第4話 豊森奈菜を救うには
さて、どうするか。
まずは時系列を整理してみよう。
主人公がいなくなった今、別件で起きる事件の順番は、
1.豊森 奈菜:先生
2.光明院 桜:生徒会長
3.坂江 由梨:剣道女子
4.野和 彩香:委員長
5.長友 理音:後輩で国会議員の娘
6.イリス=フリュード:海外からの転校生
という順番だ。
もう一人のヒロイン、
★三田川 麗子:いじめられっ子
に、ついてだが、彼女はちょっと特殊であり、解決できるのであればいつでも良い存在だ。
ただし、解決が遅れれば遅れる程、三田川 麗子の心は壊れていってしまう。
まず、一番早く問題が起きるのは数学教師の豊森 奈菜先生である。
ゲーム内では確か明日か明後日に豊森先生は被害に遭うはずだ。
つまり今、事件解決に俺が動かなくてはいけないのは彼女の件だろう。
主人公が警察沙汰になり捕まった影響で、この後の展開に変化があるかもしれないけどね。
それでは豊森先生の事件についてまとめよう。
彼女はこの学校に勤める教師、『羽間』に度々セクハラを受けていた。
最初は軽いものだったらしいが、最近は特に酷いとのこと。
周りにはバレないようにやっているので性質が悪い。
豊森先生が強く出る性格ではないと分かった途端始まった行為であり、やめるつもりも無いようなので大人しくこいつにも消えてもらいたい。
そうしなければ、最終的に豊森先生は羽間にナイフで脅され襲われるという悲劇になるからな。
さて、ではどうすればよいのだろうか?
原作では豊森先生は明日、自宅で羽間に襲われる。
時間帯的に人が少ないアパートでの犯行だ。鬼畜主人公は何処で手に入れた技術かは知らないが、前日に忍び込み盗撮用のカメラを仕込んでいた為気付いた。
なにげにあの鬼畜主人公万能過ぎだろう……。
そして豊森先生と羽間の両方を脅し、鬼畜主人公は豊森先生に襲い掛かった。
原作知識を参考にできるのは犯行の日時位だ。
鬼畜主人公のように鍵の掛かった部屋に侵入することはできないし、盗撮用のカメラを仕込めば犯罪になる。
俺ができることはなんだろうか?
警察を呼ぶ?
いやいや、まだ起きてない事件をどう説明すればいいんだ?
うぅん。
あ、その前に先生の家って何処よ?
それを調べないと話にならないじゃん……。
頭を悩ませていると時間はあっという間に過ぎ、放課後になってしまった。
あぁぁ、どうしよう。
とりあえず今日は……。豊森先生を尾行して家を突き止めよう。
そう決心し、帰るフリをする事にした。
「庄平!」
「ん? どうした駿」
俺は庄平に声をかける。
「悪い。先生に呼び出し喰らって今日の祝賀会行けなくなった」
「えぇぇ!? マジかよぉ」
「野和さんの件だからさ。また今度って事で」
「「「えぇぇぇぇ」」」
モブがうるさい。
俺は今それどころじゃねぇんだよ。
「先生に呼ばれてるなら仕方ねぇなぁ……。まぁそういう事なら今日は解散だな」
おっ、ナイスだ庄平。
「「「だなぁ~」」」
庄平のお陰でクラスの連中を説得する事ができた。
「ありがとな。んじゃ遅くなるから俺は一人で帰るよ」
そう言って俺は庄平+モブ達に謝りつつ帰るフリをした。
豊森先生が帰るまで、俺は教職員達が出入りする門の近くにある茂みで待機した。
人が隠れるにはちょうどいい茂みだ。
あとはここに先生が来るのを待つだけだな。
なかなかこない。
トイレに行きたい。
素早く行ってくるか……。
トイレから帰り、それとなく探っていると廊下を歩く豊森先生の姿を見つけた。
良かった。まだ帰ってないらしい。
俺は茂みに戻った。
暗くなってきた。
季節は確か5月下旬。
春は過ぎたとは言え寒い。
今何時だろう?
生徒達はとっくに帰ったはずだ。
そして暗くなってきたのでちょっとだけ怖い。
時間が更に経つ。
え? いつまで待たなきゃいけないの?
今何時だよ!
ちらほらと先生達は帰っているが、豊森先生の姿が無い。
クソゥ……。教師ってこんなに残業してるもんなのか!?
公務員って早く帰るイメージがあったぞ。
学校の先生って遅くまで残るのか? それともここがゲームの世界だから、俺のイメージと違うのか?
今何時?
お腹すいた。
あ!
ここでようやく豊森先生が職員玄関から出てきたのを発見する。
やったね!
だが、後ろには羽間が居るな。厄介な……。
「なぁ、ちょっと位話を聞いてもらってもいいだろ?」
「やめてください!いい加減にしてください!」
なにやら小声で言い争いをしているようだ。
「そんな事言って、本当は嬉しいんだろ?ぐふふ、明日は金曜日。ちょっと綺麗な眺めのホテルのレストランで食事をしようってだけじゃないか」
なんと、羽間は豊森先生をデートに誘っているらしい。
ゲームをやっていても思ったが、笑い方が気持ち悪いぞ。
「お断りします!」
豊森先生がそう言うと、
「なっ!! この僕の誘いを断るのか!」
と、羽間は怒りを露にする。
お前は断られて当然だと思う。
「そうです。もしこれ以上しつこくするなら教頭先生に報告しますよ!」
豊森先生はそう言って逃げるように去って行った。
……あれ? 結構強く意見を言えているじゃん! 豊森先生。
なんだよ。ゲームの説明にははっきりと断れなかったって書いてあったじゃないか!!
「……」
残された羽間は顔をゆがめながら過ぎ去っていく豊森先生を睨みつけ、
「明日覚えてろよ……。グチャグチャに犯してやるからよぉ」
と言い残し、校舎の中に戻っていった。
なんだろう。この学校は性犯罪者のたまり場なのかな?
そして、羽間が言ったことを信じれば明日豊森先生は襲われるのか。
俺はそんな事を思いつつ慌てて豊森先生の後を追った。
「み、見つけた」
豊森先生は学校から早足で過ぎ去っていったので、俺は危うく豊森先生を見失うところであった。
尾行に気付かれないように一定の距離を保ちながら歩かなければいけない。
尾行なんてしたことがない俺は、何度も見失いかけたのだ。
「あそこか……」
1軒のアパート。
俺はアパートの近くの電柱に身を潜めながら豊森先生が自宅へ入っていく姿を見る。
二階建てのそう古くも無く新しくも無い造りである。
近くには人気が無い少し広めの公園があり、待ち伏せができ、茂みに隠れることもできそうだ。
「2階の……あの部屋か」
俺もやってる事がストーカーである。
俺は何やってんだろうなぁ……。この世界に来てからこんな事ばっかりだ……。
「さて、後は帰るか……」
「ねぇ、なにやってるの?」
「!?」
俺はいきなり後ろから声をかけられ驚いてしまう。
「な、なんで!?」
俺が後ろを向くと、
「なんで坂江さんが!?」
声をかけてきた人物は女子剣道部エース坂江さんであった。
この世界のヒロインの一人である。
坂江さんはジト目で俺の方を見ながら険しい表情をしている。
「尾野君もそういう人だったの?」
「え?」
言われて気付く。見られていたのか、と。
「い、いつから?」
「学校から。茂みに入っていく尾野君を見てね。何かなぁと思って見張ってたのよ。ほら、また狭くて暗い場所に入って休んでいるんじゃないかって」
「え? 結構時間経ったと思うんだけど、ずっと?」
「そう。部活は今日は休んだの。彩香のお見舞いに行こうと思ってね。で、尾野君を見張っていると豊森先生が出てきたタイミングで貴方も移動を開始したじゃない? それからは尾野君のストーカー行為を見張っていたってわけ」
あぁぁ。尾行を尾行されてたぁぁ!!
「違うんだ! 話を聞いてくれ!!」
「怪しい。尾野君、私はがっかりしているんだよ? 奈菜ちゃんは綺麗な人だからその気持ちは分からないでもないけど……」
奈菜ちゃん。豊森先生の下の名前である。
「違うんだ! 羽間先生との件で俺は尾行をしていたんだ!」
「ん?」
ここでようやく坂江さんが話を聞いてくれる様子になった。
「どうして羽間先生が出てくるの?」
「えっと、豊森先生が職員玄関から出てきたとき、一緒に羽間先生も出てきただろ?」
「そうだね」
「その時の会話聞いてない?」
「結構離れたところにいたからなぁ。聞こえなかったけど」
やっぱり。豊森先生達小声で話していたからなぁ。
聞こえていたならば俺を危険なストーカー扱いはしな……くもないか。
「歩きながら話そう……」
「分かった」
俺はそのまま帰り道で事情を話すことにした。
そうして歩きながら説明を終えると、
「と、いう事は何? 尾野君はまた危険な事に首を突っ込もうとしているの?」
「いや、まぁ、結果的にはそういう事になるかもしれないけど、羽間先生のあの発言は異常だったからさ……」
「だからって……」
坂江さんは呆れてしまっている。
「でも、隠れて見張ってたって事は事情を把握してたって事だよね?いつから?」
「ん? 今日の昼休みだよ。昼休みに俺は五和先生と豊森先生に野和さんの件で話を聞かれてたんだ。その時に羽間先生が来てさ。明らかに豊森先生の様子がおかしくなってね。だから気になったんだ」
「……尾野君って観察力あるのか無いのか分からないね」
そんな発言をされてしまった。
「尾野君はさ、明日何もなければこんな事毎日続けるの?」
「分からない……」
「「……」」
もし原作でいうところのストーリーが変わった事で、明日事件が起きない可能性もある。
「「……」」
会話が止まり、ただ歩くだけになる。
「あ、今何時かわかる?携帯電話、まだ警察の人が持っていてさ」
堪らず俺は坂江さんにそう質問をした。
「えっと、8時20分ね……。どうしよう今から紗香の所に行こうかな」
「そうなの? じゃぁ、俺は帰ろうかなぁ」
「一緒にお見舞い行く?」
驚いた事にそんな提案を坂江さんから受けた。
「ちょっと待って。さっきまでストーカーじゃないかって疑ってたじゃないか!? そんな奴を女の子の家に案内するのか?」
俺がそう言うと、
「いやいや、貴方達は幼馴染でしょ? 昔は何度も来てたって紗香から聞いたわよ?」
と、不思議そうに坂江さんは言ってきた。
初耳である。
え? 俺アルバム見てたけど気付かなかった……。いや、全員分確認したわけじゃないけどさ。
もしかして、野和さんの電話番号がスマホの中に入っているのか?
ゲームキャラの電話番号が入っているってすごい事だなぁ。
「あぁ、そうだけど。それを知ってるとは思わなくてさ」
「いやいや、知ってるから。ってか尾野君も居る前でその話した気がするんだけど」
「過ぎた事は気にしないとして、さぁ、野和さんのところに行くとしよう!」
「はぁ……。まぁいっか」
こうして俺は委員長の野和 紗香の家へと向かった。
野和さんの家まで行く道は坂江さんに案内を頼んだ。
不思議そうな顔をされたが、豊森先生の家の付近には来た事がなかったので、この場所から野和さんの家まで行くルートがわからない。とだけ伝えておいた。
坂江さんの後を少しはなれて歩く。
今日は女性の後を付いていってばかりだな。なんてくだらないことを考えていた。
「さてと……」
坂江さんは1軒の立派な家の前でインターフォンを鳴らした。
あぁ、この家見覚えあるわ。
ゲーム内で見た。
どうやら野和さんの家に着いたらしい。
ところでここは何処でしょう?
俺の家の近くか分からない。
「あ、由梨! っと、駿君!?」
ゲームの美少女キャラに声付きで自分の下の名前を呼ばれました。
ちょっと感激。
「やあ。調子はどう?」
俺は感動して顔が緩むのを押さえながら片手を上げて挨拶をする。
「う、うん。大丈夫。えっと、上がってく?」
「上がる~」
由梨が率先して野和さんの家に入っていった為、俺も後に続く。
家の中はやはりゲームで見た間取りと一緒であった。
って事は野和さんの部屋は2階か……。
俺達は1階のリビングに案内された。
すると、
「駿君じゃないか!それに由梨ちゃんも」
と、知らないおじさんが出迎えてくれた。
多分野和さんのお父さんだろう。
「あ、お久しぶりです」
俺は直ぐに頭を切り替え、演技をする事にした。
「まぁ、駿君と由梨ちゃん、いらっしゃい!」
台所の方からおばさんが出てきた。
こっちは野和さんのお母さんだろう。
「由梨ちゃん、駿君。昨日は娘を救ってくれてありがとう!!」
おじさんは俺と坂江さんの手を取りブンブンと振り、涙を浮かべながら礼をしてきた。
「いえいえ、私は変態に一撃与えただけです。尾野君が皆に知らせてくれなければどうなっていたか」
と、坂江さんはそう言っていた。
「俺は偶々あそこに居ただけですから……」
俺も謙虚さを出しながらそう言うと、
「駿君昔から狭くて暗いところが好きだったもんね」
と、おばさんは笑っていた。
なんだその情報。
俺はそんなキャラ設定なのか!?
「そういえば昔、紗香や真希ちゃんと一緒に家の中で隠れんぼしていた時に、押し入れに2時間以上も入ってたっけ」
え? おじさんも俺のキャラ設定勝手に付け加えないで!
俺2時間も一人でずっと押し入れの中にいたのかよ。
「本当に二人ともありがとう。明日は皆にもお礼を言わなきゃ」
と、元気そうに宣言をする野和さん。
「って、明日から大丈夫なのか?」
俺は心配して聞いてみる。
昨日あれだけ酷い目に遭って一日休んだだけで立ち直ることができるのだろうか?
「うん。大丈夫! 明日は由梨と一緒に登校するし」
そうなのか。なら安心かな?
一応坂江さんはゲーム内の強キャラだったはずだし。
「わかった。あんまり無理するなよ」
と、釘を刺しておく。
ゲーム内での野和さんは主人公に散々弄ばれ、自身の感情を失わせて壊れたように笑う存在になってしまっていた。
「大丈夫だよ。ありがとう」
そう言って野和さんは微笑む。
守りたいな。この笑顔。
この後、散々野和さんの両親にお礼を言われ、帰ることとなった。
野和さんの家を出てから坂江さんは野和さんの父親が車で送る事になり、俺は歩いて帰ることになった。
「それじゃあなぁ~」
なんて手を振って俺は野和さんの家を出る。
野和さんが元気そうで良かった。
そう思いつつ、
「さて、ここは何処でしょう?」
自宅への道を探すはめになり、しばらくさまよう事になった。
結局帰宅したのは9時15分というかなり遅い時間だった。
両親に怒られたが、野和さんの家に行ったと言ったら納得していた。
「聞いたぞ。お前、紗香ちゃんがその転校生に昨日襲われた生徒だったんだな。今日、野和さんの所のお父さんからお礼の電話をもらってびっくりしたぞ」
と、父親に言われる。
あれ? 言ってなかったっけ。
あぁ、言ってないや。だって野和さんが幼馴染だなんて知らなかったんだもん。
「兄貴! 紗香姉ちゃん助けてくれたってなんで言わなかったんだよぉ!」
妹の真希が怒っている。
「いや、男子生徒にいくら服だけ破られたとはいえ、襲われた話を言えるわけがないだろぅ……」
俺が適当にそう言うと、不満ながらも真希は納得したようだった。
そして俺は野和さんが心配だったからお見舞いに行っていたと言うと、それ以上怒られることはなかった。
軽く注意を受けた位だ。
俺の精神年齢は24歳なので、夜遅くなったからといって怒られるのはなんとも不思議な感じだ。学生時代もこんな感じだっただろうか。
「そういえば警察の方から電話があったわよ。確か佐々木さんって人から」
と、母に教えてもらった。
ん? なんだろう。
事情聴取とかかな?
「帰ってきたら電話ほしいって言ってたけど、もう遅いかしら? はい、これ。電話番号」
そう言って渡されたのは固定電話の番号だった。
この番号は警察署の番号だろうか?
「わかった。ちょっと電話してみる」
そう言って電話かけに、電話機がある廊下へ向かった。
ピッポッピポパ。トゥルルルルルル、トゥ。ガチャッ。
コール音から直ぐに男の声が聞こえ、警察署だと名乗った。
警察署に電話をするなんてことは初めてだったので、少し緊張しながら、俺は佐々木さんに繋いでもらうように依頼すると、保留音が流れる。
「<はい、佐々木です>」
昨日聞いた声だ。
よかった。まだ居たみたいだ。
「あ、尾野 駿です。電話を頂いていたようですみません」
そう切り出すと、
「<あぁ!尾野君か。連絡ありがとう。結構遅い時間だけどバイトかな?>」
と、探りを入れられる。
ここは正直に答えておいた方がいいだろう。
「いえ、野和さんの家にお見舞いに行ってました。今日学校を休んでいましたし、自分は幼馴染なので……」
「<そうだったのか。ははっ、尾野君も隅に置けないねぇ>」
いきなり何を言っているんだこいつは?頭の中がピンクなのか?と、思ったが時間の無駄なので本題を話してもらうことにする。
「あのぉ、何かありましたでしょうか?事情聴取とかだったらそちらにお伺いした方がいいとかですか?」
と、質問をする。
「<あ、いや。証拠の動画はコピーできたから、携帯電話を返そうかと思ってね。明日いい時間はないかな?>」
おぉ。ようやくスマホが返ってくるのか。
って、証拠品ってそんなに早く返ってくるものなのか?
今回重要なのは動画だけだから?
いやいや、そんなはずはないだろうけど……。
俺は所詮ゲーム内の出来事だからと無理矢理納得し、ある事を思いついた。
「あ、そうだ。それならばちょっとお願いしたい事があるんですけど―――――」
俺はそう言って佐々木刑事にあるお願いをした。
明日から不定期に連載を致します。
次の話は3日後になると思います。




