ドノー少尉(オーク氏族・31歳)はちょっとお疲れです(仮)
制作、約小一時間。
「くっ! 殺せ!」
「貴公の取り扱いは戦時条約に準じるものとなる。故に過度な尋問、及び精神的、肉体的に影響を及ぼす拷問の類は決して行われることはない。また貴公の立場を鑑みて、滞在中は仕官級として扱うことを約束しよう」
「どうせこの私の豊満な肉体を弄び慰み者にする気なのだろう! 我等誇り高きエルフの精鋭がそんなものに屈すると思うなよ!」
「話聞けよ」
尋問を初めて三分で、魔王軍第三方面群旗下第77独立遊撃大隊第5偵察小隊長ドノー少尉(オーク氏族・31歳)は全力で色々なものをぶん投げたくなっていた。
日課のごとく辺境の森林地帯をパトロールしていたらばいきなり部隊が奇襲を受け、何とか反撃して下手人を捕らえてみれば、ここ数百年は魔王軍と接触していないエルフ氏族の狩人である。しかも身につける装飾品から結構な身分のものだと判断され、取り敢えずは話を聞くと共に『誤解』を解いておこうと言うことになったのだが。
「オークと言えばエルフを捕らえたが最後、陵辱の果てにむごたらしく惨殺したりするリョナグロ系なあれやそれを躊躇なく行うのだろうが! だがこの私はそんな恐怖で縛り付けることなどできはしないぞ!」
もう最初っから非協力的というかこの調子である。これだから数百年は平気で引きこもる連中はよォと内心唾棄しながら、取り敢えず表面上は取り繕って話を続けようと努力する少尉。
「……勘違いしているようだが、現在我々オーク氏族を含む魔王軍――【魔王国】は『どのエルフ氏族との敵対も望んでいない』。それは魔王陛下の厳命であり、一兵卒に至るまで逆らうことを許されないものだ。我々が敵対しているのはあくまで一部の人類国家と神々を信奉する勢力のみ。彼らに与しないと言うのであれば、貴公らを害する理由は存在しないのだ。……ご理解頂けたか?」
「もっともらしい嘘を吐くな! 欲望の固まり(主に下半身)でしかないオークが魔王の命令ごときに従うはずがなかろう!」
「魔王ごときてあーた、オークなんだと思ってんだそこまで欲望に命賭けんわ」
つい本音が漏れる。確かにオーク氏族は全体的に賢いとは言い難いが、それでも魔王に逆らうほどの馬鹿は滅多にいない。そんなんは大概早死にしてる。
第一……。
「普通のオークなら『エルフなんぞに欲情しねえ』っつの」
「あ゛ァ!?」
「……あ」
思わず漏れた言葉に、エルフ狩人の目の色が変わる。やべ、と思ったときにはもう全力で手遅れであった。
どがんと机に両手を叩き付け、エルフ娘は柳眉を逆立てて吠える。
「でたらめを言うな! 我等氏族が伝承、そして人界より細々と伝えられし『ウ・ス異本』においてオークは常にエルフを慰み者にしてきたとあるではないか!」
「なんで人間の邪教の本がしっかり伝わってやがんだよコラァ!?」
やっぱ人類滅ぼしといた方がいんじゃね? 少尉はかなりガチでそう思った。
ま、それはさておいて。
「えーいもう。……こうなったら根本的なところから説明すっけど、とりあえずいいから黙って聞いておけ話が進まん」
医療兵に冷水(物理)をぶっかけさせて無理矢理エルフ娘の正気を取り戻させて大人しくさせた後、ドノー少尉は改めて説明を始めた。
「貴公が言ってる伝承とか邪教の本の内容ってアレだろ、廃墟とか廃坑とかに住み着いたオークやゴブリンが近隣の集落や村とか襲って暴虐の限りを尽くしたり女子供かっさらって慰み者にしたり退治しに来た冒険者やエルフの女返り討ちにして陵辱したりとか、そんなんだろ?」
「その通りだ! それが嘘だとでも!?」
「いんや、『大筋であってる』」
「ほれ見ろ――」
「ただしそいつら、『真っ当なオークやゴブリンじゃない』」
「……は?」
気勢を上げかけたエルフ娘は、訝しげに眉を顰める。少尉は溜息を吐いた。
「……そう言う話の中に出てくる連中ってよ、『雌や子供引き連れていたか?』」
「い、いや、そも山賊的なスタンスというかそう言う連中なのだから家族引き連れてとかやらないのではないの……か?」
「そう、『山賊とか盗賊』なんだよ連中」
「え? あの? え?」
「つまりな、本来のテリトリー、群れを『追い出された』はぐれもの。人間でいや『犯罪者』なんだよ連中は。だからまともに雌なんか引き連れてるわけもねえんだ」
「なん……だと……!?」
人間などには知られていない、意外な事実であった。
「そんでな、そういう連中だから、当然雌には飢えまくってるわけだわ。……つまり、要するに」
少尉はものすっごく言いにくそうに深々と溜息を吐いてから、意を決して告げる。
「連中、『穴があったら何でも良い』状態なんだよ性的な意味で」
「なん、だってェ……!?」
ずがじゃん、と雷に打たれたような衝撃を受けるエルフ娘。まさか比喩的な意味じゃなく本当に肉穴扱いとかお釈迦様でも思うめえ。
「オーク氏族の誇りと魔王陛下への忠誠に誓って言うが、普通のオークはエルフや人間を性的な目で見ないし、自分の所有する雌を大切にするわい。ゴブリンでもコボルトでも似たようなモンだ」
「いや待ていや待て! 100歩譲って人里襲うのが犯罪者だったとしても、性的魅力を感じないとかないだろうが!」
「拘るのそこか!?」
なんか必死になって詰め寄るエルフ娘に対し、少々引きつつも応えるドノー少尉は少々人が良いのかも知れなかった。
「人間やエルフが自分の理想の体型に性的魅力を感じるのと同じように、オークにだってそういった好みつーモンがあるわ! 俺らの視点からすりゃ人間やエルフは細すぎるっつーの。他の氏族も似たようなモンだ。なんだったらアンケート取ってきてもいいぞ?」
「ななななな、んにゃにおう!? だったら取ってきてもらおうじゃないか!」
で、本当に取って来ました。
「は? ねえわ」
↑第4偵察小隊長、ガレ少尉(オーク氏族・35歳)
「いやあ、もふもふしてないのは、ちょっと無理っす」
↑第5偵察小隊斥候兵、オイニー上等兵(コボルト氏族・26歳)
「毛深くて背の高いのは、嫌でゲスなあ」
↑第5偵察小隊魔法工作兵、ゲスイ軍曹(ゴブリン氏族シャーマン・38歳)
「骨まで愛してくれるのであれば……あ、そういうネタはいい? さいで」
↑第5偵察小隊歩兵、スッカ三等兵(スケルトン(備品扱い)・製造3年目)
「そらあ、銭落としてくれるんやったら、お相手するんもやぶさかやありませんけどな」
↑出入りの商人、マネッキ(ケットー・シー氏族・42歳)
「卵産まない時点で問題外っちゃよ」
↑遊撃大隊第1装甲歩兵中隊隊長、ニョウロ中尉(リザードマン氏族・45歳)
「筋肉がない貧弱なのはいらん」
↑独立遊撃大隊隊長、ムッサー大尉(オーガ氏族・68歳)
『大体サキュバスの娼婦知ってたら、人間やエルフとか相手にならねえし』
↑全員一致の意見。
「以上の結果になりました」
「んぬおおおおおおおおおお……」
床に四つんばいになり、悔しそうなうめき声を上げるエルフ娘。大体最後の台詞だけでもう決着がついていた。 まあ本来相手の種族に合わせて姿形を変えることが出来るサキュバスとでは、人間やエルフが性的に比べものになるはずもない。何しろ向こうは二重の意味でおまんまかかってるのだからそも気合いの入りが違う。当然と言えば当然の話だった。
「命を賭けて魔王軍の危険性を部族に知らしめようと強行偵察に及んだ結果がこれとか……屈辱……なんか別の意味ですっごい屈辱……」
まあそもそもうん百年前の常識で考えたらオークやゴブリンなんかの下位魔属が統率取れてるとか信じがたい状況ではある。しかしながら時間は無情であった。魔王が本気で取り組めばちゃんとした軍隊として機能させることだって出来るようになるのだ。
はっきり言って統率取れてないときより危険性高まってるような気がしないでもないが、エルフ娘さん全くそんなことに気付いていない。ただひたすらに、とんちんかんな屈辱に身を震わせるだけであった。
「……大人しく部族に帰れや、な?」
ドノー少尉に出来るのは、肩を叩いて優しく諭してやることだけであった。
こうして、些細な誤解から生じたエルフ氏族との衝突の危機は去った。解放された狩人の娘は、半泣きになりながら失意のうちに密林の奥へと帰還していったという。
だが、いつ第二第三の勘違いエルフがくっ殺されに現れないとも限らない。
戦え魔王軍(略)第5偵察小隊。負けるなドノー少尉。(独身・見込みなし)
世間の誤解が晴らされるその日まで。
「いやホント、マジ勘弁してもらえませんかね」
な ん だ こ れ は。
うん俺が聞きたいっす緋松です。
いえね、一週間ほどインフルエンザで魘されてたら、なんかこんな妄想が生じまして勢いで書き上げてしまった次第で。何でこんな事になったんだろう本当に。
ま、よくあるくっ殺されない系の話なんですが。その理由を考えてたら魔王軍が近代化。なんでだよ。やっぱり熱に浮かされて話考えるとろくな事にならないと言うことです。
なお一発ネタですので続きなんぞございません。また熱に浮かされ出もしたら、ワンチャン……?
ではそういうことで。皆様も体にはお気をつけ下さい。