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置いてけぼりの二人

 一学期最後のテストの初日がいよいよ明日に迫っている。毎日、ちゃんと勉強していれば直前になってこんなに焦ることもないのにと後悔をするのもいつもどおりだ。

 しかも、明日は、大の苦手の数学のテストだ。

 もう諦めちゃおうかなと思っていると、お昼休みに同級生で親友の大沢おおさわ智香ともかが一緒に図書館に行って勉強しようと言ってきた。

 無駄な努力だとしても、勉強していれば諦めがつく気がする。

 私は二つ返事でOKした。

「そうだ、絵里子えりこ。言い忘れていたけど、あつし平川ひらかわ君も来るから」

 行くって返事をしてから、そんなことを言う?

 篤君は隣のクラスにいる智香のボーイフレンドで、私も気楽に話ができる男子だ。

 一方の平川君はその篤君の同級生で、まだ一緒のクラスにはなったことないけど、高校入学当時から私が憧れている人だ。

 もっとも一年生の時には、平川君にも彼女がいたみたいで、私は遠くから眺めているだけだったけど、二年生になってすぐに彼女と別れたみたいで、私が平川君を好いていることが分かっていた智香が、平川君の私に対する気持ちを確かめてあげようかと言われた。

 でも、私は断った。

 だって、自分のことを親友とはいえ他人に任せるべきじゃないって思うから。

 と言って、じゃあ、自分で確かめることができるかといえば、その勇気がなくて、結局、何もできないで日付だけが過ぎていっている。

 平川君が一緒に図書館に行くことになったのは、きっと篤君と智香の陰謀だと思うけど、二人ともそれだけ私のことを心配してくれているんだ。

 二人がセットしてくれたシチュエーションで、平川君に自分の気持ちを伝えることができるだろうか?

 伝えることができたとして、明日のテストと同じように撃沈するかもしれない。



 放課後。

 智香と一緒に学校の玄関で待っていると、篤君と平川君が揃って出て来た。

 図書館に向かって歩き出すと、平川君が私の隣にやってきた。

 鼓動が速まる。

安井やすいさん、今日はよろしく」

「こ、こちらこそ」

「俺、数学、苦手なんだよな。安井さんは?」

「私も全然ダメ」

「マジで? 篤も大沢もアテにならないし、どうすんだよ?」と平川君が呆れた顔で篤君に言ったけど、篤君は「前日に焦ったってダメだって。まあ、今日は数学ダメ夫とダメ子があきらめを悟るために集まるだけだって」ととぼけた顔で答えた。



 図書館に着くと、四人掛けのテーブルに私と智香が並んで座り、その前に篤君と平川君が並んで座った。当然、智香の正面には篤君が座るから、私は平川君と向き合って座ることになる。

 もう、今日は絶対に勉強なんてできない。

 教科書に書いていることより、平川君のことが気になる。目を上げて平川君を見たいけど、恥ずかしくてできない。

「あっ!」

 勉強を初めて早々、隣の智香が小さく叫んだ。

「何? どうしたの?」

「絵里子、ごめん! 今日、帰りにお使い頼まれていたの、すっかり忘れていた!」

「お使い?」

「トイレットペーパー! 朝、もう無かったから、早く買って帰らないと、弟がトイレできなくて困ってるかも」

「……」

 智香のところはお父さんもお母さんも働いていて、弟さんはまだ小学生だから、智香が帰りにいろいろと日用品を買い物しているのは確かだ。

「篤もつきあって」

「何で?」

「駅前のドラッグストアで安売りしてて、大量に買い込んでおきたいんだ。だから荷物持ちして」

「俺って、おまえの何なの?」

「彼氏でしょ?」

「仕方ない! 行くか!」とデレた篤君が承諾した。

「早くしないと売り切れるかも」

「おお! それは大変だ! ということだから、俺たち先に帰るわ。おまえたちだけでも勉強を頑張ってくれ」

 三文芝居の二人があっという間に閲覧室から出て行った。

 まさか、こんなことを企んでいたとは思わなかった。それは平川君も同じみたいで、唖然としていた平川君と目が合った。

「どうする、安井さん?」

「ど、どうしようか?」

「せっかくだし、閉館時間まで勉強していく?」

「平川君がそれでよければ」

「俺は大丈夫。じゃあ、そうしようか?」

「う、うん」

 二人きりになって余計に勉強に集中できない。

「ちょっと休憩しようよ。何か、集中できない」

 平川君が少し苛ついた様子で立ち上がった。

「う、うん」

 二人で閲覧室を出てロビーに出た。

 ロビーには誰もいない。

 絶好の告白タイムだけど、やっぱり、はっきりと振られるのが怖い。

 でも、篤君と智香がいなくなってすぐに「帰る」って言わずに、一緒にいてくれたことがうれしかった。少なくとも平川君に嫌われてはいないってことだよね?

「それにしても、篤と大沢の奴、みえみえの演技だったよな?」

 ――えっ?

「安井さんも一緒に来るからって誘われたんだけど、何か企んでいるなとは思っていたんだけどね」

「……」

「でも、安井さんがあいつらと一緒に帰るって言わなかったから、ちょっと安心した、というか、うれしかったよ」

「……」

「ねえ、安井さん。明後日の物理も俺、苦手だから、明日の放課後もここで勉強しない? 篤たちが来なくてもさ」

「……う、うん!」

 

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