第17話 真実を知った翌朝
目が覚めた。
昨日の夜、ゲームの世界に戻る為『強襲転校生』と名前が書かれたトンネルへ入り、家の玄関へと戻ってきた。
出迎えたのは虚ろな表情で玄関に突ったっていた俺だったので驚いたぞ。
そして直ぐに「あぁ、これがあの巫女さんが言っていた俺の体か」と思い出した。魂だけがあの世界に行けたみたいだからな。
突っ立っていた俺自身を見てどうしようかと思ったが、体に触れるとスゥッと目の前の自分に引き寄せられ、一体化することに成功した。
「さて、起きるか――――――ん?」
人の気配?
「おぉ……」
両隣には少女達が安心しきった顔で寝ている。
「(うわぁぁぁぁぁぁ。そういえばそうだったぁぁぁ)」
心の中で叫んでみた。
俺はあの不思議な世界から自分の部屋へと戻って寝たのだが、両隣の女子達の事まで気が回らなかった。
ちなみに色々と衝撃的なことを知りすぎて寝付けないかな。と、思ったが、そんなことはなかった。
布団の中に入れば意外と早く寝付けてしまった。
俺の心臓強すぎない?
「(……)」
それよりももう一つの現実を直視する。
それは彼女でもない高校生の女子生徒達を自分の部屋に泊めてしまった事だ。
彼女達が設定上18歳以上であるという事は救いになるのだろうか?
いやぁ、それはどうなのだろう。
まさか鬼畜系ゲームの世界がハーレムものになるなんて思いもしなかったけど、こんな状況になる事も想定外だ。
いや、確かにこの世界に入った時はハーレムなんてものも期待したけど、こんな時にハーレムができて喜んでいられるほど俺は無神経ではない。
「あ……」
首元を確認すると、首に掛けられていたお守りを発見した。
「あれはやっぱり夢じゃなかったのか……」
狐面の巫女さんと神主さん。
あれこそ夢のような感じだったが首に掛けられているお守りを見るからに現実だったのだろう。
「…………」
それにしても今になって魔物やら神様などととんでもない情報を与えられてしまったな……。
俺の中の常識が簡単に崩れてしまう。
「だけど、味方を得られたのは良いことなのかな……」
俺の未来に少しだけ希望が見えてきたかもしれない。
「あ。おはよう……」
「!? お、おはよう」
隣の布団で寝ていた三田川さんが起きてしまった。
寝ぼけ眼で俺を見ながら挨拶をしてくれた。
「んっ、んん~~……。あ、駿。おはよう」
「あぁ、おはよう」
ベッドで寝ていた野和さんも起きたようだ。
こちらは三田川さん以上にうつらうつらとしている。
すると、
「!?」
カッと目を見開いた野和さんは、
「あわわわ。あわわわわわ!」
と、急に慌てだす。
何事かと俺も慌てる。
「本当に駿の部屋で泊まっちゃったよぉぉ……」
などと言ってあわあわ言っている。
なんだ……。そんな事か……。いや、そんな事ではないけど。
「落ち着いて。深呼吸をするんだ」
「いや、原因は駿だから……って、本当に何もしてこなかったんだね……」
何言ってんだ? こいつ。
え? もしかして何かして欲しかったの?
だったら今からするけど?
「野和さんのエッチ」
そう茶化すように三田川さんが野和さんを白い目で見ながらそう言うと、
「ち、ちちちちがうもん!!」
と慌てて否定をする野和さん。今更否定しても遅いと思う。
なんだこいつ等。可愛いな……。
俺がそうほのぼのとしていると、
「兄貴ぃ。起きてるか? ってか、朝からイチャついてんなよ……」
と、妹がいつの間にかドアの向こうに居たらしい。
「あ、あぁ……」
外まで聞こえてしまっていたことに小恥ずかしさを感じつつ、俺達三人は部屋を出た。
それぞれ顔を洗ったりして身支度を整えてリビングへと移動する。
あ、ちゃんと椅子が二つ追加されてる……。
そしてちゃんと6人座れるようにしてあった。
朝食も6人分用意されている。
「おぉ! おはよう。昨日の夜はちゃんと眠れたかい? うひひひ」
そう何故かいやらしい笑みを浮かべながら父親が俺達に聞いてきた。
あ、いや。なんとなく分かったぞ。このエロ親父め。
「エロジジイ!!」
妹の方が先に反応して父親に文句を言っている。
「なんにもねぇよ」
とりあえず俺はそう言った。
「あらおはよう。駿、大丈夫だったの? なんか昨日様子おかしかったけど」
「あぁ、大丈夫だよ。みんなも心配掛けて悪かったね」
母親が心配してくれたのでついでに皆に謝っておく。
「うん、大丈夫なら良いんだけど、無理はしないでね」
本当の母親じゃないけど、心配してくれるのはありがたい。
「分かってるって。頂きます」
これ以上心配されても可哀想なので俺は普通の態度で朝食を食べ始める。
「あ、いただきまぁす」
「……いただきます」
「はぁい。どうぞ~」
野和さんと三田川さんも戸惑いながらも食べ始めた。
母親はニコリと笑って朝食を進める。
「今日は駿が好きな椎茸をお味噌汁に入れてみたんだけど……」
うひゃぁぁぁぁ。
今この母親なんて言った?
「兄貴のキノコ好きは異常だよな」
「男の子だもんな。キノコは大切だよな」
「黙れよクソジジイ!」
なんか父親と妹が喧嘩を再発させた。
「お、おおぅ」
俺はそんな微妙な返事しかできなかった。
しかしなんなんだ?
椎茸が好き? キノコ好き?
俺は嫌いな食べ物No.1が椎茸なんだけど……。
ハヤシライスの時もそうだったけどなんなのこのふざけた設定は!
何故俺が嫌いな食べ物を好きな食べ物として設定されているんだ!!
やはりこの世界は野和さんが幼馴染である事と同様に勝手に俺のプロフィールが決まってしまっているようだ。
容姿は若返った意外変化が無い事は素直に喜んでおこう。
この容姿、事件解決したら元に戻るんだよな?
こうして俺は嫌いな食べ物が入った朝食を終え、身支度を済まして学校へと行くため家を出た。
今日は4人で学校へ登校する為通学路は賑やかになるだろう。
「具合が悪くなったら直ぐに早退してくるのよ」
と、母親に言われた。
「あ、うん。そうするよ」
今日はいつもより20分ほど早く家を出る。
理由は、
「ちょっと家に寄っていきたい」
と、野和さんと三田川さんが言い出したのだ。
なんでだろう?
そうして到着した野和家。
「何をしてるんだろうなぁ」
そう野和さんが一旦家に帰っている最中、一緒に野和家の前で待っている妹に話しかけてみる。
「いや、昼飯でしょ」
と、真希は答えた。
「あぁ、そうだ。俺の家に泊めちゃったから、野和さんのお弁当が無い!」
「お待たせぇ~」
慌てた様子で野和さんが出てきた。
ついでに野和さんの母親も出てきたので、挨拶をしておいた。
「あらあら。うふふふ」
……。
くそぅ。野和さんの母親もこっちを見て、俺の父親と同じでいやらしい笑みを浮かべてやがる!
いちいち訂正することに時間を掛けていられないので、
「それじゃぁ、行って来ます!」
と、足早にその場を去り、三田川さんの家に行くことにした。
「……!?」
その時、このタイミングで居るはずの無い人物が俺達の横を通り過ぎた。
「チッ」
そいつは俺達に聞こえるか聞こえないかの音量で舌打ちをして去っていく。
「…………」
「どうしたんだ兄貴。怖い顔をして?」
どうやら妹達は今横を通り過ぎた人物の舌打ちには気付かなかったらしい。
「あぁ、いや。昨日は皆に申し訳無い事をしたなぁと反省していただけだよ」
ここで騒ぎでもしたらまずいことになるかもしれない。そう思って誤魔化した。
「そうかぁ。あんまり気にすんなよ」
心配そうに質問をしてきた妹はホッとした様子だった。
ここは俺の心配をしてくれていたことに感動するべきなんだろうが、
「……」
だけど俺の心臓はバクバクと鳴っている。
ヤバイやつが出てきたな。
本当ならもう少し後に出てくる予定だったんだけど、もう出てきたのか……。
野和さんのストーカー。『半田 雅人』――――。
狐の仮面の巫女:「はい、ということで今回から特別に解説役として登場しました、本作主人公である『尾野 駿』さんにこの世界の情報を伝えた巫女、『榊 琴音』です!」
雀:「ちゅんちゅん!」(訳:雀の形をした式神、ちゅん太です。
琴音:「では早速主人公視点だけでは語られなかった情報を公開していきましょう」
ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:よろしくお願いします。
琴音:「ではこの作品の癒し、ちゅん太について説明します」
ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:僕ですか?
琴音:「ちゅん太の性別は雄。元々この世界に送り込んだ姿は人の姿にも変化可能な鷹で、いざとなったら尾野さんを助ける為の強力サポートキャラでした」
ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:悪霊共に妨害されて人化できなくなり、雀にまでスケールダウンしました。
琴音:「連中、かなりの強さで参っちゃったわぁ~」
ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:というか、ゲームの世界と現実世界をつなぐ為の空間って、水平線が見えるほど広く作らなくても良かったんじゃ? その分の力を妨害されないように強固な術に回せば……。
琴音:ギクッ
ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:お主、いったい何を企んでいる……?
琴音:「では今回の解説はここまで! さようならーーー!」