第十一話 影
筆者の都合で2カ月も間が空いてしまい申し訳ございませんでした。
そして相変わらずの駄文とご都合主義です。もう「ぼくのかんがえたさいきょうのロボット」並みです。それでも良ければ、お付き合い下さいませ…
「若!起きて下され!!一大事ですぞ!!目を覚まして下され!!!」
自室で寝ていた万千代が目を覚ますきっかけとなった声の主は土居宗珊。
どうして慌てているか万千代はこれっぽっちも分からなかったが、起きなければヤバイと思ったので渋々身体を起こす。隣で寝ていた筈の弥三郎は既に起きており宗珊の隣で正座をしていた。
「んだよ…今日は昼から田畑に行って田畑の改革をす―-」
「そんな場合ではありませぬ!事態は急を要しまする!!!西園寺軍が越境してこの西土佐へ攻め入ろうとしておりまする!!数は五千との報告がありまする!先日まではこのような数では…」
万千代が頭を掻きながら今日の予定を言おうとした時、宗珊の口からとんでもない言葉が出てきた。
西園寺軍約五千が突如として西土佐へ侵攻してきたのである。しかも宗珊・監物・房基らが話していた数を優に上回りながら進んできたのである。
軍の数が増えた理由は単純で、当初三千五百の豪族と西園寺軍の連合軍に西園寺家当主の嫡男・西園寺公高が本隊千五百を連れて援軍に来たのだ。
この事実については物見は直ぐに気付いたので、急いで居城の中村御所へ行き房基に話した。
そして房基から一条家臣団にこの事を伝えると中村御所中が大パニックになってしまったのだ。
一条軍は最高でも千五百の軍しか出せないのに敵方はその倍以上の兵力をもって攻めて来たのである、慌てるなと言う方が無理だろう。
既に房基と監物が総兵力千五百を率いて陣を張っているが、自軍の三倍の兵数を持っている豪族・西園寺連合軍からしてみれば大した脅威ではない。正に土佐一条家の危機が迫っていた。
宗珊はこの話を万千代と弥三郎にも早口ではあるが伝える。
話を聞き終わると万千代は腕を組んで黙り、弥三郎は小刻みに震えていた。
宗珊は今すぐにでも主君・房基のいる陣へ行きたいが、宗珊には万千代の警護もあるので行けず、その心の中は穏やかではなかった。
その場の空気が重苦しい中、万千代は考えた。
実はこれはチャンスなのではないかと。もしここで西園寺軍を撃退すれば後は父親に任せて自分はゆっくり邪魔されず田畑を作れるかもしれないと。
実は万千代…田中圭太は前世の趣味で戦略ゲームや内政ゲームをしていた過去がある。だが内政ゲームに関しては難しくて早々に辞めて店へ売りに行ってしまった。
だが戦略ゲームに関しては、なんだかんだ言って地道にプレイしていたのである程度の作戦は自分で立てられるのだ。
歴史に関しては学校で習うくらいの事しか知らない万千代だが、こと戦争に関しては意外にも少しだけ知識があった。 (だが近代から現代までという限定知識だが…)
だからこそ万千代は考えた、それらの知識を使えば戦に勝てるのではないか……と。
もしうまくいけば織田信長が今川義元を破った「桶狭間の戦い」みたいに勝てるかもしれない…。
命のやり取りなどしたことがない万千代だからこその甘い考えだが、万千代はそれをやる事にした。
夜の闇に紛れて敵の本陣を奇襲する………。
そう決めると万千代は口を開いて宗珊に声をかけた。
「宗珊、今すぐ父上の所へ向かって父上を補佐してこい、俺は大丈夫だ。」
「何を申されるか!某は若をお守りするという役目が御座いまする!ですので此処から--」
「まぁ聞け。要は戦に勝てばいいんだろう?安心してくれ、俺には弥三郎がいるし外へ行く時は部屋の片隅に置いてある鎧を着て行く。それと宗珊には父上に伝言を頼みたい。だからあとは俺に任せてくれ。」
「……何か策でもあると…?」
「まあそういう事だ。だからお前は父上に一言、俺の伝言を言ってくれ。「勝てる」…とな。」
万千代がその言葉を発すると宗珊は目を見開いた。
この絶望的状況であるにも関わらず、万千代は勝てると思っている。それだけではなく、勝てる策もあるというのだ。どうやって?、三倍の兵力を持つ敵に対して勝てる方法など皆無だ。どうやって戦っても兵力差で劣っている自軍で勝つことはできない。一体この男は何をしようというのか…。
宗珊は色々万千代に言いたいが、万千代が真っ直ぐな目で訴えてくるので仕方なく…いや万千代を信じて自身は房基の元へ行く事を決めた。どうせ負ければ命は無いのだからせめて一矢報いろうと…。
だが宗珊は思う。何故かは分からないが、この戦は多分勝てるかもしれない……。
「では某は殿に伝えに参りまする…。若、信じていますぞ。」
「任せてくれ。それともう一つ付け加えて言っていてほしい。「絶対に攻めてはいけない、あと準備が整い次第そちらへ向かう」と。」
「承知致した。では某はこれにて…」
そう言って部屋を出ようと立ち上がった時、「あっ」と宗珊は言うと、弥三郎へ言葉を告げた。
「そうそう弥三郎殿、貴殿の鎧も襖の前に置いて用意していまする。ちと古い鎧ですが問題はないかと。若に万が一があればお頼み申す。若を守って下され…」
「分かりました!この身を賭して必ず守ります!土居様は安心して房基様の元へ行ってください!」
弥三郎が元気よく宗珊の言葉に答えると、宗珊は一瞥して部屋から出て門の所に繋いでいた自分の馬にまたがり房基の所へ行った。宗珊が行った後、万千代は弥三郎の方へ身体を向けるとまた話を始めた。
「弥三郎。今から俺についてきてくれ。俺の策は農民達の協力がなければ意味がない。お前にも手伝って欲しい事があるんだ。先に言うとこの戦い、農民達の力がないとまず勝てない…いいか?」
「うん。僕も万千代様の策が知りたいし、なにより宗珊様と約束したからね、万千代様を守るって!」
「万千代でいいって!それじゃあ鎧を着て馬に乗ってすぐに行くぞ!時間は余りかけたくない!」
そういうと直ぐに二人とも鎧を着て同じく門の所で繋がれていた馬に跨り、田畑改革をしている方へ馬を走らせた。
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農民達はいつもと変わらず田畑を耕していた。
彼らは万千代が来るまで改革した田畑を耕して時間を有効に使っていた。
そして遠くの方から馬をかけてくる万千代を見つけると、手を止めて村人総出で万千代を迎える準備をする。そして徐々に万千代が近づいてくると農民達はあることに気付いた。
「…殿様が鎧を着てるだよ…」
すると農民達は不安になってきた。もしやまた豪族達が自分達を襲ってきたのではないか。それで万千代は鎧を着ているのではないかと。
そして馬上の万千代とその後ろに乗っている弥三郎が農民達と顔を合わせるや否や、万千代は馬から降りて農民達に頭を下げて話をし始めた。
「すまない皆、今日は田畑を開墾できそうにない…。それどころか北の方から西園寺という奴が攻めて来た。俺はこれを撃退しなくてはいけない。そこで皆にお願いがあるんだけど、聞いてくれるか?」
農民達は目を見開いた。
この西土佐を支配している一条家の嫡男…それも公家である万千代が農民達に頭を下げたのだ。
それだけでもとんでもない事なのに、それに付け加え「お願い」をしてきたのだ。
身分の高い者はお願いなど絶対しない。農民達の命など顧みずただ遠くから命令を下すだけだ。
だが万千代は命令ではなく頭を下げてお願いしてきたのだ、最早常識外れと言ってもいい。
農民たちは驚きつつも、まずは万千代の話を聞く事にした。
「万千代様、わしらは何をしたらいいんですか?」
「難しい事じゃない、酒や貢物を敵に届けてほしいんだ。」
「「「え!?」」」
農民達は声をそろえて言う。
そしてすぐさま万千代は言葉を繋げた。
「いや、厳密にいえば敵の隙を作ってほしいんだ。そのために貢物を送れば多少なりとも敵は油断すると思うんだ。そこを突く。」
「なるほど…そう言う事ならわしらに任せてくだせぇ!多少と言わずとも、一日くらい止められまさぁ!皆!万千代様に恩を返すぞぉぉぉぉ!!!!」
「オォォォォォォォォォォォォ!!!!!」と農民達は声をあげて吠えた。
その様子を見ながら弥三郎は笑顔を作りつつも、手を顎に当てて考え込んでいた。
そして思っていることを万千代へ告げた。
「万千代さ…万千代、もしかして奇襲するつもり?」
そう言われた万千代はドヤ顔で頷く。すると弥三郎は眉を寄せながら話を続ける。
「奇襲は良い案だと僕も思うよ、でも奇襲するには場所が悪すぎると思う…」
「…そういえば敵の本陣ってどこだっけ?」
「敵の本陣は崖と崖の間の少し細い場所らしいよ。万千代が起きる前に土居様から聞いたんだ。だからこそ言える、奇襲なんて無理だよ…」
弥三郎がそう言って落ち込んでいると、万千代は「ククク…」と嫌な笑い方をしながら弥三郎へ言葉を告げた。
「じゃあ敵も同じことを考えているな、「奇襲なんて無い」ってな。弥三郎がそう思うなら、多分この日本中どこへ行って聞いても同じ答えしかださないだろうな。」
「だとしてもだよ!?日が出ているうちは見つかってしまう…まさか夜襲!?」
「おう。むしろ敵を撃退する方法なんてそれしかないだろ。夜の闇に紛れて本陣を襲って敵大将を討ち取る。奇襲は無いって勝手に考えている奴らだしな、夜襲以外は警戒されているだろうから無理だ。ていうかこれ以外の案があるのなら俺が聞いてみたいね。千五百の軍で五千の軍を打ち破る方法を。」
弥三郎は固まってしまった。
まさか崖から奇襲するとは夢にも思わなかったのだ。だが万千代の言う通り、これ以外の策が無い以上夜襲という手しかない。だが弥三郎が何よりも驚いたのはそれを考える万千代の事である。
万千代は確かに大人びているが所詮はまだ六歳の子供である、なのにもうこのような奇策を考えていたのだ。自分よりも歳が下なのに、考えは自分より遥かに上だ…。なら自分は万千代を信じるだけだ!
そして弥三郎も腹を括る、最早やるしかないのだ。元より万千代に救われた命である。
ならばこそ、たとえ死ぬのであれば万千代の為に死にたい。その思いが弥三郎の心を満たしていた。
そんな想いを胸の中で密かに決意していると、万千代に声をかけられる。
「さ、早く馬に乗って父上の陣へ行こう!日が沈む前にこの事を伝えるんだ!」
そういうと万千代は弥三郎を連れてまた馬に跨がり、農民達に改めて礼を言う。
農民達はすぐさま貢物をもって村を飛び出ていく。
万千代も房基の元へ馬を走らせるが…。
「……そういやぁ父上の陣って何処だっけ?」
それを聞いた弥三郎は顔を引き攣らせながら、後ろから道を教える。
(本当に大丈夫なんだろうか……)
そんな思いを馳せながら弥三郎は万千代と共に房基の陣へ走って行った。
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「そうか、万千代はこの状況を打破できると思っておるのか…」
そう言った父・房基は顔を歪ませながら顎に手を当てた。それと周りにいた武将たちは、宗珊のから聞いた万千代の伝言を聞いて各自それぞれの思いを語っていた。
ある者は「若の事だ、なにやら奇策でもあるのやもしれぬ」と言うし、別の者は「いやいや、流石の若でも此度ばかりは何もできまいよ。殿の考えを待った方が賢明よ」とも言っている。もっとも後者の者に関しては宗珊から白い目で見られていたが。
後者の者の声を聞いた房基はゆっくり口を開いて言葉を発した。
「しかしのう、今回の戦に関しては儂の考えではどうあがいても勝てぬ。豪族共め…数を増やしたばかりではなく、西園寺まで動かしてくるとは…腹立たしいのう!儂は土佐を併合せねばならぬというのに!」
「殿、落ち着いて下され。まだ負けたとは決まっておりませぬ。それよりも気になる事が一つ」
房基が愚痴をこぼしている時、自陣から戻ってきた羽生監物が房基の前へ歩いてくる、そして房基の前で膝をついた。
「ん?なんじゃ監物、言ってみよ。」
「実は…先程から敵の進軍が止まっているのです。物見によると、どうやら農民と思わしき者が敵軍に対して貢ぎ物を送っているとか…」
それを聞いた房基は直ぐに立ち上がった。
「なんじゃと!既に農民達は敵方へ流れておるというのか!」
「いえ…それがすこし様子が変なのです。確実とは言えませぬが、送っている貢ぎ物の半分以上が酒らしいのです。なにかおかしいと思いませぬか?」
「酒………。確かに今の西土佐の食料に関しては余り余裕がないが…もしや…」
そういうと房基は椅子に腰を下ろす。そしてまた顎を手で撫でる。
既に空は夕日で赤く染まりかけており、敵の進軍が止まるのも分かる。
だが農民達の貢ぎ物に関して疑問が残る。本当に敵になびいているのなら、もっと食料を送るべきだ。
本気で敵の方へ付くのなら酒だけでは敵の腹は膨れない。ならばなぜ送らないのか…。
房基はある一つの考えにたどり着いた。
農民達は敵方になびいてはいない。むしろ進軍を止めるためだけの行動だ。
ならどうしてそんな事をするのか。答えは一つ、誰かが農民達に対して指示を出している。
では誰が指示をしているのか、だがその答えは向こうから来た。
「殿、若様が来られました。」
これからは一か月以内を目指して更新していくつもりです。
コメント・ご指摘いつもありがとうございます。
ですが筆者の心はガラスです、キツイお言葉だけはご勘弁下さいませ(汗)




