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一条兼定奮闘記  作者: 鉄の男
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第六話 弥三郎の野望

あと今回の話ですが、書いている自分自身あまり文に自信がありません。

不満や文句があると思いますが、楽しんでいただけたら幸いです。

万千代が宗珊にうろ覚えの鉄砲知識を教えている頃、東土佐ではある人物が一条領内の鉄砲について自室で考え込んでいた。その光景は中村御所で引きこもっている万千代と大差があまりない、自室の中には兵法書やよくある物語が書かれている書物で溢れかえっていた。


「全く・・・・今日も弥三郎様は部屋から出てこられないか・・・」


そう文句を垂れている名も無き小姓は、もうこの光景に慣れてしまったのか、文句の割に顔は怒っていない。だがそれも仕方のない事なのだろう、何せ毎日がこの光景の繰り返しなのだ。初めこそ怒っていた小姓だが、次第にその怒りは無くなっていき今に至る。そしてそんな事を考えているうちに弥三郎の弟の事について考え始める。


「弟君の弥五郎様は毎日外で訓練なさっていると聞いた。このままでは弥三郎様の地位が危ないというのに・・・・、弥三郎様はその事を理解しているのだろうか?」


小姓がそう考えてしまうのも無理はなかった。

この下剋上の時代、親兄弟で地位や家督を巡って争うなど至極当然である。

隣の一条家のような嫡男一人しかいない状況はそのような悲しい出来事は起きないが、この長宗我部家には兄弟がいた。次男の弥五郎に三男の弥七郎である。

彼らは大人しくて部屋に引きこもっている長男の弥三郎とは違い、次男の弥五郎は明るく活発そして凄く元気で、三男の弥七郎は一条家の万千代と同年齢で有りながら毎日文武両道を目指して勉強と稽古をちゃんとしているのだ。

だが長男の弥三郎があれだと誰の目にも廃嫡の未来が見える。

名も無き小姓はこのままだと長宗我部家中で派閥争いが起きるのではないかと一人心配していた。そんな未来の心配をしていた小姓だったが、いきなり隣の襖が開いたので直ぐに姿勢を正して、出てきた人物・・・弥三郎に対してどうしたのかと聞いた。すると弥三郎の口から出てきたのはとんでもない言葉だった。


「西土佐に行きたい。明確に言えば一条家の嫡男に会いたい」


それを聞いた小姓は驚いて顔が固まってしまった。いつも弥三郎が小姓達に無理なお願いをするのはこの長宗我部家で既に有名な話だった。

だが今回の弥三郎からのお願いは無理とかそういうレベルではない。

まず不可能だ。理由なら沢山あるが一つに絞るなら、まず今の一条家は領内の豪族撲滅で色々危ない、もし豪族達に弥三郎が殺されてしまったらシャレにならないし、なにより次の跡取りがそのような場所に行けるわけがないのだ。

小姓は様々な理由を考える。とにかく弥三郎の興味を削がねばならない。

そして弥三郎に対して固まっていた顔を元に戻し、口を開いた。


「弥三郎様、その願いはまず無理でございます。現在西土佐は一条房基殿が指揮の下、豪族達の撲滅を決行しております。そのような場所に行くのはもの凄く危険でございますし、なにより弥三郎様は次代の跡継ぎでございます。その事を理解しておりますか?」


なんとか理由を話した小姓だがまだ心の整理が出来ていないのだろう、

理由を話している最中の言葉使いが微妙にぎこちなかった。

それに気づいているのかいないのか、弥三郎は小姓の話を聞いた後に腕を組んで少し考え込み、なにか閃いたのかドヤ顔で小姓に腕を組みながら答えた。


「じゃあ西土佐が静かになったら行く事にしよう。跡継ぎに関しては弥五郎や弥七郎がいるからもし僕が死んでも長宗我部家に迷惑はかからないから大丈夫だよ。」


いやそう言う事じゃねえと小姓は思わず突っ込みかけるが、直ぐに口を押さえると弥三郎が言った言葉に対して反論した。


「弥三郎様、誰が何と言おうと岡豊城から出ることは無理でございます!、もっとご自分の事を・・・・・」


「分かったよ。もう西土佐に行きたいと言わないよ。これでいい?」


小姓の言葉を遮り弥三郎がそう言うと、小姓は少し疑いながらも弥三郎の言葉に安堵して元の襖の門番に戻った。

それに伴い弥三郎も自室に戻る。だがその顔は先ほどの話で落胆していた顔ではなく、怪しげな笑みを浮かべていた。


「フフフ・・・まずあの小姓はこれで問題なしだな・・・・、あんな理由で僕が西土佐に行くのを諦めてなるものか!何としてでも西土佐に行ってやる!。もし僕の考えが正しかったら一条家の嫡男はこの四国の中に収まらない。天下にも通じる人物になるだろう・・・・、絶対に会って僕の考えを聞いてもらうんだ!。」


弥三郎がこうまで言う理由、それは先の万千代が文を持ってきた兵士に対して未知の南蛮兵器「鉄砲」の事を怖がりもせず、驚きもせずそれを説明した。

なぜこの事を知っているか、それは一条家に弥三郎直臣の隠密を潜入させているからで、その者は万千代をずっと監視しているから鉄砲の情報に間違いはないだろう。弥三郎は独断で自室の中から西土佐の情報を集めていたのである。


「さて、西土佐はいま豪族との戦で領内の兵士が出払っているはず・・・。寧ろ今こそ西土佐に潜り込む好機、西土佐が静かになってからではますます潜り込みにくくなるだろうし・・・・善は急げだ・・。」


弥三郎は一人自室で西土佐に行く準備を始めるのだった・・・・



次の日、小姓がいつも通り起きるのが遅い弥三郎を起こしに部屋に行くと、

部屋の中に弥三郎はいなかった。

小姓はそれが分かると同時に泡を吹いて倒れてしまった・・・・・。


_______________________



「クックック・・・・いまごろ城では大騒ぎしているだろうなぁ・・・」


日が昇り朝になる頃、弥三郎は既に西土佐へ向かい歩いていた。

夜中に城を抜け出してただ一人で一条領を目指していたのである。

弥三郎はもう城に戻れないと考えていた。

長宗我部家の嫡男が居城から抜け出して行方不明なのだ。もし戻ったとしても、もう家督を継ぐことは許されないであろう。父親の国親が良いと言っても近臣達がまず弥三郎を認めない、嫡男という自覚がないと思われているし、そもそもそんな責任感もない者に忠を尽くそうとは思わないからだ。戻れても間違いなく廃嫡であろうからもう岡豊城に戻る気はサラサラなかった。


「だけどそうなると暮らす所はどうしよう・・・・。もし僕が考えているよりも一条家の嫡男が凡人だったらその時点で僕の人生は終わる。恥を忍んで家に戻っても一生家中や家族から見放されて暮らす羽目になるし・・・・」


弥三郎は歩きながら、自分がしでかした事の大きさを考えていると徐々に不安になってきてしまう。家族や地位も家督も全て捨てて西土佐の一条家の嫡男に会いたいという気持ちだけでここまで来てしまった。

一応手持ち金はあるが飯代などで直ぐに無くなるだろう。もしかしたら暴漢に襲われて金を奪われた挙句、稚児として売り飛ばされてしまうかも知れない。

自分ではあまり言わないが、城では周りの人たちから「男なのにまるで女」「女に生まれていたら間違いなく天下に響く美人だった」と言われたこともある。

万千代が弥三郎を見たら間違いなく「男の娘」と言うだろう。

それくらい男にしては身体が細く、顔立ちが良い。

一度だけ父親の国親に女の格好をして目の前に出たことが弥三郎はある、その時国親は「儂に娘なんていたかのう」と本当に騙されてしまった事があった。


つまり寺で酒を飲み肉を食べ、年端にも満たない少年達を喰らう生臭坊主は、間違いなく弥三郎を買うだろう。

そんなことを考えていると弥三郎は身体が震えてきてしまった。

本当にこのまま西土佐を目指して良いのだろうかと。どこかで浪人を雇い身の回りの警護をしてもらった方が安心するのではないか、色々考え込みながら歩いていくと茶屋が見えてきた。既にもう昼が近い。弥三郎は休憩がてら茶屋の主人に現在の西土佐について聞いてみることにした。


「主人、お茶を一杯くれ。あと西土佐の現状も知っていたら教えてほしい」


そう弥三郎が言うと主人がニコニコしながら「かしこまりました」と言い、

茶屋の奥にお茶を作りに行った。三分くらいするとお茶を持ってきた。

弥三郎はお茶を飲みながら主人の西土佐の話について耳を傾けた。。


「西土佐についてですが、どうやら豪族たちは未知の道具を使っているとか、他には・・・あっ、一条家の嫡男の噂なのですが、その未知の道具について一瞬で看破したそうです。」


茶屋の主人ですら一条家の嫡男の噂が聞こえている。なぜその事を知っているのか問いただすと主人は「西土佐から来た人が世間話の最中に言っておりました」と答えた。実際には万千代から文を受け取った兵士がそこら中にいる仲間にこの事を話したので皆が知る事になってしまったのである。


「・・・これはあまり心配しなくていいかな」


主人にお茶代を渡して礼を言い茶屋を出ると、また西土佐に向かって歩き始める。

自分の考えは間違っていないと分かると先ほどまで頭の中にあった不安が消え去って、逆に自信が湧いてきた。今の弥三郎に怖い物は無くなっていた。


「もう後には引き返せない。父上、弥五郎、弥七郎・・・達者で暮らせよ。」


今まで歩いてきた道を振り返り、短くそう告げると弥三郎は一途、一条家の中村御所を目指して歩いて行った・・・・・。



万千代がうろ覚えで話してしまった鉄砲の知識は、弥三郎を数奇な人生へ導いてしまうのであった。


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