第九話 ~ チュートリアル 操縦訓練射撃 ~
「射撃訓練はまずは目の前の標的へ対しての射撃から始める。まっ、その前に装備のリロードをするからコンソールパネルで確認してみろ」
訓練担当教官の言葉の後、一瞬悠陽の乗るトルーパーがワイヤーフレームの状態になり、下から順に元に戻っていくと右手にトルーパーの大きさに合わせた巨大な自動小銃が握られ、背中のマウントには予備の自動小銃にこれもトルーパーサイズの巨大な軽機関銃が装備されている。
悠陽のほうでもこの装備の切り替えを、一瞬の暗転とポータルゲートを潜ったときのような浮遊感を感じたことで装備のリロードが行われたことを理解する。
そして訓練担当教官に言われた通りコンソールパネルで機体情報を呼び出せば、自動小銃が二本と機関銃が装備されていることを確認できた。
「自動小銃は両方ともマガジンはそれぞれ三〇発に、背中のにはグレネード付きで弾は腰部マウントに擲弾が三発ね。あとは一〇〇発入りのドラムマガジンの軽機関銃が一丁と。弾数は合計一六〇発なんて下手すりゃすぐ撃ち終るよなぁ」
自動小銃がセミオートや三点バーストなら一回で撃ち尽すこともないだろうけれど、フルオートであれば三〇発やそこらでは五秒にも満たない時間で撃ち尽くせるだろう。
軽機関銃でも一〇〇発では一〇秒ももたないだろうが、連続射撃をやるならこちらのほうがやはり弾数が多いので撃ち甲斐はあるだろう。
「まずは小銃をセミオートにして、正面の指定目標に当ててみろ」
訓練担当教官の言葉とともに巨大な白地に黒い縁取りの人型の標的が目算五〇〇メートルくらい離れたところで立ち上がった。
悠陽はまずコンソールパネルから走行訓練で呼び出したロックオンサイトを呼び出し、立ち上がった標的をその中心に据えターゲットをロックすると標的の周りにロックができたことを示す周りを囲む赤い印が表示される。
操縦レバーを操作し、右手の自動小銃を構えさせ左手で銃身を安定させるため支えさせる。
コンソールパネルの機体情報の武装に関する情報から、今構えている自動小銃がセミオート射撃の状態であることを一応確認し、悠陽はとりあえず一発目と引金を引いた。
“パァン”といういささか軽い音と曳光弾だったようで白く輝きながら光の線を描いて標的に向かっていった。
しかし白い軌跡は標的を右に逸れていき、標的からかなり離れた位置を通り過ぎていった。
「あれ? ロックオンしたのになんで?」
そのあまりの大きな誤差に悠陽は疑問が次々と浮かぶ。
ロックオンしたのだから自動的に照準がされるのではないのか? 銃の狙いが狂っている? そもそもちゃんとロックオンされているのか? などなど今の悠陽では答えの出ない疑問が積み重なっていく。
「ターゲットロックはあくまでも機体を目標の正面に固定しようとする機能に対して働くもので、照準は改めて自分でせんか! そこから照準を合わせてロックをかけねば、小銃類ではロックオンしたことにならんわ!」
一発外したことで固まってしまった悠陽を叱る訓練担当教官の言葉に、悠陽の頭に浮かんでは積み重なる答えの出ない疑問は答えを貰うこととなった。
この辺りはWikiなどには当然書かれていた内容ではあるのだが、すべてをよく読みこんでいるわけでもなく、ターゲットロックイコールロックオンと悠陽が自分勝手に勘違いのまま流し読みしていたことがより悠陽が混乱した原因といえるかもしれない。
「え? つまりターゲットロックから狙ってさらにロックがロックオン? 二度手間? ……ですか?」
「小銃類に関して言えばそうなるな。拳銃の類もそうなる。ただ多連装ロケットシステム、まぁMLRSだな、これやミサイルなどは一次ロックでターゲットに対して誘導させるからこちらは二度手間にはならないな」
疑問で頭がいっぱいな悠陽は訓練担当教官の言葉に素で答えてしまったのを、語尾を付け加えることで一応の体面を保つ努力をしたが、訓練担当教官のほうはそのようなことなど気にする様子もなく、悠陽の疑問に答えた。
「まぁ命中スキルの熟練度が上がれば、小銃類にもその熟練度に応じてターゲットロックに合わせて誘導性が発揮されていくのでロックオンせずとも当たるようになるとは思うがな。基本操作なら」
ついでにというように訓練担当教官は命中スキルについても情報を付け加える。
「じゃあ命中スキルを上げればターゲットロックだけでよくなるから二度手間を防げるというわけか……。でもどこまで上げれば誘導性がってそこは検証厨の人がやってくれてるのを確認してと……」
「まぁこの二度手間というのも一応考えられて作られたものだぞ。ターゲットロックで標的を正面に固定することで操縦を簡易化し、照準と連動しないことでこういうことができる」
訓練担当教官から齎された新たな情報の吟味に一人の世界に入り始める悠陽だったが、訓練担当教官の言葉に現実に帰還し正面のモニターを見つめた。
悠陽の乗るトルーパーが訓練担当教官の遠隔操作により動き出したからだ。
目標の標的は先ほどと変わらずに一次ターゲットロック状態のままでトルーパーは構えた小銃の照準を合わせる。
正面のモニターをよく見れば一次ターゲットロックの囲いの他に十字の照準がモニターを走っているのが悠陽にもようやく見えたのだろう、その照準の先を見つめる。
訓練担当教官は一度一次ターゲットロックの囲いの中に照準を入れ、照準をロックすることで囲いと照準の色が明滅する赤となり本当のロックオン状態を悠陽に見せた後ロックオンだけを解除する。
照準の十字を微妙にロックオンの状態からずらし引き金を引く。そして再び照準の十字をずらし引き金を引いた。
二発の曳光弾は白い軌跡を残して吸い込まれるように標的へと当たり、その場所に黒い穴を開ける。
「このように部位破壊を狙うこともできる」
訓練担当教官はトルーパーのメインカメラのズーム機能を標的に合わせモニターに大写しで映せば、先ほどの標的に開いた穴の位置がより鮮明に映る。
人型をした標的の手にあたる部分両方に黒い穴が一つずつ開き、向こう側を見せていた。
訓練担当教官の手並みと言葉に悠陽は感嘆のため息を漏らすが、よくよく考えてみればこの二度手間のターゲットロックは当然の措置だと思い直す。
狙撃という手段が用意されているのだからヘッドショットなどの一撃必殺的な攻撃や部分破壊なども十分考えられていただろう。
ならば一回のターゲットロックで照準が固定されてはターゲットロックをしては部分破壊などやりにくくなる。さらにロックをしなければ高速で動き回る標的のさらに小さな部分を狙い撃ちするなどできようはずもない。
これが二回ロックという操作手順になれば一次ロックで動き回る標的を固定し、ゆっくりとは言いすぎかもしれないが若干余裕を持って部分破壊などを狙いやすい。
その部分破壊に自信がなければ照準さえも固定して自動的に合わせるようにしてしまえばいい。
「とりあえず一応の射撃に関することがわかったようなので、クエストの説明に入るぞ」
悠陽の顔に理解の色が出たのがわかったのか、訓練担当教官が標的に当てたことで次に進むスイッチが入ったのか訓練担当教官がメインカメラの倍率を元に戻し、クエストの説明を始める。
三秒から五秒で配置がランダムで立ち上がる人型の標的を撃ち抜いていくという至極安直なものであったが、その数が多かった。
立ち上がる標的の数、三〇〇。
そのうち一三〇枚を打ち抜くことが達成条件である。
自動小銃二丁合わせて六〇発に軽機関銃の一〇〇発にグレネードの擲弾三発でこのクエストを達成しなくてはならないと言う事は、外していいのはたったの三三発であり、軽機関銃でも連射しながら一枚につき一発に近い割合で当てなくてはならない状態という無茶苦茶な条件のクエストであった。
しかしながらこのクエストにはある意味仕掛けが施してある。
そこに気がつけばそこまで高い難易度ではないのだが、気がつかなければ厳しい条件であり初見未情報ではクエストを行う前に放棄するプレイヤーも少なくない。
「練習していない機能もあると思うが、貴君の健闘を祈る。今から状態をリセットして使用した弾丸を補給しておく。準備が出来次第、スタートしてくれ」
訓練担当教官はその言葉を最後にコンソールパネルの通信モニターから姿を消した。
「数が数だしターゲットロック、ロックオン、射撃とやってたら面倒で仕方ないかな」
ここから移動しないことに加え、標的は正面百四十度の視界範囲にのみ立ち上がることがわかっているので、右手の人差し指のトリガーを引いた状態で固定することで右の操縦レバーを照準操作にターゲットをロックしなくとも固定できるため、悠陽はいちいち立ち上がった標的をターゲットロックすることを省くことにする。
右手で操縦レバーを動かし、照準の十字がどの程度の速度で動き、レバーの動きに反応するのか様々ところに向かって移動させて確かめる。
「武器換装ってコンソールからだっけかな?」
さらに確かめることとして弾切れを起こしたときに素早く武器の切り替えを行うための、操作確認を悠陽はコンソールパネルを弄りつつ確かめる。
トルーパーでの武器換装には二通りの方法がある。
一つはコンソールパネルで装備情報を呼び出し、交換する装備と交換したい装備を選択しそれを交換する方法ともう一つは先に対応するトリガーを決めておきそれをもって交換する方法の二種類である。
このときわざわざ面倒なほうを確認しているのは悠陽がこのトリガー登録の方法をど忘れした為、仕方なく面倒なほうを選択せざるを得なかったというだけである。
「ま、なんとかなるかな。……よし、やってみますかね」
悠陽がクエストスタートをコンソールにて指示すること五秒、真正面にまず一つ目の標的が立ち上がる。
照準の十字を素早く動かし、わざわざ難しく頭や手足を狙って外しても仕方ないと、多少ずれても当たるであろう面積の大きい胴体に照準の十字を合わせて引金を引く。
セミオート射撃のため単発で射撃された曳光弾は白い軌跡を描いて吸い込まれるように標的に当たると、標的は命中弾に反応して倒れていく。
倒れていく標的を眺めていると右端に新たな標的が立ち上がるのを目の端に悠陽は捕らえる。
これも胴体を狙い引金を引く。
しばらく標的が立ち上がる、悠陽が照準を合わせ引金を引く、命中した標的が倒れるということが繰り返され、悠陽は順調にスコアを稼いでいった。
しかし標的が立ち上がる間隔が三秒から五秒あるとはいえ、その間隔はランダムで五秒で立ち上がることが続いたと思えば三秒で立ち上がることが続くこともある。
悠陽は順番で標的を倒していたが、倒した標的が一〇を超えたところから標的の立ち上がる数が倒される数を超え、まだ二つ三つぐらいではあるがだんだんと立っている標的の数が増え始める。
「あの話は本当なんだろうけど、古いのから倒してるから確証がもてねぇ」
立ったままの標的が増え始めることにだんだんと焦りが出てくると狙いが雑に、荒くなっていく。
一応まだ一発も外してはいないが、胴体を狙っていたはずがずれて腕に当たっていたり、頭をギリギリで掠ったと言っていいほどの位置で打ち抜いていたりといつ外してもおかしくはない。
ちょうど三〇発撃ちおわったとき、何とか倒した標的は一発外しただけの二九、撃ちもらしてまだ立っている標的の数は一五という状態であった。
そして悠陽が手間取りながら弾切れした自動小銃とグレネード付き自動小銃を持ち替えたときには立っている標的の数が二〇本を越えていた。
「えぇい、こいつでどうだ!」
自動小銃の擲弾発射筒であるグレネードに腰部マウントに付いていた三発の中の擲弾を装填し二〇本を超える標的の真ん中に向かって発射する。
グレネードから発射された擲弾は放物線を描いて悠陽の狙い通りに標的の真ん中へと落ち、爆発を持って周囲の二〇本を超える標的を薙ぎ倒す。
「Wikiの通り標的は自分では倒れないか」
このクエストの標的は一定時間が経過したら撃破判定されなくても倒れるということがなく、立ち上がったら立ち上がったまま、撃破判定を受けるまでその場にあり続ける。
故にある程度貯まった標的をグレネードによる擲弾射撃で一掃することで撃破数の水増しが可能なのである。最悪と言っていいのかわからないが、擲弾三発で目標撃破数の大半をクリアできる仕様であるため、軽機関銃の一〇〇発の弾丸を一切使わないでクリアということがよく見られるクエストであった。
しかし軽機関銃の射撃をせずに終わるというのも勿体無いと大半のプレイヤーが無駄撃ちとわかっていても一〇〇発を一気に使い切るということをやっていた。
「一気に撃破数のカウントが五〇を超えたなぁ。後八〇以下か……楽勝?」
グレネードの中の擲弾を入れ替え、悠陽は標的が貯まるのを待つ。
擲弾一発で最大四〇本の標的を倒すことが出来るとWikiに書いてあったため、後はグレネードのみでこのクエストを終わらせるか、ある程度の数を残して自動小銃と軽機関銃を乱射してクリアするかどちらにしようと悠陽は悩む。
さっさと終わらせるメリットとそれぞれ撃ち尽すメリットを天秤にかける。
「これ撃ち尽くして少しでも熟練度あげたほうがお得だよなぁ」
天秤にかけた結果、全部の武装を使い尽くすことに悠陽は決めた。
悠陽は二回、標的が二〇本くらい貯まったところで擲弾を発射し撃破スコアを稼ぐと自動小銃を最初のようにターゲットロックすることなく、照準操作に操縦レバーを固定して単射で一枚々々標的を撃ち抜いていった。
トータルで標的撃破スコアが一一五枚を超えたところで撃ち尽くした自動小銃から軽機関銃に持ち替えて、再び標的の本数が貯まるのを待つ。
「残り一〇〇発で一五枚。一枚につき六発も弾丸使えるとはいいねぇ」
悠陽は右手の操縦レバーを動かし、十字の照準を次々と立ち上がる標的の頭の位置で高さを固定するようにトルーパーに軽機関銃を構えさせる。
「秒間九〇〇発。一〇〇発だから約六秒ちょいで撃ち終わるかな」
口の中で悠陽は秒間何発でそれがと暗算をしながら、軽機関銃について考える。
ゲームであるのだからと何も考えずに横にスライドさせるように照準を動かし、薙ぎ払うように軽機関銃の弾丸をばら撒くということはできない。
しっかりこの銀河大戦では作用反作用というものが反映されており、軽機関銃を連射すればその反動で銃身は上へ上へと持ち上がり、弾丸は標的の頭上を大きく逸れていくことになる。
つまりは反動を考慮して横にだけスライドさせるのではなく、斜め下に向かってスライドさせるように照準を操作しなくてはならないのだ。
悠陽は固定していた高さを若干下げ、肩の位置あたりにする。
「だいぶ貯まってきたかな。最後の仕上げといきますか」
林立し重なり合う標的に悠陽はニヤリと楽しそうに笑い、軽機関銃の引金を引くと同時に横へと照準をスライドさせる。
軽機関銃は唸りを上げるように弾丸を吐き出し、その反動は銃身をトルーパーのエンジンの出力に支えられた腕力をものともせず上へ上へと押し上げていく。
それを悠陽は斜め下へと照準を付け続けることで、つねにトルーパーが下へと力をかけ続けるようにして押さえつける。
波打つような白い軌跡が標的を撃ちぬき、薙ぎ払い、無数の穴が標的を切断する。
連続する爆音に排出される空薬莢が床面に落ちる鳴き声のような高音が射撃訓練場を満たし、そして唐突にその音の嵐が止み静寂に包まれる。
時間にすれば一〇秒にも満たない数秒の軽機関銃の連射。
マガジンに装填されていた一〇〇発の弾丸を撃ちつくし、銃口から白い煙を薄く棚引かせる軽機関銃を構えさせたまま、悠陽は細く長く息を吐き出す。
「カウントは一四三枚か。連続射撃はここまで長くやるもんじゃないな」
撃破スコアのカウンターを横目で確認してクエストクリアを確認し、悠陽は軽機関銃での射撃について自分の感想を口にした。
「さて、まだ標的は立ち上がっているが弾丸切れと目標達成でクエストクリアとしようか」
コンソールパネルの通信モニターが開き訓練担当教官の顔が映し出され、まだ止まることなく立ち上がっていた標的が順次倒れ消えていく。
「若干無駄弾が見られるが、一四三はまぁ普通の数字だな。さて次の格闘訓練に移るが、どうする?」
「もちろん次に進みますよ。まだ時間はありますしね」
「では格闘訓練場へとトルーパーごと転移させる」




