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にじんだベタ塗り

 私が、この高校に入学したのは、漫画研究会があったから、と言っても過言ではない。

 その漫画研究会では、来週開催される文化祭に、部員一人一人が作品を展示することになっており、1年生の私にとって、自分で描いた漫画を初めて人前で披露する機会だ。

 先週までは、部員全員が協力して、一つの大きなサイズの漫画を書いていて、今週に入ってからは、個人展示の作品の作製に部員それぞれが取り組んでいた。

 でも、私は、昨日まで風邪を引いて寝込んでしまって、自分の作品は、まだ、下書きしかできていない状態だった。でも、今日中にほぼ完成させないと、来週からの文化祭に間に合わないから、今日も少し熱があったけど、登校して来て、放課後、部室に入った。

「松本さん、大丈夫? 無理しないでね」

 部長の柊美鈴先輩が声を掛けてくれた。

 黒髪ロングヘアで、セルフレームの眼鏡を掛けた柊先輩は、女の私から見ても、どストライクの美少女で、名前までアニメキャラみたいな、部員全員の憧れの的だ。

「はい、大丈夫です」

 私もGLの趣味はないけど、柊先輩には憧れ以上の感情があるんじゃないかって、時々、思う。

 私が自分の席に座って、自分の作品を書き始めると、そんな柊先輩が放つ華やかなオーラを帳消しにするオーラを放っている奴が、私の向かいの席から話し掛けてきた。

「松本、大丈夫か?」

 私と同じ1年生の男子で、私と二人きりの新入部員だった加藤だ。

「うん、大丈夫」

 私は、顔を原稿用紙から上げずに返事をした。

 私は、加藤のことがあまり好きではなかった。

 加藤は、色白のおデブちゃんで、無口だし、たまに話しをしても全然面白くないし、見るからにオタクって感じで、私も自分のことを棚に上げて良く言うよって言われるとは思うけど、はっきり言って、キモい。

 上級生の部員達も、文句の多い私よりも、無口で反抗することがない加藤に用事を申しつけることが多かった。

 指定された自分の席が、加藤の向かいの席だということで、最初はちょっと落ち込んだけど、逆に、目の前の原稿用紙に集中できるようになった気がする。


 私は、ペンを原稿用紙に走らせていたけど、まだ風邪が抜けきってないのか、いつもより時間が掛かった。

 下校時間になっても、まだ、私は作品を仕上げることができなかった。

「松本さん、明日にしたら?」

 柊部長が帰り支度をしながら声を掛けてきた。

「部長、どうしても今日、仕上げたいんです。居残っても良いですか?」

「……仕方ないわね。でも、どんなに遅くなっても午後7時までには下校してね」

「はい。分かりました」

「部長、僕も少し残りたいんですけど」

 加藤の作品は、少しだけ塗りが残っている状態だった。

「加藤君は、もうちょっとで終わりそうね。分かったわ」

 柊部長と上級生部員が部室から出て行って、私と加藤だけが残った。

 私が黙々と作業をしていると、加藤が話し掛けてきた。

「手伝おうか?」

「良いわよ。あんた、自分の分は終わったの?」

「まだだけど」

「じゃあ、自分のをやりなさいよ。……それに、これは私の作品なんだから、私がやらないと意味がないって思ってるから」

「ベタくらいなら塗るよ」

「その気持ちだけもらっておくよ」

 私は、原稿用紙に意識を集中させていたけど、次第に頭がボーっとしてきた。体までフラフラしてきたような気もする。……ちょっと、まずいかも。

 私は、机に顔を突っ伏して、しばらく休憩することにした。


 いつの間にか寝てしまってたみたい。

 うとうとと目を開けると、机に突っ伏して窓の方に顔を向けている私と、その前の席で俯き加減の加藤が、既に外は暗くなっている窓に映っているのが見えた。

 ワイシャツ姿の加藤は、一生懸命、原稿用紙に何かを描いていた。

 それから、私には、誰かのブレザーが掛けられていた。

 加藤に気づかれないように、目だけを動かしてよく見てみると、加藤の作品は、テーブルの横に置いてあった。そうすると、加藤が描いているのは……。


 何で、そんなに一生懸命になってんのよ!

 余計なことするんじゃないわよ! 私の作品なんだからね!

 それに、…………にじんでるじゃない。

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