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第12話 三田川麗子を救うには





 昼休み。

 授業を終えると俺と三田川さんはそろって人気が無い教室へと移動する。

 誰かがこっそりと付いてくるか?と思ったが、そんな様子はないようだ。まぁ、尾行に気付けるほど俺は気配察知に長けているわけではないけどね。


 移動したのは記憶に新しい旧校舎だった。

 本来であれば立ち入り禁止であるが、あの不良達も使っていたことから出入りは自由らしい。玄関の南京錠が壊されていたしね。

 ここには嫌な思い出しかない。

 ゲームをプレイしている時もそうだが、この世界に来てからもだ。


 旧校舎の一室に入ると、


「尾野くん、話をする前に確認をしておきたい……」


「ん? なんだ?」


 真っ直ぐ俺を睨みつけるように見ながら三田川さんはそう言ってきた。


「私がクラス変更になったのは、尾野君が先生にお願いをしたから?」


「あぁ、そうだね」


 別に隠すような事ではないので俺は正直に答えた。


「……そう。……その件についても、あいつ等を牢屋の中に入れてくれたこともお礼を言う。ありがとう……」


 三田川さんは頭を下げる。


「いや、牢屋の中にもう入っているのか、これから入るのかは分からないけど、君の為になったのならよかったよ」


 もしかしたら保護観察付きになるだけで、直ぐに復讐に来る可能性も捨てきれなくなってしまっている。

 もしこの世界がこれから続くのであれば三田川さんはずっと警戒しながら生きていかなくてはいけないのだろうか。

 それが少し心配だった。


「でもどうして?」


「え?」


 顔を上げた三田川さんはまっすぐ俺を見ていた。

 その目に吸い込まれそうな程真剣に見ている。


「助けてもらっておいて言うのもなんだけど、貴方、自分のクラスの委員長や学校の先生を助けている。貴方は学校中の人間を助けようとでもしているの?」


 問いただすように俺にそう言ってきた。


「いやいや、そんなつもりは無いよ。

 俺は委員長の野和さんの件は居合わせただけだ。豊森先生に至っては偶々羽間が悪さをしようとしているのを知ってしまったからだし、三田川さんの件は前に嫌がらせをされているって話を聞いたことがあったから先生に報告しただけ。ただそれだけだったんだよ……」


「それなのに貴方は傷ついている。酷いことだって散々されたはずでしょ!? 裸の写真だって撮られたって聞いてる! それなのに貴方は立ち向かって……。私には真似できない……知られるのが怖いのに……」


 三田川さんは最初は叫ぶように言い、後は消え入りそうな声で泣き崩れた。

 あれ?

 今、三田川さんは気になる事を言ってたような……。


「ちょっと待って。知られるのが怖い……? もしかして三田川さんも俺と同じように写真を!?」


 俺がそこまで言うと、ハッと顔を上げた三田川さんは立ち上がったが、ふらついて近くの机にしがみ付く。

 そして方向を変えて急いで室内から出て行こうとした。

「待って!」

 俺は三田川さんの腕を取り、引き止める。


「嫌、嫌ぁぁぁ!」


 三田川さんはパニックになっているようだ。

 俺は三田川さんを抱きしめる。


「三田川さん、落ち着いて。写真がもし存在するなら奴等は今スマホやパソコンを扱えない。消すなら今しかない。もし話すのが辛いなら俺が知っている信頼できる刑事さんに相談をしてみる!」


 なんて声を掛けていいのか分からない。

 大丈夫、もう心配要らないなんて言葉は根拠が無い。

 ならば事実と、今できるベストな手段を伝えていくしかない。

 おいおい。ゲームでは三田川さんが既に裸の写真を撮られていたなんて書かれていなかったぞ!


「う……うぅぅ……」


 三田川さんは俺の胸の中で泣いていた。


「誰にも知られないようにするのは難しいかもしれない。警察に相談することになるからね。だけど、画像を消すことなら可能かもしれない。これ以上脅されないようにする為にも」

 既にネットにアップされているのであれば難しいかもしれないが、その可能性は伝えない方がいいのだろうか。


「ぐすっ、……なんで?」


「うん?」


「なんで……助けてくれるの?」


 返答に少しだけ悩んだ。


「そりゃ決まっている。こんな状態になっている女の子を放って置けるか? 一部だろうけど同じ悩みを抱えていて、今ならなんとかできるって状況なんだ」


「私は実の両親にも見放されているのよ? 所詮自分以外なんて他人なのよ。それなのに……それなのに……」


「それが普通だと思うな。異常なんだよ。君の両親の事を悪く言ってしまう事になるけど……」


 俺は三田川さんの体を強く抱きしめた。


「うぅぅぅぅ……」


 それからしばらく三田川さんは泣いていた。


 そして俺は怒りに震えていた。


 今までこれがゲームのキャラだからと冷めた気持ちで対応していた部分がある。

 だけど今泣いているこの子はなんだ?

 こんなリアルなゲームあるかよ……。

 たとえゲームの中の世界だといっても簡単にリセットできる世界とも限らないし、この世界がこのままずっと続く可能性だってある。

 軽いノリで浮ついた気持ちで事件を解決していた自分が居たことに後悔した。




 三田川さんが少し落ち着いた後、俺は佐々木刑事の携帯に電話を掛けた。


「<やぁ、尾野君。どうしたんだい? 約束の時間までまだあるけど……>」


「緊急事態です。直ぐにこっそりと来てください。それと婦人警官が居ると助かります」


「<へ!? わ、わかった>」


 佐々木刑事は直ぐに来てくれると言っていたので、後は俺が五和先生や豊森先生に事情を少し話してみることにした。





 職員室で五和先生に事情を話すと、


「分かった。三田川も奴等から被害に遭っていたんだな……。で、今から警察が来ると」


 案外すんなりと五和先生には話が通った。

 ただし、内容はボカしてある。

 教員が多い職員室で、『単に暴力で脅されていた』そういう事で話をしていた。

 現在豊森先生は授業中らしい。

 本当の事情は警察が居る限られた人数の場の方がいいだろう。


「はい。俺も話があるので、同席します。それで相談なんですが、部屋を一室貸していただけませんか?」


「分かった。教頭先生!空いている部屋を貸してください。職員会議室なら今空いてますよね?」


 五和先生がそう教頭先生に問う。

 教頭先生は抱えていた頭から手を離し、


「えぇ、もちろんです。一応我々も同席しますが、よろしいですか?」


 と、今度は教頭先生が俺に質問をしてきた。

 うぅん。NOとは言えない。

 女子的には不特定多数の異性にこの情報を知られるのは精神的に辛いのではないだろうか?


「できれば……。女性の先生にも来ていただいた方が……」


「「!?」」


 俺のこの一言で先生達は察してしまったようだ。

 失言だったかもしれない。

 慌てて三田川さんの方を見ると、力強い目で頷いていた。

 どうやらお怒りではないらしい。

 少しだけホッとした。



「えっと、警察の方々がいらっしゃいましたが……」


「え? もう?」


 別の先生が教頭先生にそう報告をすると、教頭先生は慌てた様子で会議室に先に行くようにと俺達に指示をした。

 会議室ってどこだっけ?


 幸い"職員会議室"には五和先生が先頭に立って案内をしてくれた。


 現在は4限目。本来であれば授業を受けていなくてはいけないが、今回は特別に免除されるとの事だった。

 俺と三田川さん以外で職員会議室の席に着いたのは、五和先生、教頭先生、授業の途中で呼ばれた豊森先生、佐々木刑事と女性刑事であった。

 ありゃ。佐々木刑事は複数人連れてきてくれたのか。


 他にも私服の警官が2人程チラッと見えたが、外で待機するらしい。

 結構大人数で来たな。

 もしかしてアレか? 俺が色々やりすぎて警戒しまくっているのかな?

 はい、その警戒は正しいですよ。


 そして、三田川さんの話が始まった。

 最初は俺が話す。

 三田川さんには了承済みだ。

 いろいろな人に知られるのは嫌ならば先生達も知られたくは無いだろうと思ったが、意外にも了承されたので驚いている。

 話す決心が付いたのだろうか?


 俺がある程度話し終わると、先生達は頭を抱え、刑事達は怒りを顔に出していた。


 三田川さんは始めの方は黙って頷くだけだったが、後半になると自ら体験してきた事を話していた。

 すごい事なんだろうが、心の方が大丈夫か心配になってくる。

 無理をしていないだろうか……。


 5限目に差し掛かる頃、俺からは話すことはもう無くなり、別件について動くことにした。

 そう。盗難、盗撮の件である。


「ちょっと、お手洗いに……」

 俺がそう言うと、


「では、少し休憩にしますか。三田川さん、よく勇気を出して話してくれたね」


 と、佐々木刑事は涙ながらにそう言った。

 女性刑事と豊森先生が三田川さんの背中を摩っている。


「では……」


 俺は職員会議室を出て、真っ直ぐ体育館に向かう。

 既に授業は始まってしまっている。

 間に合うか?


 現在は1階。

 体育館まで小走りをする。


 ゲーム内では、授業が開始してから少し時間が経った後、犯人が現れるはずだ。

 だが、現在警察がこの学校に居ることは"奴"は知っているのではないだろうか?

 一応"職員室"には居ないことは確認したが……。


 ここで"奴"を捕まえないと光明院 桜の盗撮画像、映像が流出してしまう。


 奴は恐らく外側から更衣室に入るはず。

 この学校の更衣室は出入り口が2つ存在していた。

 外側から入れる扉と体育館内から入れる扉の合計2つだ。

 ゲームでは犯人は外側から入っていたが……。


「よし、ここだな……あっ!」

 俺が物陰に隠れながら進むと、丁度更衣室の鍵を開け入っていく犯人の姿を見ることに成功した。

「よし、スマホのカメラで――――」

 スマホを取り出した後に気付く。

 今、警察がこの学校に来ているのであれば、別に俺が証拠の動画を取らなくても良いのではないだろうか?

「くっそぅ!!間に合え!!」

 俺はなるべく音を立てないように靴を脱ぎ、靴下の状態で職員会議室に戻る。

 職員会議室の前には私服姿の刑事が二人立っていた。


「はぁ、はぁ」

 俺が息を切らしていると、刑事の一人が扉を開けようとしてくれる。

 だが、それを制して、


「体育館の更衣室に不審な男がっ。多分更衣室泥棒ですっ!」

 息を整えながら必死で説明をすると、警官達は驚いた顔をした後互いの顔を見て頷き、


「案内してくれ」


 と、一人の刑事が申し出てくれた。

 もう一人の刑事は急いで職員会議室の中に入る。

 おそらく佐々木刑事達に伝えるのだろう。


 俺は急いで申し出てくれた刑事を案内して体育館へと向かった。



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