第十三話 使い
相も変わらず、語彙力が足りないせいで読み辛くなっております。(汗)
今回は長いです。それといつもコメント有難う御座います!皆様の応援が筆者の心の原動力にもなっております。(^^)
あと兼定の襲名についてはちゃんと順を追って書きますので、もうしばらくお待ちください!万千代は今しか見れませんよ!(言い訳)
では本編をお楽しみください…。
「ふわぁ…もう秋かぁ。長いようで短い。時間が経つのは早いなぁ。」
畳の上に寝転がり欠伸をしながらぼやいたのは、一条家嫡男であり先の戦において多大な貢献をした万千代だ。
「人間五十年とはよく言ったもんだわ…。さすが織田信長、頭が良かったんだろうなぁ。」
そう言う万千代の現在の状況は至って平穏であった。
少し時間を戻して話す。
あの後西園寺連合軍を打ち破った一条軍は、その勢いをもって西園寺領内にある伊予南部の大森城を占領した。大森城には相当数の兵がいると思われていたのだが、前線の西園寺連合軍が敗北したと聞くや否や、兵は城をほっぽりだして本城である「黒瀬城」へ独断で撤退したのである。
あまりの情けなさに房基も宗珊も監物も弥三郎も呆れてしまい、結果として無血開城が果たされた。
これにより一条家は西園寺家を弱体化させただけではなく、伊予への玄関口を手に入れたのである。
同時に豪族達が使っていた鉄砲はそのまま一条家に全部接収され、使えない物・仕える物を含めて言えばその数は約八百丁もあり、後の戦で使用すれば有利に戦える事が分かり切っていた。
しかし八百丁もの鉄砲を使うには問題が有りすぎた。
まず鉄砲を撃つ為に使う硝石が一条家には無かった。豪族達が残した物資の中にも硝石はあったが、先の戦で大量に使われており微量しか残ってなかったのである。
なので実際に鉄砲を使うとすれば八分の一である百丁しか、それも補給は無理なので一回限りであった。
房基は万千代から硝石の事を聞くと、この状況を打破すべく四国で硝石が無いか徹底的に探した。
が、結果は虚しいものに終わった。だが「四国で無いなら日ノ本各地を調べるべし」とそこで諦めなかった房基は、一条家の数少ない忍びを全国各地へ散らばらせた。
その間一条家では弥三郎が千姫と結婚して娘婿になり、名前も「弥三郎」から義父になる房基の偏諱を賜って「一条基親」と変わった。ただ子作りに関しては「あと八年待て」と房基が基親に対して言ったので、初夜はまだまだ先の話である。
まぁ基親が10歳で千姫は5歳なのだから仕方のない事だろう。八年間溜めるべし基親。
そんな様子で一条家では皆が調子よかった。万千代も初夏から始めていた田畑改革が功を奏し、秋である現在では大豊作となった。無論万千代が平等に畑を分けたお陰で村人同士の争いも起きなかった。
大豊作の他の理由としては、万千代と農民全員が苦労して遠い川から田畑までの治水工事をした事もあるだろう。今まで耕せなかった場所を川から引いてきた水で耕せるようになったのだ。
しかしこの作業は思いのほか人手が必要だったので、戦が終わった後の兵士やその他の人を総動員して新たな小川を作り上げた。(聞けば凄まじい国家プロジェクトだが、その間一条家は完全に無防備だった事を考えると、とんでもない事をやらしていた。後に房基から大叱咤を受けるのだがそれはまた別の話。)
これにより、食料状態が改善されるとともに、兵役についていた兵士達も村へ帰還する。今の人口はそのままだが来年になると人口が倍に増えているであろう。
しかし戦が終わったことで北から逃れていた人々も徐々にではあるが戻り始めている。
だが此処で培った技術は北の村でも活かされるので、大きな混乱などは起きないだろう。
そんな出来事が目白押しで房基が一息着いた時、北陸方面へ行っていたある忍びから有益な情報がもたらされた。
「加賀国では、硝石の量産をしようと現在様々な実験がなされているようです。」
それを聞いた房基は大喜びで忍びに礼を言った。忍びは「主から礼を言ってくださるとは…これは夢か…」とまた別の意味で感激していた。
忍びが陰で感涙しているのを他所に、房基は小姓に「万千代を呼べ」と命令した。
そして現在に戻る。
万千代が秋の風に向かって「人間五十年~」と独り言を言っていると、開けていた襖の所に小姓が来て「房基様がお呼びです」と告げられた。
(何の用だろう?。俺なんかヤバい事したかな…なんかデジャヴを感じるぞ…)
そう思いながらも小姓に「分かった、すぐに行く」と伝えると、小姓は房基の部屋まで帰って行った。
すると入れ替わりで別の人が万千代の部屋へやってくる。
宗珊でも監物でもましてや基親ですらないその人物は…。
「若様!もし暇でしたら某の槍稽古に付き合ってはくださらんか?!」
この万千代から見ても「なんだこの暑苦しい人は…こいつは〇造か」と思われる人物は、先の戦において凄まじい槍使いを見せた男、名を長尾正直と言う。
見た目は体育会系の男で、キリッとした顔である。髪は背中の真ん中まであり後ろで結っている。
歳も18と正しく血気盛んなお年頃である。何故彼が万千代の元に居るかというと、彼が戦の後で別の家臣から「あの戦いの策を考えたのは万千代様」と聞いて興味が湧き、房基に「若様のお付きにさせて下さいぃ!」としつこくお願いをしたからだ。結果として房基は折れて「もう好きにせい…」と言ったので現在に至る。実際戦において中々の功績を残していたので頼りにはなるのだが智謀には乏しく、如何せん猪突猛進過ぎるのが彼の短所であった。
そんな彼は暇があると直ぐに万千代に向かって「槍稽古をしましょう!!」と頼むものだから、流石の万千代も「いい加減にしてくれよぉ…」と思っている。
「すまない正直、俺はいま父上に呼ばれたからすぐに出て行かねばならない。槍稽古はまた今度頼む。」
「むぅ…前もそう言って逃げてしまったではないですか。今日こそは逃がしませんぞ!」
「嘘じゃないぞ!嘘だと思うなら小姓に聞いてみればいい!とにかく俺は忙しいの!さぁどいてくれ!」
そう言って小走りで房基の元へ駆ける万千代を後ろから見ていた正直は「若には槍の素質がおありなのに…勿体無い…」と小さく呟いていた。
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「すまぬな、いきなり呼び出して。」
会うや直ぐにそう言った房基だが、顔は全然謝っていなかった。寧ろ何故かニヤニヤしている。
万千代からしてみれば「戦に勝って収穫も大豊作だから嬉しいんだろうなぁ」としか思わなかったが。
しかし万千代は別の事を口に出した。
「父上、一体何の用ですか?硝石でも見つかりましたか?」
「ほほぅ。さすが我が息子じゃ、感が良い。まぁ厳密にいえば『見つかるかもしれない』だがのぅ。」
やっぱりか。と軽く頭で考えた万千代。
だがその後の房基の言葉までは考える事が出来なかった。
「なのでお主が現地まで行って確認してこい。忍びの情報によれば、硝石を量産する実験をしておるらしいのだ。もし本当にあればその場で勝手に交渉しても構わん。場所は加賀国。加賀国は現在一向一揆衆が守護を蹴落として独自の自治を行っておる特殊な場所じゃが、どうやら混乱などは起きず至って平和な国として存在しておるらしいので、お主でも大丈夫であろう。途中に長宗我部領と細川領があるが、船を使えば回避できる。儂としては京に寄って行って欲しいのじゃが今の京はちと危ないのでな…。少し遠いが中継地の紀伊国を使って、守護の斯波家が治めておる尾張から上陸して行けばよかろう。」
それを聞いた万千代は固まってしまった。
生まれてこの方西土佐から出た事がないのに、いきなり「加賀国に行って来い」と言われたのだから。
普段の万千代であれば「断る」の一点張りであっただろう
だが万千代はここで妙案を思いつく。
実は先の戦において、万千代は家臣の少なさに気付いた。正直は功を挙げたので出世したが、その他の家臣達はそれ程功を挙げられなかった。出来て敵を抑える事しかできなかったのだ。
監物・宗珊・基親が今の土佐一条家を支えていると言ってもいい。つまり人材不足なのだ。
だが四国ではある程度名のある武将は、四国の半分と畿内の一部を支配している管領・細川家が召し抱えていた。なので四国では事足りなかった。
だが規模を四国から全国に広げて見ればどうだろう?
未だ歴史の表舞台に立つ前の有名な武将がいるのではないだろうか?
仮に居なくても、どこからか引き抜きすればいいのだから、これは良い考えではないだろうか。
それに万千代は西土佐に少し飽きていた。これを機に戦国時代の日本を歩く事が出来るのなら、万千代からしてみれば万々歳である。なら善は急げだ。
そんな考えを房基には伝えず、万千代は返答する。
「分かりました。ですが父上、どうせ加賀国にまで行くのですから、見どころのある者を道中見つけたら勝手に召し抱えてもいいでしょうか?。絶対期待に応えて見せますので。」
「ハッハッハ!それに関しては全然かまわんぞ!。我が家は人手が足りぬからな、是非とも探し出して召し抱えてくるがよい。それと銭に関しては心配しなくてよいぞ。今は亡き我が父が生前色々隠していた物があるでな。いやぁ死して尚一条家の為に色々残してくれた父にはかなわんな!」
ガッハッハッハ!と久方ぶりに房基の大笑いを聞いて万千代は少し笑みをこぼす。
だがすぐに顔を引き締めると「かしこまりました」と答え、房基の部屋から出て行った。
しかし房基の本当の考えは、息子に西土佐だけではなく、もっと広い日ノ本を見聞してほしいという親心の思いがあったのでわざわざ万千代に加賀国までの使いを命令したのだが、当の万千代はそれを知る由も無かった。
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そんなこんなで万千代の加賀国までの諸国漫遊旅が決定したのだが、その旅路に連れていく者の話で万千代は困っていた。
「ですから、どうして僕だけが留守なのですか!?宗珊様は分かりますが、何故正直殿が兄上の旅に付いていくのですか!?。そこは僕がついて行く所で、正直殿が留守をすべきでしょう!!」
「だ~か~ら~…今のお前には千がいるだろう?お前は千を置いてけぼりにして旅に出るというのか?なら俺は千の兄として、絶対に連れて行かん。それにお前だけ留守じゃないだろう?監物も居るのだから一人だけじゃないぞ?」
「うっ…確かにそれはそうですが…。でも…でも…!!」
「駄目!大人しく家で待っててくれ!「でも」は無し!千とイチャイチャしてなさい!」
「いちゃいちゃ?」と基親が訳の分からない日本語を聞いて頭にハテナマークを三個ほど出しているが、それを無視して万千代はせっせと旅の準備をする。すると廊下からドンドンと足音が近づいてきた。
「若様!準備はできましたか?!某は既に準備万端ですぞ!!。ん?そこにいるのは基親様ではございませんか!何故ここに?」
「私も旅に行きたいと申しているのですが、駄目だと今言われたところです…。どうして正直殿なのですか…ボソボソ…」
「…まぁ落ち込んでいるのは分かり申した。ですがご安心下され!この長尾正直!我が身に変えても若をお守りする所存!故に基親様は大船に乗った気持ちで中村御所にてお待ちください!!」
そういって正直はまたドンドンと廊下を響かせながら歩いていく。
正直が基親に自分の思いを話している最中に万千代は自分の用意を済ましていた。
そして頑なに抗議していた基親も遂に折れて、万千代を見送りする事になった。
いつもの門の所まで行くと、父・房基と母・千代が娘の千姫をつれて万千代を待っている。
「万千代、貴方はまだまだ子供です。ですので行きたくなければ今ここでそう言っても良いのですよ?」
母である千代はやはり万千代が心配で仕方がないらしく、顔の表情も悲しげであった。
無理もないだろう。まだ万千代は6歳なのだ。心配するなと言う方が無理な話なのである。
「母上。自分は必ずやこの土佐一条家の為に責務を果たしてまいります。時は乱世で混乱の極みですが、今の内に四国の外を見ておきたいのです。なので今此処で行きたくない等とは言えません。暖かく見送って下さい。」
そう万千代が言うと千代は万千代を抱き寄せる。その目には涙を浮かべていた。
可愛い子には旅をさせよと言うが、いざ自分の子が遠い所へ行こうとすると、千代はどうしても止めたかった。まだ手に届くところに置いておきたい。わざわざ我が子ではなくても良いではないか。
そう思っていたのだが、万千代の意思を聞くとそうは言えなかった。
我が子の意思を無視してまで止めるなど、それこそ過保護である。なら自分はどうするべきか。
決まっている。もう何も言わずに我が子を応援するだけだ。だが最後に愛する我が子の肌を感じたい。
そう思い千代は万千代を抱き寄せた。
(久しぶりの母ちゃんの胸の中…なんだかホッとするなぁ)
対する万千代も、久しぶりの母の暖かさを感じて少し甘えたくなった。
しかしそんな事をしていては一向に西土佐から出られない。万千代は辛いながらも母から離れ、門の近くに繋がれている馬に跨った。宗珊と正直は既に馬に跨っている。
「ではいきますか若。使いの旅とはいえ目的地は遠き所でござる。道中油断せぬようお願い申す。まぁ何かあれば拙者と正直殿が身体を張ってお守りいたす故、ほどほどにで構いませぬが。」
「いや~楽しみですなぁ!使いの旅とはいえ諸国を巡るなどそうそうありませんからな~!。ですが若様は絶対に守りますぞ!!たとえ相手が忍びであろうと日ノ本一の剣豪であろうと某は逃げませぬ!」
四国の中でも屈指の名将・土居宗珊と期待の新将・長尾正直がいる安心感は凄まじい。
万千代は見送りに来た者に頭を下げ、門から出ていく。それを後ろから見ていた房基は「もしかしたらこれが息子との今生の別れになるやもしれぬな…」と縁起でもないことを考えていた。
(フッ。ありえんな。儂はまだまだ生きる。生きて息子の成長を見届けねばならんのだ…。)
千代や基親などが中村御所に戻っていく中、房基は万千代達が門から見えなくなるまでその場から動かなかった。
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「ウェェェェェェェェェェェ…気持ち悪い…ウプ…」
「若は船が無理でござったか。それより正直殿は「オロロロロロロロロ」」
「どこにいるのだ?」と言おうとした宗珊であったが、繁みの近くから聞きたくない音を聞いたので小さく「はぁ…全く若も正直殿も根性が足りませぬ…」と呟いた。
此処は尾張の船着き場である。補給地である紀伊では至って平穏で、何事もなく尾張に着いたのだ。
途中で土佐一条家と同じ三国司の一つである北畠家に寄らなかったのは単に万千代が「めんどくさい」と言って行かなかった。
そうして尾張に着いたのだが、一つだけ違う事があった。それは現在の尾張国の内情について。
守護である斯波家は没落し、その守護代の清州織田家をも凌いで力を持った清州三奉行の一つである弾正忠家の当主・織田信秀が事実上尾張国を支配していた。
(守護の斯波家を傀儡とした主家の清州織田家をも超える力を付けた織田信秀…間違いなく名将だ。この人が築いた地盤があったからこそ信長は初手から怒涛の進撃が出来た訳なんだから。ただ天下統一に王手をかけた所で死んでしまったのが悲しい所だな。)
船酔いが治ってきた万千代は改めて織田信秀が治める尾張の地を見る。
尾張国は元々濃尾平野という豊かな土地でもあるが、加えて交通の要所でもあるから人々の往来が激しい。さすが前世でもこの地は日本経済を支えていた重要な場所だ。しかもこの地で日本が誇る世界一の自動車産業が生まれたのだから尚更感慨深い。
それに秋の風も程よく吹いていて凄く気持ちが良く、戦国時代の空気は澄んでいておいしい。
そんな事を感じた万千代は俄然やる気を出して宗珊と正直に声をかけた。
「宗珊!正直!尾張は良い所だな!人々は元気で明るく賑やかで、何より此処に立っていて気持ちが良い。俺はこの土地が気に入ったぞ!!」
「真にそうでござるな。西土佐ではこのような様子は絶対に見ることが出来ませぬ。流石は信秀殿でござる。彼の御仁なくしてこの繁栄は有りえませぬな。」
「うぅ…。酔いのせいで何が良いのか皆目わかりませぬ…ウェ…。」
「まだ治ってなかったのかよ」と突っ込んだ万千代だが、さすがにこれ以上此処に居るのは正直が可哀想だと思い、宿屋を探すことにした。因みに尾張国に付いたのは房基と別れて弱一週間程である。
船から馬を降ろした三人組はそれに跨り、まだ昼頃ではあるが泊まる宿屋を探すため歩き始めた。
「しかし本当に良い所だなぁ。此処が近かったら毎日来ても良いくらい…ん?」
馬に乗って宗珊と正直を後ろに連れてしばらく歩いていた万千代が独り言を呟いたその時、少し町から離れた所に足を抑えて座っていた。声は聞こえないが恐らく泣いているであろうと万千代は思った。
風貌は遠くて余り見えないのだが、小さいので恐らく子供だろうと万千代は判断する。
咄嗟に万千代は二人を置いて馬でその人にまで走ると、その二人も「若ぁ!どうなされたぁ!」と叫びながら追う。
「あそこに人が足を抑えて座っている人がいる!見捨ててはおけない!」
そう言って万千代は徐々に近づいていく。そしてやはり声を抑えて子供は唸っている。
「痛い…痛いよぅ…ふぇぇん……兄様ぁ…ふぇぇん…」
近づけば近づくほど甘ったるい声でその子供は泣いていた。そこに万千代が大声で叫ぶ。
「おぉい!大丈夫かぁ!一体何があったんだぁ!!!」
そこでハッと気付いた子供は万千代を見ると顔が明るくなった。どうやら人が来たお陰で安心したらしい。だが傷が痛むのか、またすぐに顔をしかめた。
そして万千代は着くなり馬から降りて子供に駆け寄る。
「おい!どこが痛いんだ!?早く言え!」
そう言う万千代の顔が怖かったのか、今度は「怖いよぅ…ふぇぇん…」と泣き始めてしまった。
すると万千代も「えぇ!?怖い!?何が!?俺がかぁ!?」と突っ込んでしまった。
だが何よりもまずは傷の手当てをしなければと頭を切り替え、万千代は再度子供に問う。
すると子供は指を指して足の痛い部位を示した。だが…。
「なぁ。これもしかして擦り剥いただけなんじゃないのか?」
なんせよく見ると血も出てなければ骨も出ていない。ほんの少し皮が剥けただけにしか見えなかった。「もしかしたら中で複雑骨折かも」と思い優しく足を撫でるが、ちゃんと真っ直ぐな骨の感触があったのだ。「なら打撲かも知れない」と今度は足を強く押すが、「くすぐったいよぅ」と子供が言うのでそれも違った。つまりただ転んで足を|(しかも転んだ勢いはほぼ無い位で)擦ってしまっただけなのだ。
万千代がそう言うと顔をしかめていた子供は段々分かってきたのか、顔が笑顔になっていく。
「本当だ~!あんまり痛くないや~!お兄ちゃんありがとう!僕もう駄目かと思ってたよ~。」
「おいおい…幾らなんでも弱すぎないか?」
そう言うと子供はまた「うぅ…弱くないよぅ…ふぇぇん…」と泣き始めてしまった。
万千代は考えるのをやめた。
するといつの間にか後ろで見ていた正直と宗珊は子供に向かって声をかけた。
「一体何事かと思えば…最近の女子は根性が足りませんなぁ。それとどうして男装しているのか某は聞きたいものですな。」
「うむ。全くにござる。弱いか強いかはさて置き、どうして男装などなされているのですかな?」
それを聞くや泣いていた子供は急に怒って立ち上がり、二人に甘ったるい声で抗議した。
「違うもん!僕は女じゃないもん!!男だもん!!!」
「「「…は?」」」
万千代を含める三人は揃って素っ頓狂な声を出した。
理由は明白だ。泣いていた子供は若干巻き癖のある髪で、結ってはいるが長すぎてポニーテールみたいになっていた。後ろから見れば美少年、前から見れば男装した美少女である。
その姿は基親に負けず劣らずであった。
「それはそれは…大変申し訳ない事を言い申した。許して下され。」
宗珊がいの一番に頭を下げる。それに習って万千代と正直も頭を下げる。
「分かってくれればいいんだよ~。それよりこんな僕を助けてくれてありがとう!僕は喜六郎って言うんだ。」
「へぇ。俺は万千代って言うんだ。隣の二人は仲間だよ。」
流石に二人の名前を出すのはまずいと思った万千代は、仲間と言って話を逸らした。
それについては喜六郎は気にしなかったが、喜六郎は改めて姿勢を正し、万千代たちにあるお願いをした。
「失礼を承知でお願いします!僕を那古屋城っていう所まで連れて行ってはくれませんか?」
そう言われたので万千代達は、時間はまだ昼で断る理由がなかったので喜六郎を連れて行く事にした。
だが万千代が偶然出会った喜六郎の悲しい運命を変えてしまう事を知るのは誰もいない。
着々と戦国の歴史は万千代によって変化していくのであった。




