【第四章】『これからはずっと……』
──洒落たことをして、お前らしくないな。
控えめで美しい女の声が白い世界に響き渡る。まるで洞窟の中にいるかのような響きだ。それに答えるように水面が揺らぐ。
──いいじゃねぇか。俺だって格好つけたくなる時もあるんだよ。
今度は低い男の声が響いた。少し拗ねているような、でも嬉しそうな声。女に絶対的な信頼を置いてるようだ。
──あの子には、悪いことをしてしまっただろうか。
──なんだよ、急に。
──ひとりぼっちにしてしまっただろう。あの子を。
置いてきた大切な存在に胸を痛め、労わるようにそう語った女を、男は励ました。
──あいつは、ひとりぼっちなんかじゃない。たくさんの仲間に恵まれてる。
この二人の大切な存在。成長して立派になった大切な家族。
──そうだな。
──大丈夫だって、心配すんな。
男の言葉を聞いて女は安心していた。
──……なあ、あの簪、もう一度渡したいんだ。
男のこの一言で、冷たい空気が心地よいものになってゆく。女は嬉しそうに、悲しそうに微笑んだ。
──もしも、お前も私も生きていれば……。
──大丈夫だって。これからはずっと一緒だから。卯月
──ありがとう……皐月……。