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陽炎隊  作者: zecczec
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第16話 怠け者

 次の日はかなり早い時間に目が覚めた。

 ゆっくり身支度をしても十分朝食まで間に合う。

 窓から外を眺めてみると新聞を配達している少年の姿が見えた。

 正面に見える教会では小鳥が屋根に止まり、正面の扉は開いている。 朝からのお祈りを捧げている者もいるのだろう。

 窓を開けると朝特有の透き通ったすがすがしい香りのする風が部屋一杯に入り込んだ。 身が清められるようだ。

 空は青く光り、今日は良い天気になりそうだ。


「うん、がんばろう!」


 リトは気合いを入れて洗面室に行く。

 さすが年頃の少女たち。 既に化粧室には先客が数人いた。


「おはようございます」


 リトは挨拶をしたが、誰一人聞こえた様子すらみせずに顔を洗ったり髪を結ったりしていた。


――無視か。


 リトは暗くなりそうな気持ちを吹き飛ばすかのように顔を振ると空いている席に座る。

 そしてすぐ、化粧室に別の少女が入ってきた。


「おはよう」


 その少女の挨拶には、みんな、おはよう、今日は晴れるわね、昨日は眠れた?等と返事をした。

 リトもおはよう、とその少女に声をかけたが、反応は無かった。

 やはりこういうのはきついものである。

 しかし幸い、ルティや弓の存在があったので耐えることはできた。

 リトが髪に櫛を通していると聞くともなしに色々な話が聞こえてきた。


「今日はラムール様は休暇明けね。 お会いできるかしら?」

「兵士の公開試合訓練があるわね。 見に行く?」

「明後日の休日は何をする?」

「決まってるじゃない、城下町のお祭りに行くわよ」


――お祭りがあるんだ……。 休日か。 何をして過ごそうかな……


 授業は土日は休みである。 今日は木曜。 あと二日ある。 通いの者は休みの日は白の館には来ないだろう。 さて、何をして過ごすか…

 その考えは化粧室を出た後もリトの脳裏から離れなかった。

 弓も祭りを見に行くのだろうか。

 誘ってみよう。

 部屋に戻ってリトはそう決めた。

 部屋の掃除をして7時には食堂で朝食を取る。 すると7時半には身支度もすべて終え、やる事がなくなってしまった。

 これから九時まで何もしなくていいのだろうか?

 他の少女達を見ていると、朝食後、あちこちに出かけている。

 何をしているのだろう? ルティに聞いてみようと思ったが、姿が見えない。


「あぁーら、誰かさんは行き先がないようですわ」


 その時後ろから声がした。

 振り向くとマーヴェとロッティだった。


「行き先?」


 リトは尋ねた。


「仕方ないわよぉ。 マーヴェ。 新人ですもの」

「ホントねぇ。 普通は誰かの紹介で行き先が出来るものですけど……」

「何の話なの?」


 リトは再度尋ねた。

 マーヴェは誇らしげに説明した。


「ここでは朝食後、始業までの間、泊まりの者は懇意にしている方の所へお手伝いに行くことになっていますのよ。 強制ではありませんけれど。 普通は同じルームメイトや泊まりの女官が口利きとなってお手伝い先が決まりますの。 だって、どこの馬の骨とも分からない、何をしでかすか分からない者が手伝いに来られても困るでしょう?」


 ロッティがマーヴェに寄り添って付け加えた。


「私はマーヴェのおかげでロディ侯爵のお宅にお手伝いにいけるように取りはからってもらいましたわよ。 あなたも誰か仲良くしていただいてる方に口をきいていただいたら?」

「ダメよロッティ。 そんな、いもしない方の事を言うなんて」


 マーヴェはくっくっ、と笑う。


「初日でしたら見習いバッジが朝食の時に貰えますのにね。 それさえあれば誰の紹介が無くても見学できるところもありましたのに」

「見習いバッジ?」

「あらあら自ら働かない者を選んだのに知らないふりがお上手ですこと? どうぞ ご ゆ っ く り お部屋でお茶でもなさっていたら? 怠け者と思われても貴女ほど肝が据わっていれば平気でしょう?」

「ルティは?」

「ルティを頼っても無駄ですわよ。 ルティはシスター志望だから朝食前から教会に手伝いに行ってるわ。 シスターは口利きではできない仕事ですからね」


 唯一、頼りになるルティが駄目だと分かって、リトは青くなった。

 それを見て満足そうにロッティが微笑む。


「私、初日の働かない者は何回か聞いたことありますけどぉ、二日連続で働かない者なんて、そんな度胸のある人、見たことありませんわぁ」

「私も。 普通は初日に不自由を感じて友人に尋ねますのに。 ああ、通いの者はこのシステムを知りませんものね。 お友達が多いと大変だわ」


 二人はクスクスと笑ってごきげんよう、と捨て台詞を放ちその場を去る。

 女官の寮はしーんと静まりかえり、いくら何でもこれは変だと気づく。

 昨日普通に目が覚めていれば

 昨日、ルティが風邪をひかずリトに朝から教えてくれたなら。

 ルームメイトが弓でなく、他の女官達とも親しい者だったなら。

 きっと気づいていただろう。

 不運が重なったとしか思えなかった。

 だが、怠け者の烙印を押されるのは嫌だ。

 せめて何かをしなければ。

 リトは行動を起こした。



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