第七話 二人の決意
感想でご指摘があった主人公が公家大名云々言っている所ですが、
それは主人公が歴史を勘違いしていると解釈していただければ幸いです。
筆者の知識不足で起きてしまった誤解です、誠に申し訳ありませんでした。
前書きが長くなってしまいましたが、これからも皆様に楽しんでいただければ幸いです。
あと今回少し気持ち悪いかもしれませんが、これも必要な話なのです。
「なるほど・・・鉄砲にも弱点が御座いましたか」
弥三郎が中村御所を目指しているなか、中村御所の一室で宗珊は腕を組みながら万千代から鉄砲について色々な情報を集めていた。初めは鉄砲の強さを聞いて顔を青くしていた宗珊だったが、次第に鉄砲の事について分かり始めると場所やその日の天気に左右されやすい鉄砲の弱点を理解し始めていた。鉄砲が伝来してそれほど年月が経っていないにも関わらず、宗珊は鉄砲がこれからの戦国時代を変えていくと理解した。だが万千代が鉄砲の事を教えなければ絶対にそんなことは考えもしなかっただろう。
だが万千代は宗珊が鉄砲の弱点を見破ったことに対してそれ程驚かなかった。
万千代的に考えると結局誰でも「分かる」と考えていたからである。
だがそれは万千代が現代感覚で物事を考えているからであり、宗珊や他の家臣、引いては他の大名では絶対に「分からない」であろう。
「まぁ誰でもわかる事だし、別段鉄砲の弱点を見破られても驚きはしないかな」
「若、それは違いますぞ。某は今ここで若と「冷静」に話をしていますから鉄砲の事について正常な判断ができるのでござる。もしここが戦場なら流石の某でも頭では理解していても直ぐに対策を練るのは難しいですぞ。」
「鉄砲の存在を知らなければ宗珊でも混乱するよね」
「今は既に鉄砲の事をある程度理解していますからな、混乱はしませぬ。」
万千代は鉄砲の事についてあまり知らないと言ったが、今の日本では間違いなく日本一鉄砲の事を理解している人物であろう。現状の鉄砲知識は一条家特有の物になっていた。
「でも鉄砲なんかより目下の課題は内政の事なんだよなぁ・・・・」
そう。万千代は父・房基から内政委任を命じられているのである。
実際には豪族撲滅云々によって現状は先延ばしにしているが、豪族達にも限りがある。いつまでも先延ばしにはできないのだ。
「とりあえず御所から出て領民たちの意見を聞きがら田畑を回るとするか・・・」
「現在は少し危ないかもしれませぬが某がいるので問題はないでござる。若が見に行きたいのであれば護衛としてついていく次第にござる。」
某も現在の一条家の内政について興味が有り申す。
宗珊がそう告げると万千代は少しばかり腕を組んで考える。
正直めんどくさい、外に出たくない、そんなくだらない考えが万千代の脳を支配していたが、宗珊がそれを見抜いて「何事もめんどくさがっていては立派な跡継ぎになれませんぞ」と告げると万千代は仕方なく言葉をつぶやいた。
「それじゃあ明日朝ご飯を食べたら、さっき言った通り領民達の意見を聞きながら田畑を回るとしよう・・・・」
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「この川を渡れば目的の地まで後もう少しだな・・・」
そう一人で呟く女・・・ではなく男は少し顔を青くし項垂れて四万十川を渡りはじめる。
男はここまで来るのにすごく大変な目に遭い続けていた。
一つ目は旅の途中で男が危惧していた通り、案の定盗賊たちに身ぐるみ剥がされ全部取られてしまった事。ついでに男の今の状態は褌無し荷物無しで身体に巻いている大きなボロ布切れ一枚だけである。これは盗賊たちがせめてもの慈悲として渡した布である。男は自分の身が最優先として盗賊たちに抵抗しなかったので、盗賊たちの一人が文字通り全てを剥がされた全裸の男を見て「さすがに可愛そうだからこれをやろう」と言って渡した布切れである。一部の盗賊たちは「こやつ女と思っていたがまさか男だったとは」「むしろこいつが欲しい、愛玩道具にしてやる」と呟いていて、男は「それだけは!それだけはご勘弁下さいませ!!!お願いしまするぅ!」と半泣きになり命からがら見逃してもらうという次第であった。
二つ目は生臭坊主に抱かれかけた事。
男は布切れを腰に巻いて大事な部分を隠して見えないようにして旅を続けると途中小さな寺が見えた。
男は「お坊さんに服を貸して貰おう」と考え、その寺を訪れた。
「すみませぬ~」と少し情けない声で寺の中に声をかけると、寺の奥の方から禿げたお坊さんが後ろに手を組んで出てきた。
その坊主は男の足の小指から男の頭の先まで舐めるように観察し、観察が終わると坊主は男に対してどうしてここに尋ねたか聞いた。
「どうしてここに来たのじゃ?そんな腰にボロボロな布切れ一枚巻いて・・・」
「これには深い訳が御座いまして・・・・」
男は盗賊たちに文字通り身ぐるみ全部剥がされた事、そしてこのボロ布切れ一枚では公衆の面前で歩けないから寺で服を貸して貰おうとした事全ての理由を坊主に話すと、坊主はニッコリと笑顔を作ってこう答えた。
「それはさぞ大変な目に遭われましたな。見た所農民の出ではございませぬな、とても美しい顔達をしていますからどこぞの名家の者に御座いましょう。服を着れば姫と勘違いしそうになりますな。」
「よくいろんな人からも言われます。お前は女になるべきであった・・・と」
「そう落ち込まぬとも・・・。服はお貸しいたしましょう。ですが今日はもう遅い、寺に泊まっていきなさい。明日服を用意しておきましょう。」
男は仏に感謝した。まだこの日ノ本にこのような優しい住職が居る事に。
男は寺に入ると坊主から「飯を作りますゆえ、風呂にでも入ってはどうか」と尋ねられ快く承諾した。何せ城から抜け出してから風呂なんて入っていない。
改めて男は坊主にお礼をして風呂に入った。久しぶりの風呂は本当に男の心や体を綺麗にした。男は盗賊に命を助けては貰ったものの、既に心が折れかけていた。
やっぱり城から抜け出してはいけなかったと考えていたが、風呂に入るとその心はまた立ち上がった。必ず西土佐に向かい一条家の嫡男と会って話をする!
男は風呂に入りながら心の中で固く決心をした。
男は風呂できれいサッパリした。坊主は風呂から出てきた男を見て絶句した。
本当に女子のようではないか!きめが細かく美しい肌に少しくせ毛があるもののとても艶がある髪、しかも長い。
何故髪が長いかの理由については、単に後ろで留めていたから。
風呂に入るにあたって髪をほどいていたが故に起きた出来事だった。
坊主が目をギラギラさせている中、男が礼を言うと坊主は「本当に姫君でございますな」と声を高くして言ったので男は少しふて腐れてしまった。
だが一文無しの自分をここまで厚くもてなしてくれた恩人に文句が言えるわけもなく、仕方なく我慢した。これでまだ10歳なのが驚きである。
晩御飯は坊主が用意してくれたものだ。ここ最近あまり飯を食べれていなかった男にしてみれば吸い物や白飯が豪勢にしかみえない。
男は涙を流しながら白飯を口の中に運んでいく。坊主はその姿がどう見ても姫がちょこちょこ飯を食っている様にしか見えないと心の中で呟いていた。
男が体に見合わず3回もおかわりをしたのはさすがの坊主でも驚いていたが、風呂からあがってきた男を見て既に驚いていたのでそれ程大きなショックはない。
男は何度も坊主に頭を下げてお礼を言う。坊主は「それ程の事はしていませぬ、それに・・・」と語尾が聞き取れないほど小さな声で何かを呟くが男は何も気にしなかった。
久しぶりの飯によって男はいつもより早く睡魔に襲われ始めていた。しかも寝たくなくても眠ってしまうほどの強烈な睡魔に・・・・・。
そんな男をみて坊主は「布団なら用意しているのでそこで眠りなされ」と短く告げた後、男に軽く質問をした。
「すみませぬが、本当に貴方はボロ布だけしか持っていないのですな?」
男は今までに味わったことのない程の強烈な睡魔に襲われながらも、坊主の言葉に返答した。
「そうでございます。それがしはボロ布だけ・・・しか・・・・」
そこで男は睡魔に敗れ倒れてしまった。
坊主が演技にしか見えない様子で男の様子を確かめるべく大きな声で男に声をかけるが、男はすぅすぅと気持ちのいい息の音を響かせながら眠っていた。
坊主は男を持ち上げると怪しそうに笑顔を作り呟いた。
「これからは儂が食べる番よ・・・・」
坊主は「クックックッ・・・・・」と笑うと男を連れて寺のもっと奥へ連れていったのであった。
そしてそこで男は目を覚ますと同時に体の違和感を覚えた。
腕が動かない。厳密にいえば頭の上で両手首が柱と一緒に縄で括り付けられていた。それのせいで周りの様子がよく見えない。
現在の男の状態は頭の下に布があり、寝そべっている状態だ。
それによくよく足を見ると、現代でいうМ字開脚に近い状態で固定されていた。
しかも晩御飯と坊主の質問の時に着ていた服が無く、男は何もない状態だった。
これが異常な事態であることが男は直ぐに理解できた。
「こ、これは一体どういう・・・・」
「これはこれはお目覚めですかな?、それはそうとまだ儂は貴方の名前を聞いておりませなんだ。教えて下されぬか?」
坊主は男を見下しながらそう告げる。男は訳が分からない状態で焦っているが、名を名乗れと言われたので咄嗟に答えた。
「や、弥三郎!弥三郎です!住職さん!今の状態はどういう事か説明して・・」
「ほう!弥三郎!いい名ですな!。ですがその名も今日が最期じゃな」
坊主は男・・・弥三郎の言葉を遮りながらそう告げる。
弥三郎は意味が分からないので話を続けた。
「名が最期?一体どういうことですか!?」
弥三郎は必死に暴れて両手首の縄から抜けようとするが、坊主が弥三郎の手を強く握りしめ弥三郎の耳元で小さく言葉を発した。
「お前はこれから稚児として売られるのじゃよ。稚児になると名が変わるからのう。じゃが売られる前に儂が少し味見をしようと思ってな?すまぬがこういう形を取らせてもらった。」
耳元でそう囁かれた弥三郎は晩御飯の時の涙とは別の涙を流し大泣きし始めた。
盗賊の時よりも危ないと直感がしたのだろう。
「い、いやだぁ!お願いしますそれだけは!それだけはご勘弁下さい!お願いします!お願いします!直ぐに寺から出ていきます!服もいりません!ですから!ですから!!!」
「無理じゃな。お主のような者そうそうこの世にはおらん。顔立ちが良く、身体も文句なし、これは高く売れるわい」
そんな・・・。
弥三郎は泣き疲れ大きな瞳からは涙が出なくなったが、やはり絶望していた。
あの茶屋で休憩したときこういう事が起きるかもしれないと自分で考えていた。
だが現実はもっと残酷だ。確かに盗賊の件や稚児として売り飛ばされるかもしれない可能性は考えていた。でもなにも2つともその日に起きなくても良いではないか。弥三郎は無性に自分の楽観視した考えに腹が立った。そして思った、どうして自分ばかりこのような目に遭うのかと、仏は自分を憎んでいるのかと・・・。
だが仏は弥三郎に味方した。坊主が少し外を見張っている時に両手首を結んでいた縄がちぎれたのである。縄は古く、先ほどの弥三郎の決死の暴れで既に寿命が来ていたらしい。弥三郎はこの機を逃がすと次は無いと直ぐに考えると、手を使って足に固定されていた拘束具を取り、頭の下にあった布を取ると一目散にその部屋から寺の門まで走った。後ろで弥三郎の事に気付いた坊主が追いかけてくるが、所詮は爺、10歳の弥三郎には追いつけない。だが弥三郎はそんな事に気を取られず、ただひたすらに来た道とは逆方向の道を走った。ただただ走った・・・。
そしてそうこうしているうちに四万十川へ着いた。
以上が男・弥三郎が遭った災難である。
「とりあえず夜が明ける前に一条領に入らないと・・・・、この格好だと街中で歩けない・・・・仏様、もし僕に機を与えて下さるのならぜひお願いします・・・」
弥三郎は夜が明ける前の明朝に一条領に入ることにした。
そして弥三郎は半ば諦めと放心に近い状態で歩き始めた。
だが仏はそんな弥三郎を見捨てたりはしなかった・・・・・。
ぶっちゃけ弥三郎の事を書いてるほうが色々すらすらと書けます。
自分そっち系の人間じゃないんですけどね苦笑