通学路でつかまえて
中学校最後の日の朝。
私は自転車を全力でこいでいた。
昨日の夜、絶対、あいつに告白するって決めた。
あいつとは、3年間ずっと同じクラスで、同じバスケット部に所属して、家は近所ではないけど、同じ方向だったから、良く一緒に帰っていたけど、初対面以来、喧嘩腰でしか話すことができなくて、友達からは「永遠のライバル」とか、「天敵」だなんて言われていた。
でも、昨日、気づいた。明後日からは、もう喧嘩もできないってことに。
私は、自転車で行ける場所にある高校に行くけど、あいつはバスじゃなきゃ通学できない高校に行くことになっていた。ひょっとしたら、毎朝、顔を見ることもできないかもしれない。
あいつがいない毎日なんて考えられなかった。こんな気持ち、自分でも気づいてなかった。
――でも、告白してどうするの?
あいつが私と同じ気持ちでいるとは限らないじゃない。そうだよ。顔を見るたびに噛みついてくる女の子のことを好きになっている訳がない。
――ううん、良いの。良いのよ。
自分の気持ちを伝えずに、このまま同級生の友達のままで、卒業アルバムを眺めながら、ずっと後悔するなんて嫌だ。
あいつにそんな気が無いんなら、私が告白したって、いつもどおり「バカヤロー!」って怒って終わりだよ。
だったら、告白して、すっきり、フラれてやるよ。あいつよりも優しくて、格好良くて、イケメンの彼氏を作って、あいつを見返してやる。
そう割り切った私は、それから、どうやって告白しようかと、色々なシチュエーションを思い描いていたら、眠れなくなってしまって、気が付いたら朝になってた。
昨日、私なりに出した結論は、朝、登校途中に会って告白するということ。
教室に入ってしまったら、友達とかがいて、絶対、言えないはず。二人きりの時って、朝の通学の時しかない。
私は、ヘルメットを阿弥陀にかぶって、自転車を立ちこぎしながら走った。誰も通っていない畑の中の一本道を、学校に向けて走った。
――いた!
ヘルメットを阿弥陀にかぶって、左手をポケットに入れて、ゆっくりと自転車をこいでいる、あいつの後ろ姿が見えた。
私は、スピードを緩めることなく、あいつを追い越すと、自転車を右回りに止めて、右足をついた。
何事かと私の顔を見ながら、あいつも自転車を止めた。
「好きだ!」
「えっ?」
「ずっと好きだったって言ってるんだよ! バカヤロー!」
私は、すぐに、学校の方に振り向いて、自転車をこぎ出した。早く、あいつの前から立ち去りたかった。でも……。
――ついて来い! ――ついて来て!
私は、振り向くのが怖くて、一生懸命、自転車をこいだ。
――何で泣いてるの、私?
チャリチャリ〜ン
後ろから自転車のベルが聞こえた。