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第43話 ヴァイパー


----------------------------------



―佐々木刑事視点―



 緊急招集がかかり、多くの同僚達と共に現場へ駆けつけると、そこは戦場であった。


 最初は最近何かと事件が起こる清高学園の生徒が誘拐されたとの話だったが、車で移動中に銃撃戦が行われているという話に切り替わった。


 そして先に来ていた警察官達の殆どが既にやられてしまったとも聞き、犯人達に対して憤りを感じていた。


「これは……。どうなっている!?」


「な、何が起きているんだ!?」


「犯人は!? どこにいる!」



 自分と同じく現場に来たばかりの警官達は、地獄と化した現場を見て混乱をしている。



 足に怪我を負ったのか、必死に両手で押さえて血を止めている警官。


 怪我をした者を救助する警官。


 死んだ仲間が持っていた銃を「すまない。貰うぞ」と良いながら手にする警官。



 非日常がそこに広がっていた。



「弾をくれぇぇ! こっちだぁ!」



 生き残っている警官が、アサルトライフルを片手にこちらに向かって叫んでいた。


 とにかく今はゴチャゴチャ考えているよりも、この惨状を作り出した悪党を制圧することが優先される。


「今行く!」


 到着したばかりの同僚がそう言った後、



「第三派だぁぁぁ!! 奴らがまた来るぞぉぉぉ!!」



 弾を要求した警官とは別の警官が大声で我々に知らせてくる。


 なんだ!? なにが来ると……。あ、あれは!?




「「「モォォオオ! ミュリィィィイイイ!!」」」



 空中を飛んでいる人間らしき者が、十人ほど古びたビルから飛び出してきた。


「な、なんだ!?」


 増援で来た同僚は目を見開いて化け物共を見る。


 あんなモンスターがいるなんてこっちも聞いていない! ホント、なんなんだよアレは!


「フォォォォォオオオ!!」


ズドドドドドドドド。

ズドドドドドドドド。


 その内一体はゆっくりと空中で静止し、両手に持ったマシンピストルを俺達に向け、発砲する。


「ギモヂィィィィィィィィ」


 別の一体は、警官隊の攻撃をすり抜け、応戦していた警官の一人の喉元に食らいつき、噛み千切る。


「うぎゃぁぁぁぁぁああ!!」


 喉を大きく抉らされ、派手に血をまき散らす同僚を見て、これはこの世の風景なのかと疑いを持ってしまった。


「あ、あかん! こりゃたまらんわっ!」


「へーく反撃さりんどぉー(早く反撃するぞ)!」


「Genau(その通りだ)!」


「Атака запущена(攻撃開始)!」


 続々と到着する増援と共に、射撃を開始した。



「うぉぉぉおお!!」



 そして俺も引き金を引きながら、何故かこの事件にも尾野 駿が関係しているのではないか。という予感がしていた。





----------------------------------




―尾野 駿視点―





「ぎやぁああああああぁぁぁぁぁぁぁ」


 ただいま、落下中ぅぅぅぅぅぅ!!!


 死ぬぅぅぅぅぅ!!


 俺、死んじゃうぅぅううううう!!!





 ――――――――走馬灯が見えた。





 現実世界の父と母、弟。


 そして、実家に居たペットの猫。


 思い出が保育園の時から社会人になるまで一瞬で追体験をする。


 社会人になったらやろうと思っていた親孝行は、全くできなかったなぁ。


 猫とももっと遊んでやればよかったなぁ。


 あぁ、つまらない人生だと思っていたが、なんの変哲もない平凡な人生こそが幸せだったのだな。


 もっとそのなんの変哲もない人生を楽しみ、幸せを感じながら生きたかった……。


 そう後悔しながら俺の体は落下をしていく。





「ぁぁぁぁぁぁあああ――――グベ!」




 落ちた!と思ったらそんなに痛くなく地面に背中から着地した。


 というか、落下時間が短い気がする。


「いってててて……。あれ? そんなに痛くない」


 ダメージが少ないのは、お守りの影響だろうか?


 それもあるかもしれないが、


「あ、あははは。思った以上に地面が近かったのか」


 なんのことはない。

 実際はそんなに高い場所から落ちていないという事に直ぐに気がついた。


 ありがとう、ちゅん太。そう言おうと起き上がった時、


「へ?」


 地獄と変わり果てていた地上が目に映ってしまう。


 折り重なって死んでいる警察官達。

 ボコボコにへこみが加えられた原型を留めていないパトカー。

 穴だらけの誘拐犯の一味と思われる死体。


「ひぃぃぃぃ!」


 俺は這いずりながら逃げた。

 途中、誰のものか分からない血肉の泉を吐き気を抑えながら抜けていく。

 これ、エロゲーじゃなかったのかよ! グロゲーじゃねぇか!


ズドーン。ズドーン。


ババババババババババ。


 そんな音が遠くから聞こえた。

 まだどこかで戦っているのか?


「ひぃ、ひぃぃ」


 恐怖からか、俺は自然と銃撃の音が少ない場所へと逃げていた。


 結構多くの警察が助けに来てくれていたようで、パットカーの数が多い。


 ん? 警視庁、大阪府警察、北海道警察、沖縄県警察、Carabinieri。


 車体にはそう所属する場所が書かれた文字が書かれていたが、色々な所から来すぎだろ!


 だけど、みんな破壊されてる……。


 ビルに突き刺さっているパトカーもあるんだけど……。


 どうしたらああなるんだよ……。


「チュンチュンチュン」


 だけどちゅん太がついていてくれている。

 少しだけ安心感があった。




「尾野君!? 何で君がここに!」




 すると、前方から複数の人間が近付いて来るではないか。

 あれは警察官?

 なんかすごくゴツイ武器持っているんだけど……。


「しゃ、しゃしゃき刑事!?」


 なんと、近寄ってきた者達の中心に佐々木刑事が居たのだ。

 呂律が回らなかったのが恥ずかしい。


「一般人、一人保護しました!」


 と、佐々木刑事とは別の警察官が無線でやり取りをしてくれている。


「もしかして、やっぱりまた事件に巻き込まれたのか!? もういい加減にしてくれぇ!」


 などと佐々木刑事は俺に向かって失礼な事を言っているが、


「うわぁああああん、だずがっだぁぁぁぁぁぁ」


 と、俺は大泣きをしながら佐々木刑事に縋りついた。


「あぁぁ、もうっ! 泣かなくて良いから! 帰るよほら」


 佐々木刑事は優しいなぁ。

 ありがてぇ。

 だけど、これで事件は全て解決だ。

 フリュードさんも助かったし、誘拐犯達もこれで壊滅だろう。

 そう安心しきった俺を佐々木刑事が体を起こしてくれていると、




ドグチュァ。


ピチャピチャ。




 と、変な音がしたと思ったら、顔に生暖かい水しぶきが掛かった。

 何だこれ?

 顔を掌で拭き、掛かった水しぶきを見ると真っ赤であった。



「……え?」



 慌てて俺は佐々木刑事の方を見る。

 すると、佐々木刑事は目を見開いて隣を見ていた。

 なんだ? そっちに何があるんだ?

 俺も釣られてみてみると、そこには一人の警察官が頭を巨体の男に握りつぶされているではないか。


 誘拐犯の一味だろう。


 顔に大きな傷跡があるその男は、虚ろな目で俺たちを見ていた。

 一瞬、どこかで見たことがある顔だと思った。



「ンボウ?」



 他の誘拐犯と同じで言葉にならない声を発している。


「う、うわぁあああ!!!」


「撃て撃て!」


パンパンパンパンパン!!

ズダダダダダダダダダ!!


 状況を理解した警官達は、一斉に銃を化け物に向かって放つ。

 突如至近距離で始まった銃撃。


「君は逃げろ!」


 そう言って佐々木刑事は俺の背中を押す。


「うわぁあああ!!!」


 俺は転びそうになりながらも走って逃げた。



「ぐああああああ!!」



「ぐべろぉ!」



 警官達の悲鳴が後ろで聞こえてくる。



「ギュガァアアアアアアアアアアアア!!!」



 ついでに化け物の声も聞こえる。


 なんなんだよあれは!!


 いい加減にしてくれぇ!!


「嫌だ嫌だ。死にたくねぇ! 死にたくねぇ! あとちょっとなんだ!! あとちょっとで俺は元の世界に戻れるんだ!」


 俺は必死になって走った。

 死んでたまるかっ!

 早くこんな世界から脱出して、温かいお布団で寝るんだ!


 すると、


ドゴッ。


 逃げている途中、後ろから俺の背中に何かがぶつかった。


「ひべろ」


 俺は無様にも衝撃で転んでしまう。



「な、なぁに?」



 そして後ろからぶつかってきた存在を確認する。



「……うわぁ」






 そこには―――――――――。







「ひぇっ……」







 ――――――――首だけの佐々木刑事が居た。










「佐々木刑事ぃぃぃいいいいいいいいいいい!!!???」







 当たり前であるが、既に事切れている。


 この世界に入った当初から俺の事を心配し、何かあれば駆けつけてくれた大きな存在である佐々木刑事。


 その佐々木刑事が変わり果てた姿で目の前に居る。


 なんだこれは……? これは、現実……なのか??


「うっぐ……。ぐぼろろろrrrr」


 あまりのショックで吐いてしまう。


「ひぃ、ひぃ、うわわわわぁ……」


 震える足で立ち上がり、巨漢の方を見た。

 案の定、近場に居た警官達を殺しつくした巨漢は、ノッシノッシと俺の方に向かって歩いてくる。


 そこでようやく思い出す。

 あいつ、かなり見た目がデカくなっているが、人身売買の元締めの男だ。フリュードさんを誘拐するように指示をした男である。

 当然ゲームで見たよりも凶暴化しているようだ。


「ひへぇぇぇぇ」


 足が震える。

 は、早く逃げないと。こ、殺される!!


 そう思っていると、



「チュンチュンチュン!!」



 ちゅん太が高速で巨漢に体当たりしようとした。


 よしっ、勝った。


 そう思ったのだが、



「フンヌゥゥウ」



バチン!



「ヂュ!?」



 巨漢は腕の一振りでちゅん太をなぎ払った。

 ちゅん太は嫌な鳴き声を上げ、そのまま勢いよくビルの窓ガラスへとぶつかり、ガラスを突き破って屋内へと消えていった。


「うわぁ、うわぁ。うわぁああああああああ!!! ちゅん太ぁぁああああ!!!」


 逃げようと必死に足を動かした。

 だが、思うように前へ進めない。

 ヨタヨタ、フラフラ。そんな感じで俺は走っているのだ。


 もう駄目だ!


 あんなのに捕まったら死んでしまう!!!



「嫌だ嫌だ! もうフリュードさんは警察が保護したんだからゲームはクリアしたんだろ!? 早くここから出せ! 今すぐ出せよぉおおお!!!」



 誰に言っているのかはよくわからない。

 だが、この世界を作った神であれば聞いているかもしれない。

 俺の走り方がもうおかしいことはわかっている。

 ふらふらになりながらも、早くこの世界から逃げたいがため、必死に足を動かした。


 一瞬、空に沢山居たヘリコプターの姿を探すが、フリュードさんを乗せたヘリコプターを護衛する為なのか、まったく見えなくなっていた。


 その間にも、ノッシノッシと後ろから化け物が近付いてきていた。


 泣きながら前へと進むと、十字路に差し掛かる。

 ここにも警官達が居たのだろうが、皆物言わぬ存在となっていた。

 本当に味方はもう一人も居ないのか?




「誰かぁぁぁああ!! だずげでぐだざぁぁああああい!!!」




 そう助けを求める俺。


 自分にはあの化け物に対抗できるだけの力なんてない。


 奇跡的にこの状況を打開できる強大な力なんか、いきなり手に入るわけがない。


 だからこその叫びだ。


 しかし俺の声は虚しく消えていく。



「う"ぅ"ぅ"ぅ"ぅ"ぅ"……」



 畜生。


 こんな終わり方ってありかよ。



 ふと俺は振り返って化け物になった誘拐犯リーダーを見る。



「…………ニチャァ」



 奴は俺と視線が合うと、真顔から頬が裂けるほど口を開いて笑顔を作った。




「うぅぅ……、キモイよぉ……」



 俺が誘拐犯のリーダーの顔を見て絶望をしていたその時、




ブロロロロロ。




 遠くからバイクの音が聞こえてきた。


 あぁ、そういえば俺が乗ってきたスクーターは何処だっけ?

 あれに乗れば早く移動できるなぁ。


 そんな事を考えていると、





キキキーーーーッ。




 すぐ近くにバイクが停まった。


 えっ? なにこれ。

 だぁれ?




「おい、駿! 早く乗れ!」




 と、突然大型バイクに跨ったフルフェイスの男がそう言ってきた。


 ヘルメットのフェイス部分は黒くて表情がよく見えない。


 俺の名前を知っている?


「え……え? あ、は、はいいい!!」


 敵か味方かなんて迷っている暇はない! 俺はこのいきなり現れたバイクの男の指示に従い、バイクの後部座席に飛び乗った。



「グォオオオオオオオオオオオオ!!!!」



 それに気付いた巨漢は先ほどまでのノロノロとした動きから、ドシンドシンと走りだす。

 表情をキモイ笑顔から怒りに変えて。


「クソっ、あいつあんな化け物になってんのかよ!」


 と、俺を助けに現れたバイクの男はそう言ってバイクを発進させた。

 あの化け物の事を知っている……?


「グガアアアアアアア!!!!」


 追ってくる誘拐犯のボス。


 しかしバイクの方が早い。

 俺が跨ったバイクは直ぐに発進し、徐々に巨漢から距離を離していった。


 た、助かった……のか?




ズダダダダダダダダダ。




 今度はなんの音だ? 銃声ではない?


 どこかから爆音が聞こえた。


 その爆音はだんだんと近付いてくる。



「あれは!?」



 俺が音に気付いて見たもの。


 それは前方にてホバーリングしていたヘリコプターだった。


 俺達はその下を抜け、ヘリからも離れていく。



「あのヘリコプター……」



 警察のヘリではない。





 だけどあのヘリは知っているぞ。





 怪獣映画とかで見たことがある。





 特徴的な迷彩柄。





 確かあれは自衛隊の攻撃ヘリ……。








 コブラ――――――。









ブァァァアアアアアアアアアアアア。







 けたたましい機関砲だかバルカン砲の音が後ろで鳴った。

 首をできるだけ後ろに向け、状況を確認する。


 その瞬間、巨漢は赤い煙となった。




 これが俺が巨漢を確認できた最後の光景となった。





琴音:「新たに出した式神達にめちゃくちゃ怒られた特別解説役の琴音です……。奴等、主人というものを理解していない……」


ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:喧嘩両成敗されたちゅん太です……。なぜ僕まで……。


琴音&ちゅん太「「……」」


琴音:「話が進まないので、仲直りしましょうか」


ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:そうですね。


琴音:「では今日の解説は、この話の最後に出てきた自衛隊所属の攻撃ヘリコプターについてです」


ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:確か、尾野さんはコブラとかなんとか言ってましたが、


琴音:「実はあれ、コブラではなくヴァイパーというコブラ攻撃ヘリコプターの上位機種らしいんですよ」


ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:へー。ですが、違いがよくわからないですね……。


琴音:「私もです。プログラミングしてくれた人がどうせなら強い機体の方がいいだろうと、初期段階の自衛隊の装備は悪霊にわからない程度の形で上位のものにしているんです。そのお陰で、攻撃力や防御力等がアップしています」


ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:そうだったのですか!?


琴音:「はい。その他にも、ヒューイヘリコプターってのはヴェノムに。アパチ・ロングボウはローター部分の問題が無くなったアパッチ・ガーディアンへと変えられています。これらもどう違うのか私にはよくわかりません。ちなみにカラーリングは自衛隊の迷彩です」


ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:えぇぇ!? も、もしかして僕の能力が低いままだったのは、他に戦闘能力のリソースを回したからじゃないですか?


琴音:「へ?」


ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:それならそうとおっしゃって頂ければ良かったのに。そういうことなら僕だって怒りませんよ。だって、人命救助の手段を手広くやっていたってだけじゃないですか。僕の能力が低くなったのは偶々悪霊連中の目についたからでしょう?


琴音:「そ、そうよ。そうなのよぉ~」


ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:いや~。よからぬ事を考えていると疑っちゃいましたよぉ。申し訳ありません!


琴音:「い、いいのよ? 気にしないでね? ……単純な奴で助かった」


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