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鬼姫の曼珠沙華  作者: 紫木 千
第四章 『頭領一家編』
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【序章】

 いつも、優秀な兄と比べられていた。兄は賢く、武術に長けていた。

 それでも、兄には憧れていた。幼い頃から兄の後ろをついて行ってたが、兄に任せてばかりで気づけば自分には何の取り柄も無くなっていた。

 そんな時に、彼女に出会った。


「こちらが、次期頭領となる水無月よ。そして、妹の文月姫。二人とも、文月姫には会うのは初めてよね?」


 母の紹介で従兄弟の水無月、文月の兄妹が訪ねてきた。水無月とはよく会っていて、前から知っていたが、妹の文月には初めて会った。

 幼いながらも、文月の整った容姿には驚かされた。鬼神の頭領である睦月の長男、長女は美男美女の兄妹と噂されていたが、その通りであった。

 しかも、この兄妹は頭も良いらしく、頭領の子として相応しい逸材であった。


 ───優秀な我が兄が妬むほどに。






「はじめまして、長月」


 草木張でしか味わえない草木の生い茂る美しい庭で、文月が話しかけてきた。

 美しい顔の持ち主だが、誰彼構わずに話しかけるその様がまだ幼い。だが、その声と仕草は年に似合わないほど落ち着いていた。


「何用だ、文月」

「あなたを見かけたから」

「そうか」


 適当にあしらえばどこかに行くだろう。そう思っていたが、文月は何が楽しいのか隣で自然と戯れている。


「水無月殿とここに来れば良いだろう」

「兄様は葉月とお話してるから、退屈だった」


 呟いた文月の横顔を見て、兄弟の下の位である自分と比べて、何か思うものがあった。


「私の本名は、美月っていうの」

「鬼神がそう簡単に本名を名乗らぬ方が良いのでは」

「あなたは私と血族だから、大丈夫だと思った」


 やはり、幼いな。自分より下の者に会うなんて初めてのことだった。

 文月は落ちてくる楓を追いかけて小さな石に躓いてしまった。咄嗟に駆け出し、倒れる寸前だったその細い体を受け止めた。

 文月の顔がすぐ近くにあった。長い睫毛と艶やかな髪に戸惑い、すぐに手を離した。

 文月は微笑んだ。


「ありがとう」


 その時に抱いた感情の名前を当時はまだ知らなかった。

 だが、そこで久しぶりに自分の本名を口にした。


「楓だ」

「楓……?」

「俺の本名は、楓だ」


 初めての気持ちであった。心の中が温かくなる、だけど、苦しくなる。





 ────文月は俺の初恋だった。






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