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鬼姫の曼珠沙華  作者: 紫木 千
第一章 『月火神社編」
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【第一章】鬼の対立

「む?」


 コタツで一休みする、弥生と卯月と皐月。

 コタツの台に突っ伏していた弥生が、突然立ちあがった。


「おい、どうした」


 弥生の不可解な行動に皐月は首を傾げた。


「地面が、揺れてる…」

「地面…?」

「誰かが、来る…」




 物置から出て小桜たちと合流した美月。持っていた曼珠沙華が輝きを放ち始め、何事かと曼珠沙華を見つめていると。


「─っ!!」


 鎖が美月たちに襲いかかった。かわされた鎖は地面を叩き割る。


「まさか…」


 見れば、葉月と長月の兄弟が武器を手に、神社へと足を踏み入れていた。


「久しいな、我が同胞」


 外に出てきた弥生、卯月、皐月もこの兄弟を見て目を見開いた。


「汚らわしい。何しに来た!」


 卯月が葉月を睨みつけた。


「卯月よ、だが、そんな怖い顔をしているとせっかくの美人が台無しだ。それとも、その顔に傷をつけてほしいのか?」


 葉月が鎌を持ち直す。そこに瞬時に飛び出してきた皐月が、卯月を庇うように前へと進み出た。


 葉月は面白そうに神社内を見回すと不敵に笑った。


「封印されていた鬼神がこんなにも揃うとは!この鎌の練習台にでもなってくれるかな」


 全員、武器を持つ。皐月は素手でも丈夫な体をしているが、『芭蕉』があればもっと強かっただろう。


「まあ、良い」


 葉月の言葉を合図に長月が鎖を振るう。神社全体を包み込めるぐらいに伸びた鎖が美月たちを叩き潰す勢いで襲い掛かってくる。

 卯月は弥生の襟元を引っ張って一旦引いて、皐月は飛び上がって神社の鳥居に飛び乗る。

 小桜と小雪が美月を抱えて屋根の上へ飛び乗る。景色が突然変わり、美月は困惑する。


「逃げるな。どうした封印が解かれたばかりで体が鈍ったのか??」

「葉月、なんのつもりだ!?」

「文月を殺す。どう足掻こうと、血筋で考えれば、俺が次期頭領となるのだ」


 怒鳴り散らす皐月を、葉月は嘲笑う。


「だから馬鹿共は嫌なんだ。俺は頭領となり、新たな鬼神を組織する。──要するに、お前らは邪魔だ。さっさと死ね」


 地を蹴り、師走に斬りかかろうと大鎌を構える葉月。

 師走の首元に刃が当たりそうになるその寸前で体を回転させ、師走を真ん中から斬り裂く──。


「……鈍ったのはあなたようですね」


 葉月の大鎌の刃先は丁度一本の刀の側面に当たって止められている。


「『カタバミ』……!」


 カタバミの紋章の入った師走の刀の名を低く唸るように呟く。葉月はふわりと跳び、再び大振りに鎌を振って師走に対抗する。

 師走は葉月の攻撃を全て刀で払いながらすきをついて葉月の腹に狙いを定める。

 二つの武器が交わり、お互いに一歩も譲らない。


「全員散りなさい」

「長月!追え!」


 師走の声に鬼たちは反応し、神社から全速力で離れる。その後を追うようにして長月が縮んだ鎖を片手に走り出す。


「葉月、お前の言っていることは鬼神への反逆!わざわざ如月様の名を汚すようなことを…!!!」

「父上は俺のことなど、見向きもしなかった!!!」


 葉月の地面を踏みしめ大鎌を振るって弧を描く。それを師走は頭を引いてかわし、『カタバミ』で大鎌の動きを再び封じる。


「無駄な戦いなどしたくない、葉月!!」


 師走の言葉に聞く耳も持たない葉月は何度も鎌を大きく振り上げては師走の首元を狙っていく。


「鬼神を全員倒せると思うか!?お前たち兄弟の暴走を睦月様も黙ってはいられない!」

「睦月? 奴に鬼神一族を任せるお前らもとんだ大馬鹿者だ!!!」


 葉月は飛び上がって師走の首元を再び狙う。それをカタバミで寸止め、師走は薙ぎ払う。

 その衝撃で葉月は吹き飛ばされるも地に足を踏みしめ、後退を防ぐ。


 師走は刀を片手に持ち替え、風を斬る。


「さあ、私に刃を向けてみるがいい。全て払ってみせよう」  

「貴様……仲間を払ったからといって決して安全とは言えぬぞ」

「どういう意味だ」

「まず、俺が強いということが理由の一つ。そして………」


 葉月は重々しく鎌を構えると不敵な笑みを浮かべた。


「文月が逃げた先には、奴が待っている」




………………………………………………………………………………………………………………



「姫様、しっかり掴まって」


 小雪は美月を軽々と抱えると小桜と共に俊足に木々の間を走り抜ける。


 神社では恐らく師走と葉月が戦っているのだろう。

 弥生、卯月、皐月とはばらばらに別れてしまったからそれぞれの安全は確認できない。この三人か、美月のどちらを長月が追っている。

 葉月の目的は文月の生まれ変わりである美月だけかと思ったがその真の目的は十二人の鬼神全員の命を奪うことである。


 小雪の足は速すぎて油断すると吹き飛ばされそうになる。やはり忍びとしての鍛錬がこなされているようだ。


「待って…」


 小桜が何らかの気配を感じ取り、足を止める。小雪も辺りを警戒する。


「誰だ……」


 木陰により暗くなっている山中を見渡しながら小桜は低い声で言った。


 突如飛び出してきた刃を寸の所で小桜が苦無で止める。相手は明らかに小雪に抱えられている美月を狙った。長月であるはずだが、この手応えは、音は、鎖ではない。

 小桜は襲ってきた相手を見て目を見開いた。


「貴様…!」


 驚愕の声に目を向ける美月も硬直してしまう。


「……………」


 そこに立っていたのは、桐崎だった。


「──あっ………」


 悲鳴をあげそうになるが、喉にこびりついたように上手く声が出せない。

 また、あの日のように、殺しに来たのだ。


「見つけた……」


 桐崎の冷たい目は美月を捉えていた。


「夕…霧……」


 頭の中で、多くの記憶が流れていく。あの時の、無邪気で優しい夕霧など、もうどこにもいない。

 死ぬ最後の瞬間まで見えた夕霧の冷たい目は脳裏に焼き付いて離れない。


「すまないが、運命は避けることなどできない。生まれ変わろうがなんだろうが、俺は霧の部族の者であることに変わりない」


 桐崎が刀を構えようとするその一瞬を小桜は見抜き、右手を払い、大量の花弁を巻き起こす。

 刃物のように鋭い花弁を避けながら桐崎は前を見据えるも既に双子と美月の姿は見当たらない。


「ちっ…」


 悔しげに美月たちがいた場所を睨みつけながら桐崎は刀の先を地面に突き刺す。


「千里眼」


 眼を閉じ、意識を集中させる。この田舎にある小さな山々の中、美月を抱え走り抜ける双子の姿を見つける。


「そこか…」



……………………………………………………………………………………………………………………



「弥生、もっと速く!」

「急かさないで!」


 岩やら木やらを次々に飛び乗りながら移動する弥生、卯月、皐月。だが、目の前に長い鎖が伸びて地面を叩き割り、衝撃で地が揺れる。

 上から長月が現れ卯月たちの前に立ちはだかる。


「観念してくれ。急所を狙えないではないか」

「そっちこそ。馬鹿な兄の命令しか聞けん人形め」


 皐月の目に鋭さが増していく。その後ろで卯月は簪を懐から取り出し、戦闘態勢に入る。


「長月。三対一で勝てると思うか。兄のくだらん野望に、なぜそこまでして命をかける?」

「愚問だな。これは弟としての立場をわきまえてのこと。それ以上、何がある?」


 長月は地面に突き刺さった鎖を引き抜くと皐月たちに向かって振り回す。


「避けろ!」


 皐月の呼び声と共に卯月と弥生も飛び上がり、木の上に向かう。

 だが長月の持ち手に百合の紋章が刻まれた鎖は行動範囲が広く、皐月たちが避難した木を次々と薙ぎ倒していく。


「逃げてばかりで何もせぬ。役立たず共め」

「気付け!俺達鬼同士、無駄な戦いなどしたくもない!」

「くだらん情けなど、弱さの証」


 長月は飛び上がって鎖を大振りに振るうと卯月たちを襲う。


「……!!!」


 金属の擦れる音ともに、弥生の体の自由が奪われる。


「弥生っ…!」

「動くな」


 長月は鎖で捕えた弥生を無造作に引っ張り、手元に引き寄せ、大木の上に飛び乗る。

 鎖が体に巻き付き、身動きの取れなくなった弥生はなんとか抜け出そうと藻掻いている。


「弥生を離せ長月!!」

「それはお前らの行動次第だ。卯月、皐月。このまま大人しく兄上の元へ向かうか、それとも弥生の最期を見守り、自らも命を絶つか。選べ」


 長月は冷たい視線を弥生に向けた。


「卯月様! 弥生のことは良いから、どうかお逃げください!!……皐月!!」


 なかなか動かない卯月。選択に迷う皐月に痺れを切らしたように弥生が叫ぶ。


「皐月! 卯月様を連れて、はやくっ…!!」

「仕方ない…」


 皐月は諦めたように肩を落とした。


「皐月、何を!?」

「──お前らの言う通りにしよう」


 皐月の判断を聞き、長月は訝しげに目を細めた。



卯月の秘密。

得意なことは雪の日のかくれんぼ。白すぎて雪と同化していたので見つけにくかった。

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