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第10話 異質な存在達

連休中は連日投稿していきたいと思います。

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 今はもう使われていない廃墟ビルの2階で、清高学園高等部の不良生徒達が屯していた。


 人数は5人。

 三年男子が二人。二年女子が三人である。

 彼等は清高学園のみならず、周辺の学校の不良達をまとめるリーダー格であった。


「きゃははっ。あいつ等の顔見たー?」


「なっさけない顔してたよねー」


「えー。それ、私も見たかったぁ」


「でもさぁ、あいつ。尾野とか言ったっけ? 私等の事、病気持っているとか言ってくれたのよ?」


「はぁ!? マジキモイんだけどぉ。殺しちゃっても良かったんじゃない?」


「それなー」


 三田川 麗子を虐めていた不良娘三人の内二人が、今日旧校舎であったことを、別件で来ることができなかったもう一人の不良少女に教えていた。

 尾野 駿を暴行している時に来ることができなかった不良少女は、他校にいる不良男子生徒とデート中だったのだ。


 一方少し離れて窓際に居る三年男子の二人は、


「たっく。最近は警察の出入りが激しくて派手な事ができねぇよな」


「あぁ、二年の転校生と羽間の野郎か。余計な事をしてくれやがって……」


 神命と羽間が色々とやらかした事によって学園内の規律が厳しくなってしまった。

 教師達が今まで以上に目くじらを立て、彼等不良達がなにかするのではないかと監視していたのだ。


 お陰で今までのようにカツアゲや鬱憤晴しの暴行がし辛くなった。


「今日はうまく教師達の目をごまかせたけど、今後はうまくいくかわからんな……」


「ふんっ。気にする事はねぇだろ? あの尾野って奴は脅しておけば周りには話さんだろうし、今後の金づるにもなるだろうよ」


「まぁ、足りなきゃ他の学校の連中からの上納金を頼るしかねぇかな」


 不良少年の一人がヤレヤレといった感じで首を横に振り、窓側に近付く。


「そういえば、あの尾野って奴、三田川を守ろうとしていたみたいだな」


「あぁ、あいつ。いつの間に男なんて作りやがったんだ?」


 三田川 麗子は自分達の彼女である不良少女達が虐めていたので、まさか自身も標的になる可能性が高くなる三田川の彼氏になる人物が居るとは思わなかったのだ。


「あ~あ、せっかくいい女だったのに、使用済みかよぉ」


「おいおい、別にいいじゃねぇか。ヤッちまえばこっちのもんだろ?」


「まぁな。前回裸にひん剥いて写真を撮った時は、アイツ等がうるさくてヤルこともできなかったし」


 不良少年の一人はそう言って不良少女達を見る。

 写真撮影の時は、彼女達に邪魔をされ写真を撮る以上の事ができなかったのだ。


「はっ、嫉妬ってやつだよ。俺達は愛されてるねぇ。でもまぁ、アイツ等がいない時に脅して犯せば問題はないだろう」


 小声でそう言う不良少年。


「あぁ、あいつの体はかなり良かったよな。程よい大きさの胸。痩せすぎず、引き締まった体。ははっ、今からあの女を抱くのが楽しみだぜ」


「ほんとほんと。明日にでもヤっちまうかぁ?」


 そう笑いながら窓の外を見た。


ガチャ。

ドン。ドン。


 地上で何か音が聞こえる。


「……ん?」


 外で複数の車が使われていないはずのこのビルの前に停まった。

 車の中からは複数の大人の男達が一斉に出てきたのだ。

 それを見た不良少年は慌てて、


「お、おい! ヤベェ、サツだ!」


 と、部屋の中に居た仲間達に知らせる。


「なに!?」


 このビルに集まってきた車は警察の車両であった。

 サイレンを鳴らさずとも、その独特な白と黒の配色。何よりもパトランプで世間知らずで馬鹿である彼等でも何者か理解できたのだ。


「馬鹿な!? どうして!」


「知らねぇよ! とにかくここにいると厄介事に巻き込まれる! 逃げるぞ!」


 不良少年達が騒ぎ出すと、不良少女達も焦った様子で、


「逃げるったってどこに逃げるのよ! 出口は下の階しかないんでしょ!?」


 この建物は5階建て。

 上に逃げても地上との距離が広がるだけである。


「クソッ。とにかく部屋を出て――――」


 そう不良少年が指示をしようとしたその時、






ガタン!






 と、古びた扉が勢い良く開く。

 そこからスーツを着た人物と、警察官の制服を着た者達が現れたのだ。


「あー。どうもこんにちは。ワタクシ、こういうモンです」


 くたびれた感じでそう言ってきた人物は、警察手帳を広げて自己紹介をする。

 手帳には『佐々木』という苗字が書かれていた。


「くっ!? け、警察が何の用だよ!!」


 そう不良少年は威嚇をするが、


「ここは許可なく立ち入れる場所じゃないんだけどねぇ。君達ちゃんとこの建物の所有者さんに許可をとった? 住居不法侵入になっちゃうぞぉ」


 笑いながらそう脅す佐々木。


「ん……あ、あぁ。そういう事か。いや、ちょっとノリで入っちまったんだ。勘弁してくれよ……」


 いくら地域の不良をまとめる存在だからといって、無闇矢鱈に警察に喧嘩を売ることはない。

 そう判断した不良少年は事を穏便に済まそうとする。


「あぁ、まぁ年頃の少年達ならば、そういう秘密基地に憧れますよねぇ」


 等とヘラヘラ笑っている佐々木刑事。


「おう。そうだよ。だからさ、今回は見逃してくれよ」


 佐々木刑事の態度にイラつきながらも言葉を選ぶ不良少年。

 それに対し、佐々木刑事はヘラヘラとした態度から真面目な顔になり、


「実はそうもいかなくてね……」


 と、低い声を出す。


「君達、同じ学校に通う尾野 駿という名前を知らないかな?」


「「「「「!?」」」」」


 不良少年達は直ぐに警察が着た理由を理解した。


「アイツ! よりにもよってサツにチクリやがったのか!」


 驚く不良少年。

 今までの金づる達は、大抵ボコボコにするか裸の写真を撮れば言うことを聞いた。

 だからこそ、自身の写真をばらまく可能性がある事を尾野 駿がするなどとは信じられなかったのだ。


「知っているようだね……」


「……」


 言い逃れはできない。

 そう判断した不良少年は、


「逃げるぞ!」


 と、言って警官達に突っ込んでいった。


「!?」


 これには警官達も驚く。

 抵抗は予想できたが、まさか向かってくるとは思わなかったのだ。


「くっ!」


 佐々木刑事達は取り押さえようとした。


「どけぇえええええ!!!」


「うぎゃぁ!?」


「なっ! 馬鹿な!?」


 男子生徒二人に警官達は突破されてしまった。

 5人も大の大人がいながら、力技で跳ね除けられてしまった。


 不良女子達も続くが、こちらはなんとか取り押さえられる。


「下の階の連中に応援を!」


 そう佐々木刑事は無線を持つ部下に命令をする。


「は、はい!」


 命令を受けた警官は急いで無線に手を掛けようとしたが、


「えっ!?」


 不良少年二人は慌てた様子で下の階から引き返し、上の階へと登っていった。


「目標、上の階へ登って行きます!」


 と、佐々木刑事に報告する警官。


「ははっ、所詮は子供か。下の階に居た警官の数にビビったか」


 そう笑ってここから捕まえることはそう難しくないだろうと考えた。


















「畜生! なんて数がいやがる!」


 2階から3階へ駆け上がる不良少年の一人がそう愚痴る。


「10人どころじゃねぇ、20人以上いねぇか!?」


 もうひとりの不良少年は、何故自分達のような不良数人を捕まえるためにこれほど多く人数が集まったか不思議に思った。

 そして、下の階に降りると捕まると考え、上へと向かうことにしたのだ。


「大方俺達の仲間が大勢いると思ったんだろう」


「なるほどな」


 そう考えるのが当然な警官達の数だ。

 不良少年達の仲間は他校の生徒、更に中学生の仲間も入れれば20人、30人を越える。


「だが、上の階へ行ってどうするんだ!?」


「そんな事知るかよ! とにかく今は逃げることを優先するんだよ!」


 何も考えてはいない。

 彼等はその場を逃げ切る事で精一杯なのだ。


「こうなったのも全部尾野って野郎のせいだ!」


「あぁ、絶対許さねぇ。ここを脱出できたら絶対にぶっ殺してやる!」


 と、尾野 駿を恨む不良達。


 そうこうしている内に屋上へとついてしまう。


「おい。扉を塞ぐぞ!」


「あぁ」


 二人は急いで屋上に放置されていたガラクタを扉の前に置く。

 古びた冷蔵庫、机などをガンガンと放り投げた。


「あはは。これなら奴らもそう簡単には来れないだろう」


「はぁ、はぁ……あぁ、そうだよな……」


「「はぁ……」」


 つかぬ間の休息。

 そう思って腰を地面に下ろそうとしたその時。





「あります!」




 と、奇妙な声が聞こえた。


「ん?」


「えっ……」


 その声が聞こえた方向へ振り向くと、制服を着た警官が一人突っ立っていた。


 その警官は真面目な顔で敬礼をしていた。


「は……? どうやって―――――」


 どうやってこの屋上まで来た。

 そう口に出そうとした。


 なぜならばこの屋上へ続く扉は、今塞いだ一つしかないのだから。


 異常事態は続き、




「あります!」


「あります!」




 続いてもう二人。建物の奥から飛び出し、屋上へと着地した。

 彼等も真面目な顔で敬礼をしている。


 ついでに小さな雀が一羽、驚いたのかチュンチュンと鳴きながら飛び出して来て上空を舞った。


「はっ!?」


「嘘だろ!?」


 不良の二人は、ありえない事が頭に浮かんでしまう。

 それは彼等警官が、どうやってここまで上がって来たのかという方法だ。


「まさか下の階の窓からジャンプしてきたのか!?」


 二人はそう思ったのだ。


「あ、ありえねぇ! ば、化け物かよ!」


 不良少年達は悲鳴を上げる。


 そんな不良少年達をよそに、


「「「逮捕するであります!」」」


 と、声を揃えて宣言して近付く警官達。


「こいつら、なんか他のサツ共とは違う……」


 眼前の警官達の異質さを感じとる不良少年。


「こ、こんな所で捕まるかぁああ!!!」


「「「逃げられないでありますよ」」」


「くそぉ!」


 不気味なほど声を合わせてジリジリと距離を詰める警官達。


 上空ではバタバタと大きな音がなっている。


「警察のヘリか!?」


 チラっと空を見ると、警察のものと思われる青いカラーのヘリコプターがこの建物に近付いてきたではないか。


「俺達を捕まえるだけの為にご苦労な事で!!」


「テメェらなんて、返り討ちだぁ!!」


 不良達は覚悟を決めた。


 警官達を倒し、逃げ切る事を考えたのだ。


「行ける! 俺達なら行ける!!!」


 そして何故か力が溢れてくる不良達。


 今なら普通の警官ならば簡単に殺すことができる。


 そんな感情に心が満たされ、二人は警官達に殴りかかった。


「甘いであります!」


 だが、簡単に避けられてしまう。


「なにがぁ?」


 一人の不良がそれに対し手刀で警官の心臓を抉りだそうと胸に狙いを付ける。

 常人が出せるスピードではない。

 並みの警官ならば反応が遅れただろう。


「死ねやぁ」


 ニタリと笑った不良少年の目は完全に目が血走っており、この世のものとは思えない程瞳の中がどす黒かった。


「はぁ!!! …………はぁ?」


 取った!

 そう思った不良。


 だが、その警官の胸は手が貫かれず、服の上で止まっている。


「手刀で人体を貫けると思ったのでありますか? そんなの効かないであります」


 攻撃された警官は涼しい顔でそう言った。


「な……なん……で?」


 確かに貫ける程の威力で相手の胸に刺し込んだはずだ。

 それなのに自分の手の方が痛いと感じる不良。


「捕まえたであります!」


 逆に、警官の体に刺し込もうとした手を掴まれてしまう不良。


「や、やめろ! 離せ!!!」


 尚も暴れる不良。


「暴れるなであります!」


 思ったよりも抵抗が激しいと、苦い顔をする警官。


「チュンチュン!」


 すると、上空から雀が一羽急降下を行い、その勢いで不良の一人の目を縦に切り裂いた。


「ぎやぁああああああ!!!」


 悲鳴を上げる不良。


「逮捕であります!」


 切り裂かれた片目を抑え、抵抗が弱くなった不良に対し、手錠を掛ける警官。


「「お手柄であります!」」


 そしてそれを称える警官二人。


「嘘だろおい!」


 もう一人、警官と戦っている。いや、翻弄されている不良は、仲間が捕まるのを目にして狼狽えてしまう。


「「君も諦めるでありますよ?」」


 そう気の抜ける語尾で話しかけてくる警官達に、不良は決心を固める。


「く、くそ。こうなれば逃げ道は一つ!」


 かなり離れているが、隣のビルに飛び移れば逃げ切れる。

 そう思った残った不良は、勢いを付け、全速力で屋上を走る。


「「待つであります!!」」


 それに気付いた警官二人は慌てて追いかけようとする。


「もう遅い!! はぁあああああああ!!!!」




 助走のお陰で高く。




 高く。




 高くジャンプをした。





 今の自分ならできる。


 不良少年は何故かそう感じたのだ。





 事実、彼は普段よりも格段に高く跳ぶことができた。



 オリンピック選手なんて目じゃない。


 30mは離れているであろう隣のビルの屋上へ不良の体は軽々と跳んで、いや、飛んでいるのだ。




「うおぉぉぉおおおお!!」





 跳んでいる間は時間が長く感じる不良少年。

 最高の気分だった。





バタバタバタ。





 しかし、その最高の気分を邪魔する騒音が近付いてきた。






「へっ?」






 騒音が聞こえてきた方向を見ると、そこには警察のヘリコプターが飛んできていた。



 ヘリコプターのパイロットはケラケラと笑っているようだ。








「あっ…………―――――――――――」







 そして飛んでいた不良の首はヘリのローター・ブレードに当たり、スパンッ。と、綺麗に刎ね飛ばされた。



 ヘリはそのまま通過し、不良の頭と体は地上へと落ちて行く。










ピシャピシャッ。


 血がビルの屋上まで飛んだ。


「うわぁあああああああ!?」


 その一部始終を残った片目で見ていた不良少年の一人は悲鳴を上げ、恐怖に震えている。

 対して、警官達は、


「死んじゃったであります」


「掃除が大変そうでありますね」


「それよりも扉を開けた方がいいであります」


「そうでありますな」


 と、なんとも軽く言葉を交わし、ドンドンと強く叩かれている扉の前に積み上げられていたガラクタを払いのける。


「ようやく開いた!」


「状況は? どうなっている!?」


 重みが無くなった扉からは、一斉に下の階に残してきた警官達が入ってきた。

 佐々木刑事も同様に入ってきて、


「あぁ、お前達が対処してたのか。対象の一人がヘリコプターに巻き込まれたって無線が届いて大騒ぎだぞ!?」


「残念でありました。事故でありますな」


 佐々木刑事の質問にそう返した警官。


「これ、不良の一人であります」


 次に生き残った不良が差し出される。


「ひぃぃぃぃ……」


 不良はまだ震えていた。


「ん……、あぁ。お手柄だな……。よし、現場の処理は処理班に任せて帰るぞ。俺と何人かはコイツを署まで送るぞ! 徹底的に取り調べるんだ」


「「了解!」」


 そう言って、屋上で戦っていた警官達を残し、佐々木刑事達はその場を立ち去った。






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 屋上に残った警官三人は会話をする。


「ターゲットの一体を無事処分完了であります」


「あの状態のまま処分できればいい方であります」


「それより、我々と同じく意識が完全体なのは何人いるでありますか? このままいけば、必ず戦力不足になるでありますよ?」


「今はここにいる三人だけであります。我々の指揮官役であった佐々木刑事は半覚醒状態であります」


「そこにいる雀殿は? あと、ヘリコプターの操縦士も仲間と思うでありますが?」


 警官達の側に転がるガラクタの上で羽を休めている雀は毛づくろいをしていた。


「確かに雀殿も覚醒状態でありますが、体が本来のものよりも大きくスケールダウンしているであります」


「言語機能も失っているようでありますね」


「ヘリコプターの操縦士は指示は聞いてくれますが、敵の妨害によりバグっているようであります。常に奇声を上げて笑っているであります」


「それならば後でデバックするであります」


「それでも操縦士のバグが治る可能性は数パーセントであります」


「治す力もまだ不十分であります。残念ながらまだ、この世界の均衡は敵側に有利なようでありますな」


「本官たちも、まだ完全に体を動かすことができないようであります」


地上・・から屋上へ飛び上がっただけで体がガタガタしているでありますよ」


「我々も休息が必要でありますね。これで我々の支配率が上がれば、この体も直ぐに治るでありましょう」


「その間。保護対象である尾野 駿については、雀殿にお任せするであります」


 そう言って彼等警官達は雀に敬礼した後、屋上から下の階へと降りて行く。






「チュンチュン!」


 雀はそれを見届け、空へ高く飛び上がっていった。





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