第46話 皆の想い
「俺達は行動が制限されていた。ようやくその制限が緩くなったのが、連中を殆ど倒した今日だったって訳さ」
と、庄平が補足をした。
「はぁ……、まぁ何はともあれ、これでゲームクリア。なんだろ?」
「一応はそういうこったな」
一応。か、後はこの世界からの脱出という大仕事が残っている。
「そうか……。で、なんで俺はこの世界に閉じ込められたんだ?」
帰る前に、俺は一番重要な部分について質問をした。
狐面の巫女さんは呪いだなんだと言っていたが、俺は呪われるような真似はしていないはずだ。
「あぁ、それは私が答えよう」
狭間がそう言うと、説明を始める。
「君はゲームをプレイしたただの人間で、唯一悪霊達の意識の誘導に逆らった人物だ」
「意識の誘導?」
どういうことだ?
「つまり、このゲーム。鬼畜な主人公が、ヒロイン達を次々と襲うような下衆な内容を好む。という思考を拒否したのが理由なんだよ」
「まぁ、そりゃ元々そういったジャンルは大っ嫌いだからねぇ……」
友人に紹介されていなけりゃ一生やらなかったであろうゲームだ。
「ふむ。確かに君はそういったジャンルは好まないみたいだな。だが、少しでも興味があった者がこのゲームをプレイした場合、ますますこの話に魅了され、現実世界でも影響が及ぼされていたはずだ。例えばおかしな言動をし始める。とかな」
そう言われて思い出す。
俺の友人が必死にこのゲームの良さを伝えようとしていたことに。
普段は俺が嫌いなジャンルは勧めてこない奴だ。
それなのに、今回は異様にこのゲームをお勧めされた。
あいつもこのゲームの悪霊達に思考を誘導させられていたのかもしれない。
「元々この世界を奴等に乗っ取られてから、私はゲーム世界を破壊する為、ゲームをプレイした人物が少しでも嫌悪感を抱いた場合、その感情のエネルギーを利用して奴等を追い詰めようと思ったのだ。
負のエネルギーというのは場合によっては使いようもあるからな。
だが、それが気に入らなかった連中は、君を自分達の考えに合わせようと、意識を無理やり引きずり込んだのだ。
その結果君自身の魂や体も此方の世界に連れてきてしまう事になり、更には君が住んでいた世界の術者の介入も早めることになったのだけどね……」
「つまり、あいつらもミスをした……と?」
「そういう事だ。最初、君を助けようとしていた者たちの介入があった時、何事かと思ったよ。
なにせ、とてつもない力が一気に私が確保していたエリアから送られてきたのだからね。
正体もわからなければ君と最初に会った時、君の周りにも強大な力が纏っていたし」
どいつもこいつも間抜けばかりだな。
というか、変態共と被害者の魂を同じ空間に入れようと思ったこと自体そもそも間違いだろう。
いくら直接復讐をしたくても、魂とか新しくできた異空間とかわけが分からない状態ではリスクが高すぎだろう。
「俺がこの世界に来た理由がわかった。それで、お前達は今後どうなるんだ?」
俺がそう聞くと、気まずそうにする二人。
「庄平は私を奉っていた神社の家系。彼の魂は責任持って天国へと導こう」
「狭間様は……」
狭間がそう答えると、庄平は不安そうな顔をする。
「未来、過去、平行世界どころか地獄から魂を奪ってきたのだ。私自身は只ではすまないだろうよ」
うわぁ。結構きつい話になってきたなぁ。
「君達も責任持って天に導こう」
ん? 狭間が俺の後ろを見ながらそんな事を言った。
どういうことだと俺は後ろを見る。
するとそこに居たのは、
俺の妹という設定だった真希や両親という家族設定だった三人。
幼馴染で同じクラスの委員長、野和 彩香。
同じく同じクラスの剣道部女子、坂江 由梨。
坂江さんの弟、坂江 洋太。
俺のクラスの副担任、豊森 奈菜。
途中、俺のクラスに編入してきた虐めを受けていた生徒、三田川 麗子。
生徒会長で盗難問題に頭を悩ませていた、光明院 桜。
生徒会長に憧れている妹役真希の友人で、国会議員の娘、長友 理音。
長友 理音の父親、国会議員の長友 総次郎
転校初日に誘拐されるというイベントの被害者、イギリス人留学生、イリス=フリュード。あれ? さっきヘリコプターで連れて行かれていたよね? なんでここに居るの?
後、隅に3人居るが……。
……あれ? 誰だこの3人。
…………。
あぁ。思い出したオカルト研究会のメンバーじゃないか。え? この人達も被害者だったのか?
計15人の人物が俺の後ろに立っていた。
「全員揃ったようだな」
狭間がそう言うと、何故か焦った様子の庄平は、狭間に、
「なんでここに皆揃っているんだ!? ま、まさか全員記憶が戻っているなんて言いませんよね!?」
何故そんな事を言うんだ?
そう疑問を感じていると、
「その通りよ……。全部……全部戻ったわ」
と、三田川さんがズンズンと前に進みながらそう答えた。
そして庄平の前に立つと、
パシーン!
と、大きな音を立てて庄平の頬を平手打ちしたではないか。
ひぇっ、何してんの?
「……」
庄平は目を点にさせながら三田川さんを見た後、周囲を見る。
次に野和さんが庄平に近寄り、頭を殴る。
「ぎえっ!??」
続いて坂江さんが近付き、回し蹴りを放つ。
「ほぎゃ!?」
えっ? 何これ。虐め?
俺が目の前で繰り広げられているリンチを見て混乱をしていると、
「庄平! 何でこんな事をしたの! 私は庄平を裏切ったんだよ!?」
と、野和さんが悲痛な声で庄平に問う。
あぁ、そうか。彼女達は狭間や庄平の計画の失敗でこの世界の囚われの身になった。
つまり、長い間あの変態共の餌食になってしまったのだ。
その恨みというのは計り知れないだろう。
「私達を救うために、自分の命を犠牲にして……。せめて真希ちゃんだけ救っていればよかったのに! なんで私達まで」
今度は坂江さんは涙を流しながら問う。
「私は地獄に居た……。神命の命令で人をいっぱい殺して不幸にしたから地獄に居た……。だからあなたが命を捨ててまで救って良いような人間じゃないの……。
だから、この狂った世界で受けたものは、罰なのだと受け入れてた……。それなのにどうして……? どうしてあなたは私を助けようともがき苦しんでいたの?」
一方、三田川さんは静かに質問した。
そっち!?
てっきり俺はヒロイン達は庄平の事を恨んでいるのかと思ったが、どうやらそうではなさそうだ。
それはなぜ?
庄平もヒロイン達を助けようとしていたからか……?
まぁ、確かに俺の方にも色々と助けてはくれていたけど……。
蹴られたダメージを回復させた庄平は起き上がり、
「ははっ、そんなの決まってんだろ? お前達全員大切な存在だからだ。守りきれなかった。妹だけじゃなく、大切だったお前達を守れなかった。俺一人の力だけじゃ何も出来なかったんだ。
だからこうした。
神命をこの狭い世界へ閉じ込め、自殺したり、事故死したり、殺されたお前達を助ける為に。
全員、全員あのクソ野郎がなんの力も無い世界でもう一度やり直そうとしたんだ!
それでも……。それでも全員救えなかった。
それにあいつに世界を乗っ取られてしまった……」
庄平は俯きながら、
「すまない……。皆、すまない……」
庄平はそう言って涙を流した。
「私からも謝罪させていただきたい。本当に申し訳なかった」
狭間もそう謝る。
俺は水が広がるあの世界で、狐の面を被った巫女さんから色々聞いていた。
原作をプレイしていたから知識もある。
誰がどのような罪を犯したのか、予想は付いた。
この中に加害者も居る。
だけど、恐らくこの場に居る全員。15人もまた、被害者なのだろう。
誰が自殺をしたのか殺されたのかなんて詳しくは分からない。
ただ、全員泣いていた。
俺は、彼等の周囲に居るべきではないと感じ、一歩づつ後ろへ下がり、狭間の近くまで行く。
そうしてようやく狭間の隣へと来た俺は、視線を交わす。
しかし、狭間は涙を浮かべながらこちらを見て俺に話しかけてきた。
「君には本当に感謝をする。君がこの世界に来なければ、きっとまだ我々は奴が改変したこの世界に取り込まれたままだっただろう。
私には残された力は少ないが、この人間達の魂を無事天へと送ってみせよう。
そうして、この世界に決着をつけようと思う。
すまないが、君に何かをしてあげるほどは……残っていないかもしれない」
「あぁ、そうしてやってくれ」
この世界に決着を、か……。
狭間は残りの力を使ってゲーム世界を壊す気だろう。
「俺はもうアンタから結構加護みたいなもんを貰ってたんだろ?」
「気付いていたか……。まぁ、防御力を少し上げることしかできなかったがな」
あの狐面の巫女さんが教えてくれた。
狭間が俺に希望を託し、俺を守る為の加護を与えてくれたと。
はた迷惑な話だったが、終わってみればなんて事はない。
庄平やヒロイン達を変態共から助けることが出来たんだ。
俺がこの世界に来る前にやりたいと思ったことが叶ったのだ。いい結末を迎えたのではないだろうか?
「まぁ、俺じゃなくて、味方と名乗った術者が教えてくれたんだけどな」
「あぁ、部室に居た私も不思議な揺らぎを感じた。君の世界では強力な術者が育っていたらしいな」
狭間達が居た世界と俺が住んでいた世界は違う。
平行世界ではあるが、こういった所で違いがあるようなのだ。
というか、狭間はずっと部室に居たの?
「駿……、いえ、尾野さん」
「ん?」
声を掛けられたので、意識を狭間から移す。
「野和さん?」
俺に声を掛けてきた人物は野和さんだった。
なんだろう。俺は殴られるのかな?
「ありがとうございました」
身構えていたらお礼を言われてしまった。
「えっと……、いや。その……」
俺がどう返して良いのかと迷っていると、
「尾野君……、いえ、尾野さんのお陰で私達はあの男の呪縛から解放されました……」
と、今度は三田川さんが近付いてきながらそう言ってきた。
「ゲームをやった事があるなら、知っているとは思いますが、私は人殺しです」
「あぁ」
知っている。
三田川さんはストーカーの半田や片仲議員の部下であるノッポやチビを殺しているのだ。
恐らく生きていた頃も、同様の事はしていたのだろうと予想する。
「だけど、そんな私も救ってくれた。優しくしてくれた。心配もしてくれた……。恋人でもないのに、私のことを……。……本当に……、本当にありが……とう」
三田川さんは泣き始めてしまう。
それを野和さんは優しく肩を抱いてあげ、宥めていた。
次にフリュードさんがやって来た。
「ミーはユーとはあんまり過ごしたデイは少なかったデスけど、ユーのハートがブレイブなのは分かりマシタデース。
ビルディングからヘルプしてくれた事はしっかりと覚えてマスネー。
あんなこと、ノーマルなヒューマンじゃできないコトデスヨー。
デスからー、ユーには何度もセンキューしても足りないデース。
デスガー、言わせて貰いマース。ベリーベリーセンキューネー」
え? なんだって?
ごめん、不自然な日本語に気を取られすぎて、感謝をしていることはなんとなく伝わったけど、殆ど何言ってるかわからなかった。
「本当に君は……いえ、貴方は凄い人ですね。何の関係も無いのに、見て見ぬフリをする事だって出来たはずなのに、それを貴方はしなかった」
「貴方のような存在が私達の生きていた世界に居てくれたら……。そう思ってなりませんわ」
次に光明院さんと長友さんがやって来てそう言った。
「俺がここまで出来たのは、ゲームの知識があったからですよ」
俺がもしなんの未来予測も出来ない状態だった場合、野和さんが神命に襲われたことすら気付かなかっただろう。
「私の弟も救ってくれてありがとう……。貴方のお陰で、洋太も僅かな間だけど、まともな人間になれた」
「うっす……」
坂江さんと弟の洋太がそう言ってきた。
「尾野さん……。負担ばかりかけてしまってごめんなさい」
豊森先生もやって来てそう言った。
皆謝ったりお礼を言ったりするばかりで、俺は困ってしまう。
どう返せばいいんだ? どこかくすぐったいような感覚になる。
「僅かな間だったが、君の両親になれて誇りに思うよ」
「真希を救ってくれてありがとうね?」
「兄貴……、いや。尾野さん。この世界を作った原因はあたしが無用心さが原因だったんだ。
私が襲われたから、狭間雷様がこの世界を作ったんだ。
だから、責任は私に――――」
俺は真希が言い切る前に掌を目の前に出して発言を止める。
「君には全く責任なんてないよ。各世界で悪さをしようとした神命たちが地獄に落とされる。本当に被害に遭ったのは君達じゃないか?」
俺がそう言うと、真希は涙を流しながらヒロイン達に謝罪をする。ヒロイン達は大丈夫だ。気にしていないと言いながら真希を宥めていた。
「駿……と言ったら失礼だよな。えっと、」
「駿でいいよ」
庄平は言い難そうにしながら近付いてきた。
呼び方を気にしているようだが、もう駿でいいだろうよ。
「そ、そうか? へへっ、それじゃぁ駿。改めて御礼を言いたいんだ。それと、駿がこの世界から無事に脱出できるように俺から力を渡しておきたいんだ」
「へ? 力?」
一瞬、とてつもないパワー。ビルを一発殴っただけで破壊できるような力でも手に入れられると思ったのだが、それは違うだろうと思いなおす。
「神命はまだこの世界に居る。だから、駿の脱出を邪魔してくる可能性があるんだ」
「うそぉん」
アイツ刑務所に居るんじゃないの?
「狭間雷様は、神命対策で駿を守れない代わりに、俺が力を使う。これでも生前はそれなりの術者だったんだぜ? 悪霊限定だったけど、バッタバッタと葬ってたんだ」
とてもそうは見えない。というのは言わないでおこう。
「だからさ、駿がもし、神命に狙われそうになったら、俺の力が守るように術をかけるよ」
「……庄平はそんな事をして大丈夫なのか?」
力を使った瞬間、庄平が消滅したとかじゃ話にならない。
「勿論だ」
「なら、お願いするよ」
せっかくの好意だ。受け取っておこう。
「オッケー、任しとけ!」
庄平はそう言って俺に手をかざしてくる。
宗教の勧誘する人が実演しているような感じだ。
貴方には今、私からパワーが送られました。的な。
「はいはい! ミーもヤルネー」
と、フリュードさんが言ったのを皮切りに、
「私も!」
「私も……役に立ちたい!」
「私と洋太もお願いしようかな」
「私達も最期に彼の役に立とうかな」
「はい、桜お姉さま! 私もお願いしますわ!」
「尾野さんの為に、私もお願いするわ」
と、野和さん、三田川さん、坂江さん、光明院さん、長友さん、豊森先生達が殺到する。
女の子達に囲まれるのは悪くはないな。
「どうやってやればいいの?」
と、野和さんが庄平に聞く、
「神命達に対抗できるような思い、と、駿が無事で居られることを想えばいいんだ」
そう庄平が言う。
「ヨォーシ、神命キルキルキルネー」
「分かった……。神命は絶対殺す……」
フリュードさんと三田川さんは怖いこと言ってる。
その時、
「おいおい、そんなに呪詛を吐くと――――あっ」
と、庄平が声を上げた。
「えっ、何!?」
俺は不安になる。
「い、いや……。うん。大丈夫だ。ちょっと怨念が入っただけだ」
怨念が俺の中におんねん。
いやいや、冗談じゃないぞ!
「大丈夫大丈夫。駿には影響は無い……はず……たぶん」
「……」
そこは大丈夫と言い切って欲しかった!
ヤベーもん貰っちゃったんじゃないか? これ。
その後、ヒロイン達の後に、元尾野家。本来は盛田家の面々から想いを頂き、その他面々からも無事を願われた。
全員が俺に力というか想いを込めてくれた後、皆憑き物が取れたかのように穏やかな顔をしていた。
絶対に俺に妙な物も一緒に渡してないか?
そんな事を思っていると、全員の体が光り輝きだした。




