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第27話 夕刻の合戦



----------------------------------



 時間は少し遡る。

 不良集団が警察署を襲撃する前。



 警察署襲撃を企む不良集団約30人は、霧が立ち込める道を真っ直ぐ歩いていた。


 彼等はこの世界を創造した神によって連れて来られた悪人であるが、世界を乗っ取った神命 成一によって役割を与えられた駒である。


 不良達に定められた役割。それは生前の彼等と殆ど同じ行動を取るというもの。



 彼等の中には、先に捕まった清高学園の不良達と同様、三田川 麗子を辱めた人間も存在する。


 その最たる人物としては、清高学園不良三人娘の中の一人と付き合っていた男であった。


 彼は今、清高学園の不良5人の代わりにこの地域に蔓延る不良達のリーダー代理をやっている。



「よぉし、いいかお前等。もうすぐ俺の女や、リーダー達が捕まっている警察所に着くぞ! いいな? なんとしても何としても取り返すんだ!」



 リーダー代理として、そう言って不良達に鼓舞する。


「「「「「おぉぉおう!!」」」」」


 30人以上からなる不良達の集団の中には坂江 由梨の弟、坂江 洋太の姿は無い。


 それどころか、本来であれば60人以上は集まる予定だったはずなのだが、この場には半数も来ていなかった。


 理由は残りの不良達は単なるNPC。神が現実世界の不良達を元に作った人形だったからだ。

 不良NPCの元となった人物達は、現実世界ではこの世界を作った神の怒りに触れなかった者達である。

 ちなみに、当然坂江 洋太も神の怒りに触れた対象ではない。

 彼等は基本この世界に閉じ込められた不良達の周りには存在するが、積極的に悪事を働こうとはしないのだ。

 そんな事は知らないリーダー代理は、


「(集まっていない連中は後でペナルティーだな……)」


 不良の女は犯して男は現金稼ぎと鉄拳制裁。

 そんな事を考えながら金属バットを握り締める。


「ふひひひひ……」


「ぐきゃきゃきゃ」


 一方、リーダー以外の不良達の顔は、それぞれ不気味な程の笑顔となっており、まるで危ない薬漬けにされたような様子であった。

 まるでこれから警察署を襲撃するのを楽しみにしているかのようである。


「しかし……なんだ? この霧は……」


 雨が降った後でもないのに夕方に霧が発生しているこの状況に、リーダー代理は僅かながらの違和感を覚える。


「……。目的地には着いたようだが……」


 濃霧の中から現れた門。

 門の石柱には、町の名前の下に『警察署』の文字が書かれていた。


「よぉし。てめぇら! このまま素早く襲撃してリーダー達を助け出すぞ!」


 警察署の中には居もしないはずなのに、知識が足りないリーダー代理はそんな判断を下す。


「「「「「おぉぉおおお!!」」」」」


 同様に知能の低い部下達は、リーダー代理の指示に何の疑問を持たずに従う。


「へっへっへ。今に見てろよ……」


 横一列に10人程が並んで真っ直ぐ見据える。

 下見では正面に入り口があったはずだ。


「さぁ……――――ん?」


 リーダー代理は突撃の合図を出そうとした。


 だが、突然濃霧が晴れ、警察署の建物が見え始めたではないか。


「(霧の中を隠れて襲撃しようと思ったが……。まぁ、獲物が見え易くなったから良しとするか)」


 そう好都合だと切り替えるリーダー代理。


「えっ―――――――」



 しかし、そう簡単に物事が進むはずは無かった。


 藍鉄色の盾の壁が隙間無く横一列に広がり、


 群青色のヘルメットが盾の上部から出ており、


 彼等の背部には、柚葉色の大型の車両が何台も並んでいた。



「機動隊……だと?」



 世間一般の常識に疎いリーダー代理でも彼等が何者なのか理解できた。


 警察組織の中で、集団的な暴徒を制圧する事に長けている百人を超す機動隊が、襲撃をしようとしていた不良達を待ち構えていたのだ。


「な、なんで!? なんでバレた!?」


 リーダー代理が感じたように、何故これほどまでにも早く彼等機動隊が待ち構えていたか。

 その理由は、尾野 駿が通報したことと、霧がかかる前に集団で警察署へ向かって移動していた彼等不良集団を目撃した一般市民からの通報だった。


 もちろん、ゲームのストーリーを理解していた"榊 琴音"が作り出した式神達の行動の早さも起因している。


「おいおい」


「マジかよ」


「どうすればいいんだ!?」


 不良達は明らかに動揺している。


「クソォ! ここで止められるかよ!」


 あの警察署の中には自分の恋人も捕まっているのだ。

 早く救出したい。

 そうリーダー代理は焦る気持ちを隠しきれず、


「怯むんじゃねぇ! いいか? あいつ等は所詮は雑魚だ。感じてみろ。何故か最近自分の中で力が増しているだろう?」


 リーダー代理は最近仲間内で持ちきりの話題を口に出した。


 今まで持つことが出来ないような重いものでも軽々と持ち上げることが出来る。


 走る速さが今までの1.5倍はある。


 持久力も上がり、ライバル校の喧嘩に負けることも無くなった。


 そんな事を彼等はリーダー代理の言葉で思い出す。


「そうだ! やれる!」


「あぁ、あんな奴等。軽くぶっ殺してやるよ!」


 不良達の闘志は徐々に戻り、やがて来る前とは比べ物にならないほどの殺意を機動隊へと向ける。


「(よし、これでいい。これで……)」


 リーダー代理は自身の内から湧き出てくる謎の力を感じ、この戦いは勝てると確信した。


ブオン! ブオン!


「あ?」


 機動隊を睨みつけていると、端からサイドカー付きの白バイが走ってきた。


 白バイは自分達の方向へ来るわけでもなく、並んでいる機動隊の方へ走っていく。


「(何をする気だ……?)」


 すると、サイドカーに乗った警官が、警棒を伸ばし、


カンカンカンカン。


 と、通り過ぎざまに機動隊員達が持つ盾に警棒を当て、甲高い音を奏でていた。


「(本当に何してんだ? あいつ等)」


 白バイは機動隊員の前を一直線に駆け抜け、一番端で声を上げている。

 不良達とは距離があるので何を言っているのか分からない。


「アイツが指揮してんのか?」


 一瞬機動隊員の親玉かと思ったが、そうなるとますます行動の意味が分からない。


 警戒をして観察をしていると、


「「「「「「「おぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」」」


 急に機動隊員達は声を高らかに上げた。


「あいつ等ぁ!」


「もう勝った気でいやがるのか!?」


 その声に当てられ、不良達の頭には血が上る。


 去っていく白バイ。


 それを見てリーダー代理は連中が戦いの準備が出来たことを悟った。


「力の違いを思い知らせてやる!!」


 リーダー代理は全身の筋肉を膨らませ、


「やるぞ! テメェら!」


 と、不良達へ言った。


「「「「「おおぉ!!」」」」」


「行けぇええええ!!!!」


「「「「「うぉぉおおおおおお!!!」」」」」


 リーダー代理がそう指示を飛ばすと、不良達は一斉に武器を構えて突撃を開始した。


「盾なんて吹き飛ばしてやれぇ!!」


 半分程の不良達が前へと走ったことを見届け、自分も駆け出す。


 力を得た自分達がぶつかれば、人どころか車でさえもただではすまない。


 なぜかそう感じ、金属バットを振りかざしながら近付く。


 後30m、――――20、――――10。


 もう少し。


 もう少しで不良達の先陣が機動隊員達にぶつかる。


 そう思った瞬間、機動隊員達に動きが見られた。


「ん?」


 機動隊員達は僅かに盾をずらし、隙間を空けたのだ。


「馬鹿が!」


 隙間があれば手を突っ込んでこじ開けることが出来る。


 綺麗に並んでいたのが台無しではないか。


 そうリーダー代理は思ったのだが、開いた隙間の奥からキラリと光る何かが飛び出てきた。


「なん……ヤベェ! 止まれぇええええ!!!」


 リーダー代理はその物体が何か、瞬時に理解した。


 だが、その判断は遅かった。


「えっ――――ぎゃぁああ!!!」


「んぐぉ――――ぐぎぃぃいいいいいい!!!」


 次々と飛び出してきた何かによって絶命する不良達。


 そう、機動隊員達の盾の間から出てきたのは刀であった。


 刀が切り上げられ、盾に近付いた不良達はその刃で切り裂かれてしまったのだ。


「うわぁあああ! うわぁああ!!」


 初撃で死ななかった者でも、切り裂かれた傷口から内臓が飛び出て、必死に元に戻そうと拾い上げている者。逃げようとしたが切り上げられた刀で今度は突き刺され、絶命する者。

 多種多様に傷ついていった。


 この攻撃により、半分の不良達が命を落とす。


「馬鹿な! 馬鹿な馬鹿な馬鹿なぁあああああ!!!」


 リーダー代理は叫んだ。


 機動隊員が使う武器と言えば、精々警棒かと思った。


 それよりも強力なモノと言えば、催涙弾や強力な水鉄砲だ。


 リーダー代理は機動隊がこんなに簡単に人の命を奪うような行為をするとは思わなかった。


「くっそぉ! 引けぇ、一旦引くぞぉぉお!!」


 人を殺す事に躊躇しない機動隊に恐れをなしたリーダー代理は、撤退する事を判断した。

 幸い銃撃をしてこないところを見ると、周囲の住宅を気にしているのだろうと考えた。

 そのため、足が速くなった自分達であれば逃げ切れる。そう考えたのだ。





 だが、彼等の考えは甘い。


 彼等は先ほど戦う前に見たものを既に覚えていなかったのだ。



プォ~~~。


プォォオ~~~~。


 何処からかホラ貝を吹くような音が聞こえる。


「(まるで昔の戦場じゃないか!)」


 そう思いながらリーダー代理は音が鳴る方向を見た。


「(なんだ……? 楽器?)」


 警察署の屋上で、ホルンを鳴らしている警察音楽隊の姿を確認するリーダー代理。


 彼はやはり何をしているのか分からない。


「何かの合図?」


 そう考えた途端、


ブオン! ブオン! ブオンブオンブオン!!!


ブロロロロロロロロロ!!


ブロロロロロロロロ!!



 何台ものサイドカー付きの白バイ警察署内の駐車場へと入ってきた。

 そう、彼等不良達が忘れていたのは白バイの存在だ。


「ひぃ!?」


 だが、普通とは違い、サイドカーに座る警官は皆、鋭く尖った槍を持っている。


「「「「「「「うぉぉぉおおおおおお!!!!」」」」」」」


 そして声を上げて不良達に突っ込んで来る白バイ。


「ギヤァァアアアアア!!!」


「グギョォォォォォォ!?」


「た、助け――――グヴォ!?」


 次々と串刺しにされていく不良達。


 下がれば機動隊が持つ刀の餌食に。進めば白バイ警官の槍で串刺しに。


 既に不良達に逃げ場など無かった。


「(どうして……。どうしてこんな事にぃぃいいいい!!!!)」


 いくら足が速くなったとしても、バイクには敵う訳が無い。

 リーダー代理は右往左往と逃げ回りながら、何処をどう間違えたのか必死に考え、


「どうしてお前ら、人を簡単に殺せるんだよぉぉおおおおおお!!!!」


 と、精一杯叫び声を上げたところで、白バイのサイドカーに乗る警官が付き立てた槍により体を貫かれた。


「ギィヤァアアアアアアアアアアアアア!!!」


 激しい痛みに転がりこもうとしたが、刺された槍が支えとなって寝ることもできない。


「痛いぃぃぃ。痛いよぉぉぉぉぉおお!!!」


 そして白バイが急停止したかと思えば、ズルリと槍が体から抜ける。


 体から溢れる出る血。


 自分の血を見て恐ろしくなったリーダー代理は、必死に這って逃げようとしたが、そこは機動隊員達が並ぶ場所数10センチ手前であった。


「あ……あぁ……、あっ――――グボォォ」


 逃げ切れなかったリーダー代理。


 彼は機動隊員達が持つ刀や槍によって次々と串刺しにされ続けた。


「(自分は仲間を助けようとしたのに、どうしてこんな目に遭わなくてはいけない!!)」


 リーダー代理はそう思って周囲を睨んだ。


 しかし、リーダー代理を突き刺す警官達は無表情に淡々と手を動かしているだけだ。


 どいつもこいつも憎らしく見える。


「まだ……、まだ建物にも入ってないのにぃ……」


 一歩も踏み入れることも、捕まっている彼女を一目でも見ることもできず。


 彼は動きを止めようとも、警官隊はリーダー代理の体を刺し続ける。


「こんな……ところでぇぇ……」


 徐々にリーダー代理の力は失われ、やがてだらしなく刺さった槍に体を預けるだけになってしまった。




「敵は全滅したぁああああ!!!」


「大将の首を取ったぞぉおおお!!!」


「勝鬨を上げよ!!」


「「「「「おぉぉおおおおおおおおおお!!!!」」」」」


 そして、狩られた首が槍に刺され、空高く上げられる。


 不良達の首は沈み行く夕日を浴び、光り無い二つの瞳でオレンジ色の空を見つめるのであった。







 こうして警察署の駐車場で起きた戦いはあっさりと終幕した。





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―警察署内―


 銃を構え、いつでも応戦できる準備をしていた警官達は、機動隊員達の勝鬨を聞き、ほっと胸をなでおろす。


 そんな中、窓から離れる警官が3人居た。


 彼らは他の誰にも声が聞かれないような場所へ移動し、話を始める。


「世界の支配権が、これでまた一段階得ることができたであります」


「警官隊も扱い易くなったであります」


「今回の戦い、いささか設定を間違えているのではないでありますか?」


「人間界の中世ヨーロッパや日本の戦国時代の戦術をインストールしたのは失敗だったかもしれないであります」


「いや、ただの不良に対して強力な重火器を使えば警戒される可能性があるであります。これで正解でありましょう。今回は様子見で、問題なければ次からどんどん重火器を使っていくであります」


「それにしても、半田の件からリストア中の本官達や、ちゅん太殿が力を貯めている今、この世界のNPCに頼るしかありませんでしたが、なかなかやるでありますな」


「外の世界で仲間達が頑張ってくれているお陰でありましょう。本官達も次の戦いに備えなくてはならないであります」


 そう部屋の隅で話していたのは、ちゅん太によって覚醒させられた警官三人であった。


「これからもっと戦いは厳しくなるであります」


「変態達の暴走は酷くなる一方であります」


「厄介な変態達であります」


 警官三人はそう互いに確認をした後、自分達の体をより強化する為の準備に入ったのであった。


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