第45話 真の主人公
そろそろ夕日になるだろうか。
空はオレンジ色の雲が見えてきた。
場所は海辺。
俺は謎の人物によって命を救われ、砂浜と海が見渡せる車道でバイクから降ろされた。
こんな近くに海があるなんてなぁ。と思ったが、考えてみれば誘拐犯達がフリュードさんを海外へ連れて行く際に船を使おうとしていたから、恐らくこの近くの港から連れて行こうとしたのろう。
「いやぁ~参った参った」
と、呑気な声でフルフェイスのヘルメットを被った男は、ヘルメットを脱ぐ。
「え!?」
俺は思わずそんな声を出してしまう。
何故かって? それは目の前の俺を助け出した人物は、俺がよく知っている奴だったからだ。
「しょ、庄平!? なんでここに!?」
なんと、俺を助けた男は庄平だった。
「ははは。警察に通報した後、趣味で乗ってたバイクで駆けつけたんだよ。俺が居てよかっただろう?」
と、庄平はドヤ顔をしながら笑っている。
「しっかし、あんな戦争のような状態になってるとは思わなかったなぁ」
「誘拐犯の制圧に警官だけじゃなく自衛隊も動くなんてありえないだろう……。いやまぁ化け物相手ならば仕方が無いのかもしれないが」
「まぁな~。お前を追いかけていったらあんな化け物に出会うなんて思わなかったよ」
まさか俺も誘拐犯一味が全員化け物になるなんて思わなかった。
精々首領ぐらいかと思っていた。
「……。ありがとう助けてくれて。後、スクーター壊しちゃってゴメン」
「ははは、いいって事よ。気にすんな」
俺は庄平の顔を見ずに謝罪をした。
庄平はそんな俺に笑いながら答える。
だが、俺は気を休めることは出来なかった。
それはスクーターを壊してしまった罪悪感からではない。
「バイク……持っていたんだな」
そう言って庄平が乗っていたバイクを見る。
あぁ……。やっぱり。
俺が考えていた事が当たってしまったって事か……。
「あぁ。やっぱ乗り回すならこっちの方がカッコイイだろ?」
翔平はバイクを自分の物だとは肯定した。他人の物だとは言ってない。
不自然にいきなり登場したバイク。
だが、俺が考えている事が正しかった場合、不自然さはなくなるだろう。
「なぁ」
「ん? なんだ?」
ここで俺が自分の考えを話してしまっても死ぬことは無いだろう。
そう思って思い切って話してみることにした。
彼に顔を向けると、彼もまた俺の方を優しげな笑みで見ていた。
そして俺は訊ねた。
「お前。このゲームの本当の主人公だろ?」
と。
「……」
俺の質問に庄平は、驚いた顔をしてみせた。
そして、
「……俺がゲームの主人公? はははは。おいおい、いったい何の話だ?」
彼が惚けているかどうかなんて俺にはわかりっこない。
だから俺の考えをぶつけるしかなかった。
推理なんて言えるような立派な考えは無い。ただ単にこの世界で気付いたおかしな点をまとめただけだ。
「元々この世界ってさ、どっかの神様が創ったものらしいじゃん?
だけどそれが改造されて変なことになっているんだよな。
改造した奴はあのクソみたいな主人公、神命 成一だっけか? まぁ、それはいいや。
問題は"俺"の立ち位置さ、ただのモブがゲームの中のヒロインのクラスメイトだったり、幼馴染だったり、クラスの副担任だったり、妹の友達だったり、こんな偶然おかしいだろ? だけどこれが本当のギャルゲーの主人公だったらおかしくはないよなぁ。
つまり、本来このゲームの主人公なのが俺のポジションっぽすぎるんだ」
庄平は黙って俺の話を聞いていた。
「そうじゃなきゃお前のポジションがおかしいんだよ。
なんでモブとしてこの世界に入ってきた俺に、幼馴染の親友ポジションなんて濃いキャラクターが存在するんだ? ギャルゲーにはよくいるキャラのお前が何で主人公側に居ないでモブキャラの俺に付いている?」
俺がそう言うと、
「やっぱり何を言っているかわかんねぇな。仮にこの世界がゲームだとしたら、なんで俺がその親友ポジのキャラじゃなくて本当の主人公だっていえるんだ? 本当にモブの、いや本来の主人公の親友ポジかも知れねぇだろ?」
庄平は呆れた感じで否定をする。
「そんなの簡単さ。このゲームは元々あのクソ主人公達を懲らしめる為に作られたゲーム。被害者はヒロイン達とおそらく主人公の家族だろう。ここがギャルゲーならまだしも、あの神命達を懲らしめるゲームになんで親友ポジが必要なんだよ。
クソ共を倒すゲームにお前のような立ち位置が必要なのか?
それなのに、これが普通に学校で会話するような間柄ならまだしも一緒に学校の先輩に拉致られたり、化け物がうようよ歩くビルの近くに来たり……。俺に関わりすぎて不自然なんだよお前。だいたいさっき乗ってきたバイクは何処から出してきたんだよ」
「バイクは俺が小遣いを貯めて買ったんだよ。それに、いや、いくら不自然だとしても、俺がその主人公だっていう証拠は――――」
認めようとしない庄平。
だけど、決定的な証拠はまさに目の前にあるのだ。
「だから、そのバイクだよ」
「えっ?」
「このゲームに出てくるあの学校の生徒でバイクに乗っているのは主人公だけなんだよ」
俺がそう言った瞬間、庄平は固まった。
このゲームではバイク持ちは唯一、神命というクソみたいな主人公だけだった。
だが、何故か庄平もバイクを持っていた。
ゲームの設定上清高学園生徒がバイクを持っているとしたならば、それは主人公だ。
もしかしたら主人公がバイク持ちってのは世界が変えられても、ここだけ残ったのかもしれない。
つまり、設定がいくらグチャグチャになろうとも、神命が特別視されるこの世界ではバイク持ちは異常な存在なのだ。
「それに、庄平。お前ハヤシライス大好物だろ?」
ついでに思い出した違和感についても話しておくか。
「いや、それは誰だって好物だろ」
「俺、ハヤシライス嫌いなんだよね」
「はぁ!?」
庄平は信じられないという顔をする。
お前の好物が全人類共通だと思うなよ?
「バイク乗った学生で、ハヤシライスが好き。もうこの世界の登場人物で当てはまる奴はお前しかいないだろう」
いくらハヤシライスが好きだと言っても、あの執着心は異常だぞ。
「……そ、それは」
と、庄平が何かを言おうとした時、
「――――もういいだろう」
何処からか声が聞こえてきた。
「狭間様……」
「えっ?」
その声の主の名前らしきものを言ったのは庄平であり、俺はその人物がここに居ることに驚いた。
嘘だろ?
この人物も俺は知っている。
だけど、なんでこの人が?
それに、どうして庄平はそこまで畏まっているんだ?
「あ~……この度は巻き込んでしまい、誠に申し訳なかった」
そう言って頭を下げてきたのは清高学園オカルト研究会、室長であった。
「狭間……様?」
何故庄平が様付けをして室長を呼んでいるのか。
そう思ったが、もしやと思い聞いてみた。
「……もしかして、あなたがこの世界を作った神なのか?」
俺がそう尋ねると、狭間様と呼ばれた人物はコクリと頷いた。
「その通りだ。私が庄平に協力し、この世界を作った神だ。
もっとも、大部分があの怨霊に乗っ取られて改造されてしまったがな……。
此方の世界では狭間という苗字のキャラクターとして留まっている。現在はゲーム世界がバランス崩壊を起こして徐々に力は戻ってきている状態だ」
本当に神様なのかよっ。
そりゃ頼りがいがありそうだ。
しかし、オカルト研究会の長がこの世界を作った元凶だったとは……。まぁ、それも怨霊に乗っ取られるとか間抜けなことを――――――。
ん……? あの怨霊?
怨霊達じゃないのか?
「えっと、質問いいですか?」
俺は手を挙げて発言を求める。
「あぁ、もちろんだ」
「その……怨霊というのは神命や羽間、紫藤達の事で?」
俺が再び問うと、
「中心となって私の世界を乗っ取ったのは神命だ。あ奴は同一の魂が複数集まった瞬間莫大的に霊力が上がってな。私でも抑えきれない存在となってしまったのだ」
なにそれ。
神命って何者??
伊達に主人公やってねぇってか?
俺が疑問を感じていたのを感じ取ったのか、
「神命は元々神通力を持っていた一族の末裔だ。同一の魂が集まったことで、薄まっていた能力者としての力が使えるようになったのだろう」
と、狭間という神は説明を付け加える。
「マジかよ」
新たな情報だ。
あいつってマジモンの能力者だったのか!?
ただの鬼畜な変態じゃないのか……。
「神命って今は刑務所にいますよね? 大丈夫なんですか?」
「大丈夫……と言いたいが、先ほども言った通り、ゲームという世界が崩れつあるため、乗っ取られる前に私が最後の力を振り絞って封印した奴らの記憶。この世界がゲームの中の世界だという記憶が奴らに戻ってきているようだ。
つまり、奴ら、悪役共が自分は既に死んでおり、ゲームの中に閉じ込められているという事を思い出してしまう。
そうすると、連中何をしでかすか……。想像したら寒気がするよ」
そう困ったような表情をしながら微笑まれた。
俺も困る。
「それ、大丈夫なんですか?」
恐る恐る聞いてみると、
「あぁ、君を救おうとしてくれている存在達が刑務所の結界を強化してくれたよ」
「そう……だったのです……か」
敬語を使えば良いのかどうか分からない。
俺はチラッと庄平を見ると視線が合った。ただ、庄平もプイッと辛そうな顔で目をそらしてしまう。
お前やっぱりこのゲームの主人公だったんじゃねぇか!
困った俺は再び狭間様を見る。すると、狭間様は頷き、この気まずい空気から脱却する為に会話を続けた。
「尾野 駿君、君の推理した内容はほぼ正解だ。ただ、この世界はギャルゲーというようなジャンルの物ではない。本来であれば『ゆるふわ』ものであり、ちょっとした事件を解決するような内容だったんだ。例えば『神命 成一』は喧嘩なんて強くは無く、ただの困った変態キャラクターとして生きていく予定だったんだよ。これは他の悪役キャラクターも同一だ」
「変態キャラクター……」
確かに変態だったし変体もしていたなぁ。
ってか、そんな奴らが出てくるゲームは本当にゆるふわ物なのだろうか。
「私も『狭間』の名を持つ神の一柱ではあるけどね。本名は『狭間雷』といってあまり力は強くない存在なんだ。ゲームの世界に犠牲となった死者の魂を呼び戻し、楽しい生活をさせようとしていた」
いや、十分強力な存在じゃないか? そんな事ができるなんて……。
今、目の前に居る人物は、人間と同じ見た目をしている人間とは別格の存在だった。
「狭間の名を持つ神は他にも居るのか?……いや、居るのですか?」
「ははは、いいよそう畏まらなくても。迷惑を掛けてしまったからな。そして、質問に対してはその通りと答えよう。君は確か君が生まれ育った世界の退魔士に助けられたね?」
「退魔士? ……あぁ、あの狐面の巫女さん達の事ですね」
俺が正直にそういうと、
「あぁ、彼等は名乗らなかったのか。まぁ、私も他の世界の事をすべて知っているわけではないからね……。
ふむ、君を救おうとした退魔士について話を戻そう。対応した人物までは詳しくは分からないが、君は一回この世界から半分脱出している。覚えてないか?」
そう言われて記憶を辿る。
半分脱出したなんて記憶はあの時ぐらいしか思い当たらない。
魂だけが行ったあの世界……。
「もしかして、あの一面広がる水の世界にポツンと立っていた神社の空間のことか? 狐の面を被った巫女さんが俺に色々と教えてくれた。脱出するにはゲームのヒロイン達を助けなくちゃいけないって」
「あぁ、それで間違いない。あれは我ら狭間の神が作る空間の構造はお決まりのパターンだから分かりやすいな。その空間を作った存在こそが、私よりも上位存在の狭間の名を持つ神が人間の術者と一緒に創った空間だ」
「なるほどぉ……。いや、そんなことよりこうして出てこれるんならもっと早く助けてくれよ! 庄平、お前もだぞ」
俺がそう抗議すると、
「あぁ、それは……ごめん」
と、言いにくそうにしている。
「それも私から説明しよう」
代わりに狭間の神が俺の抗議に答える。
「簡単に言うと、悪役連中に動きを封じられていたんだ。
私達はゲームに大きく介入できるほどの権限を剥奪されたと言ってもいい。
話す言葉も、行動も君を本格的に助けるようにはできなかったのだ」
「そんなに神命って強いんですか??」
神様よりも強いってどういう事だよ。
「理由は情けない話だが、私は過去や未来、そして確認し得る限りのこの世界に閉じ込めた悪役連中の魂を集めた結果、あまりにも奴の怨念の容量が大きすぎてな。私では押さえきれなくなってしまったのだよ……。
まぁ、ゲームのグラフィックと言えばいいかな?この世界の見た目を極限まで現実世界と同じにする等して力を使い果たしてしまったのも原因の一つなのだけどね」
おっと、この神様すごく間抜けだぞぉ……。
今回のまとめ
盛田 庄平:本当の主人公※18禁ゲームではなく、改変される前の主人公。
オカルト研究会の会長:ゲーム世界を作った神。




