第八話 ~ チュートリアル 操縦技術訓練 ~
脈動するように明滅するコンソールパネルの光が緊張に強張る顔を浮き上がらせ、忙しなく視線を動かしこの暗く狭い空間を把握しようと悠陽は観察を続ける。
この箱型の空間は座席一つが入り、そこに座る人間が多少身動きするだけの狭い空間しかない。
その空間の前方と左右には周囲の情景を映し出すだろうモニターが貼り付けられ、二本の操縦用のレバーに二つのフットペダル、多目的視線音声両用入力式コンソールパネルが座席の前を埋めるように配置され、座席に座る人間の動きをさらに制限している。
その狭い空間に四点ハーネスのシートベルトによって座席に体を固定するように座る悠陽は、両足をフットペダルに両手を操縦用レバーに乗せ、待ちに待った瞬間を今か今かと待っている。
今乗っている教習用トルーパーの火が入るその瞬間を……。
銀河大戦にログインした悠陽は近接格闘訓練担当教官に絡まれつつも、なんとか次のチュートリアルクエストの場所へと移動させてもらい、巨大な二足歩行型機械を収納するために立てられた格納庫へとその身を移していた。
聳え立つように整備用のハンガーに収納されたトルーパーを見上げ、悠陽はようやくこの銀河大戦というゲームを始めたという実感を得た。
「どうだ? こいつらはフレームに最下級基本パーツだけで組んだ練習用だが、十分この世界を楽しめるぞ」
口をあけた間抜けな表情でトルーパーを見上げる悠陽は掛けられた言葉に振り返る。
オリーブグリーンのフライトジャケットを着込んだ褐色の肌をした初老の男性が、悠陽が見つめていたトルーパーを精悍な顔つきで眺めていた。
「ようこそ、トルーパー操縦技術訓練所へ。貴君の着任を歓迎する」
そう言って初老の男性、トルーパー操縦技術訓練担当教官は悠陽に敬礼をした。
その後、訓練担当教官は悠陽にトルーパーの操縦に関する説明を口頭で簡単に述べると、早速とばかりに悠陽をトルーパーのコクピットへと押し込み、現在に至っている。
勝手に起動されて暴れられないようにこの場に並んでいるトルーパーは、教官室にいる訓練担当教官が起動しなくてはいけないようになっている。さらには停止に遠隔操縦も教官室から行えるようになっている。
「それではまずは歩行訓練から行う。歩行訓練とは言っているが走行にスラスターを使った移動など、機体制御全体の訓練と思ってくれ」
悠陽の乗るトルーパーのエンジンが訓練担当教官の手により掛かり、火の入った状態になると前方や左右のモニターが格納庫の情景を映し出す。同時にコンソールパネルに訓練担当教官の顔が映し出された。
「さきほど説明したとおり、まずはフットペダルと操縦レバーの操作に慣れろ。その二つの操作が基本だからな。しっかり覚えろよ」
訓練担当教官が再びトルーパーを歩かせるための操作方法を説明していく。
その説明を聞きながら操縦の簡略化くらいしろよと悠陽は思うが、これはある意味間違った感想といえる。
例えばただ前に歩くもしくは走るならばライトフットペダルを踏み込めば前方に進もうとトルーパーは動き出し、操縦レバーの操作でその方向性が決まる。さらにレフトフットペダルをライトフットペダルを同時に踏み込むことによって、バックパックのスラスターにより大きく跳びあがることができたりなども可能である。
操縦レバーの各指先に対応するトリガー操作によっても同じ操作でロックオンした相手にタックルなどの格闘動作を行うなど行動が変わってくる。
トルーパーの操縦が簡略化されているといっても、その操作が多岐にわたっているため簡略化していても複雑という状態になっている本末転倒な事柄である。
つまりトルーパーを自在に動かすことで多彩な戦闘演出を開発陣が目指しすぎた弊害といえるだろう。
しかしこれではパイロットになるプレイヤーが少なくなり、ゲーム事態に致命的になることは開発陣にも事前にわかっていたことでもあった。
そのためこの複雑になってしまった機能を一部制限し、部分的な自由度のみでもある程度の戦闘行動が可能なようにしてあり一般的なパイロットキャラクターはこの制限したものを使用し、それを基本操作テクニックとしていた。
少しずつでも上を目指すものはこの機能の制限を取り払って自身のプレイヤースキルを磨くという行動を起こし、Wikiなどにもパイロット基本操作をまとめたものの他にこの機能を十全とはいかなくとも使用したものを高等テクニックとして別枠で扱われているため、その情報を基に上級プレイヤーを目指して技術習得に時間と労力を費やしていく。
「とりあえず制限操作でっと……」
訓練担当教官の絶対に初心者がトルーパーを転ばせることを期待した制限無視の説明を右から左へと聞き流し、悠陽はまずはとばかりにフットペダルを踏み込むのではなくコンソールパネルから視線操作で操作設定画面を呼び出す。
普通のゲームではまず制限されたものがデフォルトで制限を操作設定で自分で解除していくのだろうが、この銀河大戦は制限が全て解除されている状態がデフォルトとなっている。
つまりこのクエストを訳もわからず始めれば、自由度の高いトルーパー操作のためにバランスを崩し訓練担当教官の狙い通りに一歩踏み込んだそのときに盛大に転がることになる。
きっとその時のコクピットの中はジョットコースターなど児戯に等しいほどの揺れと回転に見舞われ、忘れることができない経験となるだろう。
そこを叱責とともに訓練担当教官が自分が説明していなかったことをさも説明を聞いていなかったと指摘し、制限操作を教えればプレイヤーの頭にそのことは刻みつけることができるかもしれない。
開発陣に訓練担当教官のAIがそれを狙っていたのかどうかはわからないが、Wikiなどで情報が出回っている現在、よほどせっかちか無謀なプレイヤー以外はこの設定をすることを忘れない。誰しも洗濯乾燥機のドラムの中に入りたいと思うわけではない。
「とりあえず操作に慣れるまでは基本操作だけで後はロックと……」
あれもこれもとどんどん操作設定にて悠陽は操作入力受付をロックしていった。
転んだ後の訓練担当教官のアドバイスやWikiによる経験者によるアドバイスでもチュートリアル内で慣れるまではほぼチュートリアル以外の行動がとれない様にロックを掛けることが推奨されている。
「ではまずはこの格納庫から外の訓練施設まで歩け」
コンソールパネルの右端に映って延々と説明を続けていた訓練担当教官の言葉が終わったようで、さっそく歩くように表面上真面目くさった顔で指示を出してくる。
「ほんじゃま、いってみますか」
さぁやるぞとばかりに悠陽は操縦レバーを握りなおした。
ライトフットペダルを慎重に軽く踏み込めば、ゆっくりと搭乗しているトルーパーがまず右足を動かす駆動装置の微かな振動をシートの下から悠陽は感じる。
コクピットの外ではかなりの重量物が動いたのだからかなりの騒音と振動が起こっただろうが、免震構造のコクピットの中では微かな振動しか感じられないが、悠陽の操作で確かにトルーパーが最初の第一歩を踏み出すことに成功した。
「このくらいの踏み込みでこのスピードなんだ……。とりあえずは建物を出るまで慎重にと……」
一歩踏み込んだところでライトフットペダルから足を外して、自分が巨大な人型機械を動かしたことに男の子めいた感想として少し感慨にふけってしまう。
とりあえず一歩目で転ぶことはなかったが、いまだトルーパーは狭い格納庫の中にいる。
ちょっとしたミスで大惨事なのは目に見えている。
早く思う存分トルーパーを動かしてみたいと言う衝動を抑え、ライトフットペダルを軽く踏み込む。
トルーパーが入っていたハンガーが左右のモニターから消えたところで操縦レバーを操作し、トルーパーの前進する方向を勢いよく変えすぎてバランスを危うく崩しかけるがなんとか格納庫の外へと向かわせる。
ゆっくりゆっくり確実に歩みを進めるトルーパーは外から見ればよちよち歩きの幼児のように頼りなく滑稽に映るだろうが、操作をしている悠陽にしてみれば、踏み込みの強さを一定にするために変に力を入れすぎて右足が攣りそうであったり、方向転換などで行き過ぎてしまったことを修正するためにバランスを崩したり、その崩れたバランスを直すためにまたバランスを崩しかけたりと、必死に操縦レバーを動かし続けて自身が動かすトルーパーの挙動などに心を配る余裕などない。
「ほうコケないとは情報収集はしてきたということか。ならレバーにしろペダルにしろどれだけ動かせばどれだけ反応するのかを覚えろ。変な力を入れるな、体の力を抜いて自然体で動かさないか!」
悠陽のトルーパーの挙動から操作制限を入れていることを見抜いた訓練担当教官も、悠陽のトルーパーのあまりにも酔っ払ったような千鳥足やよちよち歩きの幼児のような危なっかしさにだんだんと言葉に熱を帯び始める。
「下半身の行動と上半身の行動が合ってないわ! それではバランスを崩して当たり前だっ! 制限かけたら後は機体のほうが調整してくれると思ったら大間違いだぞ、キチンと動きをイメージして操作しろっ!」
えっちらおっちら何とか格納庫の扉を抜け野外訓練施設へと出ることは出来たが、その操縦はここまで転ばずに何とか歩いてこれたのが不思議なほど危なっかしい。
悠陽も訓練担当教官の言葉を取り入れ、一所懸命操縦レバーやフットペダルを操るがトルーパーは思ったとおりに動いてはくれない。
「一旦止まれ。設定をこちらでも確認してみる」
訓練担当教官の言葉に従い、悠陽はトルーパーをなんとか右手が上に伸ばされ、左手は後ろに限界まで上げられていたりといろいろとおかしな格好ではあるがバランスを保って棒立ちの状態にすると一切の操作を止め、体中の力を抜いて長い溜息を吐く。
変に力を入れすぎていたようであちこちがだるく感じる。
「基本操作でこれってかなりむずいなぁ。大丈夫か俺」
多少はアミューズメントスポットなどでアーケードのロボットモノの筐体ゲームを嗜み、ハイスコアでそのアミューズメントスポットの上位ランカーにはとても適わなくとも、そこそこの成績をハイスコアランキングに残せるだけに悠陽の気持ちはかなり落ち込んでいる。
「原因がわかったぞ。スロットルの出力調整がまったく合っていない。操縦設定を弄ったときにおかしな感じに弄くったんだろ」
落ち込んで沈んでいる悠陽に追い討ちを掛けるように一旦消えていたコンソールの通信パネルに訓練担当教官の顔が現れた。
「はい? 基本操作以外をロックしたのがいけなかったんですか?」
「基本操作以外をロックというのが、スロットルリミッターのロックも入るとしたらいけないことだったろうな」
訓練担当教官はそう言うと、基本操作以外のロックについての話を始める。
操作設定には基本操作を行う設定以外の場所にもロックを掛ければ、基本操作すら覚束なくなるような罠といえるような設定が数箇所入っている。
悠陽はその全てをロックしてしまったという話であった。
「いやぁ久しぶりに見たわ。こんな無茶な設定にしながら転ばずに格納庫を出る猛者に合ったのは」
笑いながら数百人ぐらい居たらしいことを話す訓練担当教官。
実際、操作設定を弄くるプレイヤーは何をロックするか確認してロックするか、予めキチンとロックする内容を調べておくものが大半だったらしく、ここまでロックしたプレイヤーの数はそう多くなかった。
その多くなかったプレイヤーの中で転ばずに格納庫を出た者となるとさらに少ないのは自明の理であろう。
「一応設定をしなおした。そちらでも確認してみろ」
操作設定をコンソールで呼び出し、その項目を一から順に悠陽は確認していく。
スロットルリミッターの他にも出力関係のリミッターなどリミッター関係で数箇所ロックが解除されており、悠陽自身何も考えずにロックをしていたことを痛感した。
「まぁこれで操作はやりやすくなっているはずだ。では、クエストを説明するな。まずは全速で前進した後、障害物Aを上方へジャンプで回避そのまま前進する。障害物Bにたどり着いたらこれをスラスターによるスライド移動にて左右どちらかに回避、ターゲットAを掴み上げ折り返し、障害物Cの中を潜り抜け、障害物DにターゲットAを差込み開閉した後その間を通ってゴールだ」
悠陽が確認を終えて顔を上げたことを確認した訓練担当教官は正面のモニターに野外訓練施設の簡易地図を映し出し、説明とともに地図にコースとそれぞれのチェックポイントを映し出していく。
「制限時間は一〇分。これはかなり余裕を持った制限時間だ、クリアするだけなら簡単だろう。ゴール前に様々な操縦を試して、トルーパーの操縦というものに慣れてくれ」
モニターにスタートラインを示され、これを通り越したらスタートだと言葉を締めて訓練担当教官はコンソールの通信モニターから消えた。
「スタートラインを超えたら、制限時間一〇分か。越える前に少し練習するかな」
ハンガーから格納庫を出てここまで歩いてきた苦労が悠陽の頭から離れないのだろう。操縦設定を調整しなおしたとはいえ、それがどれだけ扱いやすくなっているかわからないという不安が悠陽の顔を曇らせる。
操縦レバーを握りなおし、悠陽は緊張に強張り青ざめた顔を引き締め気合を入れなおすとトルーパーに一歩を踏み出させるべくライトフットぺダルを軽く踏み込んだ。
「あれ? これくらいでさっきは動き出したのにこのくらいじゃ反応はすれど動き出すほどじゃないのか」
下半身を動かす駆動装置がライトフットペダルの操作に反応した振動をシートの下から感じるが、トルーパーは足を動かす気配はない。
さらに踏み込むことでようやくトルーパーは足を動かし、前に向かって歩き出した。
「さっきまで反応がシビアすぎだったけど、今度は結構遊びがあるのか。さっきよりかは操縦は楽かな?」
操縦レバーにてトルーパーの歩く方向を操りながら、大回りで操縦のおさらいと見直しをしながらスタート地点へと向かって悠陽はトルーパーを歩かせる。
スタート地点には白いラインマーカーで一直線に印がつけられ、訓練担当教官が消えてからコンソールに表示された一〇分の時間表示がこのラインを超えたら減っていくようになっているのだろう。
「よし、格納庫を出るまでとは違い扱いやすい。とりあえず本格的なロック解除の練習はタウンに移ってからでいいかな。まずはチュートリアルクリアっと」
スタートラインの直前でトルーパーの足を止めた悠陽は、コンソールで機体の状態を確認しつつ今後の予定を頭の中で考える。
推進剤の残量、機体各部の消耗度などが全て正常であることを確認し終えると、前面モニターに映る各種障害物を悠陽は獲物を見る狩人のように冷静に慎重に見定めるように見つめる。
どのように? どうやって? 頭の中にコースを進む自分を描き出す。
どこで? どのタイミングで? 飛び、跳ね、滑り込み、自分の操作で出来ること出来ないことを頭の中で整理して成功のイメージを形にしていく。
「よし、いくか」
その言葉とともにライトフットペダルを悠陽は今までの慎重さなどなかったように思いっきり踏み込んだ。
その踏み込みにトルーパーは自身の爆発力をようやく発揮できるとまるで嬉しいと叫ぶようにエンジンの音も高らかに唸りを上げさせ、力強い一歩一歩の踏み込みで大地を抉るようにして猛然と前へ前へと進んでいく。
風を切って後ろへ後ろへと流れ、だんだんと正面にだけが鮮明になっていくモニターの映像を悠陽は歯を食いしばって、シートに体を押し付けるGに耐えながら見つめタイミングを計る。
「一、二、三、四っ!」
一瞬ライトフットペダルから足を外し、両足で両方のフットペダルを再び一気に最後まで踏み込む。
その操作にトルーパーは走っていた勢いのまま両足を揃え、膝のクッションを使い屈み込むような体勢を取った。
背中のバックパックに一つだけついた大型の推進ノズルから高圧高温のガスが勢いよく噴射され、それを推進力としてトルーパーは伸び上がるように跳びあがる。
前から押し寄せていたGがこんどは押しつぶすかごとくに押しかかる中、迫るように向かってきたように見えていた白い障害物の壁が下へ下へと流れていく。
「まず一つ!」
壁を乗り越えたところでフットペダルを放し、バックパックの推進ノズルへの推進剤注入を取りやめると推進ノズルからガスの噴射がなくなり、減速していく。
放物線を描くトルーパーに着地のショックを和らげるような膝を柔らかく曲げた体勢を取らせ、着地と同時にさらに膝を曲げショックを吸収させる。
押しつぶされるかと思うようなGの後、体を浮き上げられるような内蔵を全部上に持ち上げられたような感覚が襲いくるのを悠陽は無視する。
縮こまったトルーパーを前へと伸び上がるように立ち上がらせた。
再び全速走行を始めるトルーパー。
悠陽は再び両足でフットペダルを踏み込み、推進ノズルへ火を入れる。
操縦レバーの操作で今度は上へと跳びあがるのではなく、地表スレスレを滑るように飛び始めた。
少しでも踏み込みすぎると上へと飛び上がりそうになるトルーパーを押さえ、悠陽はそのまま地表数十メートルを飛行する。
「NOE成功っと」
横目で順調に減っていく推進剤を示すメーターを見ながら、歯を食いしばりつつ悠陽は自分の操縦で匍匐飛行を続けるトルーパーに満足の笑みを浮かべた。
大気圏内仕様の高圧高温ガスを燃焼噴射するスラスターで機体を制御しつつ、第二障害物を避けようと大きく右へとトルーパーの進行方向を変えずにスライドさせるように移動させる。
「二つ!」
左のモニターに流れていく壁を見送り、悠陽は掴みあげるターゲットをコンソールパネルからロックオンサイトを呼び出し前面モニターに表示させ、その中心へとすえるとターゲットをロックオン機能で捉えた。
ターゲットをロックオンしたトルーパーは常にその対象を正面になるように自動で機体を制御し始める。
シートの後ろから手袋に様々なコードと支柱がついたモノを引っ張りだし、それを右手に悠陽は装着した。
この手袋と支柱は左右にあり、それぞれトルーパーの左右の手、腕に連動している。
これは扉を開けるためのスイッチを操作する等の細かい作業をするために採用されている機構で、ほぼ戦闘中で使うことはないだろうが、使いようもあるのかもしれないと悠陽は思っているし、Wikiなどでも使用方法を模索している人々がいるが、いまだマニピュレーターの強度の問題でいろいろと頓挫しているようだ。
悠陽が手袋をつけた右手を目の前に翳して握りこむと、トルーパーも同じように右手を頭部の前に翳して握りこむ。
匍匐飛行から着地すると悠陽はターゲットを回り込むようにトルーパーを進ませる。
「三つ!」
箱状のターゲットを柔らかく壊さないようにつまみ上げ、ロックオン機能を解除する。
回りこんでターゲットを摘み上げたことで障害物Cは正面にある。
トルーパーにしゃがみ歩きをするように操作しつつ、折角掴んだターゲットを落とさないように右手を胸に抱え込むような形に固定する。
「四つっと」
行き止まりに扉があり、その扉の横に小さな箱状の物を差し込むためのくぼみがある。
慎重に右手を操作して悠陽は、そのくぼみにターゲットを差し込んだ。
差し込まれたターゲットが吸い込まれるようにくぼみの中に入ると、扉は重厚な音を立てて横にスライドして開いていく。
「これでゴール!」
一分ほど時間をかけてゆっくりと扉が開ききったところで、悠陽はゆっくりとトルーパーをその開いた空間へと進ませる。
暗いところから明るいところへと入ったことによるモニターの明度調整で一瞬、全てのモニターが真っ白に染められるのを悠陽は目を細めて見つめる。
モニターが正常に戻り、周囲の景色を映し出したとき、そこは今までいた野外訓練施設ではなかった。
「トルーパー歩行訓練クエスト終了おめでとう。これより射撃訓練に入るぞ、いいな」
トルーパー操縦技術訓練担当教官の言葉が、巨大な人型の標的があちこちに配置された巨大な射撃場の様子に見入っていた悠陽の耳朶をうった。