第30話 潜入する為の作戦
自室へと戻った俺の心境は嵐のようだった。
どうしてあんなお嬢様がこんな一般庶民の家に上がりこんでいる?
俺はふとそう思ったが、考えても見れば一般庶民が居るような学校に通っている人物だ。別にこの家のような一般家庭の友人を長友さんにいたとしても不思議ではないんじゃないか?
しかし、妹の友人だったとは……。
それにもっとキツイ性格じゃなかっただろうか?
「あなた。生ゴミのような匂いを放ってますわよ?」
とか、
「人生やり直したほうが良くって……いえ、何度生まれ変わっても無駄ですわね」
とか言ってくるキャラだった。
まぁ、友人の兄に対して……いや、普通の人に対して、高飛車どころの騒ぎじゃない性格を披露するなんてイカレてやがるからな。
あれは鬼畜主人公に対してだからこその対応だろう。
「ん? 待てよ……」
俺は重大な事を思い出す。
「確かゲームでは……」
長友 理音は尊敬している生徒会長『光明院 桜』が主人公に脅されているのではないかと察知し、学校の人気が無い場所で主人公を問い詰めた。
その際、主人公は長友さんと一緒に居た長友さんの友人を襲って気絶させた。
ストーリーでは確か長友さんの友人はなんの変哲も無い一般家庭であり、顔も他のヒロインと比べて見劣りしていた為、絵はあったが、目元は影で覆われ、口元しかはっきりとわからなかった。
文章ではそのような設定が書かれていたが、その後はただ単に襲われたという事実だけ。
これはこのゲームでは珍しいことだと思っていた。
胸糞は悪かったが、襲った女性の全てのシーンは細かく一枚絵が存在していた。
それなのに長友さんの友人に至ってはその他モブ達と同様の目元が影で覆われているという状態だったからだ。
一方長友さんは主人公の趣味の体型ではないが、お金持ちのお嬢様だった為、後々利用できると考えてしっかりと恐怖を味あわせ、脅していた。
「……もしかしてあのシーンの長友さんの友人って……真希なのか?」
しかし、あの鬼畜主人公。真希に向かって、「あんまり可愛くねぇな」って言ってたぞ。
どういう目をしているんだ? これは身内の目から来る贔屓ではないが……。いや、本来であれば血すら繋がってないのだが、尾野 真希という人物は可愛い部類に入る。
目が腐ってんのか?
いや、だとしたら俺から見ても美女だと思う存在ばかり狙っている事に対して説明がつかない。
わけがわからない。
「とにかくもう鬼畜主人公は居ないんだ。あいつの事を考えていても意味が無い」
そう思って頭を切り替えることにした。
さて、警察には長友議員と片仲クソ狸議員の事については通報をした。
だが佐々木刑事は上手くできるのだろうか?
もし上手くできず、片仲議員が賄賂を受け取ったと報道があった際はどうするか?
決まっている。俺が直接片仲議員の事務所へ忍び込み、ペラペラと自分の悪事を話すのを録音するだけだ。
ゲーム内でもそういうイベントがあったはずだ。
確かよく時代劇で見るような「おぬしも悪よのぉ~」的な流れだった。
ここら辺は鬼畜主人公とやり方は一緒だ。
片仲議員の事務所はネットで調べたので分かっている。
ゲームでは簡単にボイスレコーダーを設置することができた。
政界の古株で金を持ってるくせに、案外ボロイ事務所だった気がする。
地元の人達に妬まれないようにワザとそういう作りの建物を選んだのだろうか?
片仲議員の事務所は、地区は離れているがそう遠い場所ではない。
同じ県内出身の議員で助かった。
これで距離がかなり離れた他県だったらかなりキツイ仕事だぞ……。
ちなみに片仲議員が悪事を話したのは長友議員の秘書にだった。
この長友議員の秘書。実は片仲議員と裏で繋がっていたのだ。
秘書がワザと賄賂を受け取り、これを長友議員が自ら賄賂を受け取ったと嘘の証言をしたのだ。
長友議員は必死にそれは何かの間違いだ。賄賂があったとしたらそれは秘書が勝手にやったことだ。
と、弁明した。
だが、世間はそんな彼の言い分を信用してくれるだろうか?
結果、長友議員は責任を秘書に押し付けた卑怯者の議員として批判を受けることになった。
全て秘書のせいにするというのはよくある手として認識されてしまったのだろう。
実際は長友議員が言っていた通りだったんだけどな……。
しかし、ゲームでは鬼畜主人公が録音した音声を世間に公開したことにより、長友議員は助かり、それを知った理音は鬼畜主人公に逆らうことはなくなった。
実は秘書の件も含めて凸凹コンビが言っていたと佐々木刑事に言おうと思ったが、流石にゲームであの凸凹コンビが話してない内容まで伝えるのはおかしいよな……?
この件に関してはきっと俺にも事件解決後、詳しい事情聴取があるはずだ。
その時に実際にあった内容と齟齬があってはいけない。
ってかその前に実際にあの凸凹コンビは、ゲームと同様の行動と台詞を話していたのだろうか?
ちょっと心配になってきたな。
うぅん。そこら辺考え出すと限がないから止めておこう。
なるようになれぇ!
…………。
あ、事務所の会話を録音するにしても、録音する機械買ってこないと……。
俺はそう思って財布を取り出し電気屋へ行こうと準備を始める。
金は足りているだろうか?
「……うそぉん」
おいおい、5万円も入っているじゃねぇか!
高校生の癖に生意気だぞ。
俺なんて高校生の時に普段からこんなに持ち歩くことなんて……。
ってこれ持ってるの俺か。
元の世界に帰る際にこのお金持って行けないかなぁ……。
そんな事を思っていると、
ピンポーン。
家のチャイムが鳴った。
今度はなんだ?
俺は慌てて部屋を出る。
「あ、お前はいいぞ、部屋で長友さんと遊んでなさい」
いつの間にか二階へ上がっていた真希も自分の部屋から出てきたが、俺はそれを止め、俺が出てくるからと言って部屋に戻した。
今日は両親が家に居なかった為、俺は慌てて1階に降り、玄関で確認をする。
「はいはい、どちら様ですか?」
直ぐに返事があった。
「私よ。坂江 由梨です」
わーお……。
扉を開けると当然坂江さんがそこに居た。
「……」
それともう一人。
気まずそうに視線を合わせない中学生くらいの男の子が一人。
服装は特攻服から普通の服装になっている坂江 由梨の弟、坂江 洋太がそこに居た。
「やぁ、……えっと。こんにちは」
「こんにちは」
俺がぎこちない挨拶をすると、凛とした態度で挨拶を返す坂江さん。
「うっす……」
次に洋太がわき腹を坂江さんに突かれて挨拶をする。
昨日あんなことがあったばかりなので、お互い目を合わせ辛い。
どうしようか。この空気。
そんな最悪な空気の中、坂江さんは何も気にすることは無く、
「紗香に住所を聞いたの。今、家に一人?」
と、聞いてきた。
あぁ、この家の場所がわかったのは野和さんが教えたからか。
「いや、今妹と妹の友達が来ている」
俺がそう答えると、
「そう。来客中か……。なら、近くの公園で話さない?」
と、誘われた。
「……わかった」
俺は素直に頷いた。
何の話だろうか。
昨日の件で弟に怪我をさせたから慰謝料でも払えと言ってくるのだろうか?
「ここで良いかな」
坂江さんはそう言って公園のベンチに腰掛ける。
俺はその隣に人一人分のスペースを空けて座る。
何故か弟君は立ったままだ。
午後になり、暖かくなってきている。
いい昼寝日和だ。
このまま昼寝をしては駄目だろうか?
駄目だろうな……。
「昨日の事……」
坂江さんが話を始めた。
「お礼は言っておきたかったの。弟を犯罪者にしないでくれてありがとう」
そう言って身をこちらに向け、頭を下げてきた。
「いいよ、別に。当然の事をしたまでだよ」
なんだ。お礼だったか。
確かにこんな事が妹の耳に入れば、「また危ないことをしたのか!」と罵倒されてしまう。
本物の妹であれば聞き流したりできるのかもしれないが、他人に遠慮なく言われてしまうと流石に心が砕けてしまいそうだ。
「それじゃぁ、次に―――」
おっと。まだ何かあるのか?
「尾野君。貴方は一体後どれだけ自分を犠牲にして他の人を守ろうとするの?」
「えっ?」
お? なんだなんだ? 文句か?
「助けてもらった私達一家が言えるような立場じゃない事は十分理解している。だけど貴方を想う彩香の事も考えてほしいの」
「それは……」
ちょっと待て。彩香が俺の事を想っている?
それ、坂江さんがバラしちゃってもいい事だったの??
そりゃぁ野和さんはゲームのヒロインに抜擢される位だから可愛いけど、言い方は悪いが所詮はゲームの世界の住人。現実世界では故人なんだろ?
幼馴染のヒロインに恋心を抱かれるこの世界の尾野 駿は恵まれた存在なんだろうが、しかし生憎俺はこの世界の住人ではない。この世界に来て初っ端は浮かれていたけど。
本当の事を言えないしなぁ。下手に否定すると坂江さんが俺に対し敵対感情を持ってしまう可能性が高い。
それならば俺は別の言い分で坂江さんを納得させよう。
「確かに俺が傷つけば俺を慕ってくれる人は悲しむ。野和さんを含めてな。だけど、今回の件でもし俺の介入が無かったら? 坂江さんは弟を止めることができたのか? 仮に止められなかったとしよう。その後、弟が捕まったとしたら、君は普段通り野和さんと笑って過ごすことができるか?」
「うっ……それは……」
「できないんじゃないかな? 警察に相談して止めてもらうにしても事件に関わった仲間として弟君はただではすまないだろうさ。なら誰に頼む? 頼むとなれば結局誰かがあの日、あの場で坂江さんの弟を止めることになるだろう。俺とは違うやり方かもしれないけど」
俺は今とんでもない暴論を言っているんとは思う。
だが、この場を乗りきりって早く次の行動に移りたい俺にとっては、適当な感じでも良い事を言っている風に話をしてこの話を切り上げたいのだ。
「……」
「何が言いたいかっていうと、十分危険性は理解しているつもりだよ。だけど……結果が良かったから言えるのかもしれないけど、俺が最近やって来た事を全て無視していたならば、沢山の人が不幸になったと思う」
「うん……わかった。ごめんなさい……。だけど、私は心配なの。貴方がいつか死ぬぐらい危険な目に遭うんじゃないかって。そんな事になったら私、彩香にどんな顔をして会ったら良いのか分からなくなる……」
よし。上手く誤魔化せたぞ!
「俺だって怖いさ。なんでこんなに事件になりそうな出来事を発見するのか。だから今後は大人しく警察に通報することにしたんだ。一応今までの事があるから通報すれば直ぐに動いてくれるからさ。
それでも助けられるのは知り合いやその身内のことに関してだけだろうけど……」
そう言って俺は洋太を見る。
「あっ……う……」
洋太は気まずそうにしている。
「大丈夫。君の場合は手足を切断してでも悪さをさせないようにする」
「えっ!?」
洋太が驚いた顔でこちらを見た。
「おお! それは心強い」
坂江さんも賛同している。
「女性を襲うような事をしそうになったら去勢だってしちゃおう!」
坂江さんはノリノリだ。
「ちょっと!?」
「うん、それは早めにしておいた方がいいと思うぞ?」
「あ、やっぱりそうかな?」
「しないから! 反省しているから!!」
洋太は必死に姉を説得しようとしている。
うん。強い姉になったようで、これならばもう心配は要らないと思う。
ゲーム内の設定だが、何故洋太は暴走してしまったのかは理解している。
洋太の父親。坂江さんの父親でもあるのだが、彼は結構自分の子供に対して古い考えを持っていた人物で、長男は家を継ぐべき存在であり、勉強、武術その全てを子供達の中で一番にならなくてはいけない。
と、考えていた。
実際は姉である坂江さんの方が出来が良く、父親に褒められ続けた坂江さんはやる気が満ち溢れ、更に能力を上げていった。
一方弟は卑屈になり、いくら頑張っても超えられない姉とうるさく言う父、そして助けようともしてくれない母親を恨んだ。
坂江さんがその事に気付いた頃には時既に遅く、関係は修復できなかった。
弟を大切に思っていた坂江さんは、必要の無い罪の意識に苦しみ、負い目ができ強くいえなかったことがこの事件の発端だったのかもしれない。
その後、坂江姉弟と別れた俺は自宅に帰り、就寝となる時間になってある事に気が付いた。
ボイスレコーダー買ってねぇじゃん!!!
忘れてた!!
翌日。
ゲーム世界での生活12日目。
俺は今日こそボイスレコーダーを買う為に、昼少し前に電気店へ足を運ぶ。
途中新しいゲーム機に目を奪われたが、持って帰れるかわからない為泣く泣く諦めることにした。
そしてなるべく目立たない色のボイスレコーダーを購入。
後は充電をしっかりとしておき、事件が起きたらボイスレコーダーを設置するだけだな。
……。
だが、俺はゲーム通りにボイスレコーダーを事務所に設置するなんてことはできるのだろうか。
ゲーム内でそんな事をやり遂げたのは、無駄にスペックが高い鬼畜主人公だったが、俺は身体能力はどう見ても元の世界のままだ。
唯一違うところと言えば頑丈さだけだが……。
まぁいい。これはやらなくてはならないことだ。
覚悟を決めよう。
それはそうと、冤罪事件が起きる日はいつだったかな。
不良達の警察署襲撃事件からそう日付は経っていないはずだったけど。
そんな事を考えていると、
「お? 駿じゃねぇか! こんな所で会うとはなぁ~」
と、声を掛けられた。
「ん? あ、庄平か」
俺に声を掛けてきたのはクラスメイトであり、俺の友人設定の庄平だった。




