第2話 主人公脱落
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―神命 成一視点―
俺の名前は神命 成一。
今は転校してきてから新たに所属したクラスの委員長、野和 彩香に校内を案内されている。
おせっかいな性格なようで、いろいろと面倒を見てくれる女だ。
黒髪の三つ編み。眼鏡をかけた地味な女。
それにしても地味な女だが、良い体をしてやがる。
前の学校ではしくじったが、今回は上手くやってやるさ。
まずはターゲットをこの彩香にする。
さて、隙を見せたところで俺のおもちゃにしてやろう。
「えっと、一通り案内したかなぁ」
体育館裏に来て辺りを見回す彩香。
よし、ここにするか……。
「野和さん。あそこの建物って何かな?」
「え?」
俺が指を差した方向には少し大きめの倉庫が建っていた。
「あぁ、あそこは体育の授業で使う……ってちょっと待ってよぉ」
俺は先にスタスタと歩き、扉を開けてみる。
よし、丁度空いていたな。それに中には……人は居ない。
「もう。先に行かないでよぉ」
彩香はちょっと頬を膨らませて抗議をしてくる。
ふふっ、その面を恐怖に染めてやるよ。
「えっ!?」
俺は彩香を倉庫内に引き込み、扉を閉め、鍵を掛ける。
「な!? え??」
そして俺は彩香に近付き、
「やぁ! 止めムググ」
口を手で塞ぎ服を脱がし始める。
「グヘヘへ! 隙を見せやがって! 馬鹿な女だ!」
そう言って下着姿だけになった彩香を見て笑う。
「ムググ~~! ムグググ~~~!!」
涙目になった彩香を見て俺は興奮する。
ククク。良い顔になったなぁ。
すると、突然、
ドガン!
と倉庫内に音が響き、
「は~い。そこまでぇ~」
「え?」
「ムグ!?」
そこにはスマホを片手に跳び箱の中から飛び出した男がニヤリとした顔で突っ立っていた。
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―尾野 駿視点―
今、俺の心臓の鼓動がかなり早くなっているのが分かる。
原因は下着姿の委員長ではなく、この状況だ。
一歩でも間違えれば主人公に逆転され、俺も奴にボコボコにされるだろう。
「テメェ! 誰だ!!」
主人公が吼える。
ビリビリと威圧が伝わってくる。
だが、下半身丸出しの為、威厳は半減している。
「俺? 俺はお前のクラスメイトだ!」
そう言い切って身構える。
正直こいつに喧嘩をして勝てる見込みなんて無い。
何故かって? 作中でのこいつは喧嘩が滅茶苦茶強いからだ。
「まさかそれで撮ってんのか?」
「おうとも!」
今主人公に向けているスマホの事を指しているのだろう。
この時もまだ俺はスマホで動画撮影をしていた。
「そいつをよこせ!」
破壊することが目的だろう。
主人公は俺のスマホを要求してきた。
「その前に取引だ」
「あ?」
主人公は俺を射殺すような目で睨んだ後、口元をニヤリとゆがめて笑う。
「ははぁ~ん。そういう事か。いいぜ、俺の次にこいつの相手させてやるよ」
よし、上手く勘違いしてくれたな。
「ンンン~~~~!!!」
助けが入ったかと思ってホッとしていた委員長が再び危機を感じ騒ぎ出す。
「ちょっと待ってね。じっくりと撮影するから」
俺がそう言うと気を良くしたクソ野郎は、
「ははは! いいぜいいぜ。好きなだけ撮れよ。あ、俺にも後からデータ送ってくれ。それにしても彩香ぁ。お前、人気者だなぁ。そりゃそうだよなぁ、こんなにでっけぇ胸してりゃぁよぉお!!」
そう言って主人公は委員長の胸を鷲掴みにする。
委員長は泣き出してしまい、震えている。
ごめん。もう少し耐えてくれ。
俺は申し訳ないと思いつつも、委員長にスマホのカメラを向ける。
怪しまれないように撮影は続けた。
委員長が泣きじゃくる姿が視界に入る度に罪悪感で心が押しつぶされてしまいそうになってしまう。
そしてしばらく経った後、
「おい、そろそろいいか?」
と、クソ野郎が声を掛けてくる。
「もうちょっと待ってくれ」
まだか? まだなのか?
そして、ついにその時はやって来た。
「彩香ぁあああああああああああああ!!!!」
バシン!!!
倉庫の扉が強く叩かれる。
「なんだ!?」
驚く主人公。
俺はそれに直ぐに反応し、鍵を開ける。
すると、勢いよく扉が開かれた。
「おい! 馬鹿!!」
主人公が俺に罵声を浴びせてくるが気にしない。
はっはっは。これで俺の勝ちだ!
「んな!?」
主人公は目を見開き驚く。
「転校生!! 貴様ぁあああああ!!!」
扉を開いたのは袴を着た女子生徒達。制服を着ている女子達も何人か居る。そして男子生徒もちらほらと。
その中心に居たのは俺が所属する2年B組のもう一人のヒロイン、女子剣道部のエース『坂江 由梨』だった。
女子剣道部員を筆頭に、大勢の学生達が集まってきたのだ。
「い、いや。これは違うんだ!!」
主人公は慌てて委員長の近くから離れた。チャンスだ。
俺は素早く上着を脱いで委員長に被せ、手を取って主人公から離れた。
「この状況で言い逃れできると思わないよねぇ!?」
女子の一人。多分モブが主人公にそういう。
「て、テメェ! まさかその携帯で……裏切ったのか!?」
主人公は今度は俺の方を見てそう言った。
「裏切り? 何のことだか分からないが、SNSの"レイン"で、君がやっていることはクラスの何人かに伝えたよ?」
いつの間にか入っていた同級生ということになっている知らないクラスメイト達何人かに連絡をしたのだ。最初にグループに連絡をしようとしたが、もしクソ主人公が入っている場合は危険だったためそれは避けた。
「ははは。もう終わりだなぁ」
仲間が来て強気になった俺はドヤ顔でそう言った。
その瞬間。
ズパン!!
「ゴハッ!?」
俺は自身の腹に衝撃を感じる。
「嫌ぁあああ!! 駿!」
委員長から悲鳴が聞こえてきた。
あ、殴られた。そして早っ。
俺はある程度離れた場所に居たよね? あそこから一気にここに移動してきたのかよ!?
狙いは俺のスマホか。そう理解したと同時に次に主人公が狙ってくる俺のスマホを腹に抱えて蹲る。
主人公が伸ばした手の位置には、既にスマホは無い。
やはり動画狙いか。
もう言い逃れはできないだろうに……。
ドガン!!
「グゲェ」
次に背中に来る衝撃。
痛いなんてもんじゃない。
一瞬息ができなくなる。
「成敗!!」
意識が遠のく前に、
剣道女子、坂江 由梨の声が聞こえ、俺はもう少し意識を踏ん張って留めた。
「あ"ぁ?」
ドスが効いた声で右の拳を握る主人公が見える。
そして竹刀を振りかざす坂江 由梨も。
ヤバイ!坂江 由梨がやられる。
そう思った俺は慌てて主人公の右腕を掴む。
主人公が坂江 由梨よりも強いことは知っていた。
なにせ坂江 由梨は原作では一対一の勝負に負けて散々酷いことをされたヒロインだからだ。
「テ、テメェ!!」
「メェェェェエエエエエエンンンン!!!!!」
「チクショォォォオォオオオオオオオオ!!!!」
ズバゴォォォオオオン!!
断末魔を上げながら主人公は倒れた。
「「「「「わぁぁあああああああ!!!」」」」」
他の仲間達から歓声が上がる。
俺はその歓声に勝利を確信し、意識を手放した。
「ん……?」
いつの間に寝ていたんだ?
それにしてもなんだか変な夢を見ていた気がする……。
確かゲームの世界に入ったって設定だったな。
バカバカしい……。
「駿! 大丈夫!?」
あぁ、母さんが声をかけてくれた。
目をゆっくりと開けて、天井を見る。
どこだここ?
部屋の中は……なんだか病院のようだ。
いったいどうしたんだろうな。俺は何か病気になったのか―――ってえ!?
誰だアンタ!?
目の前には知らないおばさんが居るんだけど!?
「おぉ! 目が覚めたか!」
「兄貴! 無事!?」
それに知らないおっさんと知らない女の子が居る。
一体何事だろうか?
「あれ? 俺は……」
上半身を起こし、辺りを確認する。
なんだか腹や背中が痛い。
そして俺は殴られた事を思い出す。
まさか元の世界に戻っていない!?
俺は一瞬で気絶をした原因と周囲の人間が何者か理解した。
「お、お前、記憶が……」
あわわと慌てた表情をするおっさん。おそらくこの世界の俺の父親なのだろう。
「い、いや。なんとなく思い出した。そうか、俺、生きてたか……」
俺はまだ痛んでいる腹をさすりながらそう言った。
「あ~……尾野 駿君? 目を覚ましましたか?」
おっと、また知らない人が現れた。
今度は誰だ?
親戚のおじさんとかじゃないよなぁ。
「あぁ、すまないね。私はこういう者だ」
スッと懐から手帳を出してみせてくれる。
警察手帳だ。
「刑事の佐々木と申します。ちょっと話を聞きたいんだけど、いいかな?」
「あ、はい」
よく見ると、後ろに制服姿のおまわりさんまでいる。
「駿、大丈夫なの?また後日来てもらってもいいんじゃない?」
と母は言うが、
「いや、急ぐ話なら早めの方がいいと思うから」
と言って母を納得させる。
「えっと、申し訳ありませんがご家族の方々は外に」
「分かりました。お母さん、真希、外に出ていよう。駿も無理しないようにな」
父はそう言って母と恐らく妹を外に連れ出す。
この世界のモブである俺は妹がいるのか……。
刑事の佐々木さんは父達が出て行くのを見送った後、
「それでは、少しお話をお聞かせ下さい」
と、切り出した。
「本日午後5時頃、君の通っている学校で起きた事件は覚えているよね?」
「……はい」
「情報によると、君が持っている携帯電話に犯行時の動画があるとか?」
「はい」
「そうか。では、その動画を証拠としたいんだけど、携帯電話を借りることはできるかな? あ、パスワードも教えてくれると嬉しいな」
「はい、勿論です」
「ははは。協力してくれてありがとう」
そう佐々木さんは笑って俺が渡したスマホを受け取る。
「ところで……」
「?」
「君はどうしてあの場に居たのかな?」
「えっ?」
…………。
ヤベェェェェェ。
考えてなかったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
どう考えてもあの倉庫の跳び箱の中に入っているなんて不自然すぎる。
ってか、なんであの倉庫に跳び箱があったかも分からない。
普通体育館に併設されている用具入れに入っているもんじゃないのか?
ここは……。苦しいかも知れないが……。
「えっと、あの場所って密会することがたまにある場所なんですよ……」
「密会?」
佐々木さんは額に皺を寄せ、聞いてきた。
「えっと、男女の……そのぉ……」
「あぁ。なんとなくわかったよ」
必死にそれっぽい言い訳を考えたが、どうやら信じてくれたらしい。
「それで、なんか様子がおかしいなーと思って、皆に報告して……」
「そういうことかぁ。でもそういう事あんまり感心出来ないなぁ」
「すみません……」
とりあえず謝っておく。
「あ、できればこの事は秘密にしておきたいんですが……」
ついでに俺は口止めしてもらうようにお願いしておく。
後でそれっぽい言い訳を考えておこう……。
「わかった。今回は君のお陰で事件も解決したことだし、その件については咎めないよ」
よかったぁ~。
俺はホッとして胸を撫で下ろす。
「あ、ところで転校生はどうなったんです?」
気になったので聞いてみた。
「あぁ、流石に逮捕されたよ」
よかった。
これでしばらく塀の中だろう。
ん? ちょっと待てよ。
高校生ってこんなに早く逮捕されるのか?
ゲームの世界だからそのへんは現実世界とは違うのかもしれない。
うぅん……。詳しくはわからんが都合よく解釈しておこう。
ちなみに主人公は転校してくる前に強姦がバレそうになったという経歴をもっている。
警察は証拠を掴めなかった。理由は被害に遭った女性達が皆主人公を庇うという謎の珍事が起きたからだ。
しかし、これを理由に主人公は父親に無理矢理転校させられた。
と、ゲーム内で主人公は語っていた。
ははは。ざまぁ見ろ。
「では、また何か詳しいことを聞くかもしれないから、その時はよろしく」
「はい」
俺がそういうと刑事の佐々木さんは去って行った。
さて、これからどうしようかな……。