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鬼姫の曼珠沙華  作者: 紫木 千
第三章 『雪ノ都編』
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【第三章】死体の山の上で

 雪女の叫びに応じて大きな地震が都を襲う。


「何……」


 美月は子供に取り憑いている雪女から溢れ出る瘴気に警戒した。

 それから雪女は不気味な笑みを浮かべると巨大な柱を何本も作り出し、周りにいる忍たちに微笑みかけた。


「邪魔だ」


 突如折れた氷の柱の先端が飛び散り、忍たちの体に突き刺さった。


「……!」


 体に大きな穴を開けた忍たちはそのまま氷の柱に埋め尽くされた地面に放り投げられ、更に雪景色に赤を散らした。

 なんてことだ。忍び隊が全滅した……!


「鬼神共を殺さないとね……私はもう戻れないから」


 雪女は弥生、皐月を見て、それから美月に視線を捉えた。

 雪女の手から氷の剣が放たれた。


「美月!」


 優は美月を咄嗟に突き飛ばして何とか彼女を守った。

 だが追い打ちをかけるように宙に浮く雪女は更に氷の柱を作り出すと美月に打ち込む。


「……っ!」


 美月は反射的にそれを避けた。

 あの雪女は美月ばかり狙うつもりか。優は美月の元に駆け寄り彼女を守る体制に入る。

 急がねば。皐月は拳を握りしめると弥生を閉じ込めている氷を殴った。


「何だよこの氷!?」


 皐月の拳でさえビクともしない。

 喚く皐月を見て雪女はケラケラと笑った。


「愉快愉快! 私の氷はねぇ!? 強いんだよ!! ほらほら早く助けないとその鬼凍え死ぬぞ!!」


 弥生は氷の中で震えている。

 皐月は何度も氷を殴って弥生の救出を試みるが壁には亀裂さえも入らない。


「弥生! すぐに助けてやるからな!!」

「皐月……」

「お前まで失う訳にはいかねぇんだよ!」


 皐月の拳が血で滲んでいる。

 雪女は頬を赤らめ楽しそうに高笑いすると、必死な皐月の元へと飛んでいく。


「行かせるか!!」


 美月は影から物の怪を出して雪女の足を掴んだ。


「は、離せっ!!」


 物の怪たちは雪女を掴んで離さない。

 ならば主をうち取れば良いと雪女は美月に向かって手を翳した。

 その時、桜吹雪によって雪女が弾き飛ばされた。


「姫様を傷つける者は許さない!」

「小桜! 小雪!」


 後から参上した双子は美月の傍に駆け寄り戦闘態勢を崩さぬまま雪女に立ちはだかる。

 物の怪に足を掴まれたままの雪女は美月を見つめ唇の端をつり上げると掌を天に翳し、巨大な氷の塊を作り上げた。


「ぶっ潰してやるよ鬼姫!!」


 氷の塊を上から投げつけられる前に優は美月の手を引いて逃げる。氷の塊は地面に直撃し都が全体的に揺れ動き、都の生存者の悲鳴が木霊する。

 鬼神を一人残らず殺さない限り、あの雪女はずっと同じ事を繰り返すのだろうか。

 美月は地面に横たわる仲間達の姿を見渡し、悔しさのあまり唇を噛む。


「鬼姫……お前が死んでくれるのなら今は見逃してやっても良いよぉ? 仲間が死んでいくのはもう辛いだろ?」

「散々命を弄んでおいて何を言う」


 美月の言葉に笑顔の消え失せた雪女はまた柱を打ち込んだ。

 振動に耐え、美月は雪女を睨み続けた。


「…っ……この命、投げ捨てる覚悟ぐらいあるっ! 奪いたければ奪うがいい! お前も一緒に地獄に引きずり下ろしてやる!!」

「……っ! 黙れ!!」


 吹雪が激しくなってくる。

 雪女は狂気と快楽意外に蘇ってきた久しぶりの感情に顔を歪める。それは、恐怖だった。

 鬼姫の金色のあの目が怖い。靡く漆黒の髪が怖い。


 ──あれは、私を、確実に殺す。


 美月の持つ曼珠沙華が赤い血のような輝きを放つ。

 おぞましい程の殺気を放つ美月の隣で優だけは恐怖など抱かず、ただ悲しげな目で彼女を見つめる。


「殺す! 殺す殺す殺す殺す殺す殺すっ!」


 雪女は美月に掴みかかろうと急降下する。構えた直後、目の前に優の背中が見えた。


「優……!」


 雪女は優と目が合った途端、体にまたしても何かが巻き付くのを感じた。お経の文字が雪女を捕らえる。


「お前……春日の子孫か何かか!!」


 雪女は体中に巻きついて自由を奪うお経の中でもがき、優を睨みつける。


「春日は俺の母上だ」

「春日……?」


 優が口にした人名に小雪が反応する。優は小雪に気づかぬ振りをした。

 優は刀を手に小屋伝って飛び上がる。


「今度こそ……消滅しろ!!」


 雪女に向けて刀を振り上げた。その時。


「……!!」


 すぐ近くに殺気を感じて優はすぐに引いた。間一髪、黒い短刀が優の居た場所を通り過ぎた。


(気づくのが遅かったら……腹に直撃してた……!)


 更に直進してくる何本もある短刀を優と美月は避けた。

 短刀はその先にある小屋に突き刺さった。

 あの短刀に見覚えがある。


「ククク……これは絶好の機会、ですよね?」


 気味の悪い笑い声と共に隻眼の鬼が姿を表す。なんと間が悪いのだろう。今来てもらっては困る存在が美月たちに近づいてくる。


「鬼蛇……!!」


 鬼蛇は黒い短刀を大量に両手に持ち、そのまま撒き散らした。

 皐月以外の全員がその場から逃げて短刀を避ける。

 それでも弥生の側から離れない皐月は苛立った様子で鬼蛇に叫ぶ。


「おい鬼蛇よ! 後にしてくれねぇか!?」

「おや、皐月様。この混乱の中、私が来ると困りますよね? ですよね? だから来ました」


 宙を舞っていた短刀を再び手に呼び寄せて掴むと今度は雪女目掛けて投げつける。

 優の術式が解かれ、雪女は再び自由を取り戻す。


「くそっ……」


 これで戦うべき相手が増えた。

 正直言って絶望的だった。

 やがて、鬼蛇は黒い短刀を小桜と小雪に投げつけた。その尋常ではない速さに双子は反応が遅れてしまった。


「小桜! 小雪!」


 美月は咄嗟に双子の元へ駆け出したが間に合わない。

 小雪は姉を引きつけるとそのまま庇った。


「……! 小雪──」


 小桜は目の前にいる弟と弟の背中から飛び散る鮮血に目を見開く。

 背中に黒い短刀が刺さったまま小雪は姉の腕の中に倒れ込んだ。


「小雪!!!!」

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