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陽炎隊  作者: zecczec
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◆2幕◆第24話 お祭りの時は景気よく

 翌日も気持ちの良い目覚めだった。

 昨日はあの後それぞれがぼちぼちと部屋に戻り、また小部屋に集まったりして色々話をした。 そして分かったが、あんなに冷たいと思ったみんなだったが、誤解が解ければただの気の良いどこにでもいる少女達だった。 マーヴェは辛口なタイプで、しばしば悪意そのもののような発言を誰彼構わず吐いており、顔をしかめる少女も多かった。 本人はそのつもりかどうかは分からないが、貴族階級の上下によって微妙に辛口度が変化するのがある意味すごい技だと思った。


 リトはゆっくりとベットの上で背伸びをする。 休みの日は基本的に自由なのでゆっくり眠れる。 幸せなものだった。 昨日の夜はここに来てから数日間の分をまとめて笑った気がした。

 そして昨日の主役であるナコルはどうなったかというと、今日はとてもはりきっていた。 張り切ってラムールの事務室にお茶を飲みに行くのかと思いきや、今のままでは一緒にお茶をしていただくのは申し訳ないわ、私は昨日のお言葉だけで満足よぉ!と、色んな意味でもっと素敵な女性になるわと朝から自発的に掃除や勉強をしていた。 わからないではない。 恋する乙女のパワーはすごい。


 身支度をして、朝食にする。 朝食は食堂の厨房を借りて軽い朝ご飯を作りそれぞれで食べた。 いったん部屋に戻り祭に行く準備をする。 広場の方から開催の祝砲、にぎやかな人々の声が聞こえてくる。 それを聞いただけで胸がわくわくして早く行かないと乗り遅れてしまうような、そんな感じがした。


「ああ、お祭りの音が聞こえてきたわ、やっぱり早めに行かない?」


 とノイノイがみんなを誘いに来た。 実はみんな準備万端であったのでお互いに顔を見合わせながら「子供みたいね」と笑ってさっさと祭に行くことにした。

 広場に着くとまだ始まったばかりだというのに沢山の人でごったがえしていた。 広場の入り口から左右に出店が並べられて幅3メートル位の通路が作られている。 飴に金物、玩具にクジと色々な店が並んでいる。 出店が壁となり広場に迷路のように通路を作り出す。 そしてこの広場の中央にはイベントが催される舞台があるらしい。 今は舞台で奉納の舞やらが披露されているそうだ。


「うっわぁ、にぎやかぁ」


 リトは見回しながらそう言った。


「お祭りはまだまだ夜まであるからね。 もっと人は増えるよ」


 ルティが教えてくれる。

 最初はみんなで見てまわるが途中から好きに行動して、はぐれても気にしないでそのまま個人行動になるように約束した。 寮の門限である夜9時までに帰ればよいだけの話だ。 分かりやすい道なのでリトも一人になっても迷うことはない。

 リトたちはまず、最初はこれでしょと飴屋に行った。 林檎や苺、パイン等に飴がかかっているものや飾り細工で人形の形をした飴、カラフルなぐるぐる模様の丸い飴もある。 小さな飴を沢山買ったり、顔よりも大きいのではという巨大飴を買う者あり、リトはパイン飴と林檎飴を買つた。 「ほらみてみてー!」と、すぐ隣の屋台で食いしん坊のユアが大粒のマシュマロを火であぶったものを幸せそうな笑顔で見せびらかした。


 飴をなめながら屋台を見てまわる。 炭酸ジュースを10秒以内に飲みきれたらタダだよ、といううたい文句に誘われて客が大瓶のジュースを早飲みしている店もある。 子供向けのお人形の可愛い手作りの服を置いている店ではまだ幼い子供たちが目をきらきらさせながら見ている。 靴屋の出店では店の主人が見事なタップダンスを披露し、美容室の出店では、今テノス国の貴婦人の間で大流行というふれこみ付きの、色とりどりのリボンを沢山つけた縦ロールヘアーのかつらが売られていた。 みんなはどう見てもヘンだと言っていたがロッティだけが素晴らしいとそこの女主人を絶賛してかつらを購入していた。


「クララさんの出店にも行ってみませんこと?」


 マーヴェが提案し、みんなでその出店を探した。

 クララさんの出店はかなりへんぴなところにあった。 テーブルの上に【出張洗濯しみ抜きしみ落としは当店で】と金色の文字で書かれているプレートが置いてある。 そして小さな棚にシミ抜き剤の入った小瓶や色々な種類の洗剤が売られていた。 ビンには”ビールのシミ落としに最適” ”口紅、化粧品のシミがすっきり” ”食べこぼし漂白” その他もろもろの広告文句が貼られていた。


「あらみんな。 嬉しい。 来てくれたの?」


 クララ婦人が皆の姿を見て喜んだ。


「こんにちはー」

「こんにちは。 今日はお祭りだからきっと月曜日には沢山仕事がたまっちゃうわよ。 覚悟してちょうだいね」


 クララが微笑む。


「洗剤を売っているだけなんですか?」


 ノイノイが尋ねる。


「いいえ。 メインは洗濯よ。 ……といっても」


 その時でっぷりと太った、かなり身なりの良い中年の女性が慌てて駆けてきた。


「ちょ、ちょっとごめんなさいよ」


 リトたちを押しのけて婦人はクララ婦人の前に出る。


「バーミジュウネ伯爵夫人!」


 その名前を呼んだのはマーヴェだった。


「どうなされましたの?」


 マーヴェに気づくとその婦人はころっと態度を変える。


「あららら。 マーヴェリックルちゃんじゃございませんか。 この前はお宅でのホームパーティー、とっても楽しゅうごさいましたわぁ。 お父様にもよろしく伝えておいてちょうだいませね? ……いやね、今、祭を見ていたら下品なコーラ早飲み大会の場所でコーラを吹き出した人がいてね、ほら、これ見てちょうだい」


 婦人が指さしたスカートの裾を見ると、確かに親指の爪くらいのシミができている。


 「まぁね、別に 普 段 着 だからたいしたことはないんだけど、ほら、シミは早めに落とすにこしたことはないじゃない? オホホ」


 婦人は「普段着」を特に強調したけれど、慌ててクララに向き直るとものすごい形相で「という訳で早く落としてちょうだい」と詰め寄った。


「承知いたしましたわ。 それでは奥のテントに。 ……弓、ご案内して」


 ゆみ?


 マーヴェ達が顔を見合わせた。


「はーい」


 返事とともに奥の小さなテントの中から弓が出てくる。


「弓!」

「リト! 来てたんだ」


 二人が言葉を交わす。 リトが何か続けて言おうとしたが


「さぁさぁさっさと落として頂戴」


 ナントカ婦人がずかずかと弓に詰め寄った。

 弓は慌てずそのシミの部分を見ると「これなら服を脱がなくてもすぐにできますよ、マダム」と言い、テーブルの上に置いてあった試供品の洗剤と布を2枚用意し、手際よく染みを落としていく。 ものの30秒もしない間に染みは消えてしまっていた。


「まぁまぁ綺麗になるものね」


 婦人も感心している。


「お代は……」


 とクララ婦人が口を開くとそれから先の言葉が発せられる前に


「あの者がコーラを吹き飛ばしたの。 あいつに請求して」


とあごでしゃくって後方に控えていたとても存在感の無い男を指した。

 そして「それじゃ、あんた、きちっと払うのよ!」と告げ、さっさと立ち去ってしまう。


「あ、あの……」


 男はとても顔色を悪くして恐る恐る聞いた。


「あの服はとても高いから染み落とし代もバカにならない金額になると聞かされたのですが……おいくらですか? よろしければ分割で……」


 クララ婦人はウフフ、と笑う。


「今日はお祭りですわよ。 この位サービスいたしますわ。 お気になさらずに祭を楽しんで下さいな。 いつでもまたおいで下さい」


 男の顔色がぱあっと晴れる。


「ホントですか? いやありがたいな! 家内に何て説明しようかヒヤヒヤしていたんですよ、ありがとう、本当にありがとう!」


 ぺこぺこと頭を下げて男は去っていく。


「いいんですか?」


 ノイノイが尋ねる。


「いいのよ。 お祭りの時は景気よくしておかないとね」


 クララ婦人はあっさりと答える。

 すると後かたづけをしている弓を横目で見ながらマーヴェが尋ねた。


「あの……それはそうと、クララさん、どうして彼女がここに?」


 クララ婦人は誇らしげに答える。


「今日はアイロンがけコンテストもあるのよ。 他の国や村からも出場するわ。 今年は結構良いところまでいけると思うのよね。 やっと弓が出場してくれるって言ってくれたんだから」


 ああ、とリトは納得したが、他のみんなは「弓ってアイロンがけ上手だったんだ」と初めて知ったようだった。

 弓は申し訳なさそうにうつむいている。


「考え直した方が良いと思うけど?」


 マーヴェがそう言った。


「そんな事ないよ、弓。 頑張ってね。 大丈夫よ、応援する」


 慌ててリトが励ました。 弓は少しホッとしたように頷く。


「まぁ、好きにすればいいわ。 クララさんに認められるくらいの腕前なんですもの。 やっぱり私たちとは違うわね」


 違うわね、の口調が微妙に強く、そしてロッティやノイノイ達がダメよそんなこと言っちゃ、とクスクス笑う。 リトは反論したかったが言葉がとっさに見つからず少し顔をしかめただけだった。

 クララ婦人は他の客の接待をしていて気づかない。


「おや隣の店は布屋さんだよ」


 ルティがすぐ横の出店の前で言った。 すぐみんなが「へぇ?可愛いー」と、クララの店を離れた。

 ルティが気をきかせたように思えた。


「リトー。 早くおいでよー」


 と呼ばれる。 リトは「とにかく弓、頑張ってね」と言うと「恥ずかしいんだけどね、できるだけはやってみる」と弓は返事をした。

 リトは隣の店へと行く。 隣の店は布屋で色とりどりの布や裁縫道具が所狭しと置かれていた。


「私、パッチワークしたいなぁ」

「ユアはその指じゃ針が埋もれて見えないんじゃない?」


 マーヴェが言う。 ユアは少しぽっちゃりしているのだ。 マーヴェとロッティにあはは、と笑われて、ユアはムッとした顔をする。


「あ、これ――イラクサのコースター」


 その時ノイノイが店の一番端にひっそりと置かれていたそれを見つけた。


「あ、ホントだ」

「買いたーい」

「誰にやるのよ」


 途端にユアやマーヴェ、ロッティがそこに集まり盛り上がる。

 ルティだけが厳しい顔をした。

 リトは誘惑に負けて側に近づき見せて貰うことにした。

 リトが首をつっこむと、そこには緑色の麻紐のような糸でざっくりと編まれた手のひら大のコースターが置かれていた。 触れようと手を伸ばすと、


「危ないからね、棘があるから触らない方がいい」


とユアに注意された。


「あの時もこの位のサイズでしたの?」


とマーヴェが聞いた。

 ノアノアは


「違うよ、もっとこれの6枚分くらい大きかったよね?」


とルティに聞いた。

 ルティはあまりこちらを見ずに「そうだね……」と返答する。 それにしても触ると棘がささるコースター。 一体何の役に立つのだろう。 詳しく聞こうかと思ったときには既にみんなは他の商品に気が向いていた。

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