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第3話 まだ終わりじゃない


 俺はその後退院し、父が運転する車で自宅へ戻った。

 そうか。ここが俺の家か。

 道をしっかり覚えなくてはいけなかったので、車内では空返事ばかりだった。その為家族には少し心配された。


「しっかし、兄貴やるねぇ。同級生の女の子救ったんだって?」

 と、家に着くと妹がそう俺を称えてくれた。


「ボコボコにやられただけだけどな」


「へぇ、変な見栄張らないんだ。さっすが兄貴」


 何が流石なのかよく分からないが、妹の俺に対する好感度は高いのだろう。たぶん。


「でも、あんまり危険な事しないでよ?」


 と、ここで妹から注意された。


「そうだぞ駿」

「そうよぉ~」


 今度は両親二人からはお叱りを受けた。


 その後は夕飯や風呂などを終えた後、自室で今後の事を考えた。


 さて、俺はあのクソ主人公、『神命 成一』を倒すことに成功した。


 逮捕されているので、奴はもうしばらく俺達の前に姿を現さないだろう。


 ……ではなぜ俺は元の世界に戻ってない?


 他に条件があるのか?


 それともクソ主人公を倒すことは間違いだったのか?


 わからない。もしかしたらこのままこの世界に住み続けなくてはいけないのではないだろうか。


 おいおい。そんなのは嫌だぞ。


 だけど、元の世界に戻る方法なんてわからない。


 他に戻る条件があるのか?それとも死ねば元の世界に戻る?


 いやいや。死ぬのは無いだろう。死ぬのは。


 だが、このままオロオロとしながらこの世界で過ごしていくわけにはいかないな。


 とりあえず、今後の為にいろいろと調べよう。


 まずはアルバム。

 本棚を適当に探ると、何冊かのアルバムと卒業文集が出てきた。


 知らない連中と俺が楽しそうに写っているというのはなんか変な感覚だな。

 高校のクラス名簿なんて無いので、誰が誰だか分からない。

 分かるのは中学までのクラスメイト達だ。

 中学までの同級生なら、卒業アルバムの顔写真の下に名前が書かれているからな。


 ……あ、一人見覚えがある奴が中学のアルバム内に居た! 放課後、俺に一緒に帰ろうと声をかけてきた奴だ!

 名前は『盛田もりた 庄平しょうへい』というのか……。


 その後、部屋にあったパソコンで現在地と学校への道を確認した。

 パスワードがないとかセキュリティーの意識が低すぎるな。だが助かる。


 そして残った時間は何故俺があの場に居たか言い訳を考えることにする。

 刑事に言った内容をそのまま他の連中に伝えれば、俺はただの変態に成り下がってしまう。

 ならば超能力で、俺はあの事件が起きることを知っていた。と言ってみてはどうか?

 当然変な奴と思われるだけだ。

 どうしよう。いい言い訳が思いつかない。




 結局その後は苦しい言い訳を思いついただけであった。








 翌日。


 チュンチュンという雀の鳴き声で目が覚め、うがいと洗顔を済ませてリビングへと移動する。

 既に朝食が用意されており、この世界の両親と妹は朝食を食べていた。


「おぉ、おはよう。体の調子はどうだ?」


 と、父親が俺を案じてそう聞いてきてくれた。


「おはよう。大丈夫だよ。もう痛みはすっかりない」

 あれだけの痛みがあったならばもう少し長引きそうであったが、本当に痛みがもう無い。いや、若干ある程度だ。


「それはよかった」

 こうして朝食を食べ終えた後学校へ行く準備をし、家を出る。


 チュチュチュチュン。と、一心不乱に家の庭をくちばしで突いている雀に少し可愛らしさを感じていると、背中を妹に押されてホンワカとした時間は終了した。








 学校へ着くと、


「よぉ! 英雄君。おっはよう!」


 と、声をかけてきたのは盛田 庄平。小中の卒業アルバムを調べた結果、幼馴染という事が分かった人物である。


「あぁ、おはよう。昨日はありがとな。庄平も駆けつけてくれたんだろ?」

 チラッと見えた気がするからお礼を言っておいた。

 後、呼び名もチェックしておいた。下の名前で呼んでいたのだろうか?それともあだ名だっただろうか。

 真面目なトーンで話した為、あだ名じゃなくても不自然ではないだろう。


「おう、いいって事よ。あの後気絶したお前を運んだのは俺なんだぜ?」


「ははっ、そいつはどうも……。って、今日野和さんは?」

 すると庄平は少し不思議そうな顔をした。

 あれ? 何か間違えたか?

 野和さんの呼び名? もしかして普段は委員長って呼んでいたとか?


「ん? あぁ、休むらしい。やっぱ昨日の今日で出てこれないだろうな」


「まぁ、そうだよなぁ」

 未遂とは言え、心に傷は付いてしまったか……。


「ところで、いつ目が覚めたんだ?俺のメッセージ既読になってなかったけど」

 SNSのメッセージのことだろう。

 送った相手がメッセージを読めば『既読』というコメントが自動的に付く仕組みになっている。現実世界にもあるからどういうものかも直ぐに理解することができた。


「あぁ、悪い。警察に証拠品として持ってかれた。いつ返ってくるか分からん」

 俺がそう答えると、


「そういや野和さんがそんな事言ってたっけなぁ。駿があいつを騙す為に動画撮影してたって。って、お前のスマホの中に野和さんの下着姿の映像が!?」

 庄平が興奮し始めたので頭をはたく。


「お前。それ絶対に野和さんの前で言うなよ? ちゃんと警察の人に処理してもらう予定なんだから」

 詳しくは知らないが、消すなりなんなりしてもらえるだろう。


「へいへーい」

 庄平は不服そうに口を尖らせながら返事をした。


「ところで、なんで昨日お前あんな所に居たんだ?」


 きたか!!!


 俺が厄介に思っていた質問だ。

 教室中をみると気のせいかもしれないが殆どの奴等が俺の回答を待っている気がした。だって結構な人数が俺の方を見るもん。


「あ、あぁ。昨日俺倒れただろ?」


「ん? 転校生に殴られてか?」


「違う違う。体育の授業でだよ」


「そういえばそうだったな。ってお前1日に2回倒れたことになるのか」


「まぁ、そうだけどさ。んで、まだ体調良くなかったんよ」


「確かにそう言って帰ったなぁ」


「でも、我慢できなくなってさ。どこか休める場所がないかって探したわけ。保健室だとまた迷惑かけちゃいそうでさ。どこか人目がない場所で横になろうとしたんだよ」


「それが外の倉庫と?」


「あぁ、あそこっていろいろと体育で使うもの置いてあるじゃん? マットでもあればいいな~って思ったけど無かったんだよ。で、もう我慢できなくなって仕方が無いから人目が付かない跳び箱の中に入って回復するのを待ってたってわけだ」

 やっぱりちょっとこの言い訳は苦しいか?


「猫かお前は!! ってか馬鹿か!?」


 肩にツッコミのパンチが入る。痛い。


「お前なぁ、それでコロって逝っちゃったら、しばらく発見されないかも知れねぇんだぞ?」


「悪かったよ。動画を撮ってたのはあんな所に入ってきた連中が不良とかだったら、何か悪い事をしているんじゃないかと思って証拠になるように撮影していたんだ……」

 どうやら信じてくれたようなので、それっぽい理由を追加する。


「馬鹿め!!」


 二発目のパンチを喰らう。痛い。


「まぁまぁ、その辺で許してあげなよ盛田君」


 と、ここで救いの手が差し伸べられた。


「あ。坂江さん」


 庄平が三発目の手を止めて声が発せられた方向を見る。

 俺への暴行を止めてくれたのは、昨日鬼畜主人公に止めを刺した剣道部のエース坂江 由梨だった。


「尾野君も病み上がりなんだからさ」

 そう坂江さんが言うと庄平は渋々手を下げた。


「それはそうと、昨日はありがとね尾野君。尾野君のお陰で最悪な事にならずに済んだよ!」

 明るい笑顔で坂江さんはそう俺に礼を言ってくる。


「いや、礼ならこっちも言いたいよ。ってか、よく俺の連絡に気付いたね? 部活中だったんじゃないの?」

 部活中にスマホなんて見られないだろうに。と思いながら質問をした。


「あぁ、それなら『ノリっち』が剣道部の道場の近くに居てさ。慌てて飛び込んできて教えてくれたの」


 坂江さんがそう言うと、ノリっちらしき人物が手を振ってアピールしている。彼女は帰宅部だったのかな? そういや俺は何部なんだ?


「そうだったのか。ありがとね~!」

 そうノリっちさんに手を振って礼を言っておく。


「まぁ、今後も危ないことがあったら一人で突っ走るなよ?」

 と、庄平に釘を刺される。


「悪かったって。ただ、あの時は飛び出さないと間に合わないと思ったんだよ」


「そういう事なら……。はぁ、この話は終わりだ。今日はみんなで祝賀会に行くぞ!」


 なんだよ。祝賀会って。そんなに目出度いことか?


「「「おぉぉ!!」」」

 庄平がそう言うとクラスの男子生徒達から雄たけびが上がった。

 すると、教室の扉が開かれ、副担任の先生が入ってきた。

 彼女の名前は『豊森とよもり 奈菜なな』。年齢は確か24歳の数学教師だ。

 彼女もゲーム内のヒロインの一人であり、鬼畜主人公に酷い目に遭わされるストーリーが用意されているが、主人公が居なくなったことにより、その心配は無いだろう。


「はい、皆席に着いて!」


 と、クラス内の全員を席に着かせる。


「今日は五和ごか先生が別件で半日居ないから、代わりに私が出席を取りますね」


 そう豊森先生は言った後、出席を取り始める。

 ちなみに五和先生とは担任の先生の事だ。

 名前だけ存在しグラフィックが用意されていなかったモブキャラである。


 出席を取り終わった後、


「あ、そうだ。尾野君は昼休みに職員室に来て下さいね。ご飯食べた後でいいから」

 と、呼び出しを喰らってしまった。

 絶対に昨日の件だ。

 面倒ではあるが仕方が無いか。







 そして、時間は過ぎてお昼の時間。

 俺は庄平と教室で昼飯を食べた後、職員室へ向かった。

 まだ校内を把握し切れていない為、ちょっと時間がかかってしまう。


「失礼します! 豊森先生に用事があってきました!」

 ノックをした後そう言って職員室へ入る。


「待っていたわ尾野君」


 そう言って豊森先生は出迎えてくれた。


「おう、尾野。待ってたぞ!」


 次にそう言って近付いてきたのは、知らない男性教師であった。

 何処にでもいそうな。普通の男だ。


「それじゃぁ五和先生。場所を変えましょうか」


「あぁ、そうだな。尾野、付いて来てくれ」


 二人の教師はそう言って職員室を出る。

 そうか、あの男性教師は五和先生なのか。

 五和先生はゲーム内でも出てきた俺のクラスの担任の先生だ。

 ゲームでは目も入れられていないモブであった。


 俺は二人について行き、空き教室に通される。


「さて、昨日起きたことは覚えているな? 警察にも話したかもしれないが、俺達も詳しい状況を把握しておきたい。話せるか?」


 やはり昨日の件についてだった。


「はい、大丈夫ですよ」


 そう言って俺はあの倉庫に居た件の作り話も交え、主人公の悪事を話した。







「うん、馬鹿野郎」


 五和先生に軽く頭を叩かれた。

 理由は俺が皆に心配かけたくないからと倉庫で一人休んでいた件である。


「暗くて狭いところって落ち着きますよねぇ」

 なんて事を付け加えて話したから余計にお叱りを受けることになった。


「お前の今回のその行動で野和が助かったから叱らないでおくが、今後は注意するように」


 既に頭を叩かれ叱られたが、気にしないようにしておこう。


「はぁ、今日のところはこの位でいいか……。それじゃぁ―――」

 五和先生がそう言いかけたところで、


コンコンコン。


 と、扉をノックする音が聞こえた。


「五和先生、いいですか?」


 入ってきた人物は、現国の教師、『羽間はねま』だった。

 その人物を見た瞬間、俺は固まってしまう。


「あぁ、羽間先生。どうしました?」


「教育委員会から電話がきてますよ」


「そうでしたか。分かりました。尾野、また何かあれば聞く事があるかもしれないから。いいな?」


「は、はい!」


 そう上ずった声で返事をした。

 五和先生は俺の態度に不思議そうな顔をして部屋から出て行く、羽間は豊森先生をチラっと見た後、ニヤリと笑みを浮かべながら立ち去って行った。

 俺は慌てて豊森先生の方を見る。


「……」


 豊森先生は唇を噛み締め少々青い顔をしていた。


 その雰囲気を見て俺は気が付いてしまう。

 この世界。まだ事件は解決していない。という事に。


 どうしよう……。









 午後の授業は上の空だった。


 あの後俺は教室に戻り、授業を受けつつ冷静に状況を整理しようと、考えをまとめていた。


 この世界は俺が知っているクソゲー。『強襲転校生』の世界である。

 そして、様々な悪事を働く予定の主人公は昨日警察に捕まった『神命しんみょう 成一せいいち』。

 彼が捕まった事により、この世界で不幸になるヒロイン七人が救われた。




 ……。



 ……そう思っていた。





 実際は確かに主人公に襲われる事はなくなった。だが、このゲームはただ主人公がヒロイン達を襲っていくゲームではない。

 実はヒロイン達には主人公に襲われる以外に不幸なことが起きる予定、または起きているのだ。

 そして『強襲転校生』はヒロイン達に降りかかる問題を次々と解決していくというストーリーなのである。


 確かに鬼畜主人公というとんでもない存在は居なくなったが、他の問題は一切解決できていない。

 七人のヒロイン達は主人公が居なくなったことにより守りは無くなったのだ。


 拙い。拙すぎる。


 このままでは他のヒロイン達が不幸な目に遭ってしまう。


 ……そうか! もしかしてこれがこの世界。このゲームの世界をクリアする条件なのではないか!?


 よし。落ち着いてまとめてみよう。


野和のわ 彩香さやか

お世話を焼きたい系のおっとり女子。眼鏡をかけている。

髪は黒髪肩までの両サイド三つ編み。

2年B組でクラスメイト。

クソ主人公に体育館裏の倉庫で襲われそうになるが助かる。

事件内容:別件でストーカーに悩まされている。


坂江さかえ 由梨ゆり

元気ハツラツの剣道部エース。

髪は茶色。短めのポニーテール。

2年B組でクラスメイト。

委員長の友達。ゲーム内では鬼畜主人公から委員長を助けるべく一騎打ちを仕掛けるが、返り討ちに遭ってしまう。

クソ主人公は警察に捕まった為そのイベントは無くなったと考えていいだろう。

事件内容:街の不良グループに所属する弟を更生させようとしているが、主人公が介入しないと弟は警察に捕まってしまう。もしくは選択によって弟は死亡する。


光明院こうみょういん さくら

この清高学園の生徒会長。

髪は藍色。ロング。

学年は一つ上で3年。

ゲーム内ではクソ主人公が女の子を脅しているのではないかと勘付き、調査をしていたが、主人公にバレてしまい逆に襲われて脅される立場になってしまった。

事件内容:学校内の盗撮及び窃盗犯を探している。主人公が介入しなければ光明院 桜の盗撮動画が世間に出回ることになる。その結果警察が学校を調査し、主人公の罪も明るみに出てしまいBAD ENDになる。


豊森とよもり 奈菜なな

年齢は確か24歳。

髪は黒髪ロング。

駿が通う学校の数学教師で、俺のクラスの副担任。

ゲーム内では同学校の男性教師からセクハラを受けており、自宅で襲われたところを主人公に盗撮されてしまう。

それをネタに脅迫され、主人公にも従うしかなかった。

事件内容:主人公が関わらなければ終わらないセクハラに耐えるしかないだろう。


三田川みたがわ 麗子れいこ

髪は深緑。ロング。

2年D組。だったはず。

主人公とは別のクラスの女子。同じクラスの不良女子3人に虐められている。

ゲーム内では主人公に救われて、虐めから開放してくれた主人公の忠実な僕となった。

事件内容:学校での虐め。


長友ながとも 理音りおん

髪は赤いツインテール。

1年C組。

後輩のお嬢様。気が強い性格。祖父は有名企業の会長。父親はその次男で政治家。

ゲーム内では崇拝している生徒会長が主人公の魔の手に落ちた事を偶然知り、主人公に宣戦布告をしたがその場で捕まり襲われた。

事件内容:父親が敵対している政党による冤罪で議員を辞職しそうになる。


★イリス=フリュード

髪は金髪ロング。

2年A組。

明るい性格。日本の事が大好き。

ゲーム内では、主人公に見つかって早々襲われた。

事件内容:人身売買組織による誘拐。


 以上が『強襲転校生』に出てくるヒロインと、ヒロイン達に待ち受ける事件だ。

 覚えている限りではこんなもんだ。


 もちろん発見されたら面倒になるメモ書きなんかせず、頭の中で整理をしていた。


 うわぁ。マジかぁ。


 俺はこれからこんなにも事件を解決しなくてはいけなくなるのか……。


 ……ってか、おい! 政治家の争いや人身売買組織はどうやって解決すりゃいいんだよ!!

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