第11話 困った時は警察へ
翌日から清高学園の生徒が再び5人も学校に来なくなったのは言うまでも無い。
昨日の夜、清高学園の生徒が暴行、恐喝、公務執行妨害等で逮捕されたとニュースがあったのと、俺が警察署で事情聴取を受けつつ、あの5人の情報も報道機関よりも早く警察の方々が知らせてくれたからだ。
あ、そういえば一人死んじゃったみたいだね。
一体なにが起きたんだろう? そこら辺の詳しい事はニュースでも言ってなかったし、佐々木刑事も教えてくれなかった。
ついでに俺の裸の写真も出回る事は防ぐことができたと報告も受けた。
やったね!
警察署での事情聴取が一段落した後、佐々木刑事が戻ってきて、
「君は一度お寺か神社に行ってきた方が良いんじゃないか?」
そう本気の顔をしながら言われた事が印象に残った。
「ボディーガードでも雇おうかな」
と、俺はその時言ったのだが、否定はされなかった。
そんな費用俺の両親に出せるのだろうか。
そして、両親、妹はというと、今度は泣きながら怒られた。
所詮ゲームの世界だからと割り切ってはいたが、どうにもやはり彼等には感情というものがはっきりとみえる。
怒られるだけよりも泣かれる事の方が胸が痛んでしまう。
やっぱりこの世界の人達って本当に生きているように感じるので、認識を改めた方がいいよな。
本物の家族ではないのに不思議な気分だ。
今回は結構案件が重かったようで、両親に連れられて弁護士の所までお邪魔することになった。
結構お金が取れるらしい。
証拠もスマホから出ているから当然だよね。
庄平という目撃者も居ることだし。
それはさておき、本日はこのゲームの世界に入り込んで8日目。
両親はまだ学校に行かなくても良いんじゃないかと言っているが、そんな暇は無い。
本日水曜日に盗難、盗撮の犯人を捕まえなくてはいけないのだ。
早急に次のイベントをこなさなくてはいけない。
両親、妹に心配されつつも妹と一緒に家を出る。
相変わらず雀が地面を突いているが、今日は呑気に観察している暇は無い。
俺、この世界で過労死するのではないだろうか……。
学校に着くと妹と別れ、とある教室を目指す。
「ここか……」
生徒会室。その部屋の表札にはそう書いてあった。
探すのに少し手間取ってしまった。
事前に調べておけばよかったな。
目的の人物が朝来ているか分からないが、ノックをして、
「2年B組の尾野 駿と申します。入ってもよろしいでしょうか」
と、聞く。
すると、
「はい、どうぞ……」
と、大人しそうな顔をした女子生徒が戸を開けて案内してくれた。
「尾野……駿ですって?」
その声を発した人は教室の奥、窓際に座っていた。一目で目的の人物だと分かる。
理由はものすごい美少女が居たからだ。
二次元の世界でも美少女に描かれていたが、この世界。つまりこの三次元世界でもこの目的の人物を含め、ヒロイン達は皆美人である。
「失礼致します。『生徒会長』にお伺いしたいことがあって参りました」
「……どうぞ、そこに座って」
警戒する様子で俺を見る生徒会長。名前は『光明院 桜』。
髪は藍色。ロング。相変わらずとんでもない髪の色が気になってしまう。
正義感が強く、ゲームでは鬼畜主人公が女子生徒達を脅しているのではないかといち早く気付き、接近した人物だ。
不用意な接近により鬼畜主人公にその身を汚されてしまうが、この世界ではその心配はもう無いだろう。
俺が案内された席に座ると、生徒会長自身も移動し俺の対面へ座る。
「それで、聞きたい事とは?」
生徒会長、光明院さんは俺に問う。
「昨日起きた3年生及び2年生の生徒5人が警察へ補導された件はご存知ですか?」
そう質問をすると、光明院さんは目を鋭くし、俺を睨んだ。
ちょっと怖い。
「もちろん。君が通報したことも知っているよ」
光明院さんは答えてはくれるが、俺を睨んでいる目は和らぐことは無かった。
「それで、実は3年生の男子生徒達の件で調べているんですが、今学校内で女子生徒の物が次々と無くなっているという噂を耳にしました」
「ん? それが連中となんの関係が……? いや、まさか!」
光明院さんは慌てた表情に変化する。
「いえ、彼等が犯人であるという事を言っている訳ではないんです。ただ、もし3年生の不良男子達が犯人だった場合、裁判で俺の発言がより有利になるんで。普段から素行の悪さが目立っていた。と」
はい、今俺は適当な事を言っています。
彼らが盗難の犯人ではない事は知っているし、裁判で素行の悪さ云々も適当です。
「ん……あ、そうですか。なるほど。そういうことかぁ」
がっかりしたような肩透かしを食らったかのような。そんな感じで俺への睨みつけが無くなり、代わりに笑顔へと変化する。
「ははっ、私はてっきり『この学校では問題が起きすぎている』なんて文句を言われるかと思っちゃった……」
テヘッと舌を出してお茶目な表情になる光明院さん。可愛い。
あの警戒した様子は俺に文句を言われるかと思って緊張していただけだったのか。
「あぁ、そうそう。さっきは咄嗟のことで慌てちゃったけど、君が言っているあの男子生徒達の件、私も真っ先に調べていたんだ。だけどね、彼等は白だった。物が盗まれた時間帯にアリバイがあったよ」
「そうですか……」
俺があからさまにがっかりとしていると、
「そう気を落とさないで……っていっても無理からぬことだよね。君もいろいろと学校の問題を解決してくれているようだし、なにか手伝いたいけど」
気を落とさないで……か。どうやら俺の身に何があったのか既に知っているようだ。
「そう言っていただけるとありがたいのです。もしよければ俺も犯人探しに協力させていただけないでしょうか。もしかしたら俺のようにあいつ等に脅されてやっているって可能性もあるので」
「脅されて? 君は彼等に脅されていたのかな?」
「昨日初めて脅されたので、警察に通報しただけです」
「あぁ、そういう事かぁ。脅された初日に自分の身を省みず通報した……か。私がもし同じ境遇に遭った場合、真似できるかどうかわからないなぁ」
そう光明院さんは呟いた後、
「分かりました。では今後もし何か進展があれば情報は伝えましょう」
と、協力を承諾してくれた。
よし、これで俺が盗み及び盗撮犯を追っていてもおかしくはなくなった。
「実は今回の件以外にも、色々と親身になって対応してくれた警察の方がいらっしゃるのですが、今起きている盗難事件も相談してみようかと思っております」
「ふむ。だけど、警察が介入することは先生方もあまりいい気はしないと思うけど?」
「既にこれだけ問題があるのですよ?」
この短期間で婦女暴行を起こそうとした生徒が1名。教員1名。暴行恐喝その他諸々を行った生徒が5名捕まったのだ。
「確かに。では、その警察の方を私に紹介してくれる。ということでいいかな?……いや、それよりも先に先生に相談した方がいいかなぁ……」
生徒会長は迷っている。
ならば、
「でしたら、まずはこの付近を警戒してもらうように依頼してみては?例えば盗難被害が発生した時間帯を対象に見回りをしてもらうようにしていただくのです」
「盗難被害の発生時刻か……。それならば体育の授業が多いと聞いているかな」
「そうでしたか。では、体育の授業の時間を調べましょう。ちなみに生徒会長の体育の日程は近々ありますか?」
「ん? 私は今日の5時間目に体育だが……いやいや。この学校にはいったい幾つクラスがあると思っているんだい?ほぼ毎時間どこかのクラスが体育の授業をしていて、更衣室は使われているぞ」
「あぁ。そうでしたね……。うぅむ、手詰まりか……」
よし。これで光明院 桜が受ける今日の体育の授業時間がわかった。
「まぁこればかりは仕方がない。私も本格的に先生にお願いしてみるよ。生徒達からの苦情も多くなってきているしね」
「はい。ありがとうございました。では失礼致しました」
俺はそう礼を言って生徒会室を後にした。
よぉし。早速佐々木刑事に連絡だぁ!
俺は人目がつかない場所へ移動し、携帯電話を取り出す。
ピッポッパ。トゥルルルル。トゥルル、
「<はい、佐々木です>」
「どうも。尾野です」
「<やぁ、尾野君。どうしたんだい?もしかして昨日の件かな?>」
「いいえ、別件です。実はですね。ちょっとご相談したい事がありまして……」
「<ひぃ。ま、またかい?>」
なんだよ「ひぃ」って。
何故悲鳴を上げる。
「そうです。なので、5時間目が始まる前辺りでこっそりと学校に来ていただくことは可能ですか?」
「<うぅん。何かあったのかい?>」
「ここでは言えない事です」
「<そうなの? わかった……。では、時間を教えてくれ>」
こうして俺は佐々木刑事と約束をすることに成功した。
自分の教室へ行くと、既に人が多く教室に居た。
もうこんな時間か……。
「駿!!」
教室に入り俺を目にした庄平が飛んで来た。
昨日一緒に帰る約束をした友人等も俺の周りにやって来る。
「すまなかった!!! 俺は何もできなかった」
庄平がひたすら謝ってくる。
だけど、話によれば昨日俺が殴られた後、俺を人質にされて何もできなかったらしい。
それは仕方がないことだよ。と、言っておいたのだが、庄平は自分自身を許せていないようだ。
「もう大丈夫なのか!?」
「あいつ等捕まったって本当か?」
「くそっ。俺が一緒に居れば……俺もボコボコにされる運命だっただろうけど」
次々と他のクラスメイトも俺に声をかけてくれる。
「あぁ、俺はもう大丈夫だ。庄平、もう昨日謝罪はもらったし、庄平が悔やむことじゃない。昨日の被害は俺一人で済んだんだ。みんなもありがとな。とりあえずネットに俺の画像が出回ることだけは防げたし」
俺がそう言うと、
「うぅぅぅぅ……」
「くそう。アイツ等許せねぇ!」
と、泣き出す奴と怒り出す奴で二分していた。
皆良いやつ過ぎねぇ?
「駿……なんでそんなに危ないことを……」
あ、野和さんが泣きそうな顔をして近付いてきた。
「本当に……危険なことばかり」
坂江さんもご立腹なようだ。
クラス中がなんとも言えない雰囲気だ。
チラチラとこちらを気にしている。
うぅん、気まずい。
なんとも言えない空気の中、俺は自分の席に移動をしようとした。
「ちょっといい?」
「ん?」
突如後ろから声をかけられた。
「あれ? 三田川さん?」
俺に声をかけてきたのは三田川 麗子だった。
「後でちょっと話したい……」
視線を一瞬俺の目に合わせた後、気まずそうに外して下を見ている。
「分かった。じゃぁ昼休み、どこか空き教室で」
「うん……」
三田川さんは頷いた後、スタスタと自分の席に着く。
席に着いた三田川さんは目を押さえて震えていた。
泣いているのか?
気付いた女子達が慰めに行っている。
注目が三田川さんに行ったことで、俺は皆からの視線が外れ、すんなりと席に着くことができた。
「おはよう! みん―――な……」
元気よく。明らかに空元気であるが、担任の五和先生が入ってきたが、教室の中を支配する空気に呑まれテンションが落ちていく。諦めるの早すぎだろ……。
豊森先生も入ってきたが彼女も暗い。俺の顔を見て泣き出しそうだ。
なんだか胸が痛い。
「出席を取るぞ……。安藤」
そしてなんとも暗いホームルームが始まるのだった。