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Galaxy War Online  作者: Chilly
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第三話  ~ ログイン ~

 真っ暗な空間に浮き出るように白く輝く扉の前に、白い肩に徽章の付いた半袖のワイシャツに白いパリッと糊のきいたスラックスというまるで海軍の制服のような格好をした優が立っている。

 すでに銀河大戦のゲームにログインし、キャラクターとなっているのだから悠陽と言うべきかもしれない。

 自分以外で唯一認識できるこの白く輝く扉を潜れば悠陽は銀河大戦の世界へと飛び込むことができる。


「とりあえずチュートリアルを少し進めてみるかな。姉貴もチュート終わらせたら連絡くれとか言ってたし」


 悠陽はとりあえず扉の前で体が不具合無く動くかどうか確かめるために柔軟体操をしつつ、これからの予定を頭の中で描いてみた。

 実は銀河大戦のチュートリアルクエストはかなりの数にのぼる。

 それはPvP、プレイヤー同士の戦争をメインテーマとしつつも、いまだ本格実装はしていないがもう一つの現実世界というものを実現しようと様々なことをできるようにしてあるため、その説明だけでもかなりの数になってしまうのだった。

 そのため一日二、三時間程度のライトユーザーでは全てのチュートリアルクエストをクリアするだけで一週間かかることもざらという事態になっていた。ただしこれは“全て”のチュートリアルクエストをクリアした場合であり、途中でチュートリアルクエストを放棄することもできれば必要になったときに再び受けることもできるため、最初に一気にチュートリアルクエストを全部行うプレイヤーは少ない。


「うぅんっと。特に違和感は無しと……よしっ、いっちょ頑張ってみますか」


 柔軟体操の最後に腕を伸びをするように上に伸ばす。

 腕を下ろす動作にも違和感はなかった。

 このアバターを動かすことに違和感を少しでも感じれば、一旦ログアウトして脳波などの感知調整を行わなくてはならない。これはこのままゲームを進めれば操作性の問題だけでなく、遠近感の喪失や平衡感覚の異常など健康上の問題も起こりうる可能性があるため、VRゲームを始める際にチェックすることを業界各社は勧めている。


 悠陽は光り輝く扉に手を翳す。

 扉はスッとその手に反応して、何の抵抗も無く横にスライドして開いた。

 とたんにざわざわと小さく雑踏が聞こえ、周囲の闇も瞬時に切り替わる。

 悠陽が立つその場所は一切の光もない闇からカウンターの数が二十以上ある銀行の待合室のような明るいオフィス空間へと続く小部屋に切り替わっていた。


「うわぁ……」


 長大なカウンターに大劇場の客席もかくやと言う一度に数百人は座れる待合室の破綻のない作りこみと、すでにその場でカウンターの順番待ちをしているプレイヤーだろう百数十人の人数に圧倒されてしまった。

 今までもゲームとしてVRMMOを何本もやってきていた悠陽ではあったが、椅子一つ一つにまで細かく作りこみを行うようなグラフィック重視のゲームを今までしてこなかった。

 グラフィックは二の次三の次でアクション性の高いものを好んでやってきていた。

 故にグラフィックが細かくここまで破綻無く綺麗なものは始めてで、圧倒されてしまった。

 さらに初心者用の専用ルームのあるゲームではその部分はほぼソロのオフラインゲームに近いものばかりやっていたため、初心者専用ルームイコールプレイヤーは一人で後はNPCだとばかり思っていたのだ。


「少年。そこで突っ立ってたってしょうがいないぞ」


 悠陽の後ろから現れた背が高く横幅もそれなりに大きい男性が、悠陽を避けて白い待ち人数を知らせる発券機から自分の順番を知らせる紙のような物を取り、待合室の椅子のほうへ歩いていく。


「自動登録じゃないんだ……」


 男性の行動にログインの順番に自動的に処理されると思っていた悠陽は内心ため息を吐いた。

 男性の後からも頻繁にプレイヤーがこの初心者専用ルームという名の作成キャラが最初にくる受付室に入っては券売機で順番を登録して待合室の方へと歩いていっている。

 とりあえず順番を登録しないことには話は進まないと、悠陽も券売機へと足を向ける。

 券売機の画面のデジタル表示には上に現在の発券番号、下に次の呼び出し番号が表示されていた。

 上の番号は三五八、下の番号は二二九。

 差は一二九人。

 処理速度がどれほどのものかわからないけれども、結構待つかもしれないとため息を再び吐いてしまう。

 けれどもこの発券機の登録をしなければ自分の順番は永久にやってこないと、悠陽は発券機から三五八と数字の書かれた紙を取り待合室に足を向けた。


「二三一番のお客様、お待たせしました。一一番のカウンターへお越しください」

「二三二番のお客様、お待たせしました。二三番のカウンターへお越しください」


 待合室へと続く透明なアクリル壁のような自動ドアを潜った途端に聞こえる“ポン”という軽い警告音と合成音声による誘導案内、待合室にいるプレイヤーたちの話し声による雑踏が圧倒的な圧力として悠陽にぶつかる。

 その圧力はある意味懐かしさを悠陽に感じさせた。

 かつて遊んでいたファンタジー系のMMORPGの賑やかなプレイヤーたちの市場や臨時PTを集う広場の喧騒を思い出させた。


「やっぱオンゲはこうじゃなくちゃなぁ。過疎ゲーの寂しさはすごいからな、初心者ルームがこれならタウンに行っても安心かな」


 悠陽がそう独り言を呟きつつ椅子へと歩いている間にも、次々とアナウンスによってプレイヤーはカウンターへと呼び出され別の空間へと移動させられているのかその場で消えていく。

 現実ではありえない光景だけれどもゲームの世界ではよく目撃できる。

 あるイベントのためにあるキャラクターと会話しなくてはいけない。

 しかしそのキャラはワールドに一人しかいない。

 となればそのキャラに数多くのプレイヤーが話しかけることになる。

 話しかけられたキャラは話しかけたプレイヤーと話そうとするがそれが数が多いと処理落ちしてフリーズしてしまう可能性があるし、しないとしても一人のキャラが数十人、多ければ数百人のプレイヤーを同時に相手にする光景は滑稽を通り越して不気味としか映らない。

 それを防ぐためにそれぞれ専用の部屋を用意してプレイヤーと一対一に、もしくはプレイヤーパーティとだけ会えるようにプログラムを調整するのである。

 だからイベントキャラが街中にいた場合に、イベントキャラに話しかけたそばから専用マップに移動するために消えていくプレイヤーがいろいろなMMORPGで散見できる。

 そういった意味でいえばカウンターで専用ルームに移動させるということは自然ではある。


「でも受付してすぐ飛ばすなら、この部屋いらなくね……」


 それなら最初から専用ルームから始めて、タウンから共有マップに入ったほうが効率がいいのではないかと悠陽ならずとも思うことだろう。

 折角ゲームをし始めたのだから待ち時間など無いほうが良いに決まっている。

 α、βテスター達からもそのことについてやはり要望というクレームは出たのだが、開発及びに運営会社は頑としてこの待合室を削除することは無かった。

 さらに何故削除しないかも公式発表としてコメントをださなかった。

 数多くのテスターの要望に対しての答えとして決して正解な態度ではないが、ある社員の内部告発に似た公式開発ブログ上のコメントにテスターたちは待合室削除を諦めた。

 ブログ曰く“凝りすぎて金掛けたから、要望に納得しても消せないというか消したくないのよね”とあまりにも正直なコメントだったからだ。

 消せないではなく消したくない。

 実に開発陣の正直な気持ち、そして公式開発ブログに書いた開発者の勇気に皆敬意を表した形だった。

 故にこの待合室はテスターたちにとってこのゲームを作った開発スタッフのゲームへの愛情と間違った方向への情熱を感じられるある意味有名スポットになったのである。

 しかし開発陣も待ち時間があることはゲームとしても良いこととは考えていなかったのだろう、三十近いカウンターの数に二、三質問するだけで次の専用ルームへとスムーズに移動させ一人処理する時間を三十秒から一分とするようにしたことで一人当たりの待ち時間を極力少なくなるよう努力していた。

 それでも数百人がこの待合室に入ってしまえばそれなりの時間がかかるが、だんだんとそれもこのゲームの味とプレイヤーたちはその場にいるプレイヤーで待ち時間を有効利用しはじめだした。


「よっ、キョロキョロしてたけど初心者さんかい?」


 そういって悠陽に話しかけてきたのは丸顔に小さな丸眼鏡を鼻の上に乗せた背が低くずんぐりとした体型の男性プレイヤーだった。


「えぇ、今日から始めました」

「ほう……。セカンドかサードかと思ったけど、他のゲーム経験者?」

「いくつかやってましたね。ファンタジー系メインでしたけど」

「なるほどなぁ。まるっきりの初心者とアバターの動かし方が違ったし、やっぱりVRゲーの経験者か」


 当たり障りの無い程度に悠陽は男性プレイヤーの質問に答える。

 その答えに重ねて男性プレイヤーがさらに質問を重ね、悠陽も答える。

 こういった知らないもの同士の雑談が、行き過ぎなければオンラインゲームの醍醐味の一つであろう。


「ファンタジー系か……ラグナロックファンタジーとかオレもやってたな。大分前だけど」

「俺もそれはやってましたよ。三年前にクルセサポプリでタンクしてました」

「なんだと! ならどこかで一緒に狩りしたかもなぁ。うん、なつかしい」

「職なんだったんです?」

「オレはウィズサポアルケミで、ヌーカーとホムンクルスでサポートやってたな」


 過去やっていたゲームで一緒になっていたかもという話題はこういったゲームでは、この知らないもの同士を仲良くさせる近道かもしれない。

 時期はずれるかもしれないけれど同じものを経験し、共通の話題があるということは話をする上でとても重要だろう。


「そうだ! なっ、えぇと……」

「あ、悠陽です」

「悠陽ね。オレはえぇとこのキャラはレオネストロスだけど、勧誘用でな。メインはライルハルトってんだけどさ、うちに師団にこないか? あのゲームの経験者も結構いるし、これはPT必須だしさ」


 この銀河大戦は予定されているアップデートが進めばかなり違ってくるが、現在ソロ、一人ではやれることが少ない。

 キャプテンだけで宇宙に飛び出ることはできるが、パイロットが居なければ自衛もままならない。

 パイロットはキャプテンが居なければ宇宙に出ることもできないし、メカニックが居なければトルーパーは十全な性能を発揮することができない。

 ドライバーが居なければ航海は厳しく、オペレーターが居なければパイロット達に十分な情報を伝達することが難しい。

 現在メインのゲームコンテンツが多少の戦艦やトルーパーの部品製造や改造があるとはいえ、PvPメインの宇宙戦争だけという状況では、最低五人一チームで行動するのが望ましい。

 だからこそこの待合室での人材確保と知らない人たちとの交流が大事になってくる。

 初心者ルームを卒業しタウンに移ってからでも遅くは決してないわけだが、すこしでも早いほうがより良い人材を確保できるわけでもある。

 そして銀河大戦には他のゲームのギルドやクランといったプレイヤー同士の集まりの最大単位は師団と呼ばれている。この師団にしても常に活動状態にするためには複数のチームを作ることができる状態を維持し、なおかつログアウトしている人員がいたとしてもログインしているプレイヤーが常に安定して遊べる状態を維持するために、プレイヤーを獲得するべく奔走する義務が師団幹部員には付きまとう。

 そのためこの待合室で青田買いのようなことをする師団も出てきていた。

 これも粘着行為などといった行き過ぎなければ問題視されることもなく、積極的に交流を図ろうとする行為と公式からも本音は削除したくない待合室積極利用行為として支持されている。


「あらら。すみません、ライルハルトさん。リアルで入る師団決めてきてるんですよ」

「あちゃあ、青田買い失敗か。ま、決めてきてるんなら仕方ないな。でも困ったことあったらα任務部隊(タスクフォースα)に来てくれよ、同じゲームをしてた誼だ、力になるぜ」

「ありがとうございます。何かあったら寄らせてもらいます」

「おう。将軍(ジェネラル)のとこって言えば、古参テスターなら知ってるはずだから何も無くても来てくれよ。RFの話でもしようぜ」


 男性プレイヤー、ライルハルトは悠陽にそう別れを告げると、再び青田買いをするべく新たなプレイヤーを探して離れていった。


「三五八番の番号札のお客様、お待たせしました。二番のカウンターへお越しください」


 ライルハルトが去って少し後、“ポン”という警告音の後に悠陽の順番を告げる合成音声のアナウンスが流れた。

 ライルハルトとの雑談が良い具合に待ち時間を潰すことになったようだった。

 アナウンス通りに二番のカウンターの前に行き、番号札をカウンターの向こう側に座る女性型のNPC、銀河大戦では全てのNPC、運営スタッフが動かすキャラをキャストと呼んでいるためキャストと呼んだほうがいいだろう、キャストに渡した。

 腰まであるだろう長い金髪の髪を後ろに流した青い釣り目のキャストはそのきつそうな外観とうってかわり、番号札を確かめると人懐っこい笑顔を浮かべた。


「悠陽さん、ようこそ、銀河大戦の世界に」


 悠陽の目を見てニコリと自然な笑顔を浮かべ、鈴が鳴るような声で悠陽へ歓迎の言葉を掛けてくる。

 他のゲームでも思うことであるが、女性NPCの表情の作りこみは各社命でも掛けているのか、力のいれどころが違うだろでも客寄せ、主に男性客へのアピールという点では間違っていないのかといつも悠陽は考えてしまう。

 それほどまでにこの受付嬢の表情の動きに破綻の字は無く、自然に目から動き口元が動くという作り笑いではない自然な笑いを演出していた。


「どうしましたか? 何かわからないところでもございましたか?」

「いえ、なんでもないです。よろしくお願いします」


 しばし自分の考えに入って黙ったままだった悠陽に小首を傾げて疑問を投げかけてくるしぐさなど、プログラムで動いているとわかっていても中に人が入っていて動かしているのではと疑問を持ってしまう。

 VRゲームが普及するようになって大きく成長を遂げたのは、このNPCたちを動かすAIの技術だろう。

 VRゲーム黎明期は本当にコンピュータコンピュータしたほんとうにこれぞAIというようなものであったが、今では人と間違うような反応を見せるAIが普及している。

 プレイヤーの中にはその人と見紛うようなAIの反応に勘違いを起こし、AIを現実の人間として扱い求婚するような深みにはまってしまった者達もいるとニュースでも取りざたされている。もちろんAI達は自分が人間とは違うことをきちんと認識しており、そういったプレイヤーに対しては人形めいた対応になるよう対応を取っているのだが、思い込みの激しい人間というものにはそういった行為はマイナスに作用することさえあった。

 NPCと結ばれるためにと起こされた数々の事件が世間を騒がせたことで、一時はVRゲームのAIは規制され再び昔の人形めいた無機質なものになりかけたのだが、企業側プレイヤー側が反対運動に加え自助努力を重ねた結果、規制を免れたという経緯があった。


「よろしくお願いします、悠陽さん。では早速ですけれど確認させていただきますね」


 そのAIの歴史を思えば、この屈託のない笑顔と人間めいた対応にも感慨深いものがでてくる。


「悠陽さんはパイロット登録ですね。チュートリアルはどうなさいますか?」

「やります」


 受付嬢の質問に悠陽は即答するも、彼女は困ったように苦笑を浮かべる。


「申し訳ありません。最近経験者が多かったもので説明不足でした。チュートリアルなのですが今後実装予定のものも含めたものなど複数パターンが用意されておりますので、そのどれかと……」


 そう言って彼女は頭を下げた。

 こういうファジーな対応と間違いが起こることが、AIの進化を知らしめると同時に勘違いする人間を作る要因だろうと悠陽は思う。 


「こちらこそすみません。丸っきりの初心者なんで、そのパターン全部、一応表示してもらえますか?」

「畏まりました。こちらのモニターに表示させていただきますね」


 悠陽の頼みに答えて受付嬢は手元のパネルを操作すると、彼女の傍のモニターを悠陽に向けた。


「えぇ、お願いします」


 彼女は悠陽の返事に頷くとモニターにチュートリアルのパターンを項目表示させる。

 全てのチュートリアルを受けるコースから教官が触りだけ講義を行う軽いものまでずらりと並んでいる。

 こうも並んでいると選ぶのも考えてしまう。

 悠陽はモニターを前に考え込んでしまった。

 

「今全部を受けなくとも後日受けなおすこともできますので、あまり気にせずに選んでください」


 彼女の言うとおり、今全てを受けずとも後日受けなおせるのは悠陽も知っている。

 それでもやれることをやったほうがとも考えてしまうのは仕方ないことだと思う。

 悠陽は現在卒業式まで学校へ出席する必要の無い状態であり、全チュートリアルクエストを行うとかかるであろう時間、およそ一四時間から二一時間を一日二日で昇華できる状態にあるからだ。

 もちろんこの目安時間がスムーズにチュートリアルをクリアした場合の時間であり、手間取ればこの時間よりもかかることになる。


「悠陽さんの当社への会員登録情報によりますと、VRゲーム経験者のようですので全チュートリアル中VRゲーム自体へのチュートリアルは必要ないと思いますので、それを飛ばしたものからというのはいかがでしょうか?」


 あまりにも悩む悠陽を見て、受付嬢は苦笑をさらに深くして提案を出した。

 VRゲームに慣れるためのチュートリアルというものはほぼ各ゲーム共通に近いため、それぞれのゲームで受けるのも二度手間三度手間となりやすい。しかし本当にVRゲームの初心者が来る可能性もあるため、どのゲームでも外せないチュートリアルと言えるため省略することはできない。

 そのためどのゲームでもチュートリアルクエストはこのVRゲーム初心者のためのチュートリアルから始まるものとゲームそのもののチュートリアルから始まるものに分けられている。

 今回悠陽は全てのチュートリアル表示を指示した為、そのVRゲーム初心者用のチュートリアルまでも含めてモニターに表示され、それが上位に来るようソートされていたため必要の無いものも受けなければいけないのかと悠陽は悩んでいたのである。


「へっ? これVR初心者用のもはいってたの?」

「はい、申し訳ありません。パターン全てとおっしゃっていましたので……」


 予想外の事を言われたと受付嬢を目を見開いて見つめる悠陽に、彼女は本当に申し訳無さそうに眉根を寄せて謝罪した。

 しかしこれは悠陽の初歩的なミスと言える。

 人間のような行動を見せるとはいえ受付嬢は正真正銘AIで動いているキャストであり、プレイヤーの命令を忠実に実行しただけだからだ。

 とりあえず言えることはお互いに言葉が足りなかっただけなのだが、ある意味よく起こりうる光景かもしれない。


「あぁ……すみません。じゃあ、そのVR初心者用の抜かした全部受けるやつでおねがいします」


 一瞬素の自分で受付嬢に言葉を掛けてしまったことと自分のミスに気がついて悠陽はばつの悪い表情を浮かべた。

 そして受付嬢の提案を呑んで、このゲーム自体のチュートリアルを全て受けることにする。


「了解しました。チュートリアルパターン1-0、全チュートリアル履行希望ですね」


 気まずい雰囲気など無かったかのごとく受付嬢は笑顔で悠陽の言葉に頷き、手元のコンソールでなにやら操作を始める。

 カタカタとキーボードで文字を打ち込み、悠陽のチュートリアル希望情報を記録していく。


「パターン1-0への参加希望提出終了しました。これで悠陽さんのチュートリアルクエストが登録されました。一応のご説明としてこの参加希望は途中から破棄することも、破棄または終了したとしても最初からでも途中からでも受講しなおすことが可能です」


 コンソールとキーボードから視線を打ち込みが終わった途端に悠陽へと受付嬢は移し、笑顔を浮かべたまま悠陽へとチュートリアルクエストの登録完了と基本的な情報を開示した。


「それからチュートリアルクエスト最中でもログアウトは可能ですし、その後ログインしていただければクエストはログアウトした時の続きからとなります。なにか質問等ございますか?」


 カウンターの前で立っている悠陽の顔を椅子に座ったまま下から覗き込むように見上げ、小首を傾げて尋ねてくる受付嬢の様子に悠陽は“絶対勘違いさせるためにプログラム組んでるよなぁ”と思わずにはいられない。


「とりあえずは無いですね」


 けれども言葉ではそんなことをおくびにも出さずに受付嬢に答えた。


「了解しました。それでは第一五二講義室へのポータルを開きますね。悠陽さん、貴君の健闘と奮戦を心よりお祈りします。当ゲーム、銀河大戦を楽しんでください」


 受付嬢はそう言うと座っていた椅子から立ち上がり、笑顔から一転真剣な表情で背筋を伸ばす。

 右手をあげ綺麗に指先をそろえた手のひらを左下方へと向け、人差し指を右目の少し上に持っていく。宇宙では艦を使うからだろう右肘上腕部を右斜め前に出し、肘を張らない海軍式の敬礼を形よく決めている。


「ありがとう、頑張ります」


 敬礼をされては悠陽も男の子ということだろう、慣れない不恰好な形ではあったが肘を横に張り出した陸軍式の敬礼を返し、激励の言葉に答えた。


「ではがんばって下さいね」


 お互いに敬礼をといたことで、受付嬢は釣り目がちな目のために少々キツイ印象になる真剣な表情から笑顔に戻し、再度激励の言葉を送った。

 その瞬間、悠陽はその体を一瞬で第一五二講義室へと移していた。

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