第28話 大規模転移術構築
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―妖怪界、人間勢力外近郊の荒野―
妖怪界。それは人間達が住まう世界と次元が近く、本来、化け物達が住まう世界。
遥か昔、まだ現世、つまり人間界と妖怪界の境界が緩かった時代。人間の一部勢力が新天地を目指し、この世界へと辿りついた場所である。
妖怪界は名前からもある通り、妖怪と呼ばれる化け物の楽園であった。
時には人間を襲い、喰らう化け物が住まう世界。
妖怪達は度々この世界から人間界へ飛び出し、人々を襲っていたため、人間達はそれを大義名分とし、遥か昔にこの世界へ侵攻したのだ。
結果、人間達は広い妖怪界の一部を獲得する事に成功。
領土は現在の日本の土地よりも広大であり、そこを人間と友好的な妖怪や征服した人間の一族の子孫達が管理をしていた。
現在彼等妖怪界に降り立った人間は、
・時の日本政府から妖怪界の対処を命じられた貴族の子孫『清堂家』
・妖怪討伐に清堂家の先祖から助力を依頼され、参加した退魔師の子孫『榊家』
・清堂家、榊家だけでは戦力不足だったため、妖術を取り入れた武士の子孫『紀崎家』
・妖怪界の制圧、整地の為に徴兵された農民一族のまとめ役の子孫『斎藤家』
・新たな世界の物作り、商売などを取り扱った商家の子孫『轟家』
と、勢力が別れ、そのまとまりを5つの家系からできた組織の意味を込め、『五頭家』と名乗った。
やがて時が流れ、五頭家は民主化を行い、『日本連邦』と国を名乗ったが、未だ五頭家の影響力は大きい。
そして、日本連邦は人間界の人間達とは昔から殆ど関わりを持たず、人間界の日本政府から彼等では解決できないような超常現象的な事件が発生した場合のみ協力するだけに留まっている。
その為、人間界の一般人は、妖怪界の事など、知る由もない。
当然、この事はゲーム世界の中に入り込んでいる尾野 駿もこの事は知らない。
そんな妖怪界の人間勢力外近郊の荒野で、三台の車が走っていた。
一台は装甲車。
もう二台は大型の戦闘車だ。
真ん中に挟まれた装甲車の中で、一人の男が運転中の男に声をかけた。
「さて、そろそろ目的地ですね。串田君」
そう言ったのは『日本異世界召喚対策室』の斉藤であった。
人間界では『日本特殊行方不明者対策室』と名乗っている組織の人間である。
「良く分かりますね。こんな何にも無い場所で位置の把握なんて出来ないでしょう」
そう言ったのは斎藤と同じく、『日本異世界召喚対策室』に所属している串田だった。
驚く串田にに対し、斎藤は、
「走行距離と時間を参考にすれば位置は大体分かりますよ。ほら、見えてきましたよ」
そう言うと、一行の前に人影と車がポツポツと見えてきた。
「あぁ、本当だ。……ちょっと待ってください。なんか規模が大きくないですか?」
串田達は目的地に近付くにつれ、大勢の人間達が忙しなく作業をしている姿が目に入ってくる。
「これは……。想像以上ですね……」
斉藤もその様子には驚いているようだった。
「人手が少ない榊家が、なぜこんな?」
串田は思う。
過去、この妖怪界に攻め込んだ人間は大きく分けて五つの勢力があった。
互いに強力し、この世界の一部を征服したわけなのだが、戦力の要である術者家系であった榊家は、その退魔術師という特殊な体質から人数は他の家と比べ少なかった。
貴族家系で、多くの没落貴族とその従者を纏め上げた清堂家。
当時から妖怪達と交流があり、人間と友好的な妖怪達と共に大きな戦力となった武士の家系である紀崎家。
農民の出で、飢餓や災害等で行き場を失い、新たな土地に希望を見出した斉藤家。
職人及び商人で、新天地で新たな顧客と戦争特需で利益を出そうとした轟家。
ここに退魔術者の榊家を入れて五頭家と言うのだが、現在では人口増加によって勢力云々言っている者達は減っていったが、しかし、榊家はそうも言ってはいられなかった。
現代でも五頭家の影響は減ったといってもそれなりに大きいのである。
五頭家は妖怪界侵攻戦後、資源が豊富な妖怪界で勢力の拡大を続けた一方、戦時中はその術で侵攻部隊の中核を成した榊家は、平時では信仰の管理、または不定期に人間領土へ入ってくる敵対妖怪の駆除しか役割が無かった。
元々術者という数が少ない者達の集まりであった榊家は、現在でもその数的不利は尾を引いており、なんとか人員だけでも増やせないかと努力を重ねていた。
そう。人手が少ないのにも拘わらず、何も無い荒野には数百人の現役である榊家とその配下の者が集まっていたのだ。
「何をしようとしているんですかねぇ……」
斉藤は彼らを訝しげに見た。
榊家の実力。しかもトップともいえる榊家の直系の娘である榊 琴音の実力は知っていた。
一人で何十体もの妖怪を、軽くバッタバッタと葬ることができる存在だ。
悪霊が支配する異空間から一般人を一人助け出すのにこれほどだだっ広い土地で、多くの人材が必要だとは思えなかったのだ。
「串田君、アレ、見えますか?」
「えっと、どれです?」
「あの10m位の大きい黒い棒です」
「……あぁ、あれですか。はい。なんでしょうねアレ」
斉藤が指を差した方向には、等間隔で配置されている。
周囲には巨大な式神の作業員が10mの黒い棒をチェックしていた。
「あれほど大きいものは以前資料で見たことがあります。恐らくですが、異空間と自分が居る空間を繋げる柱です」
そう斉藤が説明をすると、
「はぁ!?」
と、串田は驚いた。
「いや、だって……それ、普通は10cm位のものでしょう!? あんな馬鹿でかいの戦車を通すにしても過剰な大きさですよ!? 榊家は巨人でも呼び寄せるつもりなんですか!?」
通常、大型トラックサイズのものでも異界へ行く際榊家系の術であれば、異界の門を開く媒体として10cm程度の黒い棒を地面に差し込めば門が完成すると串田は記憶していた。
「えぇ、私も過剰だと考えます。ですが、一つ思い当たる事があるんですよ」
「それはいったい……?」
「予想できるとすれば飛行物体を向こうの世界から連れてくる。もしくは此方から飛行物体を飛ばして、帰ってこさせる。ですかね。飛行物体であれば、それなりの高さが必要ですから」
「それだとしても、あれほど大きくなくてもいいでしょう? 確か、飛行物体でも数機であれば、小さいのでも空中に必要な箇所だけ出入り口を作る事ができるはずです。 飛行船でも連れて行くんでしょうか……?」
事実、ヘリコプター程度の飛んでいる物体であれば門を空中に開けばいいだけである。
巨大飛行船や超音速でドッグファイトをしている戦闘機であれば別であるが、今回はゲーム世界という異界から人一人を救出するだけである。
本当に飛行船など使わないだろうし、戦闘機の後部座席になんて乗せることだってありえない。
「そうですね。実はここに来る前少し調べたのですが、近くの空軍基地に琴音さんから要請がいっていたみたいでしてね。滑走路を全てを全面的に開放して欲しいと依頼があったようですよ?」
「滑走路を全面的に?? ジャンボジェットでも着陸させるのですか?」
どういうことだろうか。
近くにある空軍基地というのは、滑走路が複数あるはずである。
その基地の滑走路を全て使うとはどういう事なのだろうかと串田は考えた。
「分かりません。彼らは何を企んでいるんでしょうかねぇ」
「巨人のような巨大な何かを連れてこようとでもしているのでしょうか……」
「私があのゲームの内容を見た限り、怪獣のような大型生物は居なかった気がしますが……」
斉藤はそう言った後、うん。と頷き、
「私の方でもしもの時の為に、対抗できそうな存在を要請しておきましょう」
斉藤のその発言に驚いた串田は、
「対抗って……巨人でも連れてくるんですか?」
と、聞くと、
「えぇ、幸いここは妖怪界。それなりに大きな妖怪とは付き合いがありましてね」
そう答えた斉藤は、こちらに近付いてくる術者達を見つけ、車からでて頭を下げるのであった。
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荒野の中に建てられた多くの天幕の一つで、琴音は大規模な術の準備をしていた。
「琴音様。『日本異世界召喚対策室』の斉藤様がいらっしゃいました」
「えっ。本当にきたの!?」
報告を受けた琴音は嫌そうな顔をして、
「くっ、……まぁいいか。アレ等を此方の世界に呼び寄せてしまえば後はこっちのものだし」
そう割り切る。
「斉藤さんには神澤さんに相手をさせて」
「神澤殿にですか……?」
「そう。神澤 峰貞さんに、よ」
「うへぇ、分かりました……」
嫌そうな顔をする連絡員は琴音に言われた通り、神澤を呼びに行く。
「気持ちは分からないでもないけどね」
そんな連絡員の背中を見送った琴音は苦笑いをする。
実力はあるが、思考が残念な神澤。
誰が思うだろうか。彼が愛する女性の特徴が、100歳を超える年齢であり、見た目が幼女であるという事を。
まだそれならば……良いというわけではないが、平然と公言し、自身の管理する神社に住まわせている見た目が幼女の妖怪狐を溺愛し、人目もはばからず細かく刻んだ幼女妖怪狐の体毛を吸って喜んでいるような人物に声なんて掛けたくない。
だが、今回の作戦では重要な戦力となっている。
ゲームの世界は女性であれば術者上位である琴音レベルの者でないと活動するのは難しい。
並みの女性術者があの世界に入った場合、あのゲーム世界を支配する変態悪霊達に何をされるか分からないのだ。
だが、男性術者も危うい。
あの世界の影響で、男性でも女性に対し暴力的な思考を植え付けられてしまうのだ。
ただし、男性の場合はゲームに登場するヒロイン位の年齢を好きになれるかどうかで決まる。
神澤 峰貞はいくら年齢が100歳以上じゃなくては興味が無いとしても、どうしようもないほどの変態野郎であることには違いないので、あのゲーム世界の影響が殆ど無いのだ。
「そういえばこの事件が解決したら、ある程度の褒賞や昇進の話もしなきゃいけない? 彼を昇進させるの……?」
少しだけ神澤をこの事件の担当にした事を後悔する琴音であった。
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