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Galaxy War Online  作者: Chilly
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第一話  ~ 姉からの誘い ~

 かなり年代物のパソコンの液晶モニターに映るPvPを主眼に置いたVRMMORPG、ダイブ型と言われるヴァーチャルリアリティを使った多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲームである“銀河大戦”の世界設定を優は読んでいく。


 現在高校入試という関門を本命合格という結果で無事突破した優は、卒業式まで慌てて何かするようなこともなくただ出席日数を稼ぐために学校に行くぐらいで暇を持て余していた。一応真剣にではないが中学三年間続けた陸上部に顔を出して後輩達を扱くということも考えてはみるものの、自分が現役だったころにこの時期の三年来襲はただただうざいだけだったという思いしかないため二の足を踏んでしまう。


 それに中学三年になり受験のためにと引退したファンタジー系のVRMMORPGにログインしてみたものの、一年という時間は長すぎた。知り合いはすでにほとんどが引退もしくは別のキャラで連絡がとれず、取れたとしてももうレベルがかけ離れすぎていること、ゲーム内の話題、受験に集中していたころの話題についていけず無事合格したことだけを伝えて早々にログアウトしてしまい、二度と入る気にならなかった。


 ひたすら居間や自室でぼうっと何度も読み返したことのある小説や漫画を読んだり、テレビをただ眺めてみたりと暇をなんとか潰しているときに大学一年でサークル活動と称して遊びまわっている姉の瞳に一緒にやろうと誘われたのがこの銀河大戦だった。


「宇宙戦争モノねぇ……で、PvPメインかぁ」


 大学のサークルをVRゲーム研究会などという怪しいサークルを選ぶほどゲームが好きな姉に負けず劣らず優もゲームをする事は好きだ。現にファンタジー系のものばかりとはいえいくつかのVRMMORPGを小学生のころからやり込んでいる。主に戦士などの近接前衛職を好んで選び、ゲーム内で知り合った仲間達とNPCのモンスターを相手取って数々のクエストをこなして遊んだものだ。しかし銀河大戦のようにPvP、プレイヤー同士の対人戦を主眼に置いたゲームは未経験だった。たしかに今まで遊んだゲームに対人戦はなかったとは言わないが、それは決闘のように相手同士が納得の上でのルールのある戦いだ。PvPルームという別空間に転移して行われるようなPvPであり、常にフィールドでプレイヤーに襲われるということはなかった。


「暇なことはたしかだしなぁ……」


 優はポチポチと公式ホームページやWIKIなどから情報を集めていく。



 半年ほど前からクローズドテストが始まり、一ヶ月ほどのオープンテストを経て一月八日から本サービスが開始した銀河大戦は当初あまり目立ったゲームではなかった。

 広すぎるマップにほぼソロ活動が不可能な仕様、PvPメインでありながら戦う相手を探すことが大変、デスペナルティの戦艦やトルーパーの消失からの復帰が困難といった状況がオープンテストまでで顧客を徐々に失わせた。

 さらに基本無料のアイテム課金制を採用することなく、月額定額制を採用したことによりどういったゲームかわからないからと新規顧客の獲得も失敗していた。


 その目立たないまま埋もれて消えていくだろう銀河大戦というゲームを有名にしたのは、ある一組のプレイヤー集団が動画サイトにアップした数本のPV映像だった。


 綿密に細かく作りこまれた宇宙空間はまるで本物の宇宙に行けたように感じさせ、そのなかを悠然と航行する様々な巨大戦艦や輸送船、数々のオプションパーツを組み合わせベースの機体が一つとは思えないトルーパーの数々が飛び交う、銀河大戦自体の映像媒体としての魅力も十分にあったといえるがノリの良い有名アーティストの曲を使い、まるで一本のショートムービーの戦争映画のように派手なミサイルの撃ち合いやその間隙を掻い潜り銃撃を繰り広げるトルーパーに芸術のごとき剣舞を見せ付ける近接格闘戦を、その集団は次々とアップロードしていった。

 多いときには一日で数十万アクセスを記録したこともあるこの動画に魅せられたプレイヤーが銀河大戦に参戦しだしたことで、次第に人気ゲームへと銀河大戦は生まれ変わっていった。


 人が増えたことにより広すぎるマップはその広すぎるということを感じさせなくなり、戦う相手を探すことが容易になった。さらにゲーム内経済が活発になることでデスペナルティの戦艦やトルーパーの消失からの復帰も容易になっていった。


 月額定額制ということで払った期間はやり続けるようになり、歯車がかみ合い始め潤滑に回り始めたゲーム世界に魅せられる人もまた増えていった。


 また銀河大戦運営陣は公式ホームページ内で銀河大戦の一つの売りを無償公開に踏み切ったことも人を呼び込む切欠になった。

 ヴィジュアルの作りこみは宇宙空間や戦艦、トルーパーだけにおさまらない銀河大戦はキャラクターについてもかなりの自由度と作りこみを見せている。そのキャラクター作成とゲーム内での衣装の数々をホームページ内で着用することが出来るようにしたこともヴィジュアル重視のプレイヤーを取り込むことに成功した一因であった。


「優ぅ。起きてるぅ?」


 階下より瞳の声が聞こえてくる。

 一応瞳は家を出て一人暮らしをしているのだが、食事に関しては実家に頼りきりで一人暮らしの家にはほぼ寝に帰るだけで実家にいまだ暮らしているといっても過言ではないかもしれない。


「昼メシなら冷凍庫に冷食のパスタがあるからそれ食べろって母さんが言ってたよ」


 正午近くまで惰眠を貪り昼食をたかりに来たのだろうとあたりをつけて優はそう返事を返しながら、開いていたブラウザを閉じ、パソコンをシャットダウンさせる。


 階下に下りてリビングダイニングを覗き込んでみれば、対面式キッチンのカウンターの向こう側でなにやらゴソゴソと食べ物を探す瞳の姿が見える。


「むぅ……トマトソース系のしかないじゃない……私、昨日学食でボロネーゼ食べたのにぃ……」


「知るかんなこと。贅沢は敵です、あるものを食べてください」


 冷凍庫を開けたまま愚痴をこぼす節電意識ゼロの姉に対して顔をしかめつつそう言ってみる。


「御託は結構。他のもあるんでしょ? さっさとお出し!」


「あるわけないじゃないか、HAHAHA」


「優……。フルコース……久々に受ける?」


 冷凍庫を閉めてキッチンを出てきた瞳に対して小ばかにしたように言う優の言葉に反応して、瞳の目が細くなり、ドスを利かせた低い声がそのつややかな唇から出てきた。

 一瞬にして空気が冷却され背筋に寒気が走る優。

 スッと一歩踏み出す瞳。

 縮まった距離を再び広げるように一歩下がる優。

 満面の能面のごとき笑顔をその端正な顔に貼り付けた瞳。


「……サー、ノー、サー! 上の戸棚に買い置きのカップラーメンが隠してあります!」


 瞳の圧力に負けた優は直立不動の姿勢で敬礼とともにハキハキとした大きな声で瞳に冷凍食品のパスタ以外の食料の場所を伝えた。


「優……女性にサーは失礼じゃない?」


「フルコースは勘弁してください、お姉様」


 勢いよく下げた優の頭に突き刺さる瞳の視線。

 実際には数秒だったのだが、優には数分にも数時間にも感じられる時間が過ぎ去って瞳は視線を外した。


「ま、いいわ……優、お湯、沸かしといてね」


 戸棚から好みのカップラーメンを一つ取ると瞳は鼻歌を口ずさみながら包装ビニルを破りつつ、リビングのテーブルへと腰を落ち着ける。


「へいへい……」


 瞳の圧力から解放され、硬くなった体を解すように伸びを一つして優は瞳と入れ違いにダイニングキッチンへと入った。棚から薬缶をを取り出し浄水器から水を中に注いで火にかける。

 優自身もカップラーメンを食べるつもりなのか、その水の量は一つ分よりも大分多い。


「で、どうするの?」


 カップラーメンの具材を麺の上にのせ、スープの素も袋から出し終わって後はお湯を注ぐだけまで準備をし終えた瞳はつけたテレビのチャンネルをリモコンでカチカチと切り替えながら優に声をかけた。

 その声にシンクの前でカップヤキソバの具材を麺の下に入れたり、二杯分のインスタントコーヒーの準備をしていた優はチラリと視線だけ一瞬むけるがすぐに作業に戻る。

 何チャンネルか切り替えたところで眼鏡に適う番組があったのか、それとも妥協して諦めたのか情報番組と言うワイドショーの軽薄な笑い声と何も考えずただその場のノリだけで答えるコメンテーターの声がしばしリビングに流れる。


「一応やるつもり」


 お湯が沸き自分のヤキソバと二杯のインスタントコーヒーにお湯を注ぎながら、先ほどの瞳の質問に答える。


「そ……で?」


「いろいろ調べてみたけど、ソロは大分厳しいと言うか出来そうにないからお世話になるつもり」


 会話を続けながら自分のものにお湯を注ぎ終わった薬缶を持って瞳のカップラーメンにお湯を注ぐべくリビングへと向かう。ついでに左手には瞳のために用意したインスタントコーヒーも持っておく。


「ん、歓迎するわよ。タク君、……優も知ってるよね? 彼に話しておくわ」


 優からインスタントコーヒーを受け取りその香りを楽しむ瞳の言葉に出た人物について一瞬考えるそぶりを見せるがすぐに、タク君という人物が瞳のサークルの先輩で現在の彼女の彼氏だという情報が頭に浮かぶ。


「でも、いいの? うちだと地球連邦でパイロットしか空いてないわよ?」


「陣営は正直どっちでもいいし、クラスもやりたいのパイロットだから大丈夫」


 銀河大戦ではプレイヤーは地球連邦……異星人との戦争になったことで表面的には一つになった地球人類か、耳が細長く尖っており整った容姿を持つものが多いことから地球側からエルフと名付けられた異星人の内どちらかの陣営を選び、各々の陣営を勝利に導くべく各マップに数箇所配置されている惑星の支配権を巡って争うことになる。

 そしてクラスは職業のことを言い、両陣営共通である。

 キャプテン、オペレーター、ドライバー、メカニック、パイロットの五つのクラスがあり、それぞれが持つスキルを選択していく事でそれぞれのクラスでも得手不得手が生じ、様々なバリエーションが作り出される。


 例えば唯一戦艦を所有することができキャプテンというクラスは、スキルによって所持する戦艦、輸送艦のサイズ、装甲、武装、トルーパー搭載数が変化する。さらにはオペレーター、ドライバーのスキルも取得することができるためキャプテンの職務に専念するか、ある程度人数が揃わなくても行動できるように兼業になるかとも分かれる。兼業もオペレーター寄りドライバー寄り、オペレーターも管制寄り射撃寄り、ドライバーも航行スピード寄り運動性寄りなど細かく分岐するため似たようなスキル構成だとしてもまったく違う印章を与えることもある。


 優の選ぶパイロットは二足歩行型戦闘ロボットたる人型機動兵器トルーパーを唯一所持し操縦することができるクラスである。キャプテンの例に洩れずパイロットもスキル構成によって様々に分かれる。五つのクラスの中でそのバリエーションは最多ではないだろうか。近接、近距離、中距離、遠距離、偵察、狙撃等々組み合わせを考えればきりがないほど様々なタイプのパイロットがいる。

 トルーパーの機体フレームは一種類しかないが、このスキル構成と武装、装甲、強化パーツなどを組み合わせることで無数のバリエーションができ、俗に言う量産最強型というものは存在するがその存在感は薄い。

 個々のプレイヤー自身の得手不得手などの特性とスキル構成に合わせ、トルーパーの武装構成を組まなくてはプレイヤー、トルーパー共に能力を発揮できないようになっている。


「キャラはこれから作る? それともアバター作成に凝るの?」


「ん~折角だから凝りたいってのはあるけど弄くりすぎても違和感とかでると嫌だしね、自分自身をあんまり変えないつもり」


 二人でテレビからもれるワイドショーのグルメ情報などの他愛のない話を聞き流しながら、リビングのテーブルに向かい合って座り出来上がったカップラーメン、ヤキソバを食べながら優の参戦について話す。


 銀河大戦の売りの一つであるキャラクターのヴィジュアル作りこみはある程度自宅のパソコンにて公式ホームページからいける作成ツールにて事前に作成することができる。またVRゲーム振興協会指定医療機関にて簡単に撮影できる本人の立体投影写真を基にすることもできるため、作成に面倒だという人間は事前に此方を用意しておくことがVRゲームユーザーの間では常識となっている。さらにあまりにも自身の体型とかけ離れた体型にしてしまうと平衡感覚や距離感覚を失い、キャラをうまく動かすことができないばかりでなく現実においてもひどいときには平衡感覚と距離間隔を失い、日常生活に支障をきたす可能性があるためほとんどのVRゲームでは現実と差異がほとんどない体型もしくは立体投影写真を推奨している。だから優は前のファンタジー系RPGのために作っておいてあったこの立体投影写真を利用する予定だと付け加えた。


「私もそれほど弄ってないしそれが無難かな? まぁキャラはそれならすぐ作れるね」


「まね。それに戦闘メインとなれば少しでも変なことしないほうがいいからね……そうだ。メンバーは全員サークルの人?」


「ん? 一人だけちがうけどまるっきり部外者ってわけでもないのよね。副会長の妹さんだし」


 ラーメンを啜りつつ優の質問に答える瞳の顔に一瞬悪巧みを思いついたと言わんばかりの人を食ったような笑みが浮かぶ。生まれたときから姉のそんな笑みに振り回されてきた優の背筋にぞぞっと寒気が走り、心の警鐘が鳴り響く。


「ふふふ。そうそうあの娘がいたのよね。副会長もいいキャラしてるし……いいわいいわ、楽しくなってきた」


 本人は小声で言っているつもりだろうが、警戒のため耳を済ませていた優の耳にほぼ全ての言葉が聞き取れた。“あぁまた碌でもないこと考えてる”と呆れたように様子を伺う優に、自分の考えに没頭し始めた瞳は気がつかなかった。

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