第15話 この世界の真実
2話連続投稿します。
神主さんは俺をずっと見ている。
ちょっと怖いんですけどぉ……。
「………………」
えぇい! ここは勇気を出して、
「あ、あのぉ」
俺が声を掛けてみると、神主らしき人物はゆっくりと社の方へ手を向ける。
入れって事なのかな?
いいのかなぁ?
とりあえず前に進んでみよう。
止められる様子はない。
そして、社の前まで来る。
「……これ、登っていいのかな?」
俺は意を決して社の階段を上がり、障子戸の前に立つ。
普通、こういった社は木製の扉か奥が見えるほど解放された空間のどちらかと思っていたのだが、ここにある神社はそういう造りではないらしい。
この中に入ればいいのか?
誰かいるのだろうか。
「す、すみませぇーん。ごめんくださぁーい」
俺は緊張で震えながら社の中へ向けて声をかける。
すると、
「どうぞ。入ってきて下さい」
「!?」
中から声が聞こえてきた。
女性の声だ。
「失礼します……」
ススス。
警戒をしながらゆっくりと障子を開ける。
すると、中には先ほどの神主と同じ狐の面をした巫女さんが正座をして座っていた。
対面側に座布団がある。
その他に目を引いたことと言えば、部屋の奥には豪華に装飾された丸い鏡があったことぐらいだ。
「どうぞ」
と、座布団に座るように促された。
「……あっ、はい」
俺は障子を閉めた後、恐る恐る座布団へ座る。
大丈夫なのだろうか?
さて、座ったはいいが、どうすればいいんだ?
「……」
「……」
目の前の女性は俺の方を向いたまま黙っている。
とりあえず質問をしてみようかな。
「えっと、あなたは……」
俺はそう質問をすると、
「申し訳ありません。名前を名乗ると"敵"にあなたを通して私達の情報を知られ、警戒されてしまう可能性がありますので、申し上げることはできません。
ただ、あなたの味方の退魔師……とだけお伝え致します」
どういう事? 俺を通してって、俺の頭の中覗かれ放題って事なの?
なにそれ怖い。
「そ、そうですか」
それにしても味方の退魔師……か。
えっ、退魔師!?
何故に!?
味方というのが本当かどうかは分からないが、色々と事情を知ってそうだけど……。
色々と話を聞きたいのだが、今のように"敵"に知られたら厄介だという事で拒否されてしまう可能性があるな。
いや……それでも聞いてみないことには何も始まらないだろう。
俺は意を決して狐面の巫女に次の質問をしようとしたところ、
「いやぁ~。まさか何の関係も無い一般人が巻き込まれているなんて思いませんでしたよ。よく今まで無事だったなぁ。良かった良かった」
と、急に嬉しそうに話を始めた。
急に砕けた態度になったな!?
それと、あの世界で入院とかしまくってるから、無事じゃないんだけど……。
「いった……いや、俺がさっきまでいたあのゲームの世界の事ですよね?」
『いったい何のことか?』なんて分かりきったことを聞くつもりは無い。
明らかに目の前の巫女さんはあの世界の事と俺自身について話をしていた。
この巫女さん。かなりの情報を知っているか、もしくはこの妙な世界に俺を連れ込んだ関係者かもしれない。
そう判断をした。
「はい、あの世界の事です。…………うん、貴方にはある程度話しておかなくてはいけないかな。今後、生き残る為にも……ね」
「生き残る?」
巫女さんの不安になるその一言に俺は反応した。
「待って、俺はまだあの世界から抜け出していないのか!?」
安心しきっていた。
何故かこの空間に居るだけで心が落ち着いてしまっていたので、再びあの訳が分からない世界に放り込まれるのかと焦ってしまう。
ここに来れば助けが求められると思っていた。
だが……仮に今すぐ戻ることができるとしても、俺はあのヒロイン達を助けたいという気持ちはある。
俺一人でも助けに戻るのは正解……なのか?
間違いとは思いたくはない。
「うん、そう。残念ながらね……」
巫女さんは俺があの世界からまだ抜け出せないと聞いてがっかりしていると思ってそう言ったのだろう。
いや、まぁその通りではあるんだが、彼女のその一言で覚悟はついていた。
やはり、ゲームストーリーを知っている俺が何かしらの対応をするべきなんだろうな。と、
「でも、一生出られないかは貴方の頑張り次第で変わってくる」
「え?」
頑張る? その言い方だと何か頑張れるものがあるというのか?
「説明していきますね。貴方が置かれている今状況ってのを――――」
こうして巫女さんの説明が始まった。
その内容は俺があのゲームの世界に入り込んだという状況と同じ位驚きのものであった。
「貴方はゲーム『強襲転校生』の世界観に似た世界に一週間ほど前入り込みました。
ゲームをやっていた貴方はそれに直ぐに気付いたはずです」
「あ、あぁ。それは直ぐに気づいた。よくあるネット小説のような状況だと思ったよ」
最初は状況を楽しもうとワクワクしていた気がする。だけど、あのクソ主人公がいる世界だと気付いてからは楽しめるわけが無い。
「うーん、そのネット小説というのはよく分からないですが、私達の予想以上にあなたは冷静でいてくれていたおかげで、救助の対策も順調に立てられました」
「まぁ、ゲームの世界だと浮かれていたのもあったかと思う……。こんなに怖い目に遭うとは思わなかったけど。
ちなみに、元の世界でベッドで寝ていると思う俺の身体って大丈夫なんですか?」
元の世界に戻るにしても元の身体が死んでいたら意味がない。
「あぁ、それは大丈夫です。体ごとこっちの世界に来ているようなので」
「えっ!? ゲームの世界に体ごと来ているの俺!?」
「えぇ、そうですよ」
嘘だろ!? そんな事可能なのか??
どういうことだよ。肉体がパソコンの中にでも入っているのか??
「まぁ、そういった細かいことは置いておきましょう。
今はこの世界の事について話します」
細かい事ではないと思うのだが……。
「さて、ではあの世界を作ったのは誰かという話をしましょう」
「せ、世界を作った?? この世界は誰かに作られたものなのか!?」
なんだかとんでもない話になってきたぞ……。
「はい。あのゲーム世界を作った者。
正確に言えば、ゲームに似た世界を作った者。
それは……"神"です」
「神!?」
いや、まぁ、世界を作るぐらいだから神様なんだろうけど、何故に!? それにどこの神だよ。こんなはた迷惑な世界作ったの。
「呼称が"ゲーム世界に似た世界"と言い続けるのは面倒なので、以後、あの世界の事は『ゲーム世界』と呼びますね。
ただ、この神という存在はあなたが居た日本。つまり、世間には知られていない一部の一族だけが知っていた神様です。
有名な神様ではないので、調べても出てこないと思いますよ?」
「は、はぁ」
神とはまた、突拍子も無い存在が登場したものだ。
俺があの世界に入り込む前であれば、いきなり神とか言われても信用できなかっただろう。
しかし、俺はあのゲームの世界に入り込んでしまっている。超常現象であるその出来事に対し、神という存在は以外にもすんなりと受け入れることができた。
「続けます。その神様が悪さ……と言えばいいんでしょうか? とんでもない事をしでかしたんです。それは大掛かりな術でした。部類的には呪術ですね……。現実世界の住人の魂ごとゲームの世界に連れ込むという外法中の外法。恐ろしい術です」
「そんな……なんで!? なぜ俺がそんな目に!?」
祠を壊した覚えも無いし、神仏の像も手荒く扱った事も無い。
俺がそんな術を掛けられてしまう理由が分からなかった。
「貴方が狙われて掛けられたわけではありません。貴方はあくまでも巻き込まれてしまっただけ。理由は今の所わかってはいません。貴方は関係性は無いだろうという私達が集めた情報からの予測ですけどね……」
私達が集めた……?
外にいる狐の面をした神主風の男と一緒にという事だろうか?
「魂を持って行かれたのは、あのゲームのヒロイン7人。悪役の連中等ですね。他にも幾人か居るようですが……」
「ちょっと待て! あのゲームのヒロイン達は本当に生きている人間だったのか!?」
ヒロイン達も神によってあのゲームに取り込まれた人間!?
急に寒気が襲ってきた。
俺がもし所詮ゲームの世界だと、鬼畜主人公達の暴虐を傍観をしていとしたら……?
そう考えるとヒヤっとしてしまった。
「そう。本人達は記憶を塗り替えられてしまっているようですけどね。ただし、その子達。ヒロイン達を含めた被害者の魂は私や貴方が生きている時空の魂では無いのです。別の世界の未来……うぅんと、もしかしたら『平行世界』や『パラレルワールド』って言い方の方が分かりやすいかな?」
パラレルワールド?
平行世界? つまり別の世界って事か?
「もう面倒な説明や前置きは無しで、何故神はそんな事をしたか。私達が調べた上での予想になりますが伝えます。
こんな事をしでかした神が居た世界で、貴方がやったゲーム『強襲転校生』のような事件が起きたみたいなんです」
「え!? あの胸糞悪くなるストーリーが実際にあったのか!?」
「別次元の話です。私達が居た世界では起きていない……いえ、起きなかった事件です。事件内容も微妙にゲームと違っているようですが」
俺が住んでいた世界では起きなかった事件だと聞いて少し安心……いや、別の世界でもヒロイン達が悲惨な目にあっていたという事実を知って暗い気持ちになる。
「続けますね。
神はその被害者の中に大切な存在が居たらしく、激怒して犯人を別の平行世界にいる犯人の存在まで丸ごとゲームの世界に閉じ込めてしまったらしいのです。被害者と一緒にね」
「え? 何故被害者も??」
「正確な事は分かりません。けど、予想では被害者の中には心が壊れて自殺や犯罪に関わってしまった子も居たらしい……からかな? と、分析しました。天国へ行けないから地獄へ行くよりもマシだ。という考えかもしれないです。そうじゃない子も居るみたいだけど……」
「ということは、俺みたいに生きている状態からではなく、死んでから連れて行かれたって事?」
「その通りです」
心が壊れてしまい鬼畜転校生の犯罪に加担する。確かゲーム内では三田川さんがそれに該当していたな……。
そして自殺をすると天国に行けない。か……。そういう考えの宗教は確かにある。だが、本当のところはどうやら巫女さんも分からないようだった。
「で、神様はゲームの世界に閉じ込めて犯罪者達が間抜けなキャラになるゲームを作ろうとしていたみたいです。なんかゲームを解析をした協力者がそれらしい痕跡を発見してました」
「え? 実際のゲームは真逆だったんだけど……」
神様は急に心変わりでもしたのか?
あれか? 実際にこういう事件があった事を忘れないようにしてほしい。とかそういう事か?
鬼畜な神様じゃねぇか!
いやいや、たぶん違うだろうな。それならわざわざ被害者の魂を取り込む必要がない。
「どうやら、犯人達が神様でも抑えきれないほど"魔物"化しちゃったらしくて……。ゲームを勝手に作りかえられたみたいなのです」
「えぇぇぇぇ……」
神様ぁ……。
弱すぎるし間抜けすぎるだろ……。
「まとめると、実際は犯人達をゲーム内で痛い目に遭わせてゲームの中に取り込んだ犯人達を苦しめよう! って考えてたみたいだけど、乗っ取られちゃった上に、被害者の魂達が酷い目に遭ってしまうという最悪なシナリオができてしまった。って感じかなぁ」
「うわぁ」
おバカにも程がある……。
「私達がいる現実世界にも影響が出始めちゃってねぇ……。
元々ゲーム世界を作った神様が各世界に犯人達が酷い目に遭うゲームをばら撒こうとしてたみたいなんだけど、それを魔物たちが乗っ取っちゃったみたいで……」
なにそれ? 怖ぁい。
「このゲームって術による魅了効果が一般の人に与えられるようで、いく人が増えだしてどんどんと広まっていって悪い"気"がいろんなところで放出されるようになっちゃったのです。下手をすれば現実世界の犯罪率が高くなるとか最悪魔物化した犯人達が蘇って悪さをする事になるかもしれないの」
「一大事じゃねぇか!」
なんて事してくれちゃってんの? 神様!?
って、このゲームは術で魅了されるのかよ!
道理で俺の友人がこのクソゲーを褒めまくっていたわけだ。
「そこで、貴方が重要となってくるのです!」
「え? 俺!?」
突然巫女さんはビシィッと、指を俺に差してきた。
「貴方はどうしてかは分からないけど、ゲームの魅了の術に対抗でき、ゲームの世界に入り込んだ上ストーリーを"改変"し続けてきました。それはあの魔物共にとっては予想外の出来事だったはずです。
生者であの世界に入ることができるのは貴方だけ。
もし、生きている私や私の仲間が無理矢理入り込もうとすればあの世界は魔物達が察知して崩壊させてしまうでしょう」
「ん? あ、おぉぅ」
俺があの世界に迷い込んだことによって内容が変わってきている?
「そして貴方は今、あの世界から出ることができない状態ですので、あのゲームで起きている事件を全て解決するか、私達が解決するまであの世界で待っていただくしかありません。
私としては、我々と協力してゲームをハッピーエンドにしていただきたいのです。その方が、あの世界を脱出できる確率が上がりますよ?」
「まじかぁ」
覚悟はしていたけど、実際にそう言われると、あの世界の変態共を相手にするのは滅茶苦茶怖いんだけど。
説明回って難しい。