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LUNASEA同タイトル小説

PRECIOUS…

作者: 皐月 沙羅

 何かが光った気がした。頭の片隅で。暗闇の中に、一筋の光。針で開けたような小さな穴から、光は漏れ出していた。細く、強く。俺をめがけて。

その光はどこか、俺を責め立てているように感じられた。

 目を開けた。軽いめまいを感じて、起こそうとしていた体をもう一度ベッドに沈めた。顔も枕に埋めながら、うめくようにつぶやいた。

「なんだってんだ」

 携帯電話を手に取り、朝の6時過ぎであることを確認した。このまま起きてしまってもいい。けれど体が、いや、頭がうまく働かない。寝返りを打って目をつぶるけれど、またあの光を感じそうになって目を開けた。

ここのところ、毎朝こうだ。

さっきと同じ言葉を、口の中でつぶやこうとしてやめた。

起き上がってベッドに腰掛け、光のことを思った。

細くて儚いのに、きらきらとした強い光。ふぅ、とため息をついた。向き合わなくては、ずっとこのままだとわかっていた。

俺はこの光を知っているから。彼女の瞳に宿るものと似ていることを。いや、彼女の眼差しそのものなんだと。

 彼女とは、もう2ヶ月も会っていなかった。当然といえば当然、俺は彼女に別れを告げられたのだから。

彼女は自分の夢のために外国へ行くと言った。遠距離で浮気をしないで待っててなんて言えない。だからあなたはあなたで自由にやって。だいたいそんなことを言って去って行った。

その時の俺は、信用がないな、と思ったぐらいだった。わかった、と短く答えていた。

納得した素振り。平気だと思っていたのに、俺はいまだに彼女の光に縛られている。あまりにも彼女が隣にいることが自然になっていて、ただ少し離れるだけな気がしていた。本当に別れの言葉だったと気付いたのはいつだったか。いや、今も違うんだと自分の中で言い張っているのかもしれない。

 俺はもう一度目を閉じた。徐々に光が俺に向かってくる。

彼女を思った。

心の底で、何かがふつふつと湧き上がってくる気配を感じた。

今までになかった、新しい気持ち。感じたことのない、俺に欠けていたもの。

光に手を伸ばす。そっと。

温かいものが、ふわりと手を包んだ。

「馬鹿だ…」

 2ヶ月もかかるなんて。

焦りが浮かんだ。心臓が高鳴り、苦しくなる。

 光は、俺を責めてなんかいなかった。こんなダメな俺を心配してくれていただけだったんだ。彼女は、俺に引き止めて欲しかったのかもしれない。思い上がりだろうか。でも、この気持ちだけは伝えなくてはならない。生まれたての新しい気持ちを。今まで気づかなかった気持ちを。「好き」だけでは到底伝わらない、「愛しい」というこの気持ちを。

たとえ、彼女に受け入れられないとしても。


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