第二話 ~ キャラ作成 ~
“とりあえずチュートリアルを明日までに終わらせて、キャラ名を後でメール頂戴”と正午を過ぎたほぼ昼食といえる朝食を兼ねたブランチのラーメンを完食した瞳は優に告げると、もう一眠りするつもりなのか欠伸と伸びをしながら一人暮らしの家へと帰っていった。
一応瞳を見送り昼食の後片付けを済ませてから、優は自室のパソコンの電源スイッチを銀河大戦の自分のキャラを作るために入れる。
「早速作ってみますかね」
中古のため少しうるさい音を立てて最新のものよりも時間をかけて起動したパソコンで銀河大戦の公式ホームページを開いた。
銀河大戦のキャラ作成はオンラインゲームとしては非常に珍しい形態をとっている。
通常ではゲームを起動し、ゲームの中に入って目の前に浮かぶ人形めいたアバターにキャラの肉付けをしていくことでキャラを作成していく。しかし銀河大戦ではゲームを起動することなく、公式ホームページにログインしてそこから行けるキャラ作成ページで作成してゲームに反映させる。
銀河対戦の特徴であるグラフィックの作りこみにより様々なキャラクターを作成できることに止まらず、ゲーム内の様々な服に加え外部の服飾データを入力することで、ゲーム外の服装もそのアバターにキャラ作成画面だけとはいえ着せることができる仕様にしてある。
そのため銀河大戦運営会社は公式ホームページ内に無料公開して、キャラ作成においてのアバター作成部分を客寄せとして用いている。実際ゲーム参加者以外の人間にも自分に似合う服装探しの便利ツールとして使用され、銀河大戦というゲームの知名度アップに貢献していた。
「まずはお決まりのキャラネーム作成からか……」
キャラ作成ページの作成ツールをクリックすると、自動でプログラムが走り出し少しのロード時間が発生した。それが終わると画面にワイヤーフレームの簡素な人形が表示され、ポップアップウィンドウに“キャラクターネームを入力してください”と入力画面が現れる。
優は過去自分がやってきたゲームの持ちキャラの名前を入力してみるも、見事に全部“すでに使われている名前です”と弾かれてしまった。
「全滅かぁ……考えんのメンドイんだよなぁ。でも下手にふざけた名前を付けたらどうなるか……」
下手なふざけた名前をつけた場合に起こりうる最悪の事態を想像してみる。
確実に物理的一方的な話し合いにてキャラ削除及び作り直しが待っているだけでなく、名前によってはそれをネタにいつまでもからかわれる。
そんなことは優にとってあまりうれしい事態ではないし、どうせなら極力起こって欲しくはない避けたい事態である。
今まで使い弾かれてきた名前の前後に゜なりなんなりを入れれば別の名前と判断されると実行してみるものの、今度は記号の使用不可で弾かれる。
「うがぁ、メンドクセぇ……もう適当に本の中の人名からつけるかなぁ」
すでに二十以上の名前が弾かれ、キャラ名を考え始めて三十分以上が経っている。そろそろ名前を考えることが鬱陶しくなってきていた。
呟いた優の視線の先は部屋の隅の本棚。
漫画本にライトノベルの小説達、百科事典に読書感想文用の著名作の数々。
少し考えて、自力で名前を考えることを諦める。
上から順に“どれにしようかな……”と一冊一冊目でおって数えていく。
「……う、と、お、り、な、の、な、の、なっと」
選んだ一冊を本棚から取り出し、パラパラとページをめくる。
絶望的な状況でありながら諦めることなく未来のために戦い続けるまだ未完の戦争モノのライトノベルであった。
「……これでいっか……」
登場人物を順に入力して四人目の悠陽という名前が使用可能だったようで、ようやく小一時間かかったキャラ名が決まって次の段階へと移れる。
作成画面の左上のキャラクターの名前のところに悠陽と表示され、名前入力ウィンドウが閉じた。
少しのロード時間が経過した後、今度はクラス選択ウィンドウが現れ五つのクラスが表示されるが、優は迷うことなくパイロットを選択決定した。
名前の下のクラス表示にパイロットと表記されクラス選択ウィンドウが閉じ、次の段階であるステータス入力ウィンドウが表示される。
銀河大戦のキャラステータスは器用度、敏捷度、筋力、生命力、知力、精神力の六種類があり、クラスで決まる固定値に十点分のフリーポイントを自由に割り振ることで決まる。パイロットは命中修正値に関係が深い器用度、回避修正値に関係が深い敏捷度、対衝撃、対G、さらにはヒットポイントに関係が深い生命力が高く、修理回復値や生産関係に関係が深い筋力、修理回復値や索敵に関係が深い知力、索敵に交渉、特殊スキル発動のためのマナポイントに関係が深い精神力が低く固定値は設定されている。
これにフリーポイントで割り振る十点で長所を強化する、短所を補強するなどで他との差別化、個性を出していく。長所一つに、例えば命中に関係深い器用度に十点を割り振りスナイパーを目指してもよし、器用度と敏捷度に割り振り回避と命中を確保して前線で無双できるように目指してもよし、精神力に十点割り振り特殊スキルを使用し続けられるように目指してもよし、隙のないステータスにしバランスよく戦えるようにしてもよしとキャラを様々なタイプにすることができる。
優は命中や回避はレベルアップとスキルポイントによるスキルの獲得や自分自身が身につけるプレイヤースキルでどうにか対応することを決め、長所を強化するのではなく弱点を補強することを選んだ。
優自身の今までのMMORPG経験で自分が生産素材を地道に集めることが苦痛であるため生産スキルと相性が悪いと考えているので、生産に多く関係する筋力を捨て索敵にマナポイント確保のために知力と精神力に五ポイントずつ割り振った。
これは優がWiki等で集めた情報から初期作成時点のパイロット量産型を採用したといえる。
スキル補正値が回避や命中は高いが、索敵は関係ステータスが二つあることもあってステータス補正値がスキル補正値よりも若干高くなっていることが関係している。
レベルアップで振ることができるステータス増加値でその分をどうとでもできるとはいえ、まず敵を見つけることを優先することは戦闘をする上で大事な能力であることは間違いない。
セカンドキャラやサードキャラとして特化型を作る人間もいるが、初期キャラの場合は無難に量産型ステータスにしたほうがゲームを円滑に初期は進めることができる。レベルが上がりできることが増えるようになるにつれ、その能力に不満が出てくるかもしれないがお金を貯めるにしろゲームに慣れるにしろ量産型のほうがファーストキャラでは特化型より優れているからだ。
様々な人間が試行錯誤の上、現時点の仕様で一番有効としたのが量産型といわれるものだから当たり前といえるかもしれない。
「ステも完成ッと。とりあえずこれでアバターデータを取り込んでキャラ作は終了かな?」
ステータス入力ウィンドウの決定ボタンをクリックすると、今までと同じように名前やクラスの下にステータスが表示されウィンドウが閉じる。
次に現れたのは初期スキル選択ウィンドウで、ずらりと最初に選べるスキルの名前が並んでいた。
この中から四つのスキルを選択することでキャラデータの作成は終了するのだが、優はこのスキル選択をゲーム内のチュートリアル中に選択するものと勘違いしていた。
「あれ? まだ決めるのあったのかよ。まぁスキルなら取るの決めてるからいいけどさ」
そういうと優は並んでいるスキルから自分の理想のキャラを作るために情報を集めて考え抜いた初期スキルを選んだというよりも、量産型スキル構成で行くつもりのようでスイスイと“命中”“回避”“索敵”“小銃射撃”の四つを選択した。
“命中”スキルはその名の通り、命中率を上げるためのスキルであるが、実は細かく分かれているものも存在する。
これは狙撃などの専門職や得意な武器を作ることでバリエーションを増やす目的で分けられているのだけれども、優の選んだ“命中”スキルは効果はそれら専門スキルにかなり劣るが全ての行動、これはトルーパーでの射撃や近接攻撃の他にキャラ自体での個人戦闘による攻撃の命中やボールをゴールに入れるといった行為の成功率にも影響を与える。そしてこのスキルをある程度伸ばさなければそれぞれの専門スキルを伸ばすことができない為、基本スキルの一つとされていた。
“回避”スキルも“命中”スキルと同様で、様々な派生スキルが存在する。
近接回避、射撃回避といった戦闘に関するものから衝撃回避や衝撃耐性といったGに関わるものなど回避行動ではなくとも耐性等にも少しながら関わっているため、こちらは直接戦闘と関係ないクラスの人間も、例えば格納庫にてトルーパーの整備や弾薬作成等をするメカニックや艦の航行に関係のないオペレーターでも衝撃耐性を獲得するためにほぼ全てのプレイヤーが必須スキルとして高いレベルでの習得をWkiなどでも推奨していた。
それから“索敵”スキルも上記二つと同様でこの三つで三大基本スキルと呼称されている。
“索敵”スキルは言うまでも無く敵を発見するのに必要なだけでなく、スキルの補正により視界に判りやすく敵のマーカーが表示される。これはトルーパーの索敵機能というわけでなく、視界そのものに表示されるため、戦闘中だけでなくストーカー発見機能としても使われている。
ストーカー疑惑のある人物を指定する必要があるが、この機能は女性プレイヤーから支持されオープンベータ時から実装されており、あまりにしつこい場合はこのデータを基にGMや運営はストーカープレイヤーに最悪はアカウント削除といった罰則を与えることができた。
こういったゲーム自体の要素と別の事でも重要なスキルとされ、三大基本スキルのなかでも一番重要とされている。
四つ選択できるスキルのうちこの三つはパイロットには鉄板スキルで、選ばなければほぼ何もできない状態になるためパイロットがこの三つを選んだとしても量産型とは言えない。
優の選んだスキル構成が量産型と言われる最大の要因が最後の武器によるダメージ増加値を決定する“小銃射撃”スキルと言えた。
何故なら一番武装の種類も多く、この“小銃射撃”スキルからの派生で狙撃兵に必要な一撃必殺なダメージを期待できる“ライフル射撃”スキルに、ダメージが大きくなることで相手に避けるという行動を強いる弾幕形成に重宝する“機関銃射撃”スキルといった射撃系スキルでよく用いられるスキルの存在があるからだ。
Wikiにも武器に迷ったらまずは小銃と書かれている。
「完全に量産型パイロットだけどいいかな。奇をてらっても初期キャラだといいことないしな」
初期キャラでネタキャラを作る勇気はそれなりにいる。
だれでも最初は楽にある程度の強さを欲しがるし、そのほうがゲームを楽しめる部分が大きい。
初期からネタに走った場合の苦労はよほどそのネタが好きか、自身が苦労がとても好物なドMかなど非常に大きな愛情が必要であるだろう。
その点で優はノーマルであるため量産型キャラをまず作り、ネタキャラはゲームにも慣れある程度ゲーム内資産に余裕ができたときに作ればいいと考えていた。
「さてと、これで後はアバターデータだけだよな? コーヒーでも淹れてくッかな」
スキル選択ウィンドウの決定ボタンをクリックして決定すると、アバターデータ作成するかそれとも指定病院の立体投影写真画像データを使用するかの選択が出たため、優は立体投影写真画像データを選択した。
画像データの保管場所を指定して読み込ませると、圧縮してあるとはいえかなりの容量を持つため読み込みと反映に数十分の暇な時間ができる。その時間を使い優はコーヒーを入れるべく、部屋を出てリビングへと下りていった。
何回か読み返し、チェックをしておりますが誤字脱字等がありましたら報告よろしくお願いします。
こういったことは最初に書くべきでしたけれど、後書きを書き忘れていました。