第19話 ストーカーの脅威
そして夜。俺達は昨日と同様の位置で眠る。
まさか野和さんと三田川さんがまた俺の部屋で一緒に寝てくれるとは思わなかった。
「…………」
落ち着けぇ。俺!
興奮している場合じゃないんだ。
二人は俺の事に好意を持ってくれているようだけど、行為中に事件が起きたら対処できない!
「…………」
「スゥ……」
「スゥゥ……」
二人の息づかいが聞こえてくる。
様々な妄想が俺の頭の中に駆け巡り、俺の意識は既に半田 雅人から野和さんと三田川さんへと移ってしまう。
いや、それはダメだ。もっと真剣に考えないと!
だけど……それは……。とっても難しいよ……!!!
「………………」
俺は布団の中で明日からの事を真剣に考えることにした。
まずは佐々木さんに連絡をした結果、俺の家の周りや野和さんの家の周りを警官が巡回してもらうことになった。
何かあれば直ぐに駆けつけられるとの事。
だが、夜中の場合はどうするんだ? という心配が出てきてしまい、安心はできない。
では、雀さんに頼むか?
まずコミュニケーションができない。
話しかけても首をかしげているだけだ。
今日だって挨拶をしたが、チュンチュン鳴いているだけだった。俺の言葉をちゃんと理解してくれるかわからない。
ってまともに相談できる協力者が居ないじゃないか!
どうしよう。このまま何もなく朝を迎えたら間違いなく野和さんとは今後別行動になってしまう。
俺がストーキングをして様子を見るか?
いや、それは駄目だ。それでバレたら確実に二度と野和さんを守れなくなる。
それどころか他の連中を助けることすらできなくなるぞ!
うわぁぁぁあ。どうしよう。
そんな事をグルグルと頭の中で考えていると、
ガシャン!
ガァーーーー。
突然俺の部屋の窓ガラスが割れ、窓を開ける音が聞こえた。
「なんだ!?」
「ふぇえ? なぁに?」
「……何の音?」
音がした窓を見ると一体の人影があった。
「あっ……」
暗がりであったが、俺は確信した。
「おぉ……」
月明かりで顔が見えた瞬間。喜びの感情が湧き上がり、
「やったぁああああああ!!!!」
と、飛び起きてガッツポーズをした。
「「「!??!?」」」
野和さんや三田川さんは俺の様子を見て混乱しているようだったが、入ってきた人物も驚いているようだった。
だが、俺の感情の爆発は止まらない。
ようやく俺がまともであるという証拠が自ら飛び込んできてくれたのだ。
「ほら、皆見て。アレだよアレ! 野和さんをストーカーしていた奴だよ!」
「「えっ!?」」
二人の視線は再び部屋に入ってきた人物、『半田 雅人』に戻った。
「ち、ちみはぁ~。我輩の行動を読んでいたとでも言うのでありますかぁ~!?」
と、ここにきてようやく半田は言葉を喋った。
「そうだよ! 皆信じてくれなかったからどうしようと思ってたけど、ちゃーんと来てくれたんだな! その点だけは礼を言わせてもらうぜ! ひゃっほぅ!」
屑野郎の人物に礼をいう事自体ありえないが、ついついそんな言葉が出てしまう。
「そ、そうでありますよねぇ~。我輩の彩香ちゃんが男の人の家にホイホイと泊まるわけが無いですもんね~」
と、なんか勝手に喜んでいる半田。
そんな半田にイラっとして、
「いや、作戦の詳細は伝えて無くても来てくれたよ。あはははは」
そう俺は高笑いをした。
事実、昨日は俺を心配して泊まってくれたしな!
すると、
「……死ぬであります!」
と、突然一瞬で間合いを詰められ腹を思いっきり殴られた。
「グギャァアアア! ゴガ!?」
俺は壁にぶつかり倒れこむ。
またかよ。
「きゃぁああああ。駿ーーーー!」
「尾野君!」
女子二人は俺を心配して駆け寄ってきてくれる。
フッ。これが勝ち組の俺と屑の半田の差ってやつか……。
一方半田は、
「彩香ちゃんを汚した罪は重いであります!」
と、満足した表情で言っている。
「グ……。二人共早く逃げるんだ! ……ここは俺が食い止める!」
「ちょっと!? 駿!?」
「そんな! 私も―――」
俺は二人を急いで部屋から出す。
「んふふふふふふ。そんなに慌てなくても君からまず殺して、その後ゆっくり彩香ちゃんを頂くであります。ってあれ?」
俺は最初の方だけ苦しんだフリをして、野和さん達を逃がした後全力で部屋から脱出した。
このお守りはどうやら役に立ったようだ。
あれだけ吹き飛んだのにちょっとだけ痛い位で済んでいる。
部屋から出て俺は急いで部屋の外に置いてあった椅子やら本を詰めたダンボールを扉の前に置く。
ドンッドンッ!
「あれ~?開かないでありますなぁ~」
などと呑気な声が聞こえてきた。
今のうちに……って、まだ野和さんと三田川さんが側に居る!?
「早く逃げろ!」
「「う、うん……」」
その隙に1階まで急いで下りようと階段まで向かう。
そこに、
「おい兄貴。何の音だ?」
なんと妹が部屋から顔を覗かせやがった。
「何も言わず部屋に隠れていろ!」
そう言って俺は無理矢理妹を部屋に押し込み扉を閉じた。
「ちょっ!? 兄貴??」
妹から文句が出るが構って入られない。
ドガァアアアン!!
「え!?」
大きな音が俺の部屋の方から聞こえた。
「開かないなら破壊すれば良いだけでありますな! 吾輩。天才であります!」
と、意気揚々と扉に穴を開け、部屋から出て来ようとする半田。
拳一つで扉を壊したのかよ!
「うわぁあああああ!!」
俺は慌てて1階へと降りた。
ドガァアアアン!!
ドガァアアアン!!
尚も、扉を破壊する音が聞こえてくる。
「おいおい、駿。ヤルなとは言わんがもう少し静かに……」
「うるせぇ! エロ親父! ヤル時にゃあんな音出るわけないだろう! 黙って部屋に隠れてろ!」
途中、1階の両親の部屋から父親が出てきたが有無を言わさず部屋に押し込み襖を閉めて外に飛び出す。
「うひょひょひょひょひょ! で、あります」
後ろからそんな声が聞こえてくる。
ヤバイ。もう追いついたのか!?
「雀さん! 助けてぇぇぇぇぇ!!」
俺は家の近くに居るであろう雀さんに助けを求める。
「なかなかとファンシーな思考でありますなぁあ!」
「ひえぇぇえええ!?」
直ぐ横に居た。
ヤベェ!!
「先ほどの攻撃は何故か耐えれた様子でありますから、今度は全力で殴るであります!」
「うわぁああああ!!」
もう叫ぶことしかできない。
今度は何処まで吹き飛ばされるのだろう。
そして俺は顔面に迫り来る拳をただ見ていた。
なぜかスローモーションになってはいるが、体が動かない。
もう駄目だ。
そう思っていると、
ガシッ!
「「な!?」」
俺と半田は同時にそんな声を上げた。
理由は半田腕を掴み、完全に勢いを殺した人物が居たからだ。
そしてその人物は言葉を発する。
「本官が来たからには、もう安心でありますよ!」
と。
そこにはいい笑顔の青い制服を着たおまわりさんが居た。
「き、貴様は! 邪魔をする気でありますか!?」
半田は警官の腕を振り払う。
「その通りであります!」
焦ったようすの半田の問いに堂々とそう答える警官。
ってか、二人とも同じような話し方だな!!
「後悔するでありますっ!」
「抵抗する気でありますか!?」
「当たり前であります!!」
「公務執行妨害で逮捕するであります!」
半田は懐からとてつもなく馬鹿でかいナイフを取り出す。
一方警官は警棒を伸ばして立ち向かう。
ガギンガギンギュガギンギャギン!!!
「ありますありますありますありますあります!!!」
「ありますありますありますありますあります!!!」
とてつもないほどの高速でナイフと警棒がぶつかり合う。よっしゃぁ、このお巡りさんは強いぜ!
ってかますますますます煩いよ!!
「はっ!? この隙に……」
半田が警官に集中している隙に俺は逃げることを選択した。
だが、
「逃がす気は無いであります!」
「!?」
半田に回りこまれてしまった。
早いっ!
瞬間移動でもしているんじゃないか?
振り上げられたナイフが俺に向かう。
「ひぃぃぃい!!」
情けない声が出てしまう。
「させないであります!」
と、ここで警官のとび蹴りが半田に入り、俺の生涯は延長された。
「ふぎゅぅ、であります」
半田は転がった体を直ぐに起こし、
「うぐぐぐぐぐ。我輩を邪魔する罪は重いでありますよ!」
怒りに満ちた表情で警官を見ながらそう言った。
「銃刀法違反と殺人未遂の罪は重いでありますよ!」
警官は対抗して至極真っ当な事を言い放つ。
「うぐぐぐぐぐぐ……。くっ、くひゃひゃ!」
と、突然半田が笑い始めた。
なんだ?
「くひゃひゃひゃひゃ。いつまでそんな強気な態度で居られるでありますかな? 見たところそちらの警棒は随分とボロボロではないでありますか。くひゃひゃひゃひゃ」
「えっ?」
俺は警官の警棒を見る。
なんと警官の警棒はボコボコにへこんでいた。
「くひゃひゃひゃひゃ。さすが軍用ナイフ。刃こぼれすらありませんな。これでは勝負あったも同然であります!」
そう半田はナイフをベチャベチャと舐め回しながら声高らかに勝利を確信していた。
だが、
「なるほど、そうでありますな。では、こちらを使うであります!」
と、突如腰にあったホルダーからリボルバー拳銃を取り出す警官。
「へ?」
それを向けられた半田は、間抜けな声で反応をするしかなかった。
パンパンパン!!
何の迷いもなく3発の銃弾が放たれ、真っ直ぐと半田へ向かって行った。
「んぬぅ!」
カキキン。
あいつ、銃弾をナイフで弾きやがった!?
「くぅう……」
いや、一発当たったのか?半田は左足を庇っているように見える。
「大人しく降伏するであります!」
銃を構える警官はそう半田に呼びかけるが、
「くふぅ。くひゃひゃひゃ。後2、3発しか弾が残っていない癖に、粋がるんじゃないであります!」
そう言い放って警官に挑みかかる。
パンパン!
警官は拳銃を発砲するが、2発撃ったところで弾切れをしてしまう。
一方半田は難なくナイフで弾を受け流し、警官に向けてナイフを振り下ろした。
カキン!!
警官は警棒で対抗する。
互いに最初の攻撃パターンへ戻っただけであった。
しかし警官の警棒は次第に歪みはじめ、戦いは警官が不利になっていく。
「くひゃひゃひゃ、くひゃひゃひゃひゃ!」
勝利を感じているのか、半田は笑い始める。
目が充血し真っ赤になりながら口が裂け、歯が尖り、口元の骨格は伸びはじめて犬のようになって――――――ってもはや人間じゃねぇよ、アレ!
「尾野君!」
「駿!」
「え?」
と、ここで野和さんの声が後ろから聞こえてきた。
振り向くとそこにはやはり野和さんと三田川さんが息を切らした状態でそこに居た。
「え!? なんで!? 逃げていたんじゃ!?」
俺は慌ててそう言うと、
「近くに居たから、よ、呼んで来た!」
と、野和さんは嬉しそうに俺にそう言った。
呼んで来た?
え? 何を?
「キュアァアアア!!」
突然の奇声に再び視線を警官と半田の方へ移す。
奇声の出所は半田だったようだ。
半田は甲高い掛け声と共に警棒を警官の手から弾き飛ばして蹴りを喰らわせる。
警官は吹き飛びブロック塀にぶつかってしまう。
「くひゃひゃひゃひゃ。終わりでありますぅぅぅううう!!」
半田は飛び上がりナイフを警官に向けて縦回転をしながら突撃した。
「に、逃げて!」
俺はそう言うしかできなかった。
警官を助けに飛び込むことなんてできなかった。
だが、
ガシャァアン!!
半田の体にとてつもない速さで飛んできた自転車がぶつかったのだ。
「グギャ!? 今度はなんでありますか!?」
半田は地面に降り立ち自転車が飛んできた方向を見る。
「え?」
俺もつられて見てしまった。
そこに居たのは――――――、
「「本官が来たからには、もう安心でありますよ!」」
マジか。
「「さぁ、大人しくするであります!!」」
味方に警官が2人追加された。