第36話 戦う議員
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―片仲 周蔵視点―
ワシ片仲 周蔵は、今後の計画についてまとめていた。
「なんとしても『これは全て秘書の責任だ』という言い訳で逃げられないようにしなくてはな」
「はい。私に全ての責任を押し付けられてしまっては堪ったものではありませんからね」
ワシとそんな会話をしているのは長友議員の秘書。
「あいつの娘の誘拐すれば、そんな事も言い出しはしないか……。ふふふ、しかし全てが終わった後ただ返すのでは勿体無い。少々楽しませてもらおうかのぉ」
「えぇ、あの娘。なかなかの逸材ですからねぇ」
この長友の秘書とやらは、長友の娘の事になると、興奮して目の色を変えおる。
どうやらああいう少し発育が遅れている娘が好みのようだ。
度し難い変態め。
「しかし、本当に理音を誘拐できるのですか? 学校側も最近の事件で警戒が強いらしいですし」
此奴があの長友が一番信頼している秘書とはなぁ。
あいつも哀れな奴よ……。
「そう心配せんでも、ワシの部下達が誘拐計画をきちんと立てておるわい」
「それはそれは。本当に片仲先生には感謝しかありませんよ」
などと、計画について話を進めていると、
「大変です! 大変です! 親ビン大変ですぅ!」
と、慌てた様子の汚れ仕事を担当させていた部下の一人、ノッポの男が部屋にいきなり入ってきた。
「馬鹿野郎! 勝手に入ってくるなと何度言えば分かるんだ!」
ワシはそう声を荒げながらそう言うが、
「それどころじゃないんです! 警察が! 警察の奴等が!」
「何!?」
ワシは慌てて部屋を出た。
受付のところまで駆け足で向かう。
すると、複数の警察官が事務所の入り口で部下ともめていた。
「はぁ……」
ワシは溜息を吐きつつ、警官共のところへ行き、揉め事にならないよう丁寧に対応することにした。
「これはこれは。何の騒ぎですかな? いくら警察の人間だと言っても、このような騒ぎを起こすとはあまり褒められた行為ではありませんぞ?」
穏やかな表情でワシはそう言うと、
「申し訳ありません片仲議員。私、『佐々木』という者でして……」
と、その刑事は警察手帳をチラつかせ、
「実は片仲議員にお伺いしたいことがありまして……。例の長友議員の事なんですが……」
そう言ってきた。
ただの刑事が何の権限を持ってここに来ているんだ?
まぁいい。
対応位はしてやろう。
「長友議員? あぁ、あの賄賂疑惑で今騒がれている?」
しかし、なぜワシのところに来た? もしやワシが指示していた事だとバレたのか?
「実は、先ほど匿名であなたの事務所内で録音された声が届きましてね」
すると、佐々木という刑事はスマホを片手に音声を流し始めた。
「<はっはっは。これでようやく忌々しいあの長友議員を政界から追い出すことができるわ>」
「<えぇ、片仲議員の仰る通りで……。して、今回の報酬をいただきたいのですが>」
「<ふん、いいだろう。だが油断するなよ? ワシが長友を嵌めた事が露見しては元も子もないからな>」
「<えぇ、大丈夫でございます。証拠は全て破棄しましたので……>」
「<ならいいのだ。報酬の1000万はここに>」
「<おぉぉ、素晴らしい!ありがとうございます!>」
スマホの再生停止ボタンが押されてワシと長友の秘書の会話が止まった。
間違いない。ワシの声ではないか!
しかも、あの会話は昨日、長友の秘書としたもの。
「う、嘘だ!? 嘘だ嘘だ! そんなのデタラメだぁああ!!」
なぜ録音されていた!? 誰が録音していた!?
まさか長友の秘書がワシを嵌める為に!?
いや、そんなはずはない。
長友の娘の件に関してはあの秘書から依頼をしてきたのだ。
だから、奴は確実にワシとグルである。
それに、このタイミングで奴がこの情報を流しても意味がない。
まだ娘の誘拐が済んでも居ないのだからな。
「この件で少し署でお話を伺いたいのですが……」
などと、佐々木という刑事は言ってくる。
「ふ、ふざけるな! なんの権限があって!? そ、そうだ。仮にそれが本当だとしても不逮捕特権が――――!」
「ですから、この件が本当かどうか調べる必要がありますので、お話を聞きたいだけなのですよ」
「ぐぐぐ。このわからず屋の青二才がぁあああ!! 誰に向かって口を利いておるか!!」
こいつでは話にならない。
そもそもこんな会話が録音されていたとしたら、既にこの情報はマスコミにも行っている可能性がある。
そうなれば国民は長友議員ではなく、ワシを疑う。
警察をいくら丸め込もうとも……。
…………終わった。
ワシは終わったのか?
「ふははは。ふはははははは!!」
「片仲議員?」
佐々木という刑事が訝しげな目でこちらを見てくる。
そして、ワシの笑い声に反応して、佐々木刑事の隣にいた警官が近づいて来るではないか。
拘束でもする気か? いいだろう。
そちらがその気なら、ワシにも考えがある。
「そこをどけぇ!」
「ふぎゃっ」
警官を押し飛ばし、ワシは逃げる決心を固めた。
こうなれば国外逃亡だ!
この国の重要な情報は手に入れている。
それを餌にどこか別の国に亡命し、優雅な生活を送ってやる。
次にワシは佐々木という刑事を壁へと叩きつけ扉へと向かう。
「うわぁ!? そ、そいつを逃がすな!」
と、佐々木刑事は扉の近くにいた警官達に指示をするが、もう遅い。
ワシの本気を見せてやろう。
「死ぬがよい!」
ワシは扉の前に立ちふさがっていた警官に向け、思いっきり腹を殴りつける。
すると、その警官は腹を破裂され、上半身と下半身を泣き別れし、扉へと叩きつけられる。
フン。まだまだワシは若い者には負けんのじゃ!
「うっそ……」
と、後ろから佐々木という刑事の声が聞こえるが知った事か。
「「「うわぁぁぁぁああ!?」」」
後ろで長友の秘書と汚れ仕事を任せていた部下達が悲鳴を上げて、裏口へ逃げていく音が聞こえたが、気にはしない。
もはや、奴等は用済みだ。
警官達の目を分散させれば、ワシへの追っ手を少なくなるだろう。
そして、二つに分断された警官がぶつかったその勢いで扉は思いっきり開かれ、ワシも外へと飛び出した。
「んへ?」
そしてワシは外の光景を見て、一瞬固まってしまう。
「な……!? 警官が一人吹き飛ばされた!?」
「殺されたぞ!?」
パトカーと警官が大量に居た。
パトカーは数十台。警官は百人位居るんじゃないか!?
警官達はワシが殺して吹き飛ばした警官を見て驚いているようだ。
ダダダダダダダダダダダ。
ヘリコプターも来た。
ヘリからロープが下ろされ、特殊部隊の隊員っぽい奴等が降下してきている。
「大変です! 今、片仲議員が警官を一人殺傷し、飛び出してきました」
マスコミも来ている。
なんだ……これは。
なぜこうも人が多く集まっている!?
早すぎる。展開が早すぎるぞこれは!
いったいどうなっている!?
日本の警察がこれほどまでに早く、大規模に行動を起こすわけがないだろう!
「正当防衛!!」
と、警官の誰かが言った。
すると、
バンバン!!
ババババ! ババババ!!
次々とワシに向けて銃弾が放たれたではないか。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
体に次々と鉛弾が当たる。
こうも躊躇なく銃を撃てるというのか!?
国会議員であるこのワシに対して!
だが、…………甘い!
ワシはなぜか体の内から溢れ出る力を、この愚かな国の愚かな警官どもに使うことを決意した。
「効かぬ効かぬ! そんな豆鉄砲がこのワシに通じるとでも思うたか!」
ワシは飛んでくる銃弾の一部を次々と指で挟み、向きを逆転させる。
すると、銃弾は発砲した警官達へと戻って行った。
「ぎゃぁ!?」
「ぐわっ!」
自ら発射した銃弾により倒れる警官共。
ははは。いい気味じゃわい。
「ふんぬっ」
ワシは入口から飛び上がり、死んだ警官の前へと降り立つ。
拳銃を拾い、拳銃と警官を繋いでいた紐を引きちぎる。
両手に拳銃を持っている間、絶え間なく鉛弾が体に当たる。
「全く。効かぬと言うておろうに!」
ワシは周りに居た警官達に向け、奪った拳銃を発砲した。
一発一発確実に。
「ぐひゃぁ!」
「ぎえぇ!?」
「ふははは。いい声で鳴きおるわい」
銃弾が切れたので、ワシは殺した警官から再び銃を奪い取り、更なる攻撃を続ける。
ふん。素人どもめ。銃の扱い方がなっておらんぞ。
ワシが周りを囲んでいる警官達のような若い頃。そう、傭兵をしていた頃にはもっと――――。
「む? ワシはいつ傭兵なんてしておった?」
ワシは傭兵をしていた……? 町工場で働いていた……。和食料理店の板前をしていた――――。
記憶が混濁する。
「いかんな……。歳のせいだろうか?」
「回り込め!」
「A班! B班がやられたぁ!」
ワシが自身の記憶に混乱している中でも、警官達は右往左往しておる。
ふん。いい気味じゃ。
記憶の混濁は気になるが、今はこの戦いに集中しよう。
「こんなものかぁあああ―――――うごごごご!?」
ワシは余裕で逃げ切れると思った矢先、鋭い痛みを感じる。
「ぬお!?」
なんと、警官隊がアサルトライフルを手に持ち、撃ってきているではないか。
なるほど。先ほどヘリコプターから降りてきた特殊部隊か?
いや、他のほかにも普通の警官もアサルトライフルを手に持っておるな……。
最近の警官共は重武装をしておるようだ。
「ぬぅぅ。小癪な物を持よって……」
ワシは高く跳び、屋上へと回避しようとした。
が、上空を飛んでいたヘリコプターの中から同じくアサルトライフルにて鉛の雨を降らされ、思った以上に高く跳ぶ事はできなかった。
「ぬぅぅあめぇぇええるぬぁああああああああ!!!」
ワシはもう一度高く跳び、今度はヘリコプターの真正面へと空中移動をして回り込む。
「破ァ!!」
思いき入り蹴り飛ばすと、ヘリコプターは制御を失い、地面へと叩きつけられた。
「ふははは。ワシが何年柔道をやっていると思っておる!」
声高らかにワシは炎が上がる地上へと降り立つ。
この力を見れば、誰であろうと恐れ慄くはず。
これがワシを捕らえようとした愚か共の末路なのだ!
誰も逆らう事ができない。絶対的な強者とはワシのような者の事である!!
「で、あります」
「む――――?」
しかしその優越感に浸っていた僅かな間、ワシは突如隣に現れた制服姿の警官に対し、反応が遅れてしまった。
その警官は帽子のつばの影から表情を覗かせニヤリと笑い、片手で持ったショットガンをワシの顔に向けて放つ。
ドゴン!
と、重い音と共に、ワシは強い衝撃を受けた。
回避が遅れたワシはモロにそれを食らってしまい、かなり後ろへと吹き飛んでしまった。
「ぬぅぅ!?」
ワシが慌てて起き上がると、
ズダダダダダダダダダダ!!!
ズダダダダダダダダダダ!!!
ズダダダダダダダダダダ!!!
「グムォヲヲヲヲヲ!?」
一斉にアサルトライフルの銃弾がワシに向けて放たれた。
「グォォオオオオ!!」
こ、これでは身動きが取れん!?
どうする? どこへ逃げる?
ワシは腕で顔をガードし、隙間から周囲を見渡す。
「ぬぉ!?」
そしてワシは見てしまった。
アサルトライフルを撃っている警官隊とは別に、車の上からワシが昔傭兵時代に好んで使っていた武器を構えている警官を。
「RPGィイ! で、あります!」
車上にてRPGを構えていた警官が叫んだ。
あぁ、確かにあれはRPG-7だ。
その弾頭がワシの目前へと迫ってくる。
流石のワシでもアレはどうにもならんな…………。
そんな事を思っていると、強い光と衝撃と共にワシの意識はそこで途絶えた。
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