第十話 志
ブックマーク数が1000を超えました!!!!
本当にこのような小説を読んでいただけること、感謝の極みです泣
そしてすいません!内政の事も合戦の事も待って下さっている皆様すいません!
自分も合戦書きたいのですが如何せん弥三郎の話を纏めるのに手間取りました!
次回からは合戦に入っていきたいと思っていますので、もうしばらくお待ちください!!感想とご指摘いつもありがとうございます!最近は返信できる時間が少ないため、遅れて返信をしております、誠に申し訳ありませぬ・・・・。
それと最後に、これからはオリジナル設定が増えていきます。
流石にチート関係はしませんが、もしかしたら読者様の考えと違う方向に行ってしまうかもしれません、ですがそれでも構わないという方は、これからも「一条兼定奮闘記」を見ていただけたら、これ程嬉しいことはありません。
「それじゃあ改めて・・・弥三郎が此処に来た理由っていうのは何?家を捨ててまで此処に来たってことは相当な事だろうし、話は全部聞かせてもらうよ。」
風呂から上がった万千代は弥三郎を連れて廊下を歩き、いつもの自室へ向かいながら弥三郎にそう告げた。
そう聞くのは当たり前だ。大名の嫡子が家督と家を捨てて来たのだから。
普通の人ならこんな行動はしない。弥三郎がしたことは自ら身を滅ぼしている。
未来ある人生を捨てて、下手をすれば命を失うかもしれないのだからそれ相応の理由があるに違いない。
万千代は頭の中で色々弥三郎の家庭の事情を勝手に想像して勝手に同情をしながら弥三郎を見つめる。
「いえ・・・別に大した理由などでは・・・・」
「そんな訳ないだろう!家捨ててきてるんだぞ!?」
歩きながら答えた弥三郎にすかさずツッコミを入れた万千代だったが、場所が場所なのでまだ話せないのだろうと考え、続きは部屋で聞こうと思いそれ以上弥三郎に質問をすることはなかった。
余談ではあるが、警護の兵士や廊下ですれ違った方々から「遂に若にも春が!」「なんという美しい姫君を貰い受けたのだ」「羨ましい・・・」という声が出ていたが、万千代も弥三郎も気にしなかった。あと現在の中村御所内で弥三郎が男であると知っているのは一条家族と守役の土居宗珊だけである。
----------------------------
廊下を歩き自室についた万千代は弥三郎を招き入れて、先ほどの話の続きをしようと思ったが、万千代が話をする前に弥三郎が話を振ってきた。
「万千代様にとって、天下を取るというのはどういう意味ですか?」
「・・・・・・・え?」
弥三郎が真面目な顔で万千代の瞳を見つめながらそう告げた。
流石の万千代もいきなり天下の事を聞かれたので面食らってしまったが、弥三郎の瞳が真剣でそれはふざけている訳ではないと万千代は悟った。
そして万千代は腕を組んで少しばかり思案した後、弥三郎の方へ改めて目を見ながら口を開いた。
「俺が言うことはその質問の答えになってないかも知れないけどそれでもいい?、別に弥三郎が言ってる意味を理解していない訳じゃないからさ。」
「構いません。僕は貴方の思っている事を知りたいだけですから。」
そう告げた弥三郎は正座をして万千代の言葉を待った。
別に疑惑があるからそう質問した訳ではない。弥三郎は万千代の考えが今の時代においてどれほどの事を思っているのかが知りたかった。
この戦国乱世においての天下とは京だ。京さえ取れれば後は自ずと自らの手の中に天下が転がり込んでくる。だがそれだけでは足利将軍と同じ事を繰り返すだけだろう。故に弥三郎は思案し考えて自分なりの天下を想像した。
京だけでは天下は収まらない。現にいま京を支配している足利将軍家は既に名ばかりで自前の軍はおろか、京の民すら治められていない。
それどころか近隣にいる細川家によって畿内と幕府を牛耳られているのだ。
だがその細川家ですら天下を抑えられていない。ではどうやれば天下を抑えればいいのか。大大名なら天下が取れるわけではない。もっと根本的な問題があるはずなのだ。そうして弥三郎が考えた先にあったのが日ノ本の民達である。
天下とはただ単にこの日ノ本という地を治めるだけに非ず。
この日ノ本にあるのは地だけではない。その地に根付いて生きている「人」がいる。即ち民百姓がこの日ノ本という地を耕し、米を作り、その地方の伝統を育んで生きてきたのだ。大名連中を抑えたとしても抑えたのは民ではなく「武士」であり民百姓ではない。武士が米を作る訳ではない。武士は戦うためにしか存在しない。
だがそんな武士を縁の下から支えているのは、紛れもなく民百姓達だ。
だが今の武士は民百姓の事を思っているどころか、まるで奴隷の如く酷使する。
武士連中は既に民百姓から支えられているのが当たり前だと思っている。
だがそんな事を続けていればいつか必ず民百姓は立ち上がる、そしてその時に戦うのは武士ではなく民なのだ。民によって出来ている武士が民を虐げるから天下が収まらない。武士ではなく、民を抑えたものこそ天下が取れる。
弥三郎がずっと考えていた先に見出した答えがこれだった。
そんな事を考えながら正座して待っていると万千代が再度口を開いた。
万千代にとっての天下とは・・・思いとはなんなのか。
弥三郎は喉をゴクリとさせながら万千代の言葉を待った。
そして万千代はこう告げた。
「俺にとっての天下は、農民・・・つまりこの日ノ本全てにいる民を治めて、皆が平和に暮らしていければ良いなと思ってる。まぁ勿論民以外も治めないといけないけどね。短くて申し訳ないけど、上手く言葉にできなくてこれぐらいしか言えなかったよ・・・。」
弥三郎はそれを聞くとゆっくり目を瞑った。
あぁ・・あぁ・・・・やっと・・・会えた・・・・。
・・・・思えば初めて自分の考えと同じ人に出会った・・・・・。
前に家にいた時に似たようなことを小姓や他の家臣たちに聞いても皆同じ言葉しか返ってこなかった・・・、それが嫌で家を出たわけではないけど、そんな答えばかり返ってくるとまるで自分がおかしいのかと思えてきてしまう・・・。
現に過去で「殿の嫡子があれではもう長宗我部家は終わりだな」と言う家臣の言葉を陰から聞いていた自分はその日から部屋から出なくなった・・・・。
自分がおかしいんだ、自分が狂っているんだ、自分が他の人とずれているんだ、僕の考えが変なんだッ!!!
部屋に引きこもってからというもの、一人ですすり泣く事なんて一度や二度だけじゃなかった。どうして弟の弥五郎や弥七郎みたいになれなかったのだろう。
弥五郎みたいに活発で武芸に秀でていれば・・・弥七郎みたいに文武両道が出来ていれば・・・・・。
自分は他の人とずれているだけではなく、身体は弟達よりも貧弱で、それどころか女として生まれてきた方が良かったと言われる程の容姿・・・。
長宗我部家嫡男という肩書だけが自分の存在理由だった・・・・・。
だけどある日隣の西土佐で変わった嫡男がいると個人で雇った忍びから聞いた。
これだけなら聞いても家から飛び出そうとは思わなかったけど、その後の言葉で自分は耳を疑った。
「未知の南蛮兵器を一瞬で看破しました。」
武者震いがしたという言葉では表せられない何かに駆り立てられた。
どうして「誰も知らない」物を見破れたのか。恐ろしくないのか!?
そんなものを看破して周りから変な目で見られるだろう!?
だけどそんな自分の考えとは裏腹に続けて忍びが答えた言葉に自分は心の像が鷲掴みされた気持ちになった。
「その未知の兵器を何食わぬ顔で堂々と家臣と兵士に教えている。そしてその姿に一寸の迷いもありませんでした。」
そう言うと忍びは自分に一礼してその場を去ったが、自分はその場で崩れ落ちてしまった・・・・。
なんてすごい方なんだ・・・・。心から出たその言葉は同時に自分が恥ずかしくなってしまうほどだ。
部屋に引きこもるほどの気持ちになりながらも周りに合わせて生きていく自分が嫌いだった。自分が悩んでいることを気にもせず堂々として生きている人がいる。
しかも嫡男という自分と同じ立ち位置にいる。
この時自分はこの長宗我部の家を捨てて西土佐に向かう覚悟を決めた・・・。
確かに此処に来るまで幾多の困難が有った。それこそ最後は心が折れかかっていた。だけど結果として自分はこうして万千代様に会い、そして同じ志を持っていることが今分かった。もう悔いはない・・・もう恐れる必要なんてない・・・・もう一人ではないから・・・・・。
目を瞑った弥三郎を万千代が静かに見守っていると、瞑っていた目から涙が滂沱の様にとめどなく出てきながら弥三郎が唸るように泣き始めた。それを見るや否や万千代は「え!?待って泣くほど!?俺もしかして変な事言った!!?」とてんやわんやしながら、とりあえず自分の袖で弥三郎の目元を急いで拭いながら「ごめん!ごめん!泣かないで!謝るから!」と言うが、逆に弥三郎は唸るような状態から声高らかに大きく泣き始めたので万千代は「えらいこっちゃ~!えらいこっちゃ~!」と少し涙目になりながらこの事態を治めるべく急いで頭をフル回転させた。
「~~~~!!!!これ以上声が大きくなって御所中に響き渡る前に泣き止ませなくてはいけないから苦肉の策だけど!!!!!」
「ごめん!!!」といいながら万千代は弥三郎を自身の胸の所まで引き寄せると赤子をあやすように胸の中で泣いている弥三郎の背中を撫でた。
胸の所まで引き寄せた理由は声を抑えるため。背中を撫でているのは弥三郎を安心させる為だ。実際どうして弥三郎が泣いているのか分からないが、こうすれば泣き止むかもしれないと万千代が考えて行った行動である。
そして次第に弥三郎も声が小さくなり涙も止まり始めた・・・が・・・・。
「まさかそのままくっついて寝るとは思わなかったぞ・・・ちくせう・・・」
余程安心したのだろう、弥三郎はそのまま寝てしまった。
状態としては、泣き止んだ後そのまま抱き枕の様に万千代に対して腕と足を使って逃げられないような状態である。足に至っては万千代と交互に絡み合っている。
「神様は俺にホ〇になれとでも言ってんのか・・・・・?」
そう呟く万千代であったが、改めて弥三郎の顔を見直す。
泣いていたせいで目元と頬が赤い、だがそれがまた色気を出している。
服も少しはだけていたので万千代は片手をすり抜かせて弥三郎の服を直す。
同時に必死に手を伸ばして布団を掴むと、自分と弥三郎に掛ける。
「しかし此処に来てから泣く事しかしてないな、実は泣き虫なんじゃ・・・」
そう独り言をつぶやきながら、片手で弥三郎の髪を撫でる。
そうしていると時折弥三郎が笑う。いや笑顔になる。
撫でながら瞼が閉じていく万千代であったが、決意のようなものを小さな声で発した。
「こりゃあ俺が支えてやらないと色々危ないな・・・・・。でも改めて宜しくな、弥三郎・・・。」
今日この日、弥三郎は大きな声で泣いた。だがそれはコンプレックスという殻の中にいた弥三郎が、殻を破って出てきた時の産声だったのかもしれない・・・。




