第41話 イリス=フリュードを救うには
次の話は2日後です。
その後は3日後が続きます。
結局フリュードさんと話すことが出来ないまま放課後になってしまった。
今日も帰りは早く、15時には授業が終わり、部活動も無しになった。
変態達対策の為に早く帰るのは良いけど、あいつ等鍵が掛かった家でもお構いなしに突撃してくるからなぁ。
これから最後のイベントにも備えなくてはいけないので、早く帰られるのはうれしい。
だけど、佐々木刑事に連絡が付かない!
長友さんは父親である長友議員が直接迎えに着た事で、今日の集団下校はなくなった。
長友議員はマスコミに囲まれていたが、何点か話をしたら直ぐに帰って行った。
という事で、俺は妹と一緒に帰るべく校門を出て、道路の直ぐ近くで妹を待っていると、
「あー、朝のハーレムさんですネー」
と、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あっ。フリュードさん」
そこにはニヤニヤと笑みを浮かべた金髪碧眼の転校生。イリス=フリュードが居た。
「お願いがあるのデース」
「はいはい、なんでしょうか?」
ここで彼女に恩を売っておけば、恐らく数日後に起こるであろう誘拐イベントに不自然な形ではなく介入できるだろう。
もちろん、俺は彼女の救出現場に立ち会うつもりはない。
なにせ相手は大きな犯罪組織が関わる誘拐犯グループだ。
日本へやってくる世界各国の美女を中心に狙い、変態達に売り捌く危険な集団。
当然銃も持っている。
そんな相手に俺は直接立ち向かうつもりなんてない。
鬼畜主人公はどうしたかって?
はっ、あいつは夜中にフリュードさんが積み込まれた輸送船に忍び込んでサプレッサー付きの拳銃で誘拐犯達を暗殺していき、フリュードさんを救出した後、最後は三田川さんが仕掛けた爆弾を起動させてドカン! とかやってたよ。
お前、もう海外のアクション映画に出られるよ。ってぐらいのアクションしてたぞ。
俺にはあんな事はできません。無理ですぅー。
そもそもサプレッサー付きの銃はどっから出てきたんだという位、設定がガバガバだったなぁ……。
そんな事を考えていると、フリュードさんはニヤニヤ顔から一転ショボンとした顔をしながら、
「帰り道が分からないデース」
「マジか!」
こいつこんなにドジッ子キャラだったか? と思いつつも、
「住所は分かるのか? 分からないならば今日俺達が出会った場所までならば案内できるが……」
そう言うと、
「大丈夫デース。私の家、あそこから近いデース」
と、明るく言う。
「なら大丈夫だな。俺は一緒に帰る奴が居るからそいつが来るまでここで待っているが……」
「一緒に待ってマース」
親切にしておいて損は無い。
寧ろ顔を覚えてもらうチャンスである。
そんな事を思っていると、
「そういえばぁー」
と、話を振ってくるフリュードさん。
「ここで待っているのはハーレム要員さんデスカー」
「はぁ!?」
とんでもない事を聞いてきたフリュードさん。
「いやいや。そんな訳ないでしょ。俺は別にハーレムなんて作りたくないからね?」
最初はそれを目指したかったが、今は違う。
ハーレム作って楽しんでいる余裕なんて無いのだ。
まぁ、いくらゲームの中だといえ、今だけ美味しい思いをしても良いのだが、このゲームの女性キャラが実際に現実世界で生きていた人物達であり、今は死んで魂だけの存在なのだ。
そういう話をあの謎の巫女から聞いた時点でハーレム願望は無くなっている。
「そうデスカー。確かにあなたはハーレムアニメーションの主人公さんという気がしないデスネー」
そりゃそうだ。この世界には元々主人公『神命 成一』という人物がいて……。
「んっ――――?」
そう言えば、ここ、ゲームの世界だよな?
主人公って誰だ?
神命というクソ主人公はあくまでも改竄されたゲーム内で主人公として活躍していた人物のはずだ。
あの狐のお面を被った巫女さんが言うには元々神命 成一はただの敵役。
ゲームというのはその殆どが主人公という者が存在する。
被害者であったヒロイン達の可能性は無くも無いが、可能性としてはこの世界を作った"神"が一番近いかもしれない。
いやいや、待て。
一番可能性があるのは"俺"のポジションじゃないのか?
幼馴染の『野和 彩香』
クラスメイトの『坂江 由梨』
クラスの副担任『豊森 奈菜』
妹の友達『長友 理音』
俺の家の近所に引っ越してきた『イリス=フリュード』
縁遠くはなるが、長友 理音が慕う先輩『光明院 桜』
おいおいおいおい。三田川さん以外は俺に繋がるぞ。
ゲーム内では俺の妹という事になっている『尾野 真希』も被害に遭っていたようだし……。
もしかして、俺のポジションは元々別の主人公がいたんじゃないか?
それは誰だ?
少なくとも、ハヤシライスとキノコが好きな人物だ。
そう思うのはあらゆる設定の中で、俺の事を無視した設定はその位だったからだ。
でも、元々どういうゲームだったっけ?
元々は神命共を懲らしめるゲームだったはずだ。
ならば主人公は要らない?
いや、でもならば、なんでゲームでよく見かける"あの設定"を持つと思われる人物が現れたんだ?
事ある毎に俺に近づいてきたアイツ……。一体何者なんだ?
「……おーい。どうしマシター?」
フリュードさんが、俺が黙りこくってしまった事に不安を感じたのか、心配そうに覗き込む。
「ん? あぁ、すまない。ちょっと考え事をしていたんだ――――――――」
しかし、その時、
キュキキキキキキキキィィィィィ!!!
馬鹿デカい急ブレーキ音。
「キャッ!?」
白いボックスカーがいきなり目の前に止まり、後部座席の扉がかと思えば、フリュードさんが素早く中に連れ込まれた。
「――――はっ? うっそ」
突然フリュードさんが攫われた。
そして走り出すワゴン車。
「あれは!」
俺は一瞬で理解した。
あれは原作であったイベント、フリュードさんが誘拐された時の状況と全く一緒だ。
嘘だろ!? 数日間の猶予があったはずだ!?
まさか俺がゲーム内容を改変しまくったから影響が出たのか!?
だけどこんなに唐突に!?
俺が混乱していると、
「お~い、駿。どうした? 何かあったのか?」
と、125ccのスクーターを転がしてきた庄平が呑気に声を掛けてきた。
「庄平!? それは!」
俺がスクーターを指差すと、
「お? こいつか? 良いだろぅ、こいつはなぁ、俺がコツコツバイトをして貯めて買った―――」
「そいつを貸せぇぇぇえ!」
「ううぇぇ!? お、おい、何をしやがる」
俺は抗議の声を上げる庄平からスクーターを引ったくり、
「警察に連絡をしてこのスクーターを追ってもらえ! 今そこで誘拐事件が起きた! 車は覚えている。白いワゴン車だ」
と、言うと。
「はぁ!? ま、マジか! わ、分かった!」
庄平は頷いてくれ、今度はヘルメットを貸してくれた。
そしてそのまま俺はヘルメットを被り、スクーターを走らせた。
間に合えぇぇぇえええ!
フリュードさんを連れ去った車が通ったと思われる道を進むと、呑気に大型ワゴン車が道を走っていた。
ナンバーも間違いはない。
俺がクラクションを鳴らすと、気付いたワゴン車は速度を上げる。
というか、なんであの車左右にフリフリ大きく揺れてんだ??
「逃がすかよ!」
俺はクラクションを鳴らし続け、なるべく目立つ行為をする。
そして、車に接近し、叩いたり大声を上げる。
車の中はスモークガラスであった為見えにくかったが、フリュードさんが暴れている姿は確認できた。
焦ったのか犯人達は車を飛ばすが、先を走っていた車にぶつかる。
それでも無理矢理進むものだから、街中では目立ちまくる。
それも目論み通りなんだけどね……。
なぜ、誘拐犯達は予定よりも早くフリュードさんを誘拐したのかは分からない。
だが、ゲームのシナリオがこのゲームを改変した黒幕とやら作った物からかなり変化が加わった為、どこかに異常が出てきてもおかしくはないのだ。
そもそも早くに事件が起きるという現象は半田 雅人の件で分かっていたはずだ。
かと言っても、白昼堂々人の往来が多い場所で誘拐をやらかすなんて思いはしないだろう。
分かっていても、こんなところまで予想できるわけがない。
「くそがぁああ!! 早く警察来いよぉおお!!!」
そんな事をしていると、人通りが少ない通りまで来てしまう。
目撃者は少ない。
何かあっても誰も助けてくれないのではないかという恐怖が襲ってくる。
やがて、ワンボックスカーは一つの薄汚いビルの前に停まると、ガッと、後部ドアを開く。
「ウギョギョギョギョギョ」
すると、奇妙な鳴き声とともに、誘拐犯の一人と思わしき人物が出てきた。
「死ねぇい!」
俺はもう出てくる敵は所詮ゲームのキャラと認識した為、迷い無く乗ってきたスクーターでぶつかる。
「ギョギャ!?」
「ほげぇ」
勢い余って俺も転んでしまった。
それでも巫女さんからもらったお守りのお陰で大して痛くはない。
スクーターの方はガチャン! と派手な音を立てて転がっていく。
どこかのパーツか破片が飛んで行くのが見える。
一瞬庄平の顔が頭に浮かんだが、直ぐに消えた。
「た、助けて下サーイ! ヘルプミー!」
奇妙なイントネーションの日本語が聞こえた。
声の主は車の中から連れ出されたフリュードさんだ。
反対側の扉からビルの中へ連れ込まれる。
「させるかぁあ!!」
俺はスクーターを起こしてビルの中へ突入する。
ガシャアアアアアン!!!
「ひぇぇぇぇ」
派手にガラス扉をぶち破り、俺はその衝撃で悲鳴を上げてしまう。
だが、痛くはない!!
「フンヌゥウ!!!」
すると、掛け声とともに、誘拐犯の一人が受付の机を投げてきた。
「おわぁ!?」
俺は横に倒れてそれを避け、スクーターはそのまま机を投げた誘拐犯にぶつかり、そのままスピンをしてフリュードさんを捕まえているもう一人の誘拐犯に運良く当たる。
「うひゃぁ!」
フリュードさんも悲鳴を上げて一緒に倒れてしまうが、それほど強く床に叩きつけられていない。
「フリュードさん!」
俺はフリュードさんの体を起こし、三人の誘拐犯から逃げようとした。
だが、
「クリョリョリョリョリョ」
「フンシュゥゥゥゥゥ」
扉のところに最初にスクーターで轢いた誘拐犯が居た。そして机を投げてきた誘拐犯が起き上がる。
「ヒエェェ。エスケープするのデース」
と、何を思ったかフリュードさんはエレベーターのところに走っていってしまった。
俺も後に続き、エレベータに入る。
「上に逃げたって仕方が無いぞ!」
「そんな事を言っている場合じゃないデース」
まぁ、確かに入り口は誘拐犯達によってふさがれているけどさぁ。
そして、映画のワンシーンのように扉が閉まるのを妨害されたわけではなく、俺達は上の階まで上がっていく。
全部で10階程ある建物だが、途中の5階で降りた。
ここから非常階段を使って下の階へ降りればいいと考えたのだ。
非常階段の場所は分からないけどな!
「ふえぇぇぇぇ」
フリュードさんは泣き始めてしまった。
「どうどう。静かに、静かにね?」
俺は優しくなだめると、フリュードさんは首をカクカク振って頷いた。
「よし。こっちだ」
とりあえず、当てずっぽうにはなるが、前へ進んでいこう。
エレベーターから降りて音を立てずに歩いていったが、
「ちょっと待った」
小声で制止をかける俺。
「ドーシましター?」
キョトンといた顔をして首を傾げるフリュードさん。
「シーーーー」
俺は壁際からアレだよアレ。と、指を差す。
「ゴモモモモ? ゴモモモモ?」
なんと、奴等の仲間がフロア内を徘徊をしていた。
どうやって判断したか?
口調だよ!
もう人語話してないからわかりやすいよねー。
「ひぇぇ……」
フリュードさんはもう顔が真っ青だ。
やがて、誘拐犯の一味が通り過ぎていったのを確認し、こっそりこっそりと、進んでいく俺達。
早く非常階段のところにたどり着け! 無かったら恨むからな!
などと、誰に対しての恨みかは分からないが、そんな事を思っていると、
ファンファンファンファンファン。
なんと、警察車輌が到着した。
おぉぉ! やっと来たか!
キキー、キキー。
と、ブレーキ音が幾つも聞こえてくる。
パトカーの台数がそれだけ多い証拠だ。
「「「「「ブモォオオオオオオオオオオオオ」」」」」
すると、突如俺達が居るフロアの誘拐犯の一味が雄たけびを上げた。
俺達は慌ててフロアの机の下へと隠れる。
直後、
「「「ブンルブンルゥゥゥウウ!!!」」」
一斉に誘拐犯達はどこかに行ってしまった。
俺とフリュードさんは恐る恐る首を物陰から出して周囲をうかがうと、何処にも奴等の姿が無かった。
「もしかして、下のポリス達のところへ行ったかもデース」
と、フリュードさんは予想したが、俺も全く同じ予想だ。
そして俺達は外を見てみると、パトカーが10台停まっている姿が確認でき、警察の姿もあった。
これで助かる。そう思っていたのはフリュードさんも同じらしく、フリュードさんは窓を開けて身を乗り出そうとした。自分の存在を警察達にアピールしようとしているのだろうか?
その時、
「と、止まれぇーーーーー」
という声が下から聞こえ、
パンパンパン!!
銃声が聞こえてきた。
「ひゃうぅ!?」
フリュードさんは慌てて窓から顔を隠し、身を屈めた。
だが、俺は見てしまった。
パトカーが誘拐犯の一人に持ち上げられ、別のパトカーにぶつけられたところを。
ズドォオオン!!
と、重い音が下から響く。
「これはヤバイって! ヤバイヤバイ!」
敵はいよいよ人間を辞めたらしい。
下からは銃声が絶え間なく聞こえてくるが、同時に誰のものかわからない悲鳴も聞こえてくる。
それでも尚増援のパトカーが続々と到着し、犯人達と警察が戦闘を繰り広げていた。
ズダダダダダ、ズダダダダダダダダダ!
なんか警察が持っている拳銃じゃないような音が聞こえてくる。
まさかあの化け物共、マシンガンなんて持っているんじゃないだろうな。
「どうすればいいんだ!?」
「どうシヨウ、どうシヨウ!」
俺もフリュードさんもパニック状態だ。
この状態で下の階になんて降りれない。
下手すりゃ流れ弾が当たる可能性だってある。
「ブリュリュ?」
「え?」
そんな時である。
目を血走らせたおっさんが、廊下側から頭を出した。
俺達は物陰から外を見るために身を晒していた為、完全にそのおっさんと目が合ってしまう。
――――――――――見つかった。




