊家を名乗る勢力であった。


「報酬を約束したというのに、それを破った榊家は悪である!」


 そのような大義名分を持って、盛田家の先祖も榊家と対峙した。


 子や親を妖怪との戦いで失ったというのに、保障すると言った榊が約束を破ったのだ。



 余談ではあるが、榊家に付いたのは鏡の奴で、大神様は中立の立場であった。




 まぁ、結局のところ報酬を支払えない理由は分かってはいたので、後からではどうしようもない話ではあるが、それだったら変な約束はして欲しくなかった。それだけの話なのである。



 これにより、人間に味方した神々同士でも戦いは大きくなり、退魔師の一族の多くが衰退した切っ掛けとなった。



 これが『人間の争いに神が力を貸してはいけない』という決まりが出来た経緯であった。





「分かっておるのであれば、どうしてじゃ! 相手にも事情はあろうに!」



「!?」


 鏡の一言で一気に頭に血が上る。



「確かに以前の我等の戦いには互いに理由があった。大神様が止めに入らねば永遠に続いただろう怒りや憎しみが互いにあっただろうさ!

 だがな、今回のこの件はなんなのだ!?

 私を慕う家族が、ただの一人の外道の欲望を満たす為に乱暴に犯されて良い理由など無い! いや、あってたまるものかっ!」


「うっ……」


 事情無しの鬼畜であれば考慮などせずとも良いか。と、一瞬鏡は考えたが、



「それでも我等は神なのじゃ! しかも神の影響が少なくなったこの現代で、神の力によって無闇に人を殺めて良いわけがなかろうに」


 鏡はなおも私にそう強く言う、


「自分の住まうところを守る一族が理不尽な目に遭った。つまり神に対して弓を引いたのだぞ! そんな輩に天罰を下さず何が神だ!」


 私も負けじと鏡に言い返すが、




「そこまでだっ!」



 と、大神様が止めに入る。


「やはり鏡を同席させて正解だったわい」


 溜息を吐きつつ、大神はそう言った。


「良いか? 雷の。その神命 成一という外道はお主の御神体等を意図して狙ったわけではない。お主の信仰者を狙ったのだ。

 その範囲は決まり事で手を出してはいけないとあっただろう?」


「分かっております! ですが、それは遥か古に結ばれたあの戦争に参加した神々に架せられた条約。神族全員の決まりではないはず!」


 雷だけではなく、ここに居る鏡も同様に結ばされた条約。


 いくら反榊家が不利な状況で、更には誰がどう見ても負けているという状況であっても、大神達中立派が仲裁をとりなしたことにより、平等に結ばれた条約であった。


 当然鏡達榊家派の神々は不満だらけであったが……。


「その決まりを破れば、お主は神ではいられなくなる。いや、良くて精霊位に格下げだろうよ」


「それは……」


「だから、今回は耐えるのだ。我等神族の更に上級の神々に今回の件を報告し、10月の出雲の議会で規制を緩めてもらえるよう議題にあげてもらおうではないか」


「……」


 悔しそうに納得のいかない顔をし、


「わかりました……」


 と、口ではそう言って退出をする雷。


「……」


「……」


 そんな雷を見て大神と鏡は視線を交わす。


「(後は頼めるか……?)」


「(お任せ下さい……)」


 彼等二柱の神の視線にはそういった会話が含まれていた。










「……」


 大神の式神に再び帰り道を付き添われる雷の足取りは重い。


「(どうしてだ……。どうして我等だけがこのような……)」


 神々の中でも特別な規制を受けた戦争参加者の神々。


 戦争に参加したのは後悔していない。


 寧ろ、あの戦争があったからこそ、当時勢力を伸ばし、下の者を軽んじていた連中に制裁することができた。


「(だが、あの外道はそいつらよりも酷い)」


 近年稀に見る鬼畜な外道。


 それが神命であった。



「おいっ! 聞こえんのか、狭間雷!」



「――――!?」


 気付けば何度も呼ばれていたらしい。



「狭間鏡か……。今更何の用かな?」


「……」


 何処か他人行儀な口調でそう言った雷。


 一方、鏡は何処か決心したような瞳を向け、


「……少し話せるか?」


 と、言ってくる。


「あ、あぁ。それは構わないが?」


 これは不思議なことだった。


 今まで嫌味しか言ってこなかった鏡は、落ち着いた口調でそんな事を言い出したのだ。


 鏡は周りに居た自身の式神を何処かに下がらせ、更には大神の式神ですらもその場を離れさせた。


「……」


 それが雷には不思議でたまらなかった。


 てっきりもう二度と二人きりで話せるような機会など存在しないと考えていたからだ。



 思えば戦争の前は二人でよく遊んだな。などと、ふと雷は思い出す。



「先ほどはすまんかったな。事情を知らなんだ……」



「あっ、いや。いいんだ。そちらの意見は神としては当然の意見だからな」


 雷は先ほどから驚きっぱなしである。


 まさかあの高飛車な鏡が謝るなんて事をするとは思わなかったからだ。


「……あの時の争いは互いの事を知らなさすぎた。事情をもっと開示していれば回避できたのではないかとワシはずっと思っていたのじゃ」


「……昔の事だ。私が言うのもなんだが、気にするな」


「「……」」


 一瞬黙ってしまう二人。


 再び口を開いたのは鏡からだ。


「神を捨てる覚悟があるのかえ?」


「?」


 何を言い出したのかと思った。


「……ワシ等が人間を助けるというのはそういう事じゃ。特に貴様はあの戦いで酷く傷つき、力の多くが失われたであろう? もし、貴様の"家族"を助けるというのであれば、神では無くなるのじゃ……」



「あぁ……そうだ」


 ふと雷は考える。


「(私は一体何を迷っていたのだ? そうだ。別に神を捨てることになろうが、神罰を下せばよかったではないか。大神様に逆らうのは申し訳ないが、それが一番手っ取り早い解決策じゃないか)」


 と。


「……"雷"やはり行ってしまうのか?」


「……狭間鏡? 泣いているのか?」


 なんと、鏡は目に涙を浮かべていた。


 理由は分からない。


「(私のあまりにも馬鹿な考えを察して同じ神として情けなくなった……のか?)」


 だが、雷は鏡に内心感謝をしていた。


 彼女が気付かせてくれたのだ。


 大切な者を守る為には、時に自分の犠牲も必要だと。


 そう……あの時の戦争のように。


「すまない。私が居なくなった後は、頼めるか? お願いだ"鏡"……」


「!?」


 鏡は目を見開いた。


「このような時だけ、昔のような呼び方で……。貴様という奴は本当に……!」


 狭間鏡は若干怒っているようだった。


「いくら互いに嫌っている者どうしといえども、誠実な神で知り合いなのは数少ない。お前にしかもう頼める神は居ないのだ……。頼む。鏡……」


 そう何度も懇願する雷に対し、鏡は折れた。


「わかった……。あぁ、わかった。後の事はワシに任せ、好きなようにすればよいっ!」


 そう鏡は言った。


「ありがとう……。それじゃぁな。鏡……」


 昔の友である鏡に後のことを全て任せた雷は、人間界の盛田家へと帰っていった。






「馬鹿者ぉ……」



 神界から帰るその雷の背中を見続けた鏡は、膝を地面に付け、涙を流したのであった。




----------------------------------



琴音:「はい、ということで今回もやってきました特別解説役の琴音です」


ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:雀の形をした式神、ちゅん太です。


琴音:「では今回の解説に参りましょう」


ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:よろしくお願いします。


琴音:「今回は事件の元凶となった神である狭間雷について説明します」


ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:お願いします。


琴音:「今回の第48話の最後、いろいろとお願いをしているのに、第47話で狭間鏡様を警戒したような発言をしていましたが、のは理由があります」


ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:頭を下げて依頼しておいて警戒するとか失礼ですよねぇ~


琴音:「実は狭間雷様、狭間鏡様を警戒しているわけではなく、榊家に対して大きな不信感があったので、47話であのような"厄介"発言をし、警戒したのです。

 まぁ、榊家が分裂しなかった私が住んでいた世界の狭間鏡様がどういった神かも予測がつかなかった事も理由でしょうけど。」


ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:あの狭間雷様の様子から見ればただ事ではないような……。一体何をしたんです?


琴音:「私も別次元の榊家の様子は詳しくは分かりませんが、大きな戦争があったようですね」


ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:本編でもそう言ってましたね。何かあってからでは遅いでしょうから、警戒するのは当然なのでしょうか。


琴音:「と、いうわけで今回の解説は以上です」


ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:それでは皆さん、さようならー!

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