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陽炎隊  作者: zecczec
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第12話 シけたツラ

 9時から始まった授業は10時半には終わった。

 これから昼食までは掃除などをしなければらない。

 女官長が授業終了と同時に教室のすぐ外まで来ていて、リトを見つけると今日はルティが風邪で休んでいる為、代わりに教会に行って清掃するように言われた。

 何をするかは教会でシスターに聞けば分かるから、と言われてリトは安心する。

 今はどの女官にも侍女にも何も尋ねる気にならない。

 白の館を出て空を見上げ一息つく。

 中庭では子供達が元気に走り回り、白の館をはさんで反対側の庭からは兵士が稽古する声が聞こえる。

 じっと空を見ていると、この透き通った青色の空に溶けてしまいたいと思った。 いいや、溶けなくてもいい。 あの広い空間を飛べたらどんなに気持ちが晴れるだろうか。

 まだ二日目なのに。

 こんなに不快な環境になったことなんてないのに。

 南の村ではみな仲良く、親切で、毎日が幸せだった。

 笑い声は喜びや楽しさの象徴であり、決して自分を不安にさせる音ではなかったのに。

 表か裏か、人の心の流れを読もうと神経をすりへらした事など無いのに。

 いままでみたいにみんなに囲まれてあたたかな日だまりのような輪の中に入っていきたい、認められたいと願うなんて。

 でも原因は、自分が王子に怪我を負わせたこと。

 確かに普通ならば、近寄らなくなるのもわかる。

 女官長やラムール様、デイ王子がさほど気にしていない感じだったので他の者もそうだと思っていたが。

 教師も、兵士も、女官も、リトを明らかな危険物として最初から排除しようと、溝を、壊す気のない壁を作っていた。

 この溝はいくらリトが埋めようとしても相手が逆に掘り下げるのが簡単に予想できた。

 苦しくて、辛くて、嫌だった。


「何かシけたツラしてんな」


 不意に背後で声がした。

 振り向くが誰もいない。


「バーッカ。 ここだよ」


 声に注意して辺りを見回すと、教会のすぐ横にある木の枝に男が一人、腰掛けていた。

 褐色の肌、6本の腕。

 昨日の山賊だった。

 山賊は一番上の手で枝をつかむと、くるりと鉄棒でもするように一回転して、リトの目の前に降り立った。

 リトより頭2つぶん位、背が高い。

 昨日と同じようにリトは山賊の顔を見つめた。

 何も考えなかった。

 ただ、見つめた。


「んだよ? 目に元気がねぇなぁ?」


 やはり山賊にも分かるのだろうか。


 ピシン!


「いたっ!」


 突然、山賊は指でリトの頭をはじいた。


「何すんのよっ!」


 リトはおでこを押さえながらにらみつける。


「いやー、別に。 ……で、お前か? 王子に鐘ぶつけてぶち落としたって勇者は」


 山賊は楽しそうにきく。


「なんで知ってるのよ」

「そりゃー、ここいらじゃ知らない奴なんていないだろ?」


 いったいどこまで話が伝わったのか……


「鐘じゃないもん……洗面器だもん」


 リトは無駄とは思いながらも訂正した。


「ありゃ、鐘じゃなかった? 変だなー、オレ、鐘だと思って他の奴に話しちゃったぞ」

「な……!」


 リトが抗議しようとしたが山賊はリトの頭と肩に、なだめるように手をやった。


「ま、デイはもう気にしちゃいねーだろ? それにどうせやましい事やってたんだろうし……、後ろめたくて強気にでれる訳、ねーって。 安心しろや。 んな死刑執行前みたいな顔してねぇで。 特におとがめはないさ」


 そこでリトは気づいた。

 どうやらこの彼は私が落ち込んでいると思って慰めて元気づけてくれようとしているらしい。

 死刑執行前。

 言い得て妙で笑えた。

 そんな表情をしてるのか、自分は。

 おとがめ、か。 確かに正式なおとがめはなかったが、今は周囲の者からおとがめを受けている。

 しかもいつ終わるとも分からない。

 涙が出そうになって慌ててリトは息を止める。

 すると山賊は突然リトを軽々と抱きかかえた。


「ひゃ?」


 山賊の6本の手で横に抱かれる。 みこしで担がれているようなごちゃごちゃとした腕の感触が安定感がある。


「軽いな」


 重さを量るように彼が上下にゆする。 落ちそうで慌ててリトは彼の首に手を回してしがみつく。

 そのとき耳元で彼の優しい声がした。


「大丈夫だって」


 その声がとても暖かくて優しくて、リトはとても心が落ち着いた。


「アリド! 何してるの?」


 上空から驚いた感じの弓の声が聞こえた。

 見上げると、弓が昨日の翼を持った少年に抱きかかえられて空から下りてきた。 弓は慣れた様子でまだ地面に降り立つ前に翼の少年の腕から離れ、軽やかに降り立つ。 翼の少年も続いて地面に降り立った。


「おー、弓。 おひさ」

「アリド、リトゥアさんを下ろしてちょうだい」


 いつもの弓と違ってはっきりとした命令口調で言う。


「何? 知り合い?」


 アリドがリトを下ろさずにたずねる。

 一瞬、弓がたじろいだのが分かった。 リトが答えた。


「弓さんとは……同じ部屋」


 友達と言うべきか一瞬迷った。


「そーか」


 アリドはちょっと考えてリトをゆっくりと下ろした。


「弓のお兄ちゃんとしては、これはなかなか良い事だと思う」 


――お兄ちゃん?


「そー思わねぇ? 巳白」


 ミハク?

 どこかで聞いた気がする。


 すると翼の少年がそれに答えた。


「確かにな。 俺も弓のお兄ちゃんとして今までと違って良いと思う」


――こっちもお兄ちゃん??


『え? 何? 二人とも彼女と知り合いなの?』


 まるで一つのメロディーのように、リトと弓、二人の声は一言一句違わずに重なった。 ついでに巳白とアリド、それぞれを指さすしぐさ、その動きまで完全にシンクロしていた。

 それを見てアリドと巳白が笑う。 あまりに楽しそうに笑うのでなんだか悔しくなった。


『そんなに笑わなくても』


 二人の声がまた重なる。 リトと弓は一瞬顔を見合わせて


『イイじゃない』


 と。 これまた重なる。

 アリドと巳白は更に笑う。 弓とリトは気づいていなかったが、二人が怒って頬をふくらませた瞬間、これも全く同じタイミングだった。


「あー、知り合いさ。」


 アリドが言う。


「っても俺ら、リトゥアの名前は今知ったけどな」


 巳白が頷く。

 弓とリトはお互いの顔を見合わせて、何から相手に質問したものか考えていた。

 そこに背後からすごい勢いで駆けてきた男がいた。

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