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第18話 野和紗香を救うには


 『半田 雅人』という人物は、原作の設定では野和さんの家の近くに住む大学1年生である。

 野和さんが半田に襲われるという事件が起きるのは、本来ならばゲーム内時間で15日という日数が経ってからだったはずだ。登場時期も同じである。

 今日は9日目。つまり現れるのが本来よりも6日も早い。


 いや、だが主人公の前に現れるのがゲーム開始15日後というだけで、野和さんのストーカーがそれまで全くなかったわけではない。

 そもそも俺はこのゲームの主人公ではないのだ。

 つまり、半田 雅人が俺の前にいつ現れようと不自然ではない。


 事件というのは、まず鬼畜主人公が野和さんにストーカー被害を受けていると相談を受けたことから始まる。

 いや、相談と言うよりも気が更に沈んでいる野和さんに鬼畜主人公が無理矢理理由を吐かせた。と言った方が正しいかもしれないが……。


 野和さんは最近知らない人にストーキングされていると相談をしたことにより、鬼畜主人公は自分の女に手を出そうとしている半田に制裁を加えるべく動き始めた。


 そして主人公がいつの間にか作った部下達を使って捕まえたのが、『半田 雅人』という人物であったというストーリーだった。


 単にストーカを捕まえれば美談だったのかもしれないが、事件を解決したのが鬼畜主人公である。

 ストーカーにも勝るような行いをする鬼畜主人公に対し、俺は素直に喜ぶことができなかった。


 しかし、この時点で人前に現れるなんてもしかしてゲームの内容が変わってきているんじゃないか?

 紫藤ですら警察が学校に来ているというのに、不自然なほどちゃんと日時を守って犯行をしてくれた……。


 こうなると……原作通りに進めていった方が無難なのか?


「なぁ、紗香。今日も俺の家に泊まってく?」


「えっ!?」

「兄貴ぃ!?」

「……!」


 あ、言葉を間違えたかも。


「ちょ、ちょっと待って。え? やっぱり駿、今日は休んだほうが良い?」


「兄貴。やっぱり壊れちゃったのか……?」


「待って真希ちゃん。その言い方は……」


 野和さんと妹が焦った表情で話を始めてしまった。

 怒られなくて良かったと思う反面、心配させてしまい申し訳なく思う。


「野和さんが無理そうなら私が今日も泊まるけど……?」


「「え!?」」


 んん? なんか三田川さんが変な事を言い始めたぞ?

 いや、心配してくれているんだろうけど、今回は野和さんが目的なんだよなぁ……。

 あ、今の思考、『野和さんが目的』って変な誤解を生みそうだな。


「わ、私も大丈夫だよ! 全然問題ないですしぃ~」


「紗香ちゃん……」


 野和さんの声が上ずっていた。

 あぁ。やっぱり皆に変な誤解を与えているな。

 でも、女子から自分の家に泊まるという提案に満更でもない表情をされながらOKを貰うってなんかいいよね。

 あと、真希は野和さんの事を残念な奴を見る目で見ないでほしい。

 あれかな? 男の趣味が悪いとでも言いたいのだろうか?

 本当のお兄ちゃんだったとしてもそれは傷つくと思うよ? 他人ならなおさらだ。


 こうして三田川さんと野和さんは今日も俺の家に泊まることになった。

 ってか、ストーカーの半田が捕まるまでしばらく泊まってもらいたいんだけど、いつまで泊めればいいんだ?


 そんな事を考えながら三田川さんの家の前で待っている時、俺と野和さんのスマホが鳴った。

 妹のスマホも遅れて連絡が来る。


「何々?」


 スマホの画面にはSNSのメッセージが表示されていた。

 内容は、


『本日清高学園中等部~高等部は休校となります』


 という連絡が担任の五和先生から来ていた。


「「「「………はぁ?」」」」


 どうやら今日は学校に行かなくてもいいようだ。

 連絡遅いよ……。


 俺達はその後、三田川さんと野和さんの家に寄った後、尾野家へと戻っていった。










「「ただいまぁ……」」

「「お邪魔しまぁす」」


「え?! あ、お帰り。え? ……え?」


 母親はすぐに帰ってきた俺達を出迎えて困惑していた。

 理由を話すと納得してくれたが、今度は野和さんと三田川さんの存在を不思議がっていた。

 とりあえず、


「俺が二人を守るんだ」


 的な事を言ったら何を言ってんだこいつ? って顔をされた。

 ……悲しい。


「ちょっと待ってて。この部屋で待ってて」

 俺はそう言って野和さんと三田川さんを部屋で待たせつつ、家の庭へ出て電話を始めた。


「チュンチュン!」


「あ! ど、どうも。お疲れ様です!」


 とりあえず一心不乱に地面を突きまくっている雀に挨拶をしておく。


「チュンチュン!」


「その節はありがとうございました」


 この方には世話になったからな……。

 ……おや? なんだか家の中から視線が……。


「あっ」


 リビングに居た妹と目が合った。

 哀れみに満ちた目を向けられた後カーテンを閉められてしまう。

 ……悲しい。


「チュンチュン?」


「いえ、大丈夫です……」


 確か『ちゅん太』さんだったかな?

 気を使われた気がする。


 俺は涙を堪えてスマホを取り出し佐々木刑事へ連絡をした。

 そういえば佐々木刑事はあの狐面の巫女さんが送った助っ人だけど、助っ人だという自覚は無いんだよなぁ。


「<はい、佐々木です>」


「あ、どうも。尾野です」


「<……、やぁ。おはよう>」


 少し沈黙があったのは何故だろう?


「おはようございます。ちょっとお願いしたいことがありまして、ご連絡させていただきました」


「<うぅぅぅぅ……。またかよぉ。なんだよぉ、勘弁してくれよぉ>」


 佐々木刑事の泣き言は無視して俺は話を始めた。










「やぁ、みんな元気?」


 俺は恐る恐る自室に戻り、野和さんと三田川さん。そして何故か部屋に来ていた真希に話しかける。


「元気……」


 と、元気0.5倍の三田川さん。


「どうしちゃったの駿? わ、私は駿に望まれたらいつでも居ていいけど……」


 そりゃぁ、ありがたいぜ野和さん。

 ストーカー被害の手から悩まされずに済む。


「私も!!」


 急に元気10倍の三田川さん。

 いやー。美女にいつまでも一緒に居たいとか言われるなんてどこのモテ男だよ。

 嬉しいったらありゃしない。


 だけどふざけている場合じゃないんだよなぁ。


「えっと、今日はどうしようか? 外に遊びに行く?」


 などと、とんでもない事を野和さんは言い出す。


「あっ。いいねぇ。久しぶりにどこか――――」


 まずい。真希が乗り気だ!


「だ、ダメダメ。外はしばらくダメだ!!」


「「「えっ??」」」


 俺が急に声を大きくしたので野和さん達は驚いてしまう。

 まずい。怖がらせてしまったか。


「い、いや。監禁しようってわけじゃないんだよ? ちょっと事情があってね……」


 慌てて俺はそう言うが、


「なるほど。監禁ね……。私は構わない。その代わり尾野君の身の回りのお世話はきっちりさせてもらうわ」


 と、変なことを言い出す三田川さん。

 なにその代わりって。

 監禁は対価を払ってやってもらうことじゃないよ? 監禁される事が嬉しいの?


「あ、兄貴……」


 真希。その顔はなにかな?

 今のは俺は悪くないよな!?


「み、三田川さん……? いえ、駿。ちょっと話があるの」


「へ?」


 野和が真剣な目を向けてくる。


「駿。何か隠しているでしょう?」


 野和さんが近づいてくる。


「あ、いや……その……」


 やべぇ。勘付かれた。


「正直に言って」


 野和さん、近い近い! 嬉しい!


「うぅ……。はい……」


 俺は観念して全てを話すことにした。












 夜。


「明日保護者説明会が行われるらしいわ」

「またか! まぁ、あんな事があれば当然だろうけどな」


 父は母から伝えられた情報に呆れつつ、夕飯に手を伸ばしていた。


「それと……。駿の事、どうしましょう?」


「うぅぅむ」


 今度は話題を変えられ俺の方を見ながら二人で相談を始めた。

 そういうのは本人の居ない前でやってもらえませんか?


 どうやら二人からは完全に息子は心が壊れてしまったのではないかと思われているらしい。

 そりゃぁあんな目に立て続けに遭えば心だって擦り切れる。

 それに連日助けた女子生徒を連れ込んでいるのだ。明らかに異常だろう。

 これは両親にも話してもいいのだろうか?



 実は昼間、家に居た妹や野和さん、三田川さんには事情を話してしまった。

 どうやら野和さんに付きまとっているストーカーが居ると。

 しかし、やはり野和さんは大学生ぐらいの男の事は知らず、ストーカーをされているという自覚は無かった。

 逆に俺の勘違いではないかと疑われてしまったほどだ。

 というか、なんだか俺を可哀想な人を見る目で野和さんが見てくるなぁ。と思ったら理由が直ぐに分かった。

 どうやら朝の雀さんとの会話を妹が皆に伝えてしまったらしい。

 傍から見ればヤバイ奴だよね……。くそぅ、妹め、余計な事をしやがって!



「……よし、駿。明日病院に行って来よう」


 と、意を決した父がそう俺に言ってきた。

「は!? 嫌だよ!」

 当然俺は拒否をする。

 ちょっと待て。病人扱い早くないか?

 酷いぞ! 酷すぎる! 病院ENDなんて絶対に嫌だ!


「……駿。大切な事なんだ」


 ヤバイ。目が本気だ。

 こんな事で病院送りにしてしまったら誰が野和さんを守るってんだ?

 佐々木さんか? それとも雀さんか?


 ……あれ? 本当に俺必要か?

 これ結構守れるんじゃね?


「と、とにかく俺は病院に行く必要は―――」


「駿、お願い。お父さんの言う事を聞いて!」

「兄貴。何も無かったら帰されるだけだからさっ」


 なんと今度は母と妹が涙ながらに訴えてきやがった。


「……わかったよ……」


 チッ。何故俺は家族でもない女性陣の涙に負けるのだろうか……。


「あ、その。駿の気持ちはありがたいからね? 本当に感謝してるの。今までの事があるし、心配なのは当然だけど、ずっと駿の家にお世話になるわけにもいかないじゃない?」


 あ、野和さんが気を遣ってくれている。


「あんなこともあったし、私もなるべく校内ではひとりにならないようにするし、学校が終わったら真っ直ぐ家に帰るから。ね?」


 うぅん。野和さんは優しいなぁ。

 俺を言葉で病人扱いしないだけマシか。こちらを見る目が完全にソレだけど。


「…………」


 三田川さんも心配そうな表情で……いや、何か考え込んでいる?


「そうだぞ。駿。もし野和さんや三田川さんを家に住まわしたいのであれば、大人になってからそういう関係を築きなさい」


 と、父親が野和さんの意見に乗っかってそう言ってきた。


「なぁ。真面目な話をしてるんだよな? 親父」


 妹が直ぐに父親へツッコミを入れる。

 はぁ……。明日からどうしよう……。







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