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Galaxy War Online  作者: Chilly
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第二五話 ~ 遭遇戦 ~

 早朝五時に悠陽がログインした時には、すでに出港準備を終えて後はログアウトしていた悠陽と阿求亜がログインしてくるのを待っていた状態であった。そして悠陽に遅れること五分、阿求亜がログインしてきたことで慌ただしくVG研は私設埠頭を出港する。

 私設埠頭から出港してすぐのタウン宙域から最前線エリアへは、エリア移動で一瞬で移動することが出来るが、ミッション参加する艦艇が集合する宙域までは、各自がそれぞれ開始時刻までに周辺を掃討しながら、もしくは極力戦闘を避けて最前線を潜り抜けねばならず、開始時間までに二時間あるとは言っても不測の事態が起これば、時間などあってないようなものである。

 だからこそ白亜の戦艦“スレイプニル”は、先を急ぐように早朝のためプレイヤーの姿が少ない漆黒の宇宙空間を、船体後方に集約されている比推力可変型プラズマ推進機にある一つ目のヘリコン・アンテナにより電離され、低温のプラズマと化した推進剤にRF放電によって高いエネルギーを与えることで発生する電磁気的推力の力を持って、切り裂くように高速で航行していく。


「Takuさん、正面三時上方五度にある小惑星帯に感有り」


 周辺地域を移したマップ画像と戦艦に搭載されたレーダーに映る情報を、準備を手伝えなかった代わりに頑張ろうと真剣な表情で読み取っていた阿求亜が、自分の後方にあるキャプテンシートに座るTakuに、モニターから目を離すことなく報告をあげる。


「あの小惑星帯まで約五分といったところかな」


 阿求亜の報告を補足するようにアインからキャラを代えたドライが、スレイプニルの航行速度と距離から掛かる時間を割り出して、Takuに報告をあげた。


「了解。敵性艦の数をしっかり割り出しておいてくれ」


 阿求亜とドライの報告を受けたTakuは、阿求亜により詳しい情報の収集と分析を命じながら手元のコンソールを弄って、スレイプニルの格納庫エリアにあるパイロット控え室に艦内通信を開く。


「Rain、さっそくの出番だ、全機準備してくれ」

「了解。詳細データは阿求亜ちゃんから?」

「今詳細を調べている。接触まで五分弱、わかり次第知らせる」


 通信に出たRainに簡潔に現在判っている接触までの時間だけを教えて出撃を命じ、Takuは艦内通信を閉じる。同時にコンソールからスレイプニルの火器管制システムを呼び出し、ミサイル発射管を開き両舷側に収納されている主砲を展開させた。


「敵性艦は単独のようです。微量ながら放射電磁波など特定情報が取れましたので、解析により艦種はトルーパー少数搭載の中型砲艦と思われます。ただ特定情報が少ないため、私の方でも周波数をFFTなどを使って計算してみましたけど、確定情報とは言えませんね」


 スキルを用いて小惑星帯にいる敵性艦の情報を分析していた阿求亜が、その結果をTakuにスキル以外にも自分でオペレーター用コンソールに搭載された周波数解析プログラムを使った結果も合わせて報告する。


「でも小惑星帯に隠れて単独でいるということは、高火力砲撃で奇襲、無力化を狙うでしょうからそう外れているとは思えませんけど」


 スキルと計算では情報不足から不確定で信頼性が低いと出た情報だけれども、状況から運用方法とプレイヤーの思考経路を考えれば信頼性は高いと付け加えることも忘れない。


「となるともう相手にこっちは捕捉されていると思うかな?」

「こちらはコングさんがかなり精度のいいモノを用意してくれてますし、私のステ、スキル振りが索敵関係メインですからこちらのほうが上だと思いたいですけど」


 次々と表示される情報を整理、解析しながら阿求亜は、報告を受けたTakuの疑問に答える。

 コング自身の作成スキルはトルーパーに全般に集約されているため、この戦艦“スレイプニル”は彼女の知り合いであるメカニックたちが集まって作成されたが、そのときに一番力を入れた部分が索敵関係の部分であり、スレイプニルよりも上位の艦種と比べても劣るどころか凌駕している。

 さらに阿求亜のオペレーターとしての能力は砲撃能力を完全に捨て、索敵能力をメインに管制能力を補助的に上げているため、スレイプニルの索敵能力はかなりの広範囲に及ぶ。


「まぁ気がついていても、そうそうあの有利な場所は捨てないだろ。射程距離内に収めても攻撃が来ない、トルーパーを出さなければ気がついていないと思えばいいじゃないか」


 比推力可変型プラズマ推進機の一つ目のヘリコン・アンテナに送る推進剤を減らし、速度の増加を抑えると同時に船体前面に設けられた減速用の比推力可変型プラズマ推進機を動かすことで、最大船速から徐々に減速をさせていたドライが、二人のやり取りに入り自分の楽観的な予想を口に出す。


「たしかにな。一応中型砲艦の標準より二割増しくらいの予想索敵範囲で計算してくれ」

「了解です。……予想索敵範囲までおよそ六〇秒。有効射程距離まで一二〇秒」


 ドライの楽観的予想を受け入れたTakuは、最悪の状況を考えるのは一先ず脇に置いておくことに決めて、ある程度熟練している普通のプレイヤー相手として行動方針を決定していく。


「有効射程距離に入ったら、主砲を秒間一〇で三回。その後トルーパーを全機射出。敵性艦をトルーパーメインで撃破する」


 Takuの方針に従い、阿求亜はRainに今回の出撃に関する情報と方針を伝え、トルーパー各機に状況をカウントダウン混みで伝えていく。Takuも火器管制システムをレーダーなどの索敵情報にリンクさせつつ、照準を敵性艦に向けて合わせていった。


「敵予想索敵範囲到達まで約三〇秒。有効射程距離まで約九〇秒」


 阿求亜の仮に決めた敵性艦の予想索敵範囲までの距離から割り出した時間と、有効射程距離に入るまでの時間を報告する声が艦橋に響く。


「主砲、砲身への電流供給準備安定へ。弾体供給。プラズマ発生用伝道体供給。各隔壁ロック解除」


 Takuは主砲である電磁投射砲のチェック項目を、口に出して一つ一つしっかり確認していく。

 その間にも阿求亜のカウントダウンを継続、敵性艦の挙動を見逃すまいとレーダーとモニターから目を離さない。


「五、四、三、二、一……予想索敵範囲内に入りました。敵艦反応まだありません」


 阿求亜の声に多少の失望と大きな歓喜が篭る。

 この小惑星帯に隠れていた敵性艦のレベルは予想よりもかなり低いようだとTakuは、阿求亜の報告に安堵の吐息を漏らした。


「ミッションの景気付けと悠陽の対人初参戦の相手としては丁度良かったかもな」


 スレイプニルの舵を操り、小惑星帯に向かって正対するようにしながらドライは、相手のレベルの低さについての感想を述べる。


「そういえばクエストやってたから初陣という気はしてなかったけど、優君は銀河大戦で対人、初か」


 一旦確認の終わった火器管制のチェック項目を見直していたTakuは、そのポツリとこぼれたドライの感想にまだVG研に入って二日目、銀河大戦を始めて三日目の悠陽のことを考える。防衛クエストで見た動きからそこそこ戦えるとは思うが、対人戦を意識して硬くならなければとも思う。


「ま、その辺は姐御がうまくやるでしょ」

「そう願いたいけどね。とりあえずは優君なしでも大丈夫そうだし、これも経験だろうね」


 横目でTakuの不安が浮かんだ表情を盗み見たのか、ドライが悠陽のことはRainに任せればと大丈夫と、口の端を持ち上げて軽く笑いながら太鼓判を押すが、TakuはRainの悠陽へ向けたある意味厳しくてある意味甘い態度からドライほど期待することが出来ず、苦笑を浮かべ悠陽無しで戦闘することも頭の片隅で考えておく。


「有効射程まで一五。主砲準備よろし」


 モニターに映る目標までの距離から計算された時間を読み上げる阿求亜の声が聞こえ、Takuは火器管制システムを操り、改めてモニターにしっかりと映りだした小惑星帯に隠れる敵性艦に照準を合わせなおす。

 スキルによって弾道計算された、現在地点から停止状態での予想弾道のラインを参考にして、スレイプニルの移動と小惑星帯の動きを加味した予想弾着地点に向けて砲口を向ける。

 カウントダウンを続けながら、視線を向けることで確認をとる阿求亜に、Takuは頷くことで作戦に変更がないことを伝える。


「三、二、一……有効射程距離に入ります。全砲門照準よろし。一斉射を秒間一〇で三回行った後、トルーパー射出します。皆さん、準備よろしく願います」


 阿求亜がカウントダウンを終え、パイロット達に主砲発射からトルーパー射出までの流れを簡単に伝える中、Takuは主砲である電磁投射砲の第一射を発砲させる。

 Takuの操作を受けた火器管制システムは、絶縁体で作られた砲身の中に通された二本の伝導体レールに直流の大電力を流す。二本のレールの間に挟まれた砲弾の後ろに用意された伝導体にも、その莫大な電力が流れることで電気回路が形成され、この伝導体上の電流とレールの電流に発生する磁場の相互作用がローレンツ力が発生、フレミングの左手の法則よろしく砲口へ向かって加速されていく。

 この時、砲弾の後ろにある伝導体はレールとの摩擦と電気接点において電気抵抗が生じたことによって発生したジュール熱によって蒸発、プラズマ化する。この物質の膨張力も尾栓により塞がれていることで砲弾の加速に利用される。

 砲弾によって密閉された状態で発生したプラズマは、電流を受けて発生したローレンツ力を余すことなく使い、レールを進めば進むほど砲弾を加速させていく。

 絶縁体であるセラミックでコーティングされた砲弾は、その発射に伴う衝撃でセラミックを剥がしながらも最大速度、秒速10キロという高速で標的に向かって真直ぐに突き進んでいった。


「次弾装填。プラズマ発生用伝道体供給」


 命中確認することなくTakuは次の射撃をするために、火器管制システムに主砲に次弾装填の指示を命じる。


「次弾砲撃タイミング、五、四、三、二、一」


 阿求亜のカウントダウンに合わせて、Takuはスレイプニルが進攻していることでずれた照準を微調整して主砲を放つ。


「次弾装填。プラズマ発生用伝道体供給。第一射着弾まで五、四、三、二、一。至近弾着」

「次弾砲撃タイミング、五、四、三、二、一」


 第一射の弾着確認のタイミングを告げるTakuのカウントダウンと、次弾砲撃のタイミングを告げる阿求亜のカウントダウンが重なる。それでもTakuは半ば反射的に、装填と照準の微調整を行い、阿求亜のカウントダウンに合わせて砲撃を行った。

 阿求亜は砲撃の第三射が行われると、即座にRainとアルターのトルーパーをカタパルトへと動かす操作を行いつつ、砲撃を受けた敵性艦の動きを監視することも忘れない。


「第二射着弾まで五、四、三、二、一。命中!」

「Rainさん、アルターさん、カタパルト接続完了。五、四、三、二……射出します」


 Takuの第二射の命中確認を横目で見ながら、阿求亜はカタパルトを展開して接続を完了したRainとアルターのトルーパーをスレイプニルの外へと射出させると、すぐに次のベイトとカスパーのトルーパーをカタパルトへと接続させるための操作を行う。


「第三射着弾まで五、四、三、二、一。至近通過。ちっ、回避しやがった」


 第一射の至近弾が当たった小惑星の破片による被害に、第二射の直撃弾を受けたところで漸く反応を始めた敵艦が、スレイプニルに向かって回頭したことで本来は命中するはずであった第三射の砲弾は敵艦のすぐ傍を通りすぎ、その衝撃波で敵艦を揺さぶるに止まった。


「兄さん、カスパーさん、カタパルト接続完了。五、四、三、二……射出します。敵艦、トルーパー三機射出確認。皆さん、気をつけて」


 ベイトとカスパーのトルーパーをカタパルトで射出したと同時に、阿求亜はレーダーに映る敵艦から小さな光点が三つ飛び出すのを素早く見つけ、すでに出撃しているRainとアルターにもそのことを伝え、注意を促す。髪型が崩れることを嫌って愛用しているネックバンド型のヘッドセットから各パイロットからの返答が即座に聞こえ、レーダーに映るRainたちの動きがその敵トルーパー三機を包囲するような動きを見せている。


「さらに敵艦、小惑星帯を離脱。こちらのトルーパー包囲網の外側より本艦に向け回頭中の模様」


 トルーパーの動きだけでなく、その後の敵艦の動きを追加情報として伝えつつ、最後に残った悠陽のトルーパーをカタパルトへ接続させる作業を開始する。


「悠陽さん、カタパルト接続完了……」


 悠陽のトルーパーがカタパルトに固定され、射出のカウントダウンを行おうとして通信モニターに映る、真っ青な顔で奥歯が砕けそうなほど歯を食い締めてガチガチに固まっている悠陽を見て、阿求亜は言葉を飲み込んでしまった。

 パイロットの経験のない阿求亜から見ても、その悠陽の体勢はRainやベイト、他のパイロット達と比べて余計な力が入りすぎていて、しっかりと操縦して発艦できるような状態ではなかった。

 チラリと通信モニターを繋げているRainの様子を、阿求亜は窺ってみる。

 他の三人への指示に、トルーパーで築いたラインを抜けようとする敵艦の牽制に、敵トルーパーへの攻撃にと忙しそうではあるが、悠陽の現状を把握していないわけではなく、これも経験と比較的に余裕のある現在の状況で、Takuが先ほど話していたように、あえて失敗させようとしているのかもしれない。

 そのようなことを考えていた阿求亜とモニター越しに目の合ったRainが、困ったような笑いを浮かべて、お願いするように右手を立てる。阿求亜はそれに答え、柔らかい笑顔を浮かべた。


「何、そんなにガチガチになってるのよ、胆が小さい。そんなザマじゃナニも小さいだろうから女性を満足させることなんてできないんじゃないの?」


 スゥっと息を吸い込んで、一気にまくし立てるようにヘッドセットのマイクに向かって叫ぶ。言ってから、その内容に阿求亜は猛烈な羞恥心に襲われ、顔から火が出そうなほど真っ赤に染めて、言った相手である悠陽を顔を見ることが出来ずそっぽを向いてしまうが、モニター越しでもまじまじと自分の顔を見る視線を感じて、さらに顔を赤くしてしまう。


「真ぁ理ぃぃぃぃいいい! いつそんな言葉使いを覚えた! 誰だ! そんな言葉を教えた奴はぁぁああ!」


 一瞬の沈黙の後、遮音性が高いはずのヘッドセットから洩れるほどの大きなベイトの怒鳴り声が艦橋に響き、あまりの大声に顔をしかめて、阿求亜は思わずヘッドセットを取り去った。


「ここでは真理ではありません。阿求亜です」


 マイクだけを握り、ヘッドセットに流れる音声の出力をモニターに付属のスピーカーに移す操作を行いながら、悠陽に対しての羞恥心を怒りに変えて八つ当たり気味にぶつけるべく、ベイトを睨みながら平坦な上に冷たい声音で答える。


「そんなことはどうでも」

「阿求亜です」

「だから真」

「阿求阿」

「……阿求亜、そんな言葉をだな……」

「ハッパをかけるなら私だとああいったことを言ったほうがインパクトがあるとコングさんが」


 冷静さを失い本名を叫ぶ兄ベイトにキャラネームを言うように言うが、それよりも阿求亜の言葉に頭に血がのぼったベイトが言うことを聞かないため、阿求亜はベイトがキャラネームを言うまで、ベイトの言葉を遮った。

 そして漸くキャラネームでベイトが呼びかけたので、最初の叫びで出た疑問の答えを教える。


「あいつか! 後で絶対泣かす! 待ってろ、コング!」


 答えを聞いたベイトは、まるで目の前にコングがいれば、殴りかからんばかりの形相で叫ぶと、通信モニターがコングのいる格納庫エリアに繋がっていないにも関わらず、コングに向かって指を突きつけるようにして吠える。


「いいかげんにしな、ベイト。阿求亜ちゃんがいくら可愛い妹だとしても束縛ばかりだと嫌われるよ」

「あ、姐さん。しかしですね、あの言葉は……」

「いいかげんにしろと言ったよ。もっと気合を入れて攻撃しな、シスコン」

「右手がお留守だぞ、シスコン」

「こっちもしっかり援護しろよ、シスコン」


 一通りやり取りが終わり、悠陽がガチガチに固まったような状態から事の成り行きについていけず、呆然と力の抜けたような状態に移ったことを確認したRainが、ベイトの阿求亜への干渉を引き合いにベイトに注意を行うことで締めようとするが、ベイトがウジウジと言い訳を始めたので叱責に移る。

 そのRainの言葉尻に乗って、アルターとカスパーもそれぞれが敵艦や敵側のトルーパーの攻撃を捌きながらベイトをからかう。


「シスコン、シスコンうるせいやい」


 言われるほどサボっていたわけではないが、阿求亜との言い合いに集中力が散漫になっていたことは否定できず、シスコンという言葉に不満を表すがベイトはトルーパーの操縦に集中する。


「阿求亜。今回の件は後でしっかり聴くからな!」


 けれども一旦脇に置いただけのようで、しっかり阿求亜に釘を刺すのを忘れていなかった。

 阿求亜は、そんな過保護なベイトに向かって、小さく舌を出して不満を表す。

 その日常めいた兄妹喧嘩のやり取りに、ガチガチに先ほどまで緊張していた悠陽の上げた笑い声がスピーカーから流れ出たことで、頬を膨らませてモニターに映るベイトを睨みつけていた阿求亜は頬を緩ませ、Rainは阿求亜にウィンクを送ることで謝意を伝える。アルターにカスパーも安心したように笑みを浮かべ、ベイトだけが若干不満そうにはしていたが、悠陽の緊張が解けたことには安心したような表情を浮かべていた。


「落ち着きました?」


 笑いの発作が治まったのかモニターに映る悠陽は、息を整えるべく喘ぐように呼吸を繰り返していた。その様子に話しかけても大丈夫と判断して、阿求亜はそっと話しかける。


「なんとかね。……ありがとう、阿求亜さん」


 一瞬阿求亜の声に先ほどまでのベイトとのやり取りを思い出し、また悠陽は噴出しかけるがここは何とか堪えたようで、阿求亜の問いかけに答える。


「いえいえ、どういたしまして。落ち着いたところでカウントダウンを再開しますね。発艦のタイミングが完全にずれてしまいましたので、目標を変更します」


 完全に緊張が解け、身体から変な力が抜けた様子の悠陽に笑顔を向けて阿求亜は悠陽の礼を素直に受け取り、トルーパー射出の段取りを決めなおす。悠陽の返事を聞きながら、Rainたち四人が敵トルーパー三機の内すでに一機落とし、残りの二機も追い詰めている状況で、大きくRainたちを迂回してきていた敵艦が、自分達の不利にトルーパーを見捨てて逃げようとしていることを阿求亜は、レーダーとモニターから読み取る。


「敵トルーパーはRainさん達が抑えます。悠陽さんは離脱行動をとり始めている敵艦に対して攻撃を敢行してください」


 ここで敵艦に逃げられるのもミッションの関係上よろしくはない。

 故に阿求亜は悠陽に敵艦の撃破を指示し、カタパルトのカウントダウンを開始した。

 阿求亜のカウントダウンが終わると、カタパルトは勢い良く悠陽のトルーパーをスレイプニルの外に広がる宇宙空間へと飛び出させた。矢のように宇宙空間を切り裂き、敵艦に向かう悠陽のトルーパーをモニターで確認しながら、阿求亜は出撃する他のパイロットたちと同様、悠陽の無事を祈る。


「阿求亜ちゃん、お見事。Rainのフォローありがとね。さてと、こっちの優君へのフォローはしっかりやりますか」


 悠陽の射出に関する一連のやり取りを黙って聞いていたTakuが、悠陽の出撃を持って阿求亜にねぎらいの言葉をかけた。

 そして火器管制システムから艦首ミサイル発射筒を呼び出し、奇襲による砲撃で傷ついているとは言え、単機で敵艦に挑む悠陽を援護するべく、無線誘導を行えるミサイルを準備していく。

 対人戦初参戦のプレッシャーを阿求亜の機転によって乗り越えた悠陽は、スレイプニルのミサイルによる援護の元、敵艦に肉薄することに成功する。

 長距離砲撃をメインとしていた敵艦は、近接距離に持ち込まれるとその攻撃力を十全に生かすことができず、申し訳程度に付けられた対空砲火の銃撃が悠陽に散発的に襲い掛かるがそれを巧みに避け、悠陽はトルーパーに装備された全ての火器、両手に持ったマシンガンと背中に設置された六連装短距離ミサイルランチャーを一斉に叩き付けた。

 フルオートで放たれる二丁のマシンガンによる銃撃に、六連装短距離ミサイルランチャーから飛び出した六本のミサイルは、むしろ過剰ともいえる攻撃力で敵艦の艦橋から船体にかけてを引き裂き、爆発させた。

 この母艦の撃沈に意気を完全に砕かれた残りのトルーパー二機も、Rainとベイトの近接攻撃による斬撃により破壊され、今回の遭遇戦は幕を落とした。

 Rainたちトルーパーを回収したスレイプニルは、この遭遇戦で浪費した時間を少しでも取り戻すべく、周辺索敵もそこそこに先を急いで比推力可変型プラズマ推進機からプラズマを吐き出し、最大船速で小惑星帯を抜けていった。

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