こいとかあいとか
花金である。言いながらも明日は――明日“も”休日出勤なのだが。
そんな世知辛い社会の歯車の一人、小道 明こそが今宵の主人公だ。
齢28歳、男、IT企業社員、それから、独身。少しくたびれたように見えるのだが、彼は実際に疲れている。度重なる残業やらエラー対応やら、上からの重圧やら。
そんな中でもなんとかやっていけているのは、今日のように酒を酌み交わせる相手がいるからである。
「すみません、生一つと唐揚げください」
「はい! 生ビールがお一つと、唐揚げがお一つですねー」
いつものように、声の大きさだけが売りの居酒屋に入ってこれを頼む。安上がりだし、それになにより唐揚げが好きだった。安い癖に美味い。
「わりぃわりぃ遅くなったー!」
お通しをつまみながらぼーっとしていると、周囲よりも一際大きな声が明の頭上から響いて来た。
ごつい体格にはあまり似合っていないかっちりとしたスーツを身に纏った男、友人の青田 則之である。
「思ってたより早いからいいよ」
「上司に捉まっちまってさー自分でやれよって思うんだけどな……あ、お兄さんビール一つ! あと枝豆!」
座るや否や早速注文である。学生時代からこうだったとは明の弁であるが、頭より体が先に動くタイプなのだろう。だからこそ、正反対の自分とは気が合うのかもしれないと。
「それで? 今日は珍しく“相談”なんて言うから来てみたんだけど、どうした?」
「ああ、たいした話ではないんだけど……」
そして何よりも明快であった。恐らく自分が逆の立場であったのならば、本題に入るまで相当な時間を要していただろう。本当に呼んで良かった、と思う明。
「なんだ? 金なら貸せないぞ? まあお前の事だからそれはねえだろ」
「無いね。それこそ使いどころが無い。忙しいからね」
「んーじゃあ……なんだろ? あー待て待て当てる。当てるぞ!」
「……」
見た目はいかつい方なのに動きは無駄に子供っぽい則之。腕を組み、首を傾げながら必死に考える。数十秒それが続き、ふと思いついたように一言。
「わーぁったぞ! あっきーお前、“恋”でもしてるんだろ!」
「ったく……声でかいんだよ……」
「どうだ、当たりだな!」
「あーはいはいそうです、その通りです」
そう、今日彼をここに呼んだのは他でもない。“恋”についての相談をするためなのだ。