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第14話 夢を見ているのだろうか



 放課後、俺と三田川さんはそのまま帰された。

 警察署とかには行かなくてもいいのか。


 よかった。

 もう帰って体を休めたい。


 だけど、一人ではなんか不安だな……。


 三田川さんの件は女刑事が責任を持って対応するとの事。そして、訴えるのであれば早めに言ってほしいとお願いされた。


「駿! 大丈夫!?」


 俺は三田川さんに手を引かれ、トボトボと校門から出たところで野和さんに声を掛けられる。


「あ。っうー野和、さぁん」


 働かない頭で野和さんを認識する。

 先程から認識はしっかりとしているのに、言葉がうまく出ない。


 何か自分ではない何かが意識の中に入り込み、邪魔をされている感じだ。


「ど、どうしたの!? 何があったの!?」


 大丈夫じゃないかもしれない。


「実は……」


 説明は全て三田川さんがしてくれた。

 その間俺の身体は上の空だ。

 意識ははっきりとしているので、三田川さんがちゃんと経緯を説明してくれている様子は理解できる。


 三田川さんが説明を終えると、


「そんな事が……」


 と、野和さんが不安そうな顔で俺を見ている。


「そう。だから私は彼を支えて家まで送ろうとしていた……。尾野君、ショックが大きいようだから……。だけど私、彼の家が分からない……」


「そうだったんだ。ありがとう。じゃぁ、私が案内するからもう大丈夫よ」


 野和さんはそう言って俺の空いたもう片方の手を引いてくれた。


「えっ……」


 三田川さんから驚いた声が聞こえる。

 俺のもう片方の手は三田川さんと繋いでいたのだが、なぜか三田川さんの手をギュッと握り締め、離さないのだ。


「駿……? 三田川さんが帰れなくなっちゃうよ?」


 野和さんが俺に言い聞かせるように言うが、


「あー……」


 俺からは気が抜けたような返事しか返せない。


 おい。どうしちゃったんだよ俺!


 ちゃんと三田川さんの手を離して家に帰るんだよ!


「駿の目の焦点が合ってない……。どうしよう、離さないね……」


 えっ、嘘っ。


「うん。こうなったら私も尾野君の家まで一緒に行くよ」


 二人は俺を家まで送り届けてくれるようだけど、それでいいのか俺!


 俺は右手で野和さんに手を引かれつつ、左手は三田川さんの手を引いて歩き始めたのだ。

 なぜ自分がこんな事をしたのか分からないが、3人で歩き始めてしまった。


 おかしい。足の感覚も無い。


「えっと、駿。三田川さんに悪いよぉ」


 歩いている途中、そう野和さんは言ったが、


「私は大丈夫。今の彼、精神的にボロボロなはず。何人かで見ている必要があると思うから……」


 三田川さんはそう言うと、しっかりと手を握ってくれた。

 そう言う三田川さんも精神状態はボロボロのはずなのに……。







 こうして俺は自分の家まで着いた。

 庭先に居た地面を必死につつく雀が妙に気になったが、何故だかわからない。


 二人は俺の家に上がる。


「あら~駿。お友達? って彩香ちゃんじゃない! 家に来るなんて久しぶりねぇ。……あれ? なんで皆で手をつないでいるの?」


 などと、母は喜んだ後、戸惑っていた。


「あ、彩香お姉ちゃんだ! 久しぶりぃ。兄貴はなんでハーレムみたいな事してんの? まぁいいや、ねぇ、聞いてよお母さん、今日学校でさぁ~」


 後から来た妹が母親に話しかけることで、俺はすんなりと自分の部屋に誘導されることに成功した。


「えっと、これでいいかなぁ」


「大丈夫そうには見えないけど……」


「駿のお母さんに言っておいた方かいいよね?」


「そう思う……」


 二人からそんな会話が聞こえた。

 そうして二人が部屋から出て行こうとする。


 それに対し、なぜか俺は二人の手を強く握り締める。


「ちょっと!? 駿??」


「?」


 二人はキョトンとした顔だ。


「二人ハ守ル。絶対二守ル。側ヲ離レチャ駄目ダ」


 俺はうわ言のようにそう言って二人を引き止めた。

 何言ってんの!?

 頭おかしくなっちゃった?


 何故俺は自分でこんな事を言っているのか分からない。


 だけど、確かに二人を守りたいという気持ちはある。

 しかし、何故こんなに守ろうと思うと気持ちが増幅されて溢れてくるんだ?


 感情の制御ができなくなっちゃっているなこれ。


「何を言っているの? 駿!? 本当に大丈夫??」


「……」


 野和さんは俺の肩を揺さぶり、三田川さんはジッとこちらを見て何かを考えているようだった。

 すると三田川さんが、


「わかった。尾野君。今日、私はこの家に泊まる。これで安心でしょ?」


 と、提案をしてきた。


「えっ!?」


 驚いた声を出したのは俺ではなく野和さんであった。


「ちょっと待って! 男子の家に泊まるって……駄目だよそんな!」


 野和さんは三田川さんの意見に否定をしているが、


「尾野君はそんな事する人じゃない……。それに、仮に尾野君にそういう事されても問題無い。彼には返し切れない程の恩があるから」


 と、とんでもない事を言ってくる。


「えぇぇぇ……」


 野和さんも三田川さんの決意に驚いていたが、


「……分かった。じゃあ私も泊まる!」


 と、野和さんもそう言い出した。


 なぜそうなる!!


「えっ……?」


 これには三田川さんも目を丸くしている。

 そして、


「もしもし、お母さん? 今日、尾野君の家に泊めてもらうから! ……そういうのじゃないから! とにかく泊まるから!」


 野和さんは既にスマホで母親に連絡をしてしまったようだ。

 電話を終えると、


「これでよしっ」


 と、満足気な表情をしている。


「よく許してくれたね。私の家は私なんてどうでもいいと思っている家庭だから問題ないけど……」


 三田川さんは若干呆れつつも取り出したスマホで一応親に連絡をしているようだった。

 もう何が何だか。だ……。




 両親や妹への説明を野和さんと三田川さんにしてもらった。

 母親に「しっかりしなさい!」と往復ビンタを食らわされ、妹に「兄貴が堂々と二股してる……」なんて呆気にとられた表情をされ、帰ってきた父親に「すげぇ。俺もやってみたい」と言われた。その後父親が母と妹に白い目で見られていたのは可哀そ……いや、自業自得だった。


 食事はあんまり喉を通らなかった。

 俺が嫌いな食べ物だったという理由もある。

 何故母親は、「貴方の好きなハヤシライスよ~」と言ってきたのだろうか。

 俺、ハヤシライス嫌いなのに……。


「駿。ほら、あーん」


「尾野君。あーん」


 ま、美少女二人からあーんされているからいいけどね。


「駿が良くて、なんで俺が白い目で見られているの? ねぇ、なんで?」


 親父は懲りずにそんなことを言っていたが、それはお前が既に妻子持ちだからだよ。




 風呂には入った。

 久々に父親と入ったが、父は俺にどう声を掛ければいいのかわからないといった様子だった。

「お父さん、自分に正直になっただけなのになぁ」

 などと言ってくる。

 うるせぇ。反省しろ。


 就寝時、俺は床の布団で寝て、野和さんが俺のベッド。三田川さんは俺の横で寝た。

 なんでだよっ!!


「これで駿が安心して寝られるね。でもよかったの? 私がベッドを使って……」


「問題ない。ベッドに三人は入れないし、尾野君が布団に居るなら何かあっても私の布団をくっつけて三人で寝られる……」


 俺が真ん中だったので、川の字になった形だ。

 三田川さんは何を想定しているんだ?


 ……しかし、俺の身体、どうしちゃったんだろうなぁ。


 明日には体は元に戻って欲しい。

 いや、こんな嬉しい状況だけは続いて欲しいが。


 そんな事を思っていると、俺は安心したのか直ぐに眠気が来た。


 いい根性しているよなぁ。俺。











 夜中、何故か目が覚めた。


「……」


 手足の感覚は元に戻っている。


 試しに手を伸ばしてみるが、自分の意思でしっかりと動かすことができた。


「うわぁ……」


 そして小さくそんな声を出てしまう。


 恥ずかしい。超恥ずかしぃ!


 俺は何故か極端に思考能力が低下したような行動をして、野和さんと三田川さんを家に引き止めた。


 両隣には二人の女子が寝ている。


 なんて状況だ。

 なんで俺は自分の意識に逆らってこんな事をしたんだ?


 しかし、人生でこんな経験一度もした事が無い。貴重な体験だなぁ……。

 イタズラしちゃおうかなぁ。


 そんな馬鹿げた事を考えた後、尿意を催し静かに部屋を出る。


「……寒い」


 廊下は5月下旬だというのに、季節外れな程、妙に寒かった。


 1階に降りてトイレを済ませ、2階に戻ろうとする。

 うぅん、自らあの場所へ……あの中央の布団に戻るのか……。

 ちょっと勇気がいるな。

 そんな事を考えた後、ふと玄関を見た。


「なんだ?」


 何故か俺は外が気になった。


チュンチュン。


 鳥のさえずりが聞こえる。

 雀?


 夜中……だよな?


チュンチュン。


 実はもう朝なのか?


 玄関の扉の上部にある曇りガラスは闇の色を映していた。

 つまり朝ではない。


「……」


 普段では絶対しないだろう事であるが、俺は玄関でサンダルを履いた後、鍵を解除して扉を開く。


「……え?」


 そこは闇だった。


 夜と言うわけではない。

 闇のトンネルである。


 街灯の明かりも星明りも見えない。

 はるか前方にポツンと白色の光りが見えた。


「どうなってんだ……」


 慌てて後ろを向き、家の中に戻ろうとしたが、


「そんな!?」

 家は無くなっており、開けたはずの扉も無くなっていた。

 代わりにあったのは光りの無い闇の道だけだ。


 家があった方向の闇は怖くなり、光りがある方向へと駆け出す。

 サンダルを履いていて良かったと思った。


 これが何かの罠なのか、それとも夢なのかはわからない。

 ひたすら光りの方向へと走る。

 すると、光りはどんどんと大きくなっていき、


「出られた……」


 目の前に広がるのは青く透き通った水が一面にある世界だった。



 規則的に置かれたような水面から3mほど突き出た長い柱と、人が渡れるように作ってあるのか、等間隔に置かれた平たい正方形の石の道。

 道もこの海だか湖の底から出ている柱の一種と考えていいのだろうか。


 俺が居た場所はちょっとした丘になっていた。

 そこにポツンとトンネルがある。

 古いトンネルと言える見た目だ。

 だけど、横から見ると途中で消えている。

 半透明になった後、奥は完全に消えているのだ。

 材質を見てみると石造りで、トンネル名が『強襲転校生』と書かれている。


「なんじゃこりゃ。もしかして、ゲームの世界から出られたという事なのか?」


 淡い希望を持ち、俺は丘から降りて 石の渡り道を進んでいく。

 意外と足場は広い。


「おぉぉ! これはやっぱり元の世界への道かも……ん?」


 トンネルから見た時は柱が邪魔で見えなかったが、何か建物らしき存在が見える。

 とりあえずあそこに行ってみよう。


 トントンと石の道を歩きながら周りを見る。


 はるか先は水平線が広がっており、空には2割りぐらい雲が漂っていた。

 綺麗な澄み切った青空と水の世界。

 海だか湖だか分からないが、底が見える。


 魚はいない。

 一匹も……。


 生き物の姿は見えないが、不思議と嫌な感じはしない世界である。

 来る時、雀の鳴き声が聞こえた気がしたんだけどなぁ。


 だけど、ここは本当に、すごく綺麗な世界だ……。


 そういえば結構明るいけど、太陽は何処なんだ? 見当たらないんですが。


「着いたか……」


 建物は意外と大きかった。


 幾つもの石の上に木の柱がある。その柱が支えているのは神社らしき建物だった。

 木造の鳥居と階段。

 どれもこれも真新しい。


「登っても良いのかな?」


 俺はこの建物に危険性を感じて躊躇しているわけではない。

 この建物に入ったことにより、あのゲーム世界から脱出できるのではないかと考えたからだ。


 もし、ゲーム世界から脱出できたとしたら?


 いったいこれから先、あの世界のヒロイン達は誰が守る?


 俺は所詮はゲームだと切り捨てないと考えたばかりじゃないのか?


「……だけど」


 ここは神社。


 偽りかもしれないが、このタイミングであのゲームでは出てきていないステージが出現した事はきっと意味があるんじゃないか?


 しかし、俺だけあのイカレた世界から脱出するというのは後味は悪いな。


 せめて最後までヒロイン達の面倒はみたいが、もしこの神社に神様でもいるのであれば、俺がその神様に助けを乞うてみるのも一つの手ではないだろうか?


「……よし」


 俺は意を決して階段を上り、この建物が何なのか調べることにした。


カコン、カコン。


 上っていく最中周囲を見ると、やはり水の世界が広がり、陸地といえるのは俺が出てきたトンネルがある小島のような丘だけであった。


「えっ?」


 上に上がってくると、大きな社があった。

 驚いたのはそれだけではない。


 "人がいた。"


「……」


 俺は警戒をしながら近づいた。


 俺が見つけた人は、狐の面を着けた神主らしい格好をした男で、境内からジッとこちらを見ている。


 なにアレ、怖い……。


次回から2話連続で説明回になります。

このゲーム世界は何なのか。

主人公の尾野駿がこれからどうしなくてはいけないのかを知る話です。


もしかして、長すぎたかなぁ……。

上手くまとめられたかも心配です。

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