第三話 未来
ヤバい、家臣が少なすぎて人材を探そうとしてもいない・・・・。
(よし、そろそろ普通に喋ってもいいだろう)
そう思っている万千代・・・田中圭太は今年1548年6歳となっていた。
すでに5歳の時にも言葉を使うが、どうも話しにくかったので普通の子どもとして暮らし、政治の話や戦の話もせずただひたすら家に置いてある下らない巻物や為になる書物をただ読んでいた。この行動のせいで小姓連中からは「若は日がな一日ずっと本を読んでいるだけだ」「年頃でいえば外で走り回っても良いものを・・・」とひそひそ話されていた。守役の土居宗珊からも「若は様々な歴史書をお読みになされていますが外で遊ぶという事も大事な役目なのですぞ」と俺に口うるさく言ってくる。ていうか宗珊、お前史実だと今年で40くらいの年じゃなかったのか、どう見ても20代後半にしか見えない。
ちなみにその事を宗珊に伝えると「まぁ確かに見た目では歳を取っていると思われますが、拙者は今年で27になりまする。若も覚えていて下され」と言われた。
よほどいろんな人から間違えられるんだろう。
でも戦や兵法に関してはピカイチだ。たぶん何処に行っても重宝されるだろう。あぁ史実の俺はどうしてこんな一条家必須の武将を殺したんだ・・・・、いやまぁ長宗我部元親の策に乗せられた結果なんですけど。
そんなことに悦を浸っていると宗珊が俺になんか言ってきた。
「若、若は今の一条家についてどう思われまするか?」
藪から棒にいきなりだったので俺は驚いてしまった。
宗珊がいきなりこんな事を言うってことは相当なのかもしれない。
俺は流す感じでこう答えた。
「どうしたの?、なにか不安でもあるの?」
まぁ史実のことを知っている俺からしてみれば、俺自身が一条家の不安要素であるので何を言われても仕方ない、つまり俺を心配してくれてるのだろう。そんな考えをしていると宗珊は全く違った考えを示してきた。
「いえ、東土佐にいる長宗我部国親殿の事です。奴は房家様によって長宗我部家を助けてもらった過去がありまする。そのお陰か彼らは我が一条家と従属関係にありまする。」
そこまで言った宗珊はまた頭を抱えて考えてしまう、どうやら不安要素はそれだけではないらしい。まぁそれが分かってしまっているので俺は気楽そうな感じで宗珊にこう告げる。
「国親殿の・・・嫡男の事だろう?」
俺が背伸びをしながら言うと宗珊は目を見開いた、それは当たり前の事なのだろう。国親の息子、元親は姫若子とよばれるほど引きこもっている、見る人からすれば彼は暗愚同然なのだろうが、逆にわかる人からすれば既にその才気を理解している。目を見開いた理由はそれではないが。理由は自分が考えていることを意図も簡単に見抜かれてしまったことである。こんな話をそこらへんの人に言ったとしても誰も信じてはくれないのだろう、何故なら「あの姫若子」という悪評のせいだから。
世間がそんな感じだから誰も宗珊の言葉を信じようとはしないのは明白だ。
そんな事を言おうか迷っていると俺が先にそのことを言ってしまった、驚くのは当然なのだろう。
「・・・・若・・・いつ気付かれたのですか?」
「気付くも何も、彼が俺と同じように部屋に引きこもっているという事はやっていることも俺と大差ないだろう。あっちは10歳だから俺よりもっと知識を蓄えているだろう。油断できないのは当たり前だと思う。」
嘘である。史実を知っているから嘘八百を言っただけだ。誰が他人の家の裏事情まで知っていると言うんだ。もしかしたら女を連れてきてハーレムを作ってるかもしれないし、逆に女に縛り付けさせて「もっと俺に生きる実感をくれ!」とかいって危ないことをしているかもしれない。まぁもしそんなことをしてたらその情報を四国中に広めるだけだが・・・・。
俺がそんなことを考えて「フヒ・・フヒヒ・・・」と小さく笑っていると宗珊が「何を笑っているのですか!!!これは由々しき問題ですぞ!」と怒ってきた。
「若はわかっているのですか!?、もし国親殿が死んでしまえば次の家督を継ぐのはその姫若子ですぞ。それはつまり房家様から恩を受けていない者が長宗我部を引き連れていくのです。これがどのような意味がお分かりになられまするか!?」
俺は即座に答える。分かり切っている。
「一条家に服する意味がなくなる・・・・そう言いたいのだろう?」
その答えに宗珊がもっと納得いかない顔をした。
「なぜそのような事を分かっていながら笑っていられるのですか!これは一条家の未来を危うくする事態ですぞ!早急に手を打つべきです、手をこまねいていると先を越されまする!そうなってしまえば遅いですぞ!!!」
そう答えながらギャーギャー騒ぐ宗珊を横目に見ながら俺はまた本の世界に戻ろうとしたがすぐに宗珊に取り上げられた。本を読みたいのに・・・・。
「なぜ若はそこまで事態の大きさを理解していながら策を考えないのですか!?真面目に考えていただきたい!!!!」
そういわれると流石の俺でもプッチンくる。プリンなんかにも負けないくらいプッチンくる。なので俺は静かな怒りを携えながら宗珊に面と向かって答えた。
「宗珊、俺はまだ子供だ。しかも今の一条家を率いているのは父上だ。つまり父上がやらないと言えばそれで終わりだ。それになんだ、大の男が6歳の子供に怒ってばかりで自分は他人任せとは・・・・そんなに俺を怒るなら少しくらい自分で策を考えろ!。お前の肩に乗っている「知勇兼備の武将」という名は嘘なのか?知勇兼備と言われるならもっと先を見据えてこの一条家の事を考えろ!。俺の考えか?、俺の考えは元親殿が家督を継いでも当分一条家には歯向かわないと思っている。なぜか?、姫若子殿が歯向かいたくても近臣連中がそれを認めるはずがない。もし歯向かえば姫若子殿ではなく長宗我部家が近隣諸国から恩を仇で返す家と思うだろう。そんな事を俺が考えられるって事は彼も気付いているってことだ。他にもあるぞ?この一条家が現在の力を持っている最中に歯向かうのは愚の骨頂だ。東土佐には安芸元泰殿がいる、あの家には妹の千が嫁ぐ事になっている。もし現在の一条家に歯向かうという事は身を滅ぼす以外の道はない。本山には国親の娘が嫁いでいるというが今の本山と長宗我部が我らに歯向かっても勝てない、いや本山は中立を保つかもしれんから殆ど長宗我部一国で一条家と戦うことになるであろう。そこまでしてもほとんど損しかない事を姫若子殿はすると・・・」
「わ、わかり申した!わかり申した!某が浅い考えをしていたことはよ~く理解し申した!、ですからもう話すのはやめて下され!本もお返し致しまする!。若がこの一条家の未来の為にそこまで考えていたとは・・・・・誠に申し訳ございませぬ…。」
宗珊がなんかめっちゃ落ち込んでしまった。もしかして言い過ぎた?
でも俺もあそこまで言われると怒っちゃうし仕方ないと思うから分かってほしい。
あ、なんか話の中で妹が出てきましたがお伝えします、妹が二人できました。
名前は千と広です。長女が千で次女が広です。めちゃくちゃ可愛いです、さすがはお母んと親父の血を引く妹です、未来が楽しみです。
なんか俺が1歳の時と3歳の時に両親が頑張ってました。でも男子は生まれなかったので尚更俺に対しての期待度がヤバいです。もう生涯お酒飲めません、祝い事以外の日にお酒なんて飲むことは出来ません。まぁかの有名な毛利元就公も節酒していたお陰か、ジジイになっても自分の子供産ませています、どんだけ元気なんだ。
今年で52歳じゃなかったっけ?、まだこの後厳島で陶晴賢を破るんだからすごい人だよ全く…。
また話を逸らしてしまった、宗珊を見るとどうやらずっと頭を下に向けて何かブツブツ言っている。
「あの…もしもし?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
返事がない。とりあえず俺は宗珊が返してくれた本を取ってまた本の世界に入っていった。
しかしこの二人のやり取りを襖の後ろで聞いていた人物がいた。
「これは一条に過ぎたるものが生まれてしまったのかもしれぬな…。」
その人物はそういうと襖から離れ中村御所の廊下を歩いて行った。
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中村御所の一室で房基ともう一人の男が話をしていた
「ふむ…万千代がのう……」
房基は男から連絡を受けて考えていた。それは我が息子が出来すぎているからではなく、その話の内容に頭を悩ませていた……。
「はっ。確かに千姫様の事を話しておりました。千姫様が嫁ぐという話はまだ誰にも話してはおりませぬ、その事を万千代様は知っておりました。」
先ほど襖の後ろで話を聞いていた人物・・・羽生監物は房基に対してそう告げた。
そう・・・万千代が話していた妹が安芸氏のもとに嫁ぐことは家中の中ではまだ誰も知らない、知っているのは父親である房基だけである。
その房基ですら嫁がせようか迷っている時に息子の万千代がその事を守役の土居宗珊に話してしまった。どこからその情報が漏れたのかとかそういう問題ではない。
「まだ」誰にも話していないのになぜ万千代がその事を話したのかという事である。万千代は怒っている最中にポロっと未来を喋ってしまったのである。
「う~む、万千代は儂が千を嫁がせる事を分かっていたようじゃな…」
「はっ。それは殿の考えていることを見抜いている証拠、つまり千姫様を嫁がせることによって一条家に利があることを理解しております。しかもそこまで考えておきながら若は土佐で起こりうるある程度の可能性を示唆しております。途中で宗珊殿が話を止めてしまったため全ての可能性を話したわけでは御座いませぬが、それだけでも若は簡単に事を考えているようです」
羽生監物はそう言うと話を止めた。そこから先は言わなくても房基が理解しているからだ。
房基は思った。我が息子は土佐なんぞに収まる器ではない・・・・もっと広い・・・この四国で収まる器なのだと思った。そして息子はまだ6歳だ、これからまだまだ生きるだろう。なんという者を産ませてしまったのか・・・・・。
だが房基は嬉しくて仕方がなかった。確かに房基はこの一条家を西土佐に置いて一条家の勢力を大きく広げた。だが広げたといっても言ってみれば東土佐に少し自分の領地をもち、北の伊予に関しても無視できない力を付けた。
だが「それだけ」だ。房基は結局西土佐領全てを支配することはできてもそれ以上は大きく出来なかった。なぜか。それは自分以外の親族に自分を超える人物が居なかったこと、そしてなにより自分が西土佐を空けると必ず一条家に不満を持つ地元の豪族たちが反旗を起こす。それは房基が西土佐から動けなくなるだけでなく、近隣諸国に対しても大きな戦を仕掛けることができないことを意味していた。
出来たとして大名同士の仲介や高々二千くらいの軍の派遣くらいだ、それを越すと国の中に燻っている豪族たちを抑えきれない。故に房基は西土佐を豊かにするという目標が自分の限界だった。
だが今、それは違うという事が理解できた。我が息子は父である自分を通り越して四国という広大な領土を治めうる器を携えている。この一条家に初めて自分を超える人物が出てきたのだ。それはつまり房基の目標・・・・西土佐を豊かにするという目標が限界ではなく、まだ上を目指せることを意味していた。
「監物よ、わしは東土佐の本山家に攻め入ろうかと思うておる。今なら国親を擁し、安芸の元泰も儂に従うであろう。しかし元泰は用心深い、故に儂は娘の千を奴の息子の国虎に嫁がせ味方にしようと思っておる。そうしなければ東土佐に攻め入る為の兵が大きくなり、此処の豪族どもを抑えることが出来なくなってしまう。別にお主や宗珊が力不足という訳ではない。奴らは血筋というものを重く扱う、すなわち一条家の者でなければ抑えが効かぬ。」
そういうと監物も相づちを打ちながら答える。
「はっ。理解しておりまする」
そう短く答えると房基は獰猛な笑みを浮かべてこう告げた。
「我が息子の為にこの土佐を統一せねばならん。下地を準備し、万千代が四国を治められるようにする。それが儂の新たな「目標」よ」
そう告げると房基は部屋から出ていった。監物はその後姿を見ながらこう思った。
(遂に殿が土佐を統一する時が来た。嫡子には若がいる、それも頼もしい程の英気を携えながら…。遂に…遂に我らが一条家が花開く時が来たのだ!)
そう感銘を受けながら監物もまた部屋から出ていった。
誰が見ても一条家は安泰だと確信した。
房基が死ななければ……。
少し書きすぎた気がしますが、
書く量は毎回変わります、多い時もあれば少ない時もあります。
本当に申し訳ございません・・・。