1章ー4話 引き金を引いたのはあなた
「さて、何から話せばいいのか私もよくわからないんだけど…」
少女の羞恥心と足の痺れがある程度収まったこの頃。
ようやく、本当にようやく俺を翻弄してくれた事態の全貌を聞くことができると、安堵のため息を漏らす。
この世界に飛ばされて、未だ今後の先行きなど見えず人生の窮地に立たされているにも関わらず一体何に頭を悩ませているのだろうかと自分で自分に呆れてしまう。
そのため息を合図と受け取ったのか少女がゴミ箱に入る…じゃなかった、こんな路地裏ににたどり着いたのかを語り始める。
「えーっと、どこから話せばいいのかな。まずはそうだなあ…うん。迷惑かけちゃったみたいだし、あの二人のことから話しておこうかな」
エルレイン・ユースフォード、そしてワーレン・アルベルトと名乗った仰々しい剣を帯び、甲冑を着込んだ二人組だ。
金髪の色男と青髪の男前という、なかなかに濃いというか、腐の方々と婦の方々を喜ばせそうな二人組だった。
「あの二人は私の、護衛?というか監視役というかそんな感じなんだけど…」
なるほど。ここまではだいたい予想通りだ、聞き耳立てた話では、脱走したこの子を探し回って頭抱えてる感じだったし。
あいつらも美少女を攫おうとしてる奴らという感じでもなかったしむしろ国家公務員側って出で立ちだったしな。
よくよく考えたら俺が誘拐犯側じゃないか…?まあ、細かいことは考えないようにしよう。考えないようにしてることが今更一つぐらい増えても変わらない。
「で、まあ、その…私はあの二人の目を盗んでお家から脱走中って感じです…はい…」
本当にあの二人に悪いことしたかもしれないと今更ながらに思う。今すぐ追いかけたら間に合うだろうか…
この世界に来てから誰かを追いかけてばかりだ。
「それで、私自分の気配を誤魔化す魔法と、人の気配を感じ取る魔法が得意でそれを使ってあの二人からいい感じに逃げてたんだけど…」
「だけど?」
「この路地裏を抜けた先に用があって、意気揚々と入ったはいいんだけど…さっき言ってた気配を誤魔化す魔法って常に意識してコントロールが必要なのに動揺して、一瞬だけど解いちゃって…」
そこからは完全に悪循環だったらしい、動揺して、気配のごまかしが解けて、その動揺が残ったまま、エルレインに居場所がバレたことに動揺し、その動揺が原因で足が勇んだ挙げ句、道に迷い、それにさらに動揺し、そこに男たちが絡み、テンパったついでにゴミをワンダース作ったらしい。
そして、一旦落ち着こうとしたら、すぐ近くに知らない気配を感じて隠れる場所を探し、近くにあったゴミ箱に飛び込んだ…
まあ、その気配は俺なので隠れる意味はなかったのだが、反射的な行動らしい。そして、再びゴミ箱を閉めてくれと俺に頼んだのは、件の魔法であの二人の気配がこっちに向かってきているのに気づいたからだそうだ。
ちなみにあの二人が明らかに俺の後ろに隠れきれていないゴミ箱を見つけられなかったのも、気配遮断をかなり強くしてゴミ箱ごと視界に入らないようにしていたらしい。
なぜ俺にだけ見えていたかというと、存在を知覚、要するに自分の姿や誤魔化そうと思った気配の対象を隠す前に認知されているとアウトなんだそうだ。
正直、頭を抱えたくなるレベルのドジを踏んでいるが、なぜかこの少女が動揺しているのを想像していると微笑ましくなって何も言えなくなってしまう。
後、ゴミ箱に入ることになった一因が俺ってそういうことか。気づいたらびっくりするほど近くに反応があったらしい。
「本当にビックリしたんだから…信じられないくらいに近くに反応があったから…って、あれ?もしかして…」
やはりゴミ箱に入ったのをよほど根に持っているのか恨みがましそうに視線を送ってきたと思ったら、俺の背格好を頭から順繰りに眺めたと思うと、腰辺りで視線を止めたかと思うと、表情を少し驚いたものに変えて、こちらにそろそろと近寄ってくる。
美少女に眺められるだけでもドギマギしてしまうのに、ぐんぐん近寄られて顔を寄せられてどんどん俺の背骨が後ろに曲がっていく。
「この服!誰が作ったの!」
「はい?」
すでに背骨が悲鳴をあげている曲がり具合で、まるで拳銃を突きつけられたごとくなポーズをしていた俺は予想外の場所に食いつかれ姿勢を直す。
「だから、この服よ!気配遮断の付与と、えっと…もう一個ついてるのは…環境適応の付与かな?二重付与…しかも、私の気配察知魔法に引っかからないレベルって…」
なんだか、俺の服(自分のものではない、製作者不明、自分で着用した記憶なし)を掴んで目の前の美少女が製作者を尋ねてくるが、前述の通り製作者はおろか私物ですらないのだ。
「えーっと…」
そういって、頰をポロポリと掻きながら追及の視線から目をそらす。見事なまでの大根役者ぶりである。
何もわからない異世界の中で一つだけ自分についてわかったことがある。俺は演技が死ぬほど下手らしい。
何か言わなければ不審かなと考えながらも永遠にフリーズをする俺を見て、少女は突然手を離したと思えば、顎に手をやると打つぶつぶつと何か呟き出す。
「そうよね…アルカナは置いておくとしてあんな妙な付与ができる人をバラすわけないか…よく見るとそれなりに鍛えてあって、肌も髪も随分と綺麗…手には剣術のマメがあるし…どこかの貴族の息子だったりするのかしら…」
「あ、あのー?」
「さっきから少しの会話でも教育の跡が見えるし…髪も見ない色だし別の国の貴族…?なら、付与した人を言えるわけないか…」
なんだかあまりよく聞こえないが、どうやら勝手に俺の出身地やら出自やらがこの子の頭の中で構築されていっているらしい。
正直に言ってめちゃくちゃありがたい。だって、出自とか聞かれたら「あ、異世界から来ました、どうも。えへへ…」か「日本って島国で引きこもりやってました、よろしく!あ、社会復帰頑張ります」しか言えないのだ。
どっちを選んだとしてもクエスチョンマークを浮かべられるか、変な奴扱いされてドン引きされるだろう。
この子にそんな目で見られようもんなら、膝から崩れ落ちるか、何かに目覚めてしまう。なぜだか後者になる気がするのでほんと助かる。
「いいわ、ごめんなさい。詮索して。君にも家の都合があるもんね」
「(いや、ないです…)」
心の中で菩薩のごとくな笑顔を展開し、勘違いから始まり、勘違いで終わった目の前の少女の納得を眺める。
ああ、なんかトントン拍子に話が進んですごい楽だ。だって、説明いらないんだもん。本棚組み立てるより簡単ってことだ。
「で、話を戻そう。最初に動揺して魔法解いちゃったって言ってたけど、何で動揺したの?ゴミ箱から美少女でも飛び出してきたの?」
「へ?び、美少女?い、いや…飛び出すわけないじゃない、っていうか、それ私のこと言ってる!?」
また頬を膨らませて抗議の声をあげるかと思ったら、まさかの反応だ。この子、鏡見たことないんだろうか?
完全に軽口のつもりでいったコトバに過剰反応されてしまうと、こちらが照れてしまう。
前半で顔を赤くして、次の瞬間には怒りでさらに顔を赤くする。本当に感情が豊かな人だな、と思う。
「ああ、ごめんごめん…もう一度話を戻そう。で、一体何に動揺したんだ?」
「ああ…ちょっと大事な物なくしちゃって…小さい頃から持ってるから、ショックで」
その言葉を聞いた俺の背筋に、滝のような汗が流れる。
「おかしいな…かなり大事に持ってたし、落としたら気づくと思うのに。やっぱ首かけの部分が傷んでたのかなあ…」
ああ、やっぱりそうだよね。これは、多分。
「あの、もしかしなくても。これだよね、落し物…」
どうやら、ゴミ箱に入った一因どころか、最初の引き金引いたのも俺だったようです。ほんと…すいませんでした…。




