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陽炎隊  作者: zecczec
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第25話 占い師の少年

 そうこうしているうちに一人はぐれ、二人はぐれ。 ついにリトもはぐれてしまった。 まず最初にはぐれたのはユア。 つかみどりお菓子コーナーで本気になっていた。 ……これははぐれたというより置いていったという方が正しいだろう。 次にマーヴェ。 知り合いの貴婦人と会い、そのままそちらに合流。 そしてリト。 リトは広場でのイベントは何があるのか知りたかったので祭の実行委員会本部を探していたところでみんなとはぐれてしまった。

 一応、場所を人に聞いた。 でも初めてのお祭りの会場でのぼせてしまい、どうも道をまちがえているのか、本部を見落としているのかがわからない。


 弓のアイロンかけ大会、始まってなければいいけれど……


ときおり中央の舞台がある方で、どどど、とか、わわわ、とか歓声が聞こえてくるたびにアイロンかけ大会でないようにと祈る。 何時からか聞けばよかったと思い悔やんでも後の祭りである。 しかもクララの出店の場所すら分からなくなっていた。

 その時、出店と出店の間の、ほんの半畳ほどの部分に沢山の人だかりができているのが目に入った。


 のぞいてる場合じゃないんだけど……


と思いながらついつい寄っていってしまう。

 見てみると一人の少年が椅子に座り、人だかりの方を向いて何かをしているようだ。 少年の前にはいかにもそこいらで拾ったといわんばかりの箱が置かれ、その上に数枚のカードが置かれている。 その箱を挟んで少年と反対側に少女が座り、少年が何か告げる度に一喜一憂する。

 少年はリトと同じくらいの年頃に見えた。 きれいな栗色のおかっぱ頭で女の子かと遠目では思うだろう。 カジュアルな服装で、腰のベルトに何個かの布袋がくくりつけてあり、どうやら彼は占い師のようだった。


「……のカードが出ているから、彼とはうまくいきますよ」


 その言葉で一区切りついたらしい。 見て貰っていた少女が礼を言って立ち去る。 しかしすぐまた他の客が座る。 すごい繁盛である。

 しかしリトは今これといって占って欲しいこともなく――今望むとすれば開催本部の場所だけである――そのまま立ち去ろうとしたが。


「あぁ、と、そこの人」


 その少年がリトに向かって声をかけた。 リトはいぶかしげに少年を見た。


「お探しのものは2ブロック先を右3軒目。 でも回れ右して15歩進んで右見たほうが早いみたいだよ。 ……さて、お待たせしました。 次の人……」


 少年は言いたいことだけ言うとさっさと次の占いに入っていった。


 私、何も言っていないけど???


 リトはぽかんとしていたが、とりあえず回れ右をしてみることにした。 15歩歩いて右だっけ? 1.2.3.4…リトは進む。 ……15。 そして、右側を見――


 ドシン!


 変なところで立ち止まってしまったせいで左側から来た人にぶつかられてしまった。


「おっととと。 大丈夫?」

「あ、はい」


 ぶつかった男の人は手に黄色いビラのようなものを100枚ほど持っていた。 その文字が目に入る。

 【祭予定表】


「あ」

「どうかした? あ、これ? いるかい?」


 男は一枚取り、リトに渡す。 それは確かにこのお祭りのイベントの予定開催時刻とお祭り会場の出店の並びが載っている地図だった。


「今から本部に、追加で持って行かなきゃならないんだよ。 無くなったらしいからね」


 男はそう言って去っていった。 リトは後を追う。 男は進むとあるテントに入って行った。 正面に実行本部の看板が置いてある。


「ウソ…」


 リトはおもわずつぶやいた。

 そこは確かに2ブロック先を右に3軒目だったのだ。

 占い師、やるな……と思いながら貰った予定表に視線を落とす。



 

 10:00 開会式 テノス国城下町町長挨拶

 10:30 奉納の舞

 11:00 新作ファッションショー 衣類協同組合主催

11:30 アイロンかけ大会 全国クリーニング協会主催

 12:00 早食い・大食い競争  飲食店協会主催

 12:30 射的大会 全国武器防具協会主催

 13:00 演舞 

 13:30 宝物探しゲーム開始

 14:00 力自慢大会 スポーツ協会主催

 15:00 お菓子作り大会 甘味連盟主催

 15:30 宝物探しゲーム終了 結果発表

 16:30 コイン争奪戦  テノス軍主催 

 17:15 ダーツゲーム ダーツ愛好会主催

 17:30 ○×クイズ テノス国観光協会主催

 18:00 酒のつまみコンテスト 夜間飲食業協会主催

 19:00 夕食の宴 祝い酒振る舞い

 20:00 閉会式 閉会の言葉 奉納の舞 餅まき 

 21:00 閉会



 

 なかなかイベントが目白押しである。

 注意書きとして、すべての競技種目には豪華商品及び賞金がついています、となっている。

 今の時間はファッションショーらしい。 次がアイロンかけ大会なのでもうそろそろ会場に行かないといけないだろう。

 裏はこの祭会場の地図になっているのでこれで平気。 1,2回だけ道を間違えたが早々中央広場についた。 人だかりでステージの方はよく見えない。 しかしちらりと見た限りでは今は毛皮を着て歩いているようだった。

 リトの正面からフードをかぶった男が近づいてくる。 うつむき加減で歩いてくるので顔は分からない。 男はリトの前に来るとリトの進行方向を邪魔するかのように左右に動いて進路を塞いだ。


……なに?この人……


 リトは気味悪く思いながらやりすごそうとする。 しかし男は一向に進路を譲るつもりも、リトから離れる気もなく、むしろ喜んでいるように見えた。


「おじょうさん、お茶でもいかがですか」


 男はそう言った。 リトはひっぱたいてやろうかと思ったが、どうもこの声には聞き覚えがあった。

 すると男は目深にかぶったフードを少し持ち上げて顔を見せる。


「お、……」


 王子、と叫ぼうとしたが、男からとっさに口を押さえられる。


「しーっ! おしのびなんだから目立つような真似はしないで」


 そう耳元でささやかれる。

 リトは頷く。


「ど、どうしてここに?」

「すごかったぜ? 夏バージョンファッションショー。 いやぁ、やっぱりナマは違う。 冬バージョンの毛皮なんか見てる奴の気が知れないや」


 デイはあっけらかんと言う。 【すごかった】の意味するところがファッションショーそのものを指していないことはリトにも分かった。


……そういう人だった。


 リトはこめかみを押さえた。 気を落ち着けながら


「お……」


 王子は、と言おうとしたが、デイに人差し指を立てて制される。


「だからお忍びだって。 デイでいいよ」

「じ、じゃぁ、デイ?」

「オッケー」


 再びフードを目深にかぶりデイは頷く。


「警護の人とかいないの? 一人? ラムール様は?」

「せんせーは祭の来賓としてこの会場のどっかにいるはずだぜ? あ、せんせーに会っても俺に会ったって言うなよ?」

「……ってことはまさか」

「そ。 実は今、城で、教授から歴史について教わっていたんだけどさー。 こっちが気になるじゃん? 抜け出して来た。 だから警護もなし」


 悪びれることなくデイは言う。

 ラムールがしょっちゅう頭をかかえて困った顔をするのが分かる。


「で、でもあぶなくない?」

「ヘーキさ」


 ぜんぜん気にしていないようだ。

 そしてリトはまじまじとデイの姿を見つめた。 フードつきのトレーナー。 フードは大きめですっぽりと顔のほとんどを覆っている。 ズボン。 足は…サンダル。 っておいおい、それは庭師のじゃないのか? どうやってデイが脱走したか目に見える気がした。


「ヘンな人に見える」


 リトは素直な感想を述べた。


「まぁ、もーちょっとしたらまともな格好になるって。 ところで何を見に行ってるのさ?」


 そこでリトは思い出した。


「あっ、そうだ、アイロン大会見るんだった」

「アイロン大会? そりゃーまたクソつまらなさそうなものを」

「あっはは。 それは否定しない。 友達が出るの。 同じ女官よ?」

「その子かわいい?」


 デイはすかさず尋ねた。


「え? うん、まぁ、かわいいけど?」

「よしゃ、じゃー俺も見に行かなきゃな」


 なんというか、こんな奴が未来の王でいいのだろうか。 ラムール様、教育方針間違えている気がします。

 そんな事を考えながら、とりあえず二人で会場の方に向かう。 ファッションショーは終わったようでぞろぞろとその場を後にする人が増えた。


「早食い・大食い競争は見たいと思うけど、アイロン大会はなー」


 すれ違う人々を見てデイが言う。


「今のうちに腹ごしらえ、って感じだろーな」


 案の定、残った観客はほとんど女性、それも中高年が占めていた。 ところが一人、遠目でも分かる観客が一人いた。 褐色の上半身裸6本腕男。 アリドである。

 アリドは舞台前に置かれた最前列の席の一つに座っている。 足を組み、ふんぞりかえって腕組みと片手でほおづえ。 あまり行儀の良い客には見えなかった。 弓を見に来たのだろうか?


「アリド兄ちゃん」


 先にアリドに駆け寄ったのはデイであった。


「いよぅ、デイ。 どこの変質者かと思ったぜ。 さてはまた逃げたな?」


 アリドが一本の腕でこづく。


「後で何か取ってやるよ」

「さーんきゅ、さすが話が早いなアリド兄ちゃん」


 デイは喜んでアリドの隣の席に座る。 そしてリトを呼ぶ。


「りーちゃんここ座れよ」


 リ……リーちゃんってまたえらく気軽なものである。


「おめーさんも来てたか」


 アリドがリトに気づいて自分の席の隣をポンポン、とたたく。 どうやらそこに座れというつもりらしい。 リトは勧められるがままアリドの隣に座り舞台の方を見る。 するといきなりアリドがリトの方に手を回して引き寄せ顔を近づけた。

 リトは胸がどきりとした。


「聞いたか?」


 アリドはただそれだけ耳もとでささやいた。


「何を?」


 リトは答えた。 するとアリドが微かに舌打ちした。


「いや、いい」


 アリドはそう言って近づけた顔を離し、フードをかぶったデイと談笑し始めた。 リトの肩に回され一本の手はそのままだった。 手からアリドの体温が伝わる。 暖かい。 ……でも、アリドの腕はどこか固く緊張しているようだった。

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