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陽炎隊  作者: zecczec
13/47

第13話 おまえだな?

 男は一直線にアリドに近づくと迷わずにその腕の一本を掴んだ。


「わっはっはっ、やっと捕まえたぞ、アリド」


 野太い声。 軍隊長である。

 アリドはしっかりと捕まれた手を冷めた視線でみつめた。


「んだよオッサン、何してーんだよ」


 そして乱暴な口調で返事をする。


「相変わらず生意気な口をきくか。 アリド。 滅多にこの界隈で姿を見せないのに今日はどういった風のふきまわしだ? ……まぁいい。 今から警察署に来て貰うぞ。 どうしてかは言わなくても分かるだろう?」


 アリドは肩をすくめる。


「あんまりいい行いした覚えはガキの頃から無いから、オッサンがドレの事言っているのか分かんないね」

「ふざけるな。 南の森での山賊行為についてだ。 黒犬の集団に旅人を襲わせ金品を奪い取り、最後は口をふさいで脅しているのはお前だろう? 6本の腕を持った人間なんざ、おまえ以外にいる訳ないだろうが」


 リトの脳裏に昨日の出来事がよみがえる。


「……ま、確かにオレは山賊育ちだから先天的に得意分野かもしれねーけど。 知らねーな?」


 アリドは唇の端に薄笑いを浮かべる。


「だいたい、証拠はなんだよ証拠は」

「昨日はめずらしく昼間にヤマを働いたな?」


 軍隊長は自信満々に続ける。


「夕方被害に遭った現場に行ったら、木こりが教えてくれたのさ。 昼間、少女が襲われたと。 少女は翼の生えた片腕の男が連れ去ったと」


 巳白の視線が軍隊長と合う。


「そうだ巳白。 おまえだな? 翼の生えた男というのは。 容姿といい間違いない。 この国で翼を持つ片腕の男なんかおまえ以外にはいない。 さぁ、誰だ? おまえが昨日連れ去った少女というのは? その女に聞けばすべて分かるさ。 アリド、お前が昨日何をしたかがな! もう逃げられんぞ。 さっさと牢屋にたたき込んでやる。 さあ、巳白、誰を連れ去ったのか言え!」


 アリドは軍隊長の顔を眺めていた。

 まず、弓が気づいたようにリトを見る。

 そして、巳白も頭をかきながらリトの方を見る。

 軍隊長の視線が二人の視線を追ってリトへと注がれる。


「お前か?」


 それはリトに向けられた言葉だった。


「お前は確か昨日……」


 次に続く言葉は容易に想像がついたが彼はみなまで言わなかった。


「お前なのか?」


 軍隊長の問いにリトは頷くしかない。


「……よし。 お前は既に危険人物としてマークされているからな。 嘘をついたりすると後々困るぞ。 だが正直に話してくれさえすれば落ちた評価も上がるだろう。 正直に答えてくれ。 まず、昨日どうして巳白に連れ去られた?」

「それは、巳白が送ってくれると言ったので……」

「その前に何があった? 野犬に襲われたか?」


 野犬には襲われた。 野犬から逃れるために獣道に逃げ込んでしまい必死で逃げた。 そして途中でアリドが広場へと連れ去った……そこに巳白が来てここまで連れてきてくれた……

 簡単にリトが話すと軍隊長は鼻の穴をふくらませ、どんどん興奮していっているのが分かった。


「よしよし、確かにその時の相手はアリドと巳白に間違いないのだな?」

「それは間違いありません」

「どうだアリド? これでもまだシラをきるか? 昨日被害に遭った者が言っているのだ、山賊はおまえだと!」


 アリドは視線を逸らし面白くなさそうな顔をする。


「巳白に止められなかったら森の中に身ぐるみはいでこの子を捨てていくつもりだったのだろう?」

「いや、あの……」


 巳白と弓が口を挟もうとするが、軍隊長は耳を貸そうとしない。


「さぁ行こうか! アリド」


 軍隊長が笛を吹くと兵士が10人ほど集まりアリドを取り囲む。


「行こうか」


 軍隊長が誇らしげに言ったときだった。


「待って下さい!」


 前に出てきたのはリトだった。


「どうした? 安心しろ、評価は上がるぞ」

「そうじゃなくて……」


 皆の視線が一斉にリトに向く。

 視線が痛い。

 注目をあびる。 

 女官達の視線を思い出す。

 動悸がして軽いめまいがした。

 そのとき。 ひとつの視線に気づいた。

 弓だった。

 他のみんなが興味津々で見つめているのと違い、弓はリトの事を心配している眼差しだった。 矢面に立たされたリトの心を気遣う瞳だった。

 弓が口を開こうとした。

 その瞬間、リトはなにかがふっきれた。


「昨日、確かに巳白に運ばれ、アリドに会いましたけど、私、何一つ貴重品は無くしてません。 野犬の群れに襲われたのも本当だけど、アリドが一緒にいるところや命令するのを見てはいないし、逆に……逆に」


 獣道で転びそうになったとき。 ふわりと体を抱えて浮かせてくれたのはアリドだった。


「助けてくれたのだと思います。 山賊じゃないと思います」


 リトは一気に言い切った。

 面食らったのは軍隊長である。


「ま、待て。 何を言っているんだ? なぜアリドが見ず知らずのおまえを助けるのだ?」

「たまたまその場にいたからじゃないですか?」

「そんな偶然があると思うのか?」

「だって私、何もアリドから貴重品を奪われていません」

「おまえも熊みたいな犬と野犬を見たのだろう?」

「見ましたけどあの犬が野犬の親分かどうかは分かりません」

「同じ黒犬だぞ?」

「黒いだけならいくらでもいます」


 対話しているうちにどんどん心は落ち着いてきた。


「少なくとも、私を野犬の群れから助けてくれたと思っています。 だからアリドが山賊かといわれても困ります」

「おいおい、よく考えろ。 巳白が来たから盗れずに終わったとも考えられないか? アリドを潔白だと信じる、その根拠は何だ?」


 リトははっきりと言い切った。


「瞳が、澄んでいました。 悪い人の目ではありません」


 ひゅう、と兵士から口笛が上がる。 アリドがほんの少し赤くなる。 巳白は微笑み、弓の表情が明るく晴れた。

 軍隊長は反論する言葉が見つからなかったようで歯ぎしりをしたが「仕方がない」と言うとアリドから手を放した。


「俺は諦めないからな。 必ずしっぽをつかんでやるぞ、アリド」

「へいへい」


 アリドは捕まれた腕をさすりながら答えた。

 兵士と軍隊長は去っていく。 そしてそこには4人だけが残された。

 アリドは視線を動かしてリトの方をまっすぐ見ようとはしない。


「あの……」


 リトが口を開くとアリドはリトの頭を再び指でぺちん、と弾いた。

 そして照れたように一言。


「バーッカ」


 声と同時にふわりと風がつむじを起こした。 巳白が羽を広げたのである。


「行こうかアリド。 送るぜ」

「サンキュ」


 アリドは巳白の肩をかりる。


「あ、待って、アリド……」


 宙に浮かんだアリド達に弓が呼びかける。


「たまには帰ってきて?」

「おうよ。 そのうちな」


 アリドは頷いた。

 そして巳白は羽ばたき、アリドも連れて一気に空高く舞い上がる。

 二人の姿が見えなくなるのもすぐだった。

 そして最後に残ったのは弓とリト。


「あの、リトゥアさん」

「え、あっ、はい」


 弓がごく普通に話しかけてきたので少し驚いた。


「ルティ、風邪でしょう? 教会の掃除……頼まれた?」


 そこでやっとリトは思い出した。


「やば……。 結構時間経っちゃったよね? どうしよう?」


 ほんの一瞬の間があって、弓が小さな声で言った。


「私で良かったら……手伝おうか?」

「ホント? ありがとう!」


 リトは弓の手を取ってお礼を言った。

 弓も、にこりと、はじめてにこりと笑顔を見せた。


「うん。 二人でやれば早いから。 私も何度もやったことあるし」


 もう声は小さくない。


「じゃ、いこう!」


 リトは弓の手を引いて走り出した。 やっとつながったその手を放したくなかった。 そして弓が握り返した。


「リトって呼んでいい?」

「じゃあ私は弓って呼ぶね!」


 二人は笑いあって教会へと入っていった。


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