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【序章】
あの日は特に雪が降っていた。
傷だらけの体を引きずりながら、ようやく灯りを見つけた。ここがどこだろうと構わない。とにかく助けてほしい。
「あの、大丈夫ですか?」
声が聞こえ、顔を上げた。
それは人ではなかった。頭から雪を被った、角を生やした鬼だった。
「お……に……」
その鬼はよく見れば人が良さそうな優しい目つきをしていた。目も髪も灰色で、妖怪らしい見た目だったが、どうせもう死ぬのだから、どうでもいい、と女は倒れ伏した。
「……!?」
鬼は倒れた女を抱きかかえた。
人間の女だ。
「す、すぐにお屋敷に運ばねば……!」
鬼は女を抱え、足を速めた。
────ずっと、愛しているから。