第33話 知ってた?
コイン争奪戦が終わると、安堵感からなんとなく祭が終わったような感じもした。 会場を元の形に戻すため全員観客席から降りる。 すべての人が降りてしまうと魔法の先生が再び呪文を詠唱し、観客席を消してしまった。 便利なものである。 リトは魔法授業をもう少し真面目な態度で受けようと少しだけ考えを改めた。
その後のイベントは、どこか消化試合のような微妙なけだるい感じがしたがそれなりに楽しいかった。 テノス国観光協会主催の○×クイズでは広場にいたものが全員参加できたのでリトも女官達と一緒に参加したが一問目で間違えた。
テノス国は異生物と呼ばれている異種族の者の居住を全面的に認めている、という問いだった。
リト達は今までほとんど異種族の者を見たことは無いが、翼族にしか見えない巳白がいるので、○だと思ったが実際はバツだった。 異種族の者は北のスイルビ村でしか今のところ居住はできず、居住するのにもきちんとした審査が必要とのことだった。 どうやら他国から来た者に巳白を見ても平気ですから心配しないで、と告げたいようだった。
確かにリトの今まで聞いた限りでは、異種族と人間は決して友好な関係ではないらしい。
リトも小さい頃は「悪いことをすると翼族が来てさらって行かれて食べられちゃうよ」と親からおどされたものである。 翼族は――本当かどうかはわからないが――すこし前まで人を食べていたそうだから。
巳白を見ていると人を食べそうには全く思えなかったが。
あと、城下町には結界が張ってあって許可されていない異生物、魔獣などの進入はできないそうだ。 城外はところにより竜や魔獣、異生物が出る場所もあるそうだ。
「知ってた?」
ノイノイが言った。
「ううん。 魔物とかも出るのは夜でしょ? 夜に町や村を出ないから見たこともないし。 いるの? ほんとに」
ユアが言った。
リトもそうだった。
村では夜遅く外に出ることはあまりなかったし、村の敷地を出ることも無かった。 だから、巳白を見るまでは異生物も魔獣も物語の中だけの話ではないかと思っていたくらいだ。
そういえばラムールのペットは――猫鳥やカーペット犬?――は異生物なのだろうか、魔物なのだろうか。 リトにはその境があいまいだった。
参加賞の飴をもらい、しばらくの間、出店を最後とばかりに見て回った。 クララの店では弓が取った賞状や盾がどうだとばかりに早速飾られており、染み抜きやアイロンサービスも大盛況だった。 弓とクララが忙しそうに働いている。 リトたちは”今見つかったら手伝わなきゃいけなくなっちゃう”という誰かの言葉にみんな反応し、そそくさとその場を立ち去った。
19時からは夕食の宴があった。 広場に各商店の目玉料理や御馳走が並び誰でもバイキング形式でそれを好きなだけ食べることが出来た。 今日の晩ご飯はここで済ませるわよ、と女官たちやリトはそこでお腹一杯食べた。
そして閉会式で国王と城下町町長の言葉、そして巫女の奉納の舞の後、餅巻きがなされた。
「いーっぱい取ったぁ」
帰り道、ユアは満足そうに餅を沢山抱えていた。
リトにとっても、とてもとても楽しい一日だった。
なのになぜか、リトの心には小さな棘がささったままだった。